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バルク丘陵の戦い
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「騎兵にも弱点はある」
ジェド様が唐突にしゃべりだした。
「それはどのような?」
ムカリ殿が質問する。騎兵の弱点と聞いて興味をひかれたようだ。
「まず小回りが利かない。一度動き出したら方向転換までに時間がかかる」
「たしかにそうですが、我ら騎馬の民であればそのようなことはありませぬ」
「ムカリ、君たちを相手取るならばそうだろうな。ただ今回の相手はドーリアの重装騎兵だ」
「ふむ」
「君たちのような軽騎兵ならば、騎射からの一撃離脱を繰り返せばドーリア騎兵は手も足も出ないだろう」
「おっしゃる通りです」
「囮を用いて敵を突撃させる。そしてその足を止めればただの大きな的だ」
「なるほど」
「まあ、いろいろとドーリアでも工作をしている。その際に首謀者は私だとリークしている。バラスからすれば私は目の上のたん瘤になっているだろう」
「まさか!?」
「私を囮にしておびき寄せる」
「ジェド様、危険です!?」
思わず声を上げてしまう。
「シェラ、ムカリ、君たちもすまないが私のそばに控えてほしい」
「もちろんです!」
「「「はは!」」」
そうこうしているうちにバルク丘陵にたどり着く。頂上付近に陣屋が築かれ、櫓が立っている。街道の監視に十分な施設だ。ただし、防衛拠点としては心もとない。
柵を築いて突撃を阻むようにしてあるが、体当たりで破られる程度の強度しかない。
弓兵を配備し、逆茂木を配置して突撃の勢いを落とすようにはしている。自軍に倍する騎兵を食い止められるかというと疑問がある。
「ジェド様、お待ちしておりました」
「ああ、アルフ、準備は?」
「抜かりなく」
「うん、よくやってくれた」
「そちらは?」
「騎馬の民からの援軍だ。ムカリ、こちらは私の副官のアルフだ」
「ムカリと申します。よろしくお願いいたします」
「よし、では皆、配置についてくれ」
「「「はは!」」」
各自指揮下の兵を率いて散ってゆく。あたしはジェド様に付き従って最前線に出る。ふもとに騎兵が集結し、陣を敷いていた。ごてごての鎧を着た偉そうなおっさんが前に出る。
「ラフェルの兵よ。無駄な抵抗はあきらめ投降せよ! 投降すれば名誉ある扱いを保証する!」
ふんぞり返って宣言する。返答はジェド様が弓を引き絞ってひょいっと放った矢によって行われた。大口を開けて笑う騎士の顔面に矢が突き立ちそのまま崩れ落ちてゆく。
「これが返答だ。義によってラフェル救援に来た。我らがいる限りこの先には進めぬ者と知れ!」
「貴様、ジェラルドか!?」
「ジェノバ大公との盟により、ラフェルに助力する。逃げるなら今のうちだぞ?」
すごくイイ笑顔で返答している。なんだろう、長年のストレスから解放されたような、そんな顔だ。
「貴様、ドーリアに仇なす謀反人め。必ずや討ち取ってくれる!」
「君側の奸を討つと言えばいいのか? ブーメランにしかなってないぞ?」
「バラス閣下も貴様の首を見れば喜ばれよう。皆の者、突撃だ!」
「「「うおおおおおおおおおおお!!」」」
第一陣の百騎が前に出て弓を引き絞る。こちらも弓兵が射撃の体制を取る。キリキリキリと弓弦が引き絞られ、風切り音を残して矢が放たれる。
数度の射撃の応酬があって、互いに損害を出し、そのまま背後の柵に向け走る。第二陣が入れ替わりに前に出て、一斉に手をかざす。
「火炎弾掃射用意!」
「「応!」」
「撃て!」
50の騎兵が魔法弾を放ち柵を焼き払う。
そのまま開いた経路を通って敵が雪崩れ込んでくる。重装騎兵にはなかなか射撃では損害を与えられない。ジェド様は魔法を使って威力を上げた矢を放ち、一射ごとに敵兵を倒す。
敵はそれを見てさらに怒りをみなぎらせて突撃してくる。
ムカリの部下のジェベは矢の化身と言われた弓の名手であった。鎧の隙間を射抜く腕を見せる。ムカリたちも彼ほどではないにしろ見事な弓の腕を見せた。
「手はず通りに」
「はは!」
柵は破壊され、防御施設はほぼ破壊された。兵は左右に散って退却を開始する。
ジェド様とあたしたちはそのまま陣屋から出て坂を下る。敵兵は一度陣形を整えると、そのまま逆落としに下ってくる。
「「「うおおおおおおおおおおお!!」」」
すさまじい勢いだ。文字通り雪崩れ込んでくる。そしてあたしたちが通り過ぎた後、転倒する兵が続出する。古典的な手だが、草を結んで足を引っかける罠が仕掛けられていた。
罠に気付いた後続の部隊が左右に散った直後、落とし穴にはまり、後続とぶつかって大混乱に陥った。
「いまだ、反転攻撃!」
「「はっ!」」
まだ行動可能な騎兵がいる。そして彼らも次の一手で身動きが取れなくなる。
ジェノバから借り受けた銃を放つ。予算の関係で空砲だがその聞きなれない音響で馬が驚いて奇手を振り落とす。
そこからは一方的な戦いになった。足を止められ混乱している騎兵はいい的だ。
火矢が降り注ぎ、火に驚いた馬が暴走を始める。徒歩で逃げようとする兵も、鎧で身動きが取れず次々と討たれる。
最終的に敵の損害は過半に及び、退却に成功したのは200に満たなかった。
大勝利にラフェル陣営は沸き立ち、ジェドをたたえる声が満ちる。
敵本隊を迎撃するため、ラフェルから本隊1500が出撃することとなった。総指揮官はラフェル市長たるアーベルハイド卿。参謀としてジェド様を指名してきた。
バルク丘陵に兵站基地を設営し、そのまま高原に向け進軍する。バラス率いる本隊は先発した騎兵の敗北を受け、進軍を停止している。無効にはジェド様がこちらにいることを知っているだろう。
ドーリア国内の工作によって徐々にバラスの立場は悪化している。国内の貴族たちの支持を確立させるためラフェル攻略を強行したのだ。
そして緒戦で躓いた。騎兵を率いていた副官も先日の戦いで戦死している。バラス陣営は追いつめられていた。
そして互いに陣を敷き向かい合う。決戦の時は迫っていた。
ジェド様が唐突にしゃべりだした。
「それはどのような?」
ムカリ殿が質問する。騎兵の弱点と聞いて興味をひかれたようだ。
「まず小回りが利かない。一度動き出したら方向転換までに時間がかかる」
「たしかにそうですが、我ら騎馬の民であればそのようなことはありませぬ」
「ムカリ、君たちを相手取るならばそうだろうな。ただ今回の相手はドーリアの重装騎兵だ」
「ふむ」
「君たちのような軽騎兵ならば、騎射からの一撃離脱を繰り返せばドーリア騎兵は手も足も出ないだろう」
「おっしゃる通りです」
「囮を用いて敵を突撃させる。そしてその足を止めればただの大きな的だ」
「なるほど」
「まあ、いろいろとドーリアでも工作をしている。その際に首謀者は私だとリークしている。バラスからすれば私は目の上のたん瘤になっているだろう」
「まさか!?」
「私を囮にしておびき寄せる」
「ジェド様、危険です!?」
思わず声を上げてしまう。
「シェラ、ムカリ、君たちもすまないが私のそばに控えてほしい」
「もちろんです!」
「「「はは!」」」
そうこうしているうちにバルク丘陵にたどり着く。頂上付近に陣屋が築かれ、櫓が立っている。街道の監視に十分な施設だ。ただし、防衛拠点としては心もとない。
柵を築いて突撃を阻むようにしてあるが、体当たりで破られる程度の強度しかない。
弓兵を配備し、逆茂木を配置して突撃の勢いを落とすようにはしている。自軍に倍する騎兵を食い止められるかというと疑問がある。
「ジェド様、お待ちしておりました」
「ああ、アルフ、準備は?」
「抜かりなく」
「うん、よくやってくれた」
「そちらは?」
「騎馬の民からの援軍だ。ムカリ、こちらは私の副官のアルフだ」
「ムカリと申します。よろしくお願いいたします」
「よし、では皆、配置についてくれ」
「「「はは!」」」
各自指揮下の兵を率いて散ってゆく。あたしはジェド様に付き従って最前線に出る。ふもとに騎兵が集結し、陣を敷いていた。ごてごての鎧を着た偉そうなおっさんが前に出る。
「ラフェルの兵よ。無駄な抵抗はあきらめ投降せよ! 投降すれば名誉ある扱いを保証する!」
ふんぞり返って宣言する。返答はジェド様が弓を引き絞ってひょいっと放った矢によって行われた。大口を開けて笑う騎士の顔面に矢が突き立ちそのまま崩れ落ちてゆく。
「これが返答だ。義によってラフェル救援に来た。我らがいる限りこの先には進めぬ者と知れ!」
「貴様、ジェラルドか!?」
「ジェノバ大公との盟により、ラフェルに助力する。逃げるなら今のうちだぞ?」
すごくイイ笑顔で返答している。なんだろう、長年のストレスから解放されたような、そんな顔だ。
「貴様、ドーリアに仇なす謀反人め。必ずや討ち取ってくれる!」
「君側の奸を討つと言えばいいのか? ブーメランにしかなってないぞ?」
「バラス閣下も貴様の首を見れば喜ばれよう。皆の者、突撃だ!」
「「「うおおおおおおおおおおお!!」」」
第一陣の百騎が前に出て弓を引き絞る。こちらも弓兵が射撃の体制を取る。キリキリキリと弓弦が引き絞られ、風切り音を残して矢が放たれる。
数度の射撃の応酬があって、互いに損害を出し、そのまま背後の柵に向け走る。第二陣が入れ替わりに前に出て、一斉に手をかざす。
「火炎弾掃射用意!」
「「応!」」
「撃て!」
50の騎兵が魔法弾を放ち柵を焼き払う。
そのまま開いた経路を通って敵が雪崩れ込んでくる。重装騎兵にはなかなか射撃では損害を与えられない。ジェド様は魔法を使って威力を上げた矢を放ち、一射ごとに敵兵を倒す。
敵はそれを見てさらに怒りをみなぎらせて突撃してくる。
ムカリの部下のジェベは矢の化身と言われた弓の名手であった。鎧の隙間を射抜く腕を見せる。ムカリたちも彼ほどではないにしろ見事な弓の腕を見せた。
「手はず通りに」
「はは!」
柵は破壊され、防御施設はほぼ破壊された。兵は左右に散って退却を開始する。
ジェド様とあたしたちはそのまま陣屋から出て坂を下る。敵兵は一度陣形を整えると、そのまま逆落としに下ってくる。
「「「うおおおおおおおおおおお!!」」」
すさまじい勢いだ。文字通り雪崩れ込んでくる。そしてあたしたちが通り過ぎた後、転倒する兵が続出する。古典的な手だが、草を結んで足を引っかける罠が仕掛けられていた。
罠に気付いた後続の部隊が左右に散った直後、落とし穴にはまり、後続とぶつかって大混乱に陥った。
「いまだ、反転攻撃!」
「「はっ!」」
まだ行動可能な騎兵がいる。そして彼らも次の一手で身動きが取れなくなる。
ジェノバから借り受けた銃を放つ。予算の関係で空砲だがその聞きなれない音響で馬が驚いて奇手を振り落とす。
そこからは一方的な戦いになった。足を止められ混乱している騎兵はいい的だ。
火矢が降り注ぎ、火に驚いた馬が暴走を始める。徒歩で逃げようとする兵も、鎧で身動きが取れず次々と討たれる。
最終的に敵の損害は過半に及び、退却に成功したのは200に満たなかった。
大勝利にラフェル陣営は沸き立ち、ジェドをたたえる声が満ちる。
敵本隊を迎撃するため、ラフェルから本隊1500が出撃することとなった。総指揮官はラフェル市長たるアーベルハイド卿。参謀としてジェド様を指名してきた。
バルク丘陵に兵站基地を設営し、そのまま高原に向け進軍する。バラス率いる本隊は先発した騎兵の敗北を受け、進軍を停止している。無効にはジェド様がこちらにいることを知っているだろう。
ドーリア国内の工作によって徐々にバラスの立場は悪化している。国内の貴族たちの支持を確立させるためラフェル攻略を強行したのだ。
そして緒戦で躓いた。騎兵を率いていた副官も先日の戦いで戦死している。バラス陣営は追いつめられていた。
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