20 / 37
第1章/1-36
20 ▽奴隷の首輪▽
しおりを挟む「…先日から各奴隷館は王国軍の管轄になった。お前たちにはこれまで通り働いてもらう。王国のため、我らが高貴なる女王陛下のために、最善を尽くして働け」
奴隷が集められ、王国からの新しい監督者が説明する。何やら事務的なことも細かく話し始めている。
説明を要約するに…うーん…結局やることは何も変わらないらしい。
「…要するに、オーナーが王国軍になるだけで、オレたちの仕事は特に変わらないんだよな?」
「そういうことみたい」
「ま、その方が好都合だけどな」
ニキータは特に関心無さそうだ。
レンブルフォートはフランタルの植民地になったようだ。話を聞く限り、まだ互いの関係が政治的に明確になっているわけではないようだが。レンブルフォートはフランタルに何か言える側でなく、相当不利な立場におかれることだけは確実だ。
レンブルフォートはもう帝国ではなくなった。
…
うん。第一ステップ。順調。
待ち望んだアイリス帝の支配の終焉。うまくやってくれたものだ。まあなるべくしてなっただけ。あの統治力ではこうなる結果は見えていた。僕は時代の流れに逆らわずそれを利用しただけ。
「…さて、ここにはフランタル本国領からの奴隷も運んでくる予定だ。当然だが、フランタル人奴隷よりも、お前らレンブルフォート人奴隷の方が地位が低い。ここまでは良いな?」
フランタルの奴隷も持って来て働かせるつもりか。同化政策の一環かな。
「…ちっ、奴隷も差別すんのかよ」
「しょうがないじゃん。戦争に負けたんだから」
「そうじゃなくてよ。フランタルの奴隷の奴らがここに来たら、そいつら新参者のくせに自分たちの民族の方が上だとか言い出して、オレたちを見下してここで威張り始めるんだろう? たまったもんじゃねえよ」
ニキータは不満そうだ。なるほどそういう事情も考えられる。民族の違う奴隷どうしのいざこざか。僕は特に気にしてないが、実際にそんな目にあったら結構メンタルきつそうだな。奴隷には民族問わず卑屈な者も多い。フランタル人は分かりやすいのを好むし、いじめとか堂々とされるかも。ただ僕らに直接関係あるところでいうと、一般的にレンブルフォート人の方が華奢でフランタル人はごついから、女はともかく、僕らの11番館に来るフランタル人の奴隷なんてあんまりいないんじゃないかな? それなら数で不利になることはなさそうだ。
「…そこでお前たちレンブルフォート人の奴隷にだけ、番号の振られた鉄の首輪を付ける」
監督者が鉄の首輪を1つ手に取って掲げて見せる。
「お前たちレンブルフォート人奴隷はフランタル人よりも格安の相場で取引される。管理をしやすくするためだ」
表向きはそうだろう。話を聞くと、レンブルフォート人奴隷はフランタル人奴隷を買うよりもより簡単な手続きで所有できるらしい。より物品に近い形で取引されるわけだ。そのための鍵と管理番号ということらしいが、実際は人としての尊厳をより貶めるためのものだ。
奴隷たちが口々に不満を言いだす。
「なんだよそれ、オレたちは家畜じゃねえぞ!」
ニキータも一言叫ぶ。まあ僕も同感だ。でもしかたない。僕はこういうの慣れている。
▽ ▽ ▽
…カシャン!
鉄の首輪の鍵が音を立てて閉められる。首輪は同じ番号の対の鍵でしか外せない。鍵はその奴隷の所有者が持つ。所有の証というわけか。僕らの鍵は当面それぞれの館の責任者が持つようだ。僕らはずっとこの首輪を付けたまま生活することになる。
…重い。邪魔。ちゃんと寝られるかな。
でも案外悪くない。
「…次!」
作業員が次の奴隷を呼ぶ。僕は部屋を退出する。
「…よお。大丈夫か?」
外でニキータが待っていた。先に終わっていたようで既に首輪を付けられている。
「…すまないな。オレが誘ったせいで」
「全然。大丈夫だよ」
「何が大丈夫なんだよ」
僕は自分の首輪をニキータに見せる。
「えへへ…かわいくない? なかなか気に入ってるよ」
「…お前、変わってんな」
「そうかな?」
ニキータが少し呆れた様子で溜め息をつく。
「…はあ。これのせいでフランタルの連中になめられないようにしないとな」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる