たとえばこんな恋模様

響 恭也

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私は見た、不幸な結婚式

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また少し時が流れて、子供たちが保育園に入り、少し時間に余裕ができた佳代さんはパートを始めた。近所のスーパーだが、もともと実家の近所のスーパーで働いていたこともあり、すぐに職場になじむことができたようだ。
「ねえ、パパ。来月のここの日曜日なんだけど、店長さんの娘さんが結婚することになってね」
「へえ、それはおめでとう」
「その娘さんも一緒に働いてたのね。で、私も結婚式に招待されちゃって」
「そっか、わかったよ。子供たちは見ておくから楽しんでおいで」
「えへへ、ありがとう」
 にっこりと笑みを浮かべて抱き着いてきた。頭をなでてやるととろけるような笑顔になる。そこに子供たちが乱入してきた。
「あー、ママばっかずるいー。あたしもなでてー」
「じゃぼくはママになでてもらうのー」
「えと・・・ままー」
 なんかいきなりカオスになった。ソファの上ではなぜかわんこがお腹を見せてさあ、なでろと言わんばかりだ。息子は猫を抱っこしたまま俺の膝の上に飛び乗る。何この幸せ空間。

 さて、少しばかり時間が過ぎて、佳代さんは友人の結婚式に出かけた。この日に合わせてパートの給料をためてあった中からドレスを新調した。買い物に付き合ったが、後半の記憶があいまいだ。必死にごまかしているが、ばれたらお仕置きは必至だ。・・・それもいいかも?
 一日を子供たちと過ごす。手抜き料理で昼食。珍しくパパが作るご飯に子供たちのテンションは上がっている。おいしいね、おいしい、うまーとそれぞれの言葉と笑顔。これが主夫の幸せか。下の子をお昼寝させ、双子はペットたちと遊んでいる。その間に夕食の下ごしらえをする。といっても男の料理パート2、キャベツをざく切りにする、もやしのひげ根を取る、大き目の鍋にお湯を沸かし、コンソメキューブを適量。沸いたらキャベツ、もやし、ウィンナを投入、火が通ったら塩コショウで味を調える。お好みで溶き卵を入れて余熱でふんわりさせてもOK。学生時代はよく作ったもんだ。しかしあれだ、最近野菜が高いなあ。それでもきっちりやりくりしてくれるできた嫁さんに感謝を。
 さて、夕方になったので、鍋を火にかけ準備を始める。ごはんは実家から届いた新米をすでにスタンバイ済みだ。うちの嫁さんご飯に目がないからなあ、といろいろ考えていると玄関のドアが開いた。わんこと子供たちがダッシュで出迎える。猫はソファの上でお帰りといわんばかりにニャーとか言ってる。
「お帰り、結婚式はどうだった?」
「うー、なんかいろいろしんどかったよー」
 げんなりしている。なにがあった? 料理のライスがおいしくなかったとかか??
「あー、お料理はおいしかったよ」
「なぜわかった?」
「んー…カン?」
「まあ、違ってない。それで何があったの?」
「あー、ちょっと? いやかなり? ごたごたがあってね…」
 夕食を食べながら話を聞くといろいろとドン引きするエピソードが語られた。店長の娘さんは一人っ子で、溺愛していたらしい。そもそも自分の勤め先のスーパーで働いてる時点で子離れしていないように見える。まあ、その懸念は当たっていたようで、仕事中でも娘さんがいるあたりによく出没していたらしい。
 結婚相手を連れてきた時も顔を見た瞬間ブチ切れて、奥さんのスリッパがさく裂したそうだ。顔面に。挨拶は滞りなく終わり(何かあるたびにスパーンと乾いた音が響いたらしいが)とりあえず結婚の許可は出た(お母さんから)。式に至るまでにもいろいろとあったそうで、佳代さんも何度となく愚痴られていたらしい。
 そして式でついにやらかした。浴びるように酒を飲み続け、普段飲まない&強くない店長は開始30分でへべれけに。新婦父のあいさつで、私の今の心境を歌いますとアドリブをかまし、かえってこいよという歌を熱唱し始めた。サビの終わりの部分で、かえってこおおおおおいいいいいよおおおおおおおぉぉぉぉって無駄にきれいなロングトーンをかましたあたりで、もらい泣きをする同年代のおっさんども。そして店長の奥さんが静かに切れた。
「あなたは、娘の幸せを祝ってあげられないの! 出戻りを願うって言うの、だったら離婚します! あんたに父親の資格はない!」
 うん、結婚式で新婦両親の修羅場とかもうね。いろいろとお腹いっぱいです。そしてとどめは新婦が無表情で父の前にやってきて、決して大きな声ではないのだが、会場内に届いたそうだ。
「パパなんて大嫌い!」
 泣き崩れる店長。無表情な新婦。固まる司会。そして改めてダメージを食らうおっさんども。というか俺も娘に大嫌いとか言われたら崩れ落ちる自信がある。
 新郎両親が出てきてなだめ、再起動した司会が、父親の愛情の深さをほめたたえる。新郎があいさつでこれほど愛された娘さんを一生全力で守り抜きますと宣言し、ひとまずきれいに収まった。だがこれが第一幕に過ぎなかったのである。
 二次会で新郎の友人がやらかした。サプライズで新郎の元彼女を引っ張り出したのである。うわあとしか言葉がなかった。誤解のないように言うが、その新郎君は誠実な人だった。二股をかけていたとかそういうことはない、らしい。多少引きつりながらも、あいさつを受けていた。まあ、その元彼女もすでに既婚者だったことで、若干いろいろと緩和されていたともいえる。そして運命のいたずらか、新婦父がなぜかそこに紛れ込んでいた。
「貴様、俺の娘と結婚していながら他に女がいたのか!」
「誤解です! 確かに以前お付き合いしたことはありましたが、今はお嬢さんだけです。誓って!」
「やかましい。貴様のようなやつは俺が引導を渡してくれる!」
 タイミングの悪いことに奥さんは別の場所で親類の方と歓談されていたようだ。顔を知っている者が探しに行ったそうだが、すぐには見つからず、新郎につかみかかる新婦父、第二の修羅場がここにあった。
「お父さん? いい加減にしないと…〆る」
「おお、娘よ、この不埒者を成敗したらパパと一緒に帰るんだ・・・・キュッ」
 見事なチョークスリーパーだった。一撃で落とすとかプロの犯行である。そこに奥さんが現れた。般若の表情を浮かべ、倒れ伏す旦那の脇腹にきれいにつま先がめり込む。悶絶する旦那を引きずり、にっこり微笑んで去っていく奥さんに、ガクブルが止まらない。というか話を聞いただけでこうなっているのだから、実際に目の当たりにした佳代さんのダメージやいかにと思う。
 翌日、パートに出た佳代さんから、店長夫妻は何とか元のさやに納まっていたそうだ。というか、奥さんも寂しかったのか、むしろラブラブになっているらしい。店長の首元に赤い跡がついていたのは気づきたくなかったとへこたれていた。
 数か月後、浮かれる店長が高らかに宣言した。子供ができたと。お孫さんですか?おめでとうございますと言うと、店長自身の子供だった。むろん奥さんとの間にできたのである。そのことを帰ってきてから報告する佳代さんは、微妙に顔が赤かった。その後、絞られた。
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