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交渉
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高原の西はドーリア王国が、東は諸部族連合が勢力を張っている。彼らは騎馬の民だ。
ドーリアの本拠付近は森林に囲まれ、騎兵の力を発揮できない。しかし平地では騎馬民族の機動力にかなわない。それゆえに互いの利を考えて交易と不可侵を条件として盟約を結んでいる。
ラートル族は諸部族連合の中でも、現在の最大勢力であり、盟主として君臨している。そして彼と対等であるのはドーリア王であるとしている。
王との友誼に基づいて盟約は結ばれているという建前が今回の突破口だ。王が幽閉されている現状を告げ、友誼に基づいた救援を依頼する。
まあ実際にはそれ相応の見返りは要求されるだろうし、場合によっては盟約の破棄もあり得るだろう。実力者と結ぶということになればバラス側に付くリスクもある。
そのうえで交渉に臨むのは現状の戦力ではバラスの軍に対抗できないからだ。無論ジェノバの後ろ盾は交渉のカードになりうるが、それに頼りきりだと後が怖い。可能であれば現状の勢力だけで何とかしたいというのが正直なところだろう。借りを作りすぎると後が怖いというわけだね。
ジェノバは高原の東にある。まあ、森林地帯を抜けないといけないのだがそこにも蛮族が盤踞している地域があり、そこを迂回するとかなり時間がかかる。よって、今回の迎撃には見せ兵力としてもたぶん間に合わない。
さて、会談を申し込むとまずは門前払いされた。そこでジェノバ大公の紋章を見せることで取り次いでもらえた。今は控室で会談の順番待ちをしているところだ。
だが後ろ盾の効力もここまでだろう。ジェノバ軍は行軍中だがどう考えてもラフェル陥落に間に合わせられない。少なくとも物資集積基地が落ちるとかなりまずい状況になる。
相手さんもそこらへんは理解しており、それが当初の門前払いにつながったと思われる。まっとうにやるならば、ラフェル失陥は見送ってジェノバの兵力で奪還するのが一番確実だろう。
そしてそれが一番ジェノバにとっての利益が大きくなる。奪還の兵力を出すということは事実上ラフェルがジェノバの支配下に入ることを意味するからだ。
そうなればラフェルの都市機能の復旧などのコストはかかるが、交易、物流を一手に担うことになる。ジェノバが経済で世界を支配するということになる……かもしれない。
まあ、それで各国のにらみ合いが緩和されればいいのだが、多分そうはならず、利益を吸い上げられてじり貧に陥るくらいならばとラフェルやジェノバに対する攻撃が激化する可能性が高い。
さて、前置きが長くなったが控室に使者がやってきた。それ相応に順番をすっ飛ばしてもらえたようだ。
「お初にお目にかかる。冒険者のジェラルドという」
「クビラだ。当部族の長をしている。あとはこのあたりの部族のまとめ役じゃな」
白髪に長いひげを蓄えた老人がにこやかな笑みを浮かべてジェド様に話しかける。だが目が笑っていない。傍らには弓を置き椅子のすぐ横には矢筒も置いてある。
その眼光は鋭く、まさに射貫くかのようなまなざしだ。そしてそれを隠そうともしていないし、それで表情だけはにこやかって実に器用な爺様だ。
「して、用件を聞こうか」
「王の救出に協力をお願いします。盟約には相互扶助義務があるはず。今こそその義務の履行を!」
「ふむ。して、貴殿は王国のどのような立場の方かな?」
「無冠の身にして一介の冒険者です」
「これはしたり。貴殿の出自がドーリアであることは聞き及んでおる。ジェノバに渡り大公の後ろ盾を得たこともな」
「おっしゃる通りです」
「逆に言えば、お主には王国に対するしがらみがない状態じゃろう? 報われるかもわからぬ戦いに身を投じておるようじゃが……」
「それについては私個人の事情もあります。一たび王国の貴族として生まれた身ゆえ、王国と陛下への忠節は骨身に刻まれている。今は無冠で、しかも追放された身であればこそ、御恩を奉じる時ではないかと」
「自身の復権が狙いか?」
「さにあらず。ですが弟が家を継げるようにしてやりたいとは思っております」
「ふむ、我が部族の掟は力ある者に最大の敬意を払うことを常としておる。そなたは我に何を示す?」
「されば、その弓をお貸し願いたい。そして50歩の距離からこの地面に突き立てた剣に矢を当ててみましょうか」
「ふん、つまらぬ。この弓は50歩も飛ばぬわ。それを飛ばそうとするならば折れる。それを可能とするというか?」
「不可能を可能として見せねば、貴方は首を縦に振らないでしょうに」
「ハッ、言いよるわ。なればやって見せよ!」
「念のため問いますが、この弓を用いて的を射抜く、その方法は問われませんな?」
「異論はない」
テントの外に立ったジェド様は腰の剣を抜き放ち地面に突き立てた。
そして弓を受け取り、慎重に状態を確かめる。
「ふむ、狙いは付けやすい弓だがたしかに張りが弱い。だが……」
魔力を流し込み強化をかける。同時に矢に風のエンチャントをかけ、速度と飛距離を補う。
無造作に狙いをつけると、すぐに打ち放った矢は、狙い過たず剣を直撃したのだった。
あまりの絶技に族長のクビラを含めて声も出ない有様になっていることがなんだか無性におかしかった。
ドーリアの本拠付近は森林に囲まれ、騎兵の力を発揮できない。しかし平地では騎馬民族の機動力にかなわない。それゆえに互いの利を考えて交易と不可侵を条件として盟約を結んでいる。
ラートル族は諸部族連合の中でも、現在の最大勢力であり、盟主として君臨している。そして彼と対等であるのはドーリア王であるとしている。
王との友誼に基づいて盟約は結ばれているという建前が今回の突破口だ。王が幽閉されている現状を告げ、友誼に基づいた救援を依頼する。
まあ実際にはそれ相応の見返りは要求されるだろうし、場合によっては盟約の破棄もあり得るだろう。実力者と結ぶということになればバラス側に付くリスクもある。
そのうえで交渉に臨むのは現状の戦力ではバラスの軍に対抗できないからだ。無論ジェノバの後ろ盾は交渉のカードになりうるが、それに頼りきりだと後が怖い。可能であれば現状の勢力だけで何とかしたいというのが正直なところだろう。借りを作りすぎると後が怖いというわけだね。
ジェノバは高原の東にある。まあ、森林地帯を抜けないといけないのだがそこにも蛮族が盤踞している地域があり、そこを迂回するとかなり時間がかかる。よって、今回の迎撃には見せ兵力としてもたぶん間に合わない。
さて、会談を申し込むとまずは門前払いされた。そこでジェノバ大公の紋章を見せることで取り次いでもらえた。今は控室で会談の順番待ちをしているところだ。
だが後ろ盾の効力もここまでだろう。ジェノバ軍は行軍中だがどう考えてもラフェル陥落に間に合わせられない。少なくとも物資集積基地が落ちるとかなりまずい状況になる。
相手さんもそこらへんは理解しており、それが当初の門前払いにつながったと思われる。まっとうにやるならば、ラフェル失陥は見送ってジェノバの兵力で奪還するのが一番確実だろう。
そしてそれが一番ジェノバにとっての利益が大きくなる。奪還の兵力を出すということは事実上ラフェルがジェノバの支配下に入ることを意味するからだ。
そうなればラフェルの都市機能の復旧などのコストはかかるが、交易、物流を一手に担うことになる。ジェノバが経済で世界を支配するということになる……かもしれない。
まあ、それで各国のにらみ合いが緩和されればいいのだが、多分そうはならず、利益を吸い上げられてじり貧に陥るくらいならばとラフェルやジェノバに対する攻撃が激化する可能性が高い。
さて、前置きが長くなったが控室に使者がやってきた。それ相応に順番をすっ飛ばしてもらえたようだ。
「お初にお目にかかる。冒険者のジェラルドという」
「クビラだ。当部族の長をしている。あとはこのあたりの部族のまとめ役じゃな」
白髪に長いひげを蓄えた老人がにこやかな笑みを浮かべてジェド様に話しかける。だが目が笑っていない。傍らには弓を置き椅子のすぐ横には矢筒も置いてある。
その眼光は鋭く、まさに射貫くかのようなまなざしだ。そしてそれを隠そうともしていないし、それで表情だけはにこやかって実に器用な爺様だ。
「して、用件を聞こうか」
「王の救出に協力をお願いします。盟約には相互扶助義務があるはず。今こそその義務の履行を!」
「ふむ。して、貴殿は王国のどのような立場の方かな?」
「無冠の身にして一介の冒険者です」
「これはしたり。貴殿の出自がドーリアであることは聞き及んでおる。ジェノバに渡り大公の後ろ盾を得たこともな」
「おっしゃる通りです」
「逆に言えば、お主には王国に対するしがらみがない状態じゃろう? 報われるかもわからぬ戦いに身を投じておるようじゃが……」
「それについては私個人の事情もあります。一たび王国の貴族として生まれた身ゆえ、王国と陛下への忠節は骨身に刻まれている。今は無冠で、しかも追放された身であればこそ、御恩を奉じる時ではないかと」
「自身の復権が狙いか?」
「さにあらず。ですが弟が家を継げるようにしてやりたいとは思っております」
「ふむ、我が部族の掟は力ある者に最大の敬意を払うことを常としておる。そなたは我に何を示す?」
「されば、その弓をお貸し願いたい。そして50歩の距離からこの地面に突き立てた剣に矢を当ててみましょうか」
「ふん、つまらぬ。この弓は50歩も飛ばぬわ。それを飛ばそうとするならば折れる。それを可能とするというか?」
「不可能を可能として見せねば、貴方は首を縦に振らないでしょうに」
「ハッ、言いよるわ。なればやって見せよ!」
「念のため問いますが、この弓を用いて的を射抜く、その方法は問われませんな?」
「異論はない」
テントの外に立ったジェド様は腰の剣を抜き放ち地面に突き立てた。
そして弓を受け取り、慎重に状態を確かめる。
「ふむ、狙いは付けやすい弓だがたしかに張りが弱い。だが……」
魔力を流し込み強化をかける。同時に矢に風のエンチャントをかけ、速度と飛距離を補う。
無造作に狙いをつけると、すぐに打ち放った矢は、狙い過たず剣を直撃したのだった。
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