筆頭側近様、この皇子止めて下さい!

チカフジ ユキ

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3.我が国の王太子殿下と姉の秘密じゃない恋

 そもそも、なぜわたしなのか謎だ。
 確かに皇子殿下の好きなシリーズを読んでいた。
 でも、それはわたしだけじゃない。
 それは皇子殿下だって知っている。

 わたしは一応貴族だけどしがない小国出身で、この国と比較すると豪商以下レベルの財力しかない男爵家。
 目をつけるにしても地味だし、面白みが欠けるのは自分が一番分かっている。

 ただし、ある意味目立ってもいた。
 だけど、すぐに人に忘れ去られるくらい位はひっそりと生きてきた。

「ふふふ、ミリア。なんで、わたしがって顔してるけど、理由はいろいろあるんだ。まあ、一番の理由は、ザーレが君にしろって言った事かなぁ?」

 なんだって!?
 おい、どういうことですかね? ぜひとも今すぐにお話し合いしたいんですけどぉ!?
 なんでわたしの方を見ないんですかね? こっち見て下さい?

 ギラギラと不細工な顔になりながら、半目で睨んでいると、皇子殿下がくすくす笑う。

「まあまあ、そんなのは些細な問題でしょう? 今は楽しく語りたいんだよ。一応言っておくと、僕は遠慮しないからね?」

 つまりさっきのお願い事は聞かないという事だ。
 
「あ、あのぉ!」
「何、同志ミリア」
「一つだけ、そっちのお方にお聞きしたいことがあるのですが……」
「ザーレに? ああ、さっきのザーレが紹介したって件? 聞いてもつまらないと思うなぁ。だって、ザーレが紹介した理由が理由だから……って、そんなに睨まないでよザーレも! 冗談だよ」

 ルドベキスキー卿の睨みに堪えかねて、皇子殿下が肩をすくめた。
 そしてコホンと咳ばらいを一つ。

「君、本ならなんでも読むでしょ? しかも口が堅いし、人の趣味や隠し事をべらべらしゃべるタイプでもない。そして何より、僕が楽しい」
「はぁ?」
「僕はベタな展開・・・・・が結構好きなんだ」

 その瞬間やっと理解した。
 ああ、そういう事かと。
 
「それは、わたしの国の王太子殿下と姉の事を言っているんですか?」
「うんうん、そうだよ! まさに、その二人はびっくりするくらいのベタ展開を繰り広げているからねぇ! 本気で面白いよ」

 こんな事を言い出す皇子殿下に頭が痛いとこめかみをぐりぐりと押す。

 実は、わたしの姉にはなんと我が国の王太子殿下と恋仲浮気中だった。
 王太子殿下はこの国アーシェの王女様という婚約者いらっしゃるのに、この国の学院でこっそり隠れて姉と会っている。
 というか、こっそりひっそり会っている秘密の恋とか思っているのかも知れないけど、周囲にはモロバレ。
 そのせいで、わたしは非常に面倒くさい事態に陥っている。

 なんと、わたしは現在この王太子殿下のご婚約者様と同じクラスにいて、王女様自身は何もしなくても、周囲のご令嬢がわたしに嫌がらせをして来たりしている。
 気持ちは分かるけど、本人にやってほしい。

「でね、僕はぜひともそんなベタ展開を繰り広げているお二人の姿を出刃亀したいなぁと思っているんだ。妹として、ぜひ協力してくれないかな?」

 にこにこ顔の皇子殿下と、遠い目をしたルドベキスキー卿。

 さて、ルドベキスキー卿。
 あなたの国の皇子殿下がとんでもないことを言っているんですけど?
 
 さすがに止めて下さいますよね?

 つーか、止めろよ!
 どこの国に皇子の出刃亀宣言を聞き流す側近がいるんですか?

 目で訴えていると、ルドベキスキー卿が至極真面目な顔で皇子殿下に呼びかけた。

「殿下」

 流石に止めに入ったかと、わたしは歓喜した。
 しかし、直後に地獄に叩き落される。

「ミリア嬢も、殿下と同じ気持ちのようです。ぜひ一緒に出刃亀したいそうですよ。これで友情がまた一つ深まりますね」
「ミリアは素直じゃないなぁ! もしかして言いにくい? 遠慮しないでよ。僕と君との仲でしょ?」

 一体どんな仲なのか。
 ぶっちゃけ言って初対面。
 そして雲の上の人物で、話しかけたことは絶対にない。

「ところで、そろそろ返さないと寮の門限に間に合わないかと」

 ルドベキスキー卿が外を見ながらそう進言する。
 なんだかんだで結構時間が立っていたようだ。

「そっか、もう夕暮れだもんね。そろそろ門限だし、今日は解散しようか。ザーレ、送ってあげて」
「はい、もちろんです。殿下の大事なご親友であり同志の方を粗雑には扱えません」

 はい、わたし一人で大丈夫です。
 むしろ、ルドベキスキー卿と一緒の方が、今後の学院生活に支障が出ます。

 逃げ出したい雰囲気のわたしを察して、ルドベキスキー卿はしっかりと手を掴み、そのまま自分の腕へ誘導した。
 後ろで微笑んでいる皇子様は、どこまでも清々しい楽し気な笑みを浮かべていた。


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