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学園編 § 編入準備編
第38話 原因考察
しおりを挟む気がつくと、白っぽい色に囲まれて、ベッドに寝かされていた。
ひょっとしなくても、病院だろう。
なんせ、右半身爆破されたんだ。
なんとか、結界の下に隠された魔法陣なのか呪符なのかを毀壊したのはいいけれど、そのまま気を失ったんだろう。
この体、気を失っている間は幸せだ。
痛みに苛まれることはないんだから。
ただ、こういうときは体は痛みを感じてるわけで、大概は気を失っていても悪夢の中、という場合が多い。気を失う、という防御機能も、完全には機能しない。
が、今回は、あまり悪夢の記憶はないし、そもそも今目覚めてしまったけど、痛みを感じていない自分がいる。
まだ完全には傷がふさがっていないのは分かるし、今まさに回復をしている、というのを感じるんだけど。
こういうときは、ほとんど効かない痛み止めを大量に投与し続けてくれているか、もしくは、やつが・・・・
まぁ、奴だろうな、というのは、すぐに気づいた。何せ、僕に何の器具も付けられていないんだから。
「よぉ、目が覚めてみたいだな。」
そう声をかけてきたのは、思った通り、淳平だった。
「病院?」
「ああ。都にある機構関係の。」
都、ということは大阪、か。
足を考えると、こっちの方が確かに移動は楽だろうけど。
そんな風に思ってると、扉が開いて、白衣の人物が入ってきた。
「タンタン?」
「目が覚めたみたいだね。飛鳥は、来て早々、やんちゃだなぁ。」
クスクス笑いながら入ってきたのは、タンタンこと、田口洋だった。
支部から出張ってきたのかな?
「飛鳥たちがこっちにいる間、僕もここで働くことになってね。思ったより早く仕事ができて、僕も驚いたよ。」
「ずっとこっちにいるの?」
「まぁね。甥っ子が心配だし。」
タンタンはウィンクしてそう言った。
確かに設定では僕の叔父、ということになっていたか。おかげで今は田口飛鳥だ。
「とりあえず、大事とって10日、と言いたいところだけど、上から新学期には間に合わせろと言われてるからね。なんでももう友達が出来たんだって?彼らの入寮より早く寮にいないとと不自然だから、5日で返さなきゃいけない。」
タンタンが気の毒そうな顔をするのは、クスリで治癒力を上げて、回復を早めるってことだろう。早く回復するほど、負担が大きい。僕らは回復痛なんて言ってるけど、傷口を延々焼きごてでこねくり回されてる、そう思ってくれれば近いだろうか。これでも正直言えば、控えめな表現だ。
「そんな不安そうな顔しない。飛鳥ちゃんには、この淳平様が特別にフォローして上げよう。」
へ?
めずらしいこともあるもんだ。
僕が怪我して、回復痛で泣いてても、横でけらけら笑ってるのが淳平だったけど・・・
「おいおい。俺なら笑って見てるって顔に書いてるぞ。」
言いながら、デコピンされた。
怪我人に、まったく、と思ったけど、あれ、痛くない。
「あのなぁ。とりあえず今は全身の痛覚を可能な限り押さえてる。さて、何か言うことは?」
「あ、・・・ありがとう?」
「何故に、疑問形?」
「そりゃ嬉しいけど・・・」
「なんでかって?・・・まぁ、お詫びってやつ?」
「お詫び?」
「ああ、あいつらが現場経験浅いのは分かってたんだけどな。すまん、あそこまで使えねぇとは思ってなかった。素人に毛が生えたやつをお前一人に押しつけた形になってしまった。」
そういうこと?
てっきりゼンに怪我させて、しかも任務も失敗しかけたし、物損もあったし、で、叱られると思ってたのに、まさかの謝られて、逆に驚いたよ。
「人的な事件の可能性も視野に入れてたんだが、二人でそれなりにこなしてたことにあぐらかいてたわ。しかし、あそこで飛鳥がいて良かったよ。」
「良かったって?」
「フォローに入ったところで、飛鳥じゃなきゃ、被害倍増だ。下にあった方だが、まさに魔法陣、悪魔教のな。」
「はぁ?」
僕が変な声を出しても仕方ないだろう。
悪魔教、というのは実はポピュラーな宗教だ。
歴史も長いし、探せば様々な解説書、なんてのも堂々と本屋に売っている。
悪魔を呼び出して、その力を借り、代わりに魂を差し出す、なんて言われてるけど、本当は、自分が使い切れない力を引き出す技術で、使い切れないからこそ最後には自壊するんだ。
各種宗教は信者を集めることに尽力するだろ?あれは金、という面も強いけど、信じる、という行為こそが、霊力、まぁ悪魔教なら魔力か、に指向性を与えて、御しやすくなるという点にもある。名前と性質、という個性を持たせたあやかしは、人がそうと信じれば信じるほど、その性質を帯び、その力を利用しようとする人間の操作も容易になる。
そういうわけで、ポピュラーである悪魔教の魔法陣は、素人でも容易に手に入れることが出来る。そしてモノによっては、それなりに発動する。ただし、素人には、信仰があれば別だけど、僕と同じで、色=宗教的、技術的な偏り、がつきにくい。つまりは、素人がネットや本なんかで手に入れた魔法陣は働くことはあっても、反発して爆発、は、ほぼほぼ起こらないんだ。そもそも霊力が足りないしな。
だけど、今回は、その爆発が起こってしまった。
つまりプロがこの魔法陣を仕込んだってこと。
何が問題か。
日本には、ほぼほぼプロの悪魔教術者はいない。
なぜなら、日本でよく使われている霊術とは、まったく相容れず、そんなに強い力じゃなくても、すぐに爆発やら汚染が起きてしまうから、使い勝手が悪すぎるんだ。
日本でもたくさんの種類の術式が用いられていて、それらが反発することは多々ある。が、異なる流派でも似たような術は存在するし、一部同じとかほとんど同じ、という術式がないことはない。こういうのは反発はおきにくい。
そもそも、反発が起こる、ってのは、とてつもない力と力がぶつかったときだけなんだ。そのはずなんだけど、自分が知る中には、これを起こしちゃうような化け物連中がそれなりにいるからなぁ。普通に考えて地形を変えられるような術と術がぶつかるようでなければ、反発は起こらない。
一方で、守護系の術式はそもそもが、対決時に仲間たちを守るために張るものだから、術式が違うからといちいち爆発とかしていたら、役に立たない。あらかじめ、他の宗派、術式とぶつかることを意識して作られているのだから、当然だ。
京の結界の修復を、密教のゼンも、神道系の蓮華も、陰陽系の淳平だってやろうと思えばやれるのは、汎用というか、この町が作られたときに誰でも修復できるようにと、最大公約数的な結界で配置したからだ、と言われている。
話を戻すと、この前の爆発は、日本にほぼ存在しないプロの悪魔教術者の魔法陣を、あえて、ある程度の力をある者に壊させることで、爆発を誘導した、そう考えられるんだ。しかも、こんな罠みたいなの、それなりの経験があれば気がつく。現に僕は、あそこから漂う何かの色を帯びた術がある、と感じて、ゼンに注意を投げかけた。この感じ方は人それぞれだけど、仮に気づかなくても、ある程度は用心して術を打つ。特にそれなりの力がある者は、爆発程度なら経験している者も多いのだから。
一番、いやな想像。
あそこの結界修復を、未熟な二人が担当すると知った者による、罠の設置だったとしたら・・・
「内部犯?」
「飛鳥もそう思うか?」
「・・・面倒くさいなぁ、もう。」
ハハハハ、と淳平は面白くもなさそうに笑った。
「どうやら、今回の重要人物お二人の登場のようだ。」
「?」
病室のドアを淳平が開ける。
そこにはノリとゼンが神妙な顔をして、立っていた。
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