筆頭側近様、この皇子止めて下さい!

チカフジ ユキ

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4.筆頭側近様、皇子殿下を止めるのはあなたの役目ですけど?

「で? 一体何が目的なんですか?」

 にこやかに話す感じで笑みを貼りつかせ、わたしはルドベキスキー卿に聞く。
 もちろん、声は落としながら、そして、なるべく人の少ない道を通りながら。

「積極的だな。人の少ない道を行くなど――」
「わたしは今まさに心から死ねばいいのにって思う人に出会ったのですが、どうすればいいと思いますか?」
「そうだな、とりあえず嫌がらせでもしてみるか?」

 睨みを聞かせてルドベキスキー卿を見ると、ふっと口の端をあげて、わたしの脅しなど大したことないとでも言うようにあしらった。
 わたしだって、本気で言ったわけではないけど、半分くらいは本気だった。

 この男を処理してしまえば、今後わたしの平穏が保たれる、そんな気がした。

「まあ、殿下は言い出したら聞かないし、そう堅く考える必要はないと思う。場合によってはシェルマ皇女殿下も出張ってきそうだが……」
 
 シェルマ皇女殿下とは我が国の王太子殿下の婚約者。
 もともとは愛妾の娘で後ろ盾も弱い事から、重要な皇女ではなかったが、頭脳に優れた才女で美人。
 小国とはいえ、一国の王妃になるのだからと、王太子殿下の婚約者に選ばれた経緯がある。
 ちなみに選んだのはわが国ではなく、もちろん大国アーシェ。
 それなのに、自国民のしがない男爵家令嬢にうつつを抜かしているのだから、怖いもの知らずである。

「シェルマ皇女殿下は、一応仮にも自分の婚約者がしがない男爵家の娘を寵愛していて、しかもその――つまり際どいイチャつきを出刃亀したいとか言っている皇子殿下について、どう思うのでしょうね?」
「喜んで付き合いそうな雰囲気ではあるな」
「……証拠集めと言うわけですか?」
「いや? 単純にそういう事が好きだからだな。ルイ皇子殿下とシェルマ皇女殿下は非常に兄妹仲が良く、考えもよく似ている」

 うおーい!
 この国の皇族大丈夫ですかぁ!!?

「ここまで来たら一蓮托生、がんばって皇子殿下を満足させようではないか」
「いやですよ! 一人で頑張ってくださいよ! なんで巻き込むんですか!!」

 わたしは平穏無事に過ごして、平凡な男性と結婚して平凡な家庭を築くことを夢見ているのだ。
 そんな夢と希望と野望を持ったわたしに、こんなたいそうなことにお誘いいただいても、お断りしたい。
 全力で!

 その考えはもちろん、ルドベキスキー卿も分かっていて、腹黒い空気を醸し出しながらわたしに提案した。

「もし協力してくれるのなら、学院内での嫌がらせについては対処しよう。なんなら、就職先も紹介してやってもいいんだが――……」
「ぜひ、協力しましょう!!」

 はい、すみません!
 簡単になびくか! と思ったけど、とっても魅力的な案でした。

 嫌がらせに対処してくれるというのは大変ありがたいけど、その次の就職先の斡旋は最高に好条件だった。

 わたしは学院を卒業後は国に帰らず、できればこの国で就職しなんなら結婚もしたいと思っている。
 その為に必死に勉強しているのだ。

 というのも、あの王太子の現状を見て、あの国に将来はないなとあっさりすっぱり切り捨てられるくらいには未練がなかった。
 そもそも、貴族と言っても弱小貴族で裕福とは程遠い。
 そんな中、跡取りだからと言って姉ばかり優遇されていたのだから、わたしが家族の事を好きでないのは当然。
 しかも、家に帰れば年老いた金持ちと強制見合いと思うと、帰りたくもなくなるという訳だ。

 ただし、このアーシェにて就職をしようとすると、外国勢の場合まず戸籍の取得が難関。
 ただし、有力貴族の紹介ならばあっさり取得でき、以後この国の人間として生きていく事ができる。

 そして、隣の御仁は皇子殿下の筆頭側近と言うだけあって、超有名貴族の御曹司。
 軽く就職斡旋もしてくれることだろう。

 とにかく、皇子殿下を満足させれば、いいのだからと、わたしはその時は軽く考えていた。

「では、これで契約としよう」

 そう言うと、ルドベキスキー卿は跪いてわたしの手の甲にキスをした。
 もちろん、公衆の面前で。
 なんなら、寮の前で多くの女生徒が目撃しているその場所で。

「な、ななな!」

 動揺するわたしに、彼は耳元で目を細めて囁いた。

「逃がさないぞ」

 と。
 その瞬間なぜか背筋にゾクリと悪寒が走り、一歩足が後ろに下がった。

 ルドベキスキー卿は、次の瞬間には女子受けするような笑みを浮かべていたけど、わたしはすでに後悔しかなかった。

「では、また今度」

 果たして、皇子殿下を止めるべき筆頭側近様は、まんまとその役割をわたしに押し付けた。
 わたしは心の底から、皇子殿下を止めるのはお前の役目だろうが、不良側近!! と叫んだが、相手に届く事は無かった。



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