異世界転移したら傭兵団を率いることになりました

響 恭也

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二つの命運

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 ケンタウロスの村付近に獣人たちの兵が集められた。俺の配下は城と周辺の村落を警備するため一部の士官以外はそちらに配備されている。

 それぞれの種族に分かれ、整列ナニソレオイシイノ? といった風情で思い思いに固まっている。



 シーマが濃緑をベースにした迷彩服を着用して、後ろに手を組んだ姿で彼らの前に立つ。



「傾注! これよりフレデリカ皇女殿下よりお言葉を賜るニャ!」

 普段は日向ぼっこをしている猫のような風情の緩い口調のシーマが怒声に近い声量で声を張り上げる。

 その姿に比較的長く接していた犬族の青年が怪訝な顔をしていた。



 フレデリカ皇女が進み出る。戦場に立つときのように騎士服をまとい剣を佩いた姿は凛としており、獣人族の姫、ユリカがそれに従うように控えている。

 ちなみにユリカは狼族の出身で、そのふさふさの尻尾をフレデリカ皇女がこよなく愛しているとすでに評判になっていた。



「勇敢な兵たちよ! 誇りを踏みにじられ、それでも尻尾を巻かず戦い抜いた精兵たちよ! わたしはあなたたちを称えます。本当によく戦ってくれました!」

 賞賛の言葉に最初は顔を見合わせるが、驚愕はやがて歓喜に変わり、地を揺るがす咆哮となって平野に響いた。



 手を掲げ、歓声を煽る。そしてスッと手を下ろし歓声すら操る。

「しかし、この国はまだ、あなた方を認めてはいません。あなた方の勇敢さも強さも。人族と姿が異なる。それだけのことであなた方を差別しています……」

 この一言で冷水を浴びせられたかのように場の熱狂が静まる。

「しかし! あなた方は自らの手で自由を勝ち取った。抑圧者たる城主を討ち取り、その威を示した。人族があなた方を差別するのはひとえに、獣人族の力を恐れるがためです。

 わたしも人族です。そして、皇女の名が示す通りあなた方を差別する側でした。そのことを水に流せとは言いません。しかし、このままでは未来がありません。はっきりと言います。私の立場は弱い。だからこそ皆さんの力を借りたいと思います。見返りは、すべての種族の平等をお約束します」

 その一言に場が静まり返る。

「……ふざけるな」

 一人の青年が口にした言葉をきっかけにすさまじいばかりの罵詈雑言が響き渡る。それこそ、最初の歓声すらかき消しかねない勢いだ。



「俺の妹はさらわれて売られた!」

「私のお父さんは人族との戦いで死んだんだ!」

 過重な税を取られ、人として扱ってもらえず差別を受けてきた。その怒りと悲しみは察するまでもなく余りある。

 その言葉の圧力に、そして殺気をフレデリカは無言で受け止める。千を超える獣人たちの怒り、悲しみ、悪意の奔流を一人で受け止めている。

 そして、彼女の口が小さく動いた。そして大きくはない動作で手を打ち合わせる。

 パン! と拍手の音が響いた。それは本来ならば罵声や怒声にかき消される程度の音だっただろう。だが、魔法で強化された音はすべての声をすり抜けたかのように響いた。



「過去のことは私も知っています。けれど過去はもう変えられないのです!

 私が今しているのはこれからの話です。皆さんもご存知の通り、帝国は今、割れています。そして先日の戦いで私の軍は敗れました」

 場は再び静けさを取り戻す。

「そして一つだけ確実なことがあります。私以外の者が皇位を継承すれば、獣人の皆さんへの風当たりはより増すでしょう。この度の戦いで帝国は傷つきました。はっきりと言えばその不満をそらすためのいけにえにされるのです。もちろん私の身も同じことでしょう。

 だから選びなさい。今まで通り虐げられるか、私と共に歩み、未来を手に入れるかを!」

「今までより良くなる保障なんてないだろう!?」

「ないですね。けれど悪くなる保障だけはありますよ」

「また俺たちを騙そうとしているのではないか?」

「そう思うなら去っていただいて結構です。なんなら私の居場所を通報すれば多額の報奨金がもらえますよ?」

「ふざけるな! 俺は誇り高き氏族の民だ。女を売ってこの身が立つか!」

「……そう。貴方のような勇者がいるからこそ、我が命運を託そうと思ったのです。一つだけお聞きします。私が皆さんに人族より優位を約束し、彼らを奴隷に落としてよいとお伝えしたら、そのようにしますか?」

「……できぬ、だろうな。無論怒りはある。だがか弱きものを虐げるのは誇りに反する……そうか!」

 フレデリカ皇女はにっこりと笑みを浮かべる。それはまるで百花繚乱といった華やかさだ。実に器用な技術である。

「そう、あなた方の誇りが許さないと思ったからですよ」

「無礼を詫びよう。そして俺をあなたの先陣に加えてくれぬか?」

「喜んでお受けします」

 一人が墜ちると後は一気に話が進んだ。我先にと配下に入ることを希望する。

 なんというか、こういうカリスマは俺にはないもので、大したものだと思う。



「皆さん、ありがとうございます!」

 そう告げるフレデリカ皇女の口元は手で覆われている。俺は真横でその口が大きく弧を描いているのを見ていた。



「傾注! ニャーは訓練を担当するシーマ軍曹ニャ。だらしなくばらけているんじゃニャい! シメられる前の羊の群れかニャ! 5秒で隊列を整えるニャ!」

 ぶわっと尻尾が大きく膨らむ。その姿を見てフレデリカ皇女がにやける。



「そこのへっぽこわんこ野郎! 貴様を暫定的にだが訓練指揮副官にしてやるニャ。ボサッとしてないで訓練兵どもに指示を出すニャ!」



 こうして獣人兵たちは訓練に放り込まれていく。彼らが志願したこと後悔するのはいつだろうか。それこそ1分後かもしれないなとつぶやきつつ、妙に楽しそうに兵たちを罵倒するシーマを見守るのだった。
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