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学園編 § 学校生活編
第53話 球技大会
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「飛鳥は、決めた?球技大会?」
今日は1日そればかりだ。
「パス、とかできないのかな。僕、体が弱いってことで・・・」
「はぁ?あれだけの体してて、弱いはずはないだろう!」
男子どもが騒ぐ。やっぱりあの風呂イベントは鬼門だった、と僕はため息をついた。
運動会に向けての練習。そういうのがあるらしい。球技大会は男女混合で、野球、サッカー、バスケ、バレーボールに1競技以上参加だという。1クラス30人。伝統的に2競技にはエントリー、うち1つは正規メンバー、他は補欠可、だとか。
僕以外は、去年、すでに経験しているし、小学校から同級生をやってる者も多いので、なんとなくの運動能力を把握しているため、組み分けも簡単なようだ。
イレギュラーは、僕。
だいたい、中2レベルだと大人と子供以上に差があるだろう。問題は、どのくらいの手を抜く必要があるか、だ。こういうのが一番苦手かもしれない。人外相手に追いかけっこや殺し合いが仕事。それこそプロに入ってプレーしても、負けない自信はあるんだ。
「おっと、今の話な、マジなんだわ。田口は見学な。」
後ろから、顔を覗かせて、淳平が口を出して来た。
間もなく、始まる下校前のホームルーム。そのために来たんだろうが、タイミング的にはありがたい。
「えー、なんでさ。」
「こう見えて、心臓が悪くてな。一応医者のカルテも出てるぞ。だが、運動会は全員参加。田口には全種目の監督をやってもらう。てことで、放課後の練習、田口君は全出席、な。」
「ちょっ、待てよ!」
「まぁ、もともと運動神経は良い子だから、全部の競技補欠登録はしておいてやろう。」
「はぁ?」
「先生、どういうことですか?」
「うん。長時間の激しい運動はドクターストップだが、短時間ならその能力を生かして良し、ということだね。」
「ヒュー、何、その特別待遇?」
「ん?別にいらなきゃ登録しないぞ。俺はどっちでも。」
「何?その思わせぶりな態度。なんかあるんでしょ?」
「いや、まぁ、彼の幼少期にとある応援に行ったことがあってだなぁ・・・」
ヒヒヒ、と、時計をいじる。
淳平は、1枚の写真を、空中に拡大した。
「おい!」
慌てる僕を、同級生たちが羽交い締めして、それをガン見する。
「これって!」
悲鳴のような声を上げる、数名の生徒たち。
なんで、そんなものをこいつが持っているのか。
イギリスで小学生をやっていたときの、とあるワンショット。
某プロサッカーチームのユースチーム。そのユニフォームを着た3人の少年。内1人は僕だ。僕はちょっとふてくされたようにカメラを避けていて、それに1人が背中から抱きつき、もう1人はぶらさがるように僕の肩を組んでいた。僕以外は満面の笑顔。
ああ、そうだ。別にフェイクじゃない。
イギリスで、もちろん仕事で小学生をやっているときに、ある同級生に怪我をさせた。
彼は、このチームのストライカーで、試合を近くに控えていたんだが、授業でサッカーをやったときに、僕が手を抜いていると、えらく怒ってきたんだ。プロユースのエースについていけないだけさ、と言ったのがよくなかった。
マネージャーが、チームの補強に奔走していることを知っていた彼がなにやら焚きつけたらしく、ほとんど拉致状態で僕をその本拠地に連れ出させたんだ。
間も悪かったが、その頃、僕は仕事の方で拉致られるよう段取りをしていた。ある組織に潜り込む手段として、手っ取り早く拉致られるよう、まぁおとり捜査的なことをしている最中だったんだ。そういうこともあって、僕はおとなしく拉致られた、んだが・・・
現地につくと、その同級生がフィールド上にボールを持って待っていた。彼は僕を挑発して、なんとか勝負をさせようとして仕掛けてきた。自分のボールを抜いてみろそう言って何度も僕に向かってきた。僕は何もせず突っ立っていた。そんな挑発に乗るつもりは毛頭なかったんだ。
が、そのとき、僕らが罠を貼っていたヤツらが、想像以上に過激な出方をしてきたんだ。
確かに、その場には人は少なかった。だけど、反対側の観客席から様子を見ていたチーム関係者の後ろから、その人を1人が銃で狙った上で、僕に対して、もう1人が銃を向けたんだ。
僕に対して入っていたのは麻酔弾だったが、もう1人を狙った銃には実弾が入っていたことが、後の調べで分かった。これも後で分かったことだが、僕以外を全員殺して、僕を拉致ろうとしていたらしい。
ちなみに、霊力のありそうな子供をバイオ何チャラでいじって、兵器化し、裏社会に売るという計画をしているマッドな組織の壊滅が、そのときの僕の任務だった。
僕は、そもそもが殺気に気づいて襲撃者を見つけたんだけど、これはヤバイ、と、反射的に同級生のドリブルしていたボールを奪い、一撃で2丁の銃を仕留めた。そのまま走って襲撃者を無力化、事なきを得た・・・んだったが、そのとき、僕の動きについてこれず、ボールを空振り、そのままこけて、足を折ったのが、くだんの同級生の彼だった。
後片付けは、職員の仕事。僕は、そのまま小学校から消えるのだと思っていたら、どういう交渉があったのか、彼が完治するまで、彼のお世話と彼の代わりのユース選手代理を、上から命じられたんだ。
確かに、僕がそのまま小学生を続けて、調査とおとりを続行した方が、我々としても都合が良い。結局半年ほどそのまま任務が続行され、解決した事案だ。
その間に、僕は何度かユースの一員として彼の代わりに試合に出た。これは彼のわがままだったらしい。自分が見つけた僕をピッチに立たせたい、そう言っていた。そして一度だけ、彼と同時に試合に出たことがある。お役御免のはずなのに、どうしても、という彼の最後の願いを叶えた形だ。
で、その時の写真が今淳平がさらしているやつだ。僕の肩に手をかけているガキが、そうだ。ちなみに、今も彼は、選手としてそのチームで活躍している。背中からぶら下がってる奴も、今はブラジルだがサッカー選手を続けている。この二人の正体に気づかれたら、全面的に淳平が悪い。
だけど・・・
「すげえ。これって飛鳥だろ?このチームに入ってたのか?すげえ。」
「心臓が悪いのが分かってやめちゃったけどね。まぁ、球技大会レベルなら10分、かな?」
「おい!」
「いやいや、何がおい、だよ、すげえじゃん!プロ予備軍だろ!しかも世界ランキングずっと1桁。いや、去年、2位だっけ?そこでやってたんだろ?スゲー、レベルが違うってやつ!なぁ、みんな、他も合わせて矢良先生の言うとおり、全種目の監督と補欠、決まりだな!」
「おお!」
本人の意志不在で、決まってしまった。
そのあと、男女ともに多くの子供たちが、僕に教えを請うたり、質問したり、もうめちゃくちゃだ。
もちろん、敵対心丸出しで睨んでくる一派もいたが、ほとんどがなぜか歓迎してくれている。が、正直言うと、反発して貰って、お前なんか参加させない、と、ハブられる方が楽なんだけど・・・
僕のそんな気持ちを分かりつつ、僕から離れるときに、淳平が念話を送ってきた。
『飛鳥の霊力が一番放出されたのが、例の運動場界隈だ。練習のはしごを理由に自由に運動場も体育館も調査できるだろう。あそこは全面的にまかせるので、よろ!』
はぁ、そんなことのために、危ない写真さらすんじゃねぇ!
今日は1日そればかりだ。
「パス、とかできないのかな。僕、体が弱いってことで・・・」
「はぁ?あれだけの体してて、弱いはずはないだろう!」
男子どもが騒ぐ。やっぱりあの風呂イベントは鬼門だった、と僕はため息をついた。
運動会に向けての練習。そういうのがあるらしい。球技大会は男女混合で、野球、サッカー、バスケ、バレーボールに1競技以上参加だという。1クラス30人。伝統的に2競技にはエントリー、うち1つは正規メンバー、他は補欠可、だとか。
僕以外は、去年、すでに経験しているし、小学校から同級生をやってる者も多いので、なんとなくの運動能力を把握しているため、組み分けも簡単なようだ。
イレギュラーは、僕。
だいたい、中2レベルだと大人と子供以上に差があるだろう。問題は、どのくらいの手を抜く必要があるか、だ。こういうのが一番苦手かもしれない。人外相手に追いかけっこや殺し合いが仕事。それこそプロに入ってプレーしても、負けない自信はあるんだ。
「おっと、今の話な、マジなんだわ。田口は見学な。」
後ろから、顔を覗かせて、淳平が口を出して来た。
間もなく、始まる下校前のホームルーム。そのために来たんだろうが、タイミング的にはありがたい。
「えー、なんでさ。」
「こう見えて、心臓が悪くてな。一応医者のカルテも出てるぞ。だが、運動会は全員参加。田口には全種目の監督をやってもらう。てことで、放課後の練習、田口君は全出席、な。」
「ちょっ、待てよ!」
「まぁ、もともと運動神経は良い子だから、全部の競技補欠登録はしておいてやろう。」
「はぁ?」
「先生、どういうことですか?」
「うん。長時間の激しい運動はドクターストップだが、短時間ならその能力を生かして良し、ということだね。」
「ヒュー、何、その特別待遇?」
「ん?別にいらなきゃ登録しないぞ。俺はどっちでも。」
「何?その思わせぶりな態度。なんかあるんでしょ?」
「いや、まぁ、彼の幼少期にとある応援に行ったことがあってだなぁ・・・」
ヒヒヒ、と、時計をいじる。
淳平は、1枚の写真を、空中に拡大した。
「おい!」
慌てる僕を、同級生たちが羽交い締めして、それをガン見する。
「これって!」
悲鳴のような声を上げる、数名の生徒たち。
なんで、そんなものをこいつが持っているのか。
イギリスで小学生をやっていたときの、とあるワンショット。
某プロサッカーチームのユースチーム。そのユニフォームを着た3人の少年。内1人は僕だ。僕はちょっとふてくされたようにカメラを避けていて、それに1人が背中から抱きつき、もう1人はぶらさがるように僕の肩を組んでいた。僕以外は満面の笑顔。
ああ、そうだ。別にフェイクじゃない。
イギリスで、もちろん仕事で小学生をやっているときに、ある同級生に怪我をさせた。
彼は、このチームのストライカーで、試合を近くに控えていたんだが、授業でサッカーをやったときに、僕が手を抜いていると、えらく怒ってきたんだ。プロユースのエースについていけないだけさ、と言ったのがよくなかった。
マネージャーが、チームの補強に奔走していることを知っていた彼がなにやら焚きつけたらしく、ほとんど拉致状態で僕をその本拠地に連れ出させたんだ。
間も悪かったが、その頃、僕は仕事の方で拉致られるよう段取りをしていた。ある組織に潜り込む手段として、手っ取り早く拉致られるよう、まぁおとり捜査的なことをしている最中だったんだ。そういうこともあって、僕はおとなしく拉致られた、んだが・・・
現地につくと、その同級生がフィールド上にボールを持って待っていた。彼は僕を挑発して、なんとか勝負をさせようとして仕掛けてきた。自分のボールを抜いてみろそう言って何度も僕に向かってきた。僕は何もせず突っ立っていた。そんな挑発に乗るつもりは毛頭なかったんだ。
が、そのとき、僕らが罠を貼っていたヤツらが、想像以上に過激な出方をしてきたんだ。
確かに、その場には人は少なかった。だけど、反対側の観客席から様子を見ていたチーム関係者の後ろから、その人を1人が銃で狙った上で、僕に対して、もう1人が銃を向けたんだ。
僕に対して入っていたのは麻酔弾だったが、もう1人を狙った銃には実弾が入っていたことが、後の調べで分かった。これも後で分かったことだが、僕以外を全員殺して、僕を拉致ろうとしていたらしい。
ちなみに、霊力のありそうな子供をバイオ何チャラでいじって、兵器化し、裏社会に売るという計画をしているマッドな組織の壊滅が、そのときの僕の任務だった。
僕は、そもそもが殺気に気づいて襲撃者を見つけたんだけど、これはヤバイ、と、反射的に同級生のドリブルしていたボールを奪い、一撃で2丁の銃を仕留めた。そのまま走って襲撃者を無力化、事なきを得た・・・んだったが、そのとき、僕の動きについてこれず、ボールを空振り、そのままこけて、足を折ったのが、くだんの同級生の彼だった。
後片付けは、職員の仕事。僕は、そのまま小学校から消えるのだと思っていたら、どういう交渉があったのか、彼が完治するまで、彼のお世話と彼の代わりのユース選手代理を、上から命じられたんだ。
確かに、僕がそのまま小学生を続けて、調査とおとりを続行した方が、我々としても都合が良い。結局半年ほどそのまま任務が続行され、解決した事案だ。
その間に、僕は何度かユースの一員として彼の代わりに試合に出た。これは彼のわがままだったらしい。自分が見つけた僕をピッチに立たせたい、そう言っていた。そして一度だけ、彼と同時に試合に出たことがある。お役御免のはずなのに、どうしても、という彼の最後の願いを叶えた形だ。
で、その時の写真が今淳平がさらしているやつだ。僕の肩に手をかけているガキが、そうだ。ちなみに、今も彼は、選手としてそのチームで活躍している。背中からぶら下がってる奴も、今はブラジルだがサッカー選手を続けている。この二人の正体に気づかれたら、全面的に淳平が悪い。
だけど・・・
「すげえ。これって飛鳥だろ?このチームに入ってたのか?すげえ。」
「心臓が悪いのが分かってやめちゃったけどね。まぁ、球技大会レベルなら10分、かな?」
「おい!」
「いやいや、何がおい、だよ、すげえじゃん!プロ予備軍だろ!しかも世界ランキングずっと1桁。いや、去年、2位だっけ?そこでやってたんだろ?スゲー、レベルが違うってやつ!なぁ、みんな、他も合わせて矢良先生の言うとおり、全種目の監督と補欠、決まりだな!」
「おお!」
本人の意志不在で、決まってしまった。
そのあと、男女ともに多くの子供たちが、僕に教えを請うたり、質問したり、もうめちゃくちゃだ。
もちろん、敵対心丸出しで睨んでくる一派もいたが、ほとんどがなぜか歓迎してくれている。が、正直言うと、反発して貰って、お前なんか参加させない、と、ハブられる方が楽なんだけど・・・
僕のそんな気持ちを分かりつつ、僕から離れるときに、淳平が念話を送ってきた。
『飛鳥の霊力が一番放出されたのが、例の運動場界隈だ。練習のはしごを理由に自由に運動場も体育館も調査できるだろう。あそこは全面的にまかせるので、よろ!』
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