神に喧嘩を売った者達 ~教科書には書かれない真実の物語~

平行宇宙

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招集編

第20話 戦闘訓練(中)

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 僕は、はじめは、得たばかりの霊力の制御から訓練を受けた。
 といっても、正直どうすればいいかまったく分からなかった僕は、淳平に預けられたんだ。
 淳平は、僕を除けば最年少で、しかもまだ学生だった。本来まだ実家での訓練期間で協会に推挙されるような年齢ではない。そもそもが文科省の下部組織である協会は、一応は青少年の保護という名の、学生排除の精神が強い。にもかかわらず、招集されたのは、既にこの世界では有名人で実践も豊富、遊ばせておくには惜しいということからだ。

 117の事件で、人材不足を痛感した協会が、とにかく人を出させた。それまでは、各宗派による命令系統に乗っかる形で、各団体に戦場を割り当てるのが仕事だったが、直接指揮権を有し、能力者同士の協力体制を取る必要が増大したのだ。
 これは、他の戦力と違い、宗派による能力発動の形態がそもそも違うということから来ることも大きい。現場で共闘しようとも、宗派の違いにより、術が消えたり、爆発を起こしたりするために、どんな能力なら、共に戦えるかの検討も必要になったのだ。それまでのように、一現場一宗派なら問題なかったことが、複数の団体による共闘で思わぬ被害が増加して、これに対応するために、強力な術師を協会で再編し、事に当たる必要性が増したという現実に即した要請だった。

 このように、117によって急激に拡大したばかりの組織に僕は放り込まれた。淳平は、その能力が錬金術と本人が言うだけあって、術を敵に繰り出すというよりも術者の体内をいじって能力を拡大させる。このことから、術士の方に受け入れる体勢があれば、宗派にかかわらず、共闘しやすい。これは蓮華の能力も近いと言える。蓮華の場合は術士の外側に結界という形でバリアのようなものを張る。これは術士が他の術を受け入れることさえ出来れば機能する。
 いずれにしても、サポート力の強い術を使うが、本人の受け入れができれば、多くの流派、宗派に共闘可能であることが、招集された要因だ。
 僕もある意味二人と似た感じではある。いや二人の逆バージョン、というべきか。

 僕の場合、素人だったということもあり、いかなる霊的訓練も受けてこなかった。そのため、霊力にがついていない。純粋な霊力の発現による攻撃で、あの赤鬼をワンパンした。普通はこれが難しいのだという。術式により霊的にまたは物質的に霊力を強化というより固定するんだそうだ。それにより攻撃力を得る。
 その感覚はいろんな流派に放り込まれて、各種の術式をたたき込まれた今なら少しは分かる。でも、確かに指向性は増すけど、霊力をグッと押し込められる感じがして、僕自身の力はあんまり強化されないようだ。先に霊力のみの実体化訓練を受け入れてしまった、その影響だと研究者なんかは言うが、僕の攻撃力自体は弱小化しても、他の術者と共同で術を成すなら、トータルでは強い術ができるということで、いろんな所でいろんなものを覚えさせられたこの60年だった。


 そのそもそもの初めが淳平からの霊力操作の訓練だった。
 僕が赤鬼をワンパンした霊力。これを出せと言われても、どうやって良いか分からない。あのときから僕はちまたに溢れる不可視のモノや多少なら霊力の流れ、というものも見えるようになっていた。が、それを操れ、と言われても今までにない器官を操れというようなもので、何をどうすれば、なんて、分からなかった。
 「飛鳥ちゃんが自分でやらないなら、僕っちが勝手にやっちゃうけど、文句はなしね~。」
 そのとき、淳平は、軽薄な感じで、そんな風に言ったのを覚えている。
 そして僕が答えるより前に、何か得体の知れないモノが僕の体に侵入したのを感じた。それは僕の中を好き勝手に蹂躙した。まるで水中の木の葉のように、僕は大きな波にかき回され、上も下も分からなくなり、その水のような波のようなその流れが全身を巡って何かを破壊する感覚に吐き気がこみ上げた。その波はどこからかわき出すさらなる波を巻き込んで、さらに大きくなり、僕は呼吸すらもどうすればいいかわからなくなる。
 気がつくと、ベッドの上に寝かされていた。

 「飛鳥ちゃんさぁ、1分も保たずに倒れたの分かってる?なっさけないなぁ。」
 気がついて最初の言葉が、淳平のこれだった。
 へらへらとこんな風に言う淳平に対し、そのときは相当むかついたが、後でベッドに強引に運んでくれたのが彼だと知った。
 共に訓練していた他のメンバーは、たたき起こして訓練を続けるようにと言ったらしい。それをこいつの教育を請け負ったのは自分だから自分のやり方でやる、と、喧嘩までして僕を医務室に連れ込んだのだそうだ。

 彼がやろうとしていたのは、自分の霊力でもって僕の霊力を刺激し、それによって霊力の存在の認知、動かす感覚を得るというもので、彼の能力からしたら、さほど困難ではない、と思っていたらしい。実際他の人も同じ考えで、彼に任せたところもあるようだった。
 が、僕はどうやら必要以上に他の人の霊力を受け入れてしまう体質というか霊質のようで、本来人の力が入ってくれば反発を起こすところ、ほとんどの抵抗なしに受け入れ、自分の霊力と同化してしまったらしい。そして同化した霊力を、自分のモノと同じように淳平はいじれた、というのだ。そもそも人の霊力を強化する才能は持つ淳平だったが、本来はその霊力の流れを確認しつつ、脳内物質を制御して、これをコントロールする、というのが彼の技だ。霊力そのものをコントロールするなんてことはできないらしい。僕の場合、相手の霊力が同化したという条件の下、僕の霊力ごと自分の霊力が操れるのだ、ということが後の研究で分かっている。
 霊媒体質の人が霊を降ろして憑依する方法に似ているらしいが、僕には霊を憑依させることはできなかった。いや場合によってはできるともいえるのか。

 僕のこの能力というか、体質は即座に実験されることになる。
 たまたま淳平との霊力の相性で受け入れたのか、それとも誰でも同化してしまうのか。
 まずはチームのメンバーから、そして、次にこの協会に所属する能力者やら、有志の職員まで、いろんな人間の霊力が僕の霊力と同化して、僕の霊力を操れるか、そんな実験が訓練と共に行われることになった。

 結果はできるといえばできるし、できないといえばできない、というなんとも中途半端なものだった。
 どうやら僕に対して負の感情が強い者に対しては、僕は本能なのか何かが察知して同化を受け入れない。というよりも、場合によっては反対に侵入を拒否し、相手に霊力をたたき込み、再起不能になる者も現れてしまった。霊力が弱い者に対しては、その霊力を取り込み自分のものにしてしまい、僕の霊力を動かすどころか、僕に霊力を奪われて気絶する者もいた。
 霊力はそもそも感情が大きく作用する。
 この負の感情云々というのも、おそらくその辺りから出てくる霊質の変化のためなんだろう。そもそも僕の霊力だって、僕を害することしか考えない者を受け入れるハズがない。だがここがくせ者で、受け入れる霊力自体が感情であるためか、、僕にとって害があろうとも受け入れてしまう、ということが後々判明した。

 僕が霊力を受け入れた場合、霊力の総量は僕のそもそもの霊力と相手の霊力の合計となる。より多くの技が使えるとはいえ、僕自身の体を使っての発動となるから、そもそも僕の出来ない術を使うことはできない。僕の霊力は誰の力を受け入れていない場合でも、どうやら世界でも5本の指に入るのではないか、というほど多いらしく、素人でしかも子供の僕がこんなところに連れてこられた理由の一つでもあった。
 さらにこの能力だ。僕のこの特質が分かれば、多くの者が考えるだろう。僕に自分のところの術を覚えさせ、強い能力者により僕の霊力を自在に操れれば、実質エネルギータンクとしての人形が手に入る。このアドバンテージはデカいぞ、と。

 この思惑から、何も知らない僕を守ってくれたのは、当時のチームだったのだそうだ。チームメンバーはなんだかんだと、僕の魔力を操れた奴らばかりだった。彼らには僕に対して、当たりはともかく、負の感情がなく、しかも僕を押さえて魔力を操るだけの能力を持つ凄腕揃い、ということが証明された、ともいえる。
 彼らは、いろんな家の思惑から僕を遠ざけ、自分の身をしっかり守れるだけの強者にしようと、僕を鍛えてくれた。僕には厳しすぎる訓練だったが、そう言う意味では感謝すべきか。それともあの日まで生き残ってしまったことを恨むべきか。
 とまれ、いつの間にか、僕は反発しながらも彼らを受け入れ、共に戦う仲間として信頼もしていたんだ。

 僕はこのいろんな人からの魔力受け入れ実験のおかげとでもいうか、副作用というべきか、実験が終了する頃には自分の魔力を動かせるまでになっていた。皮肉なことに、僕に対しての害意や悪意をもった人の魔力を受け入れたおかげで、自他の魔力を感じることが出来るようになり、自身の魔力を攻撃できるように変質させる術を身につけたともいえる。

 僕は守りはテンデだめだったけど、霊力を拳に纏わせるだけでなく、剣や銃のように扱うすべを身につけた。と同時に、武器で、また生身で戦うすべもたたき込まれた。いっぱしの戦士となり、いつの間にか最前線で戦う自分がいた。

 チームメイトは、当初のメンバーから多少の変更はあったものの、ほぼ常に10名のチームとして、様々な戦場を共に駆け回った。気がつくと一人死に、二人死に・・・
 チームに補充がされなくなった。

 なんだかんだと、僕を守りながら死んでいった奴もいた。
 他のチームに足を引っ張られて、その身を犠牲にした奴もいた。
 ただ力不足で、敵に蹂躙された奴。
 あの決戦の前、神に逆らうのを拒否し、戦線を離脱した奴。

 気がつけば、最初から最後まで僕の側に立っていたのは、淳平と蓮華だけになっていた。 
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