アイリスとリコリス

沖月シエル

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第1章/1-36

20 ▽奴隷の首輪▽

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「…先日から各奴隷館は王国軍の管轄になった。お前たちにはこれまで通り働いてもらう。王国のため、我らが高貴なる女王陛下のために、最善を尽くして働け」

奴隷が集められ、王国からの新しい監督者が説明する。何やら事務的なことも細かく話し始めている。

説明を要約するに…うーん…結局やることは何も変わらないらしい。

「…要するに、オーナーが王国軍になるだけで、オレたちの仕事は特に変わらないんだよな?」

「そういうことみたい」

「ま、その方が好都合だけどな」

ニキータは特に関心無さそうだ。

レンブルフォートはフランタルの植民地になったようだ。話を聞く限り、まだ互いの関係が政治的に明確になっているわけではないようだが。レンブルフォートはフランタルに何か言える側でなく、相当不利な立場におかれることだけは確実だ。

レンブルフォートはもう帝国ではなくなった。



うん。第一ステップ。順調。

待ち望んだアイリス帝の支配の終焉。うまくやってくれたものだ。まあなるべくしてなっただけ。あの統治力ではこうなる結果は見えていた。僕は時代の流れに逆らわずそれを利用しただけ。

「…さて、ここにはフランタル本国領からの奴隷も運んでくる予定だ。当然だが、フランタル人奴隷よりも、お前らレンブルフォート人奴隷の方が地位が低い。ここまでは良いな?」

フランタルの奴隷も持って来て働かせるつもりか。同化政策の一環かな。

「…ちっ、奴隷も差別すんのかよ」

「しょうがないじゃん。戦争に負けたんだから」

「そうじゃなくてよ。フランタルの奴隷の奴らがここに来たら、そいつら新参者のくせに自分たちの民族の方が上だとか言い出して、オレたちを見下してここで威張り始めるんだろう? たまったもんじゃねえよ」

ニキータは不満そうだ。なるほどそういう事情も考えられる。民族の違う奴隷どうしのいざこざか。僕は特に気にしてないが、実際にそんな目にあったら結構メンタルきつそうだな。奴隷には民族問わず卑屈な者も多い。フランタル人は分かりやすいのを好むし、いじめとか堂々とされるかも。ただ僕らに直接関係あるところでいうと、一般的にレンブルフォート人の方が華奢でフランタル人はごついから、女はともかく、僕らの11番館に来るフランタル人の奴隷なんてあんまりいないんじゃないかな? それなら数で不利になることはなさそうだ。

「…そこでお前たちレンブルフォート人の奴隷にだけ、番号の振られた鉄の首輪を付ける」

監督者が鉄の首輪を1つ手に取って掲げて見せる。

「お前たちレンブルフォート人奴隷はフランタル人よりも格安の相場で取引される。管理をしやすくするためだ」

表向きはそうだろう。話を聞くと、レンブルフォート人奴隷はフランタル人奴隷を買うよりもより簡単な手続きで所有できるらしい。より物品に近い形で取引されるわけだ。そのための鍵と管理番号ということらしいが、実際は人としての尊厳をより貶めるためのものだ。

奴隷たちが口々に不満を言いだす。

「なんだよそれ、オレたちは家畜じゃねえぞ!」

ニキータも一言叫ぶ。まあ僕も同感だ。でもしかたない。僕はこういうの慣れている。



▽  ▽  ▽



…カシャン!

鉄の首輪の鍵が音を立てて閉められる。首輪は同じ番号の対の鍵でしか外せない。鍵はその奴隷の所有者が持つ。所有の証というわけか。僕らの鍵は当面それぞれの館の責任者が持つようだ。僕らはずっとこの首輪を付けたまま生活することになる。

…重い。邪魔。ちゃんと寝られるかな。

でも案外悪くない。

「…次!」

作業員が次の奴隷を呼ぶ。僕は部屋を退出する。

「…よお。大丈夫か?」

外でニキータが待っていた。先に終わっていたようで既に首輪を付けられている。

「…すまないな。オレが誘ったせいで」

「全然。大丈夫だよ」

「何が大丈夫なんだよ」

僕は自分の首輪をニキータに見せる。

「えへへ…かわいくない? なかなか気に入ってるよ」

「…お前、変わってんな」

「そうかな?」

ニキータが少し呆れた様子で溜め息をつく。

「…はあ。これのせいでフランタルの連中になめられないようにしないとな」


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