あれおかしいな?こんなはずじゃなかった!?

響 恭也

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奇襲

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 レイルはジョルジュに命じて周囲を探らせた。東門にクリムゾンフォックスと思われる40ほどの集団。特徴的な赤のバンダナが目印となっている。西門は、先日のヘラルド自身が率いているようだ。こっちの先回りができた理由は兵だけ先行させており、自身は馬でも飛ばしてきたのだろうと推測される。ということは、先日の襲撃はあわよくばこっちの村を攻め落とそうとしており、予想以上に手ごわかったので取り込もうとしたのか。それが不首尾に終わったので力づくで攻撃に出たというところか。そもそもこの包囲中にのこのこ戻ってくれば降伏しかないだろうという腹積もりか。
「若、一つご報告が・・」
「ん? 何か変わったことがあったか?」
「先日の祭りの時の旅芸人の一座が・・」
「取り残されている?」
「下手に動くと見つかりそうな位置で、我々よりやや北におります」
「巻き込むわけにはいかんなってもう遅いか」
「彼らを守りつつ戦う必要があるのか・・」
レイルと傭兵たちが頭を抱えていると、唐突に声がかかった。
「いいえ、むしろ私たちも協力するけど、どう?」
「うーん、それは助かるけども・・っておい、どっから!?」
踊り子の少女がレイルに向けていたずらっぽい笑みを浮かべる。
「私はリン、よろしくね」
「あ、ああ、よろしく」
「若、顔が真っ赤ですぜ?」
「う、うるさい!?」
「あら、かわいいわね。けど今はそんな場合じゃないわよね?」
「わかってるよ!」
「うふふ、そういうのは勝ってからね?」
 レイルは妙な既視感に襲われていた。なぜかこの少女には頭が上がらない。そしてそのことがなぜか不快でなかった。
 レイルたちは旅芸人一座と合流する。力攻めはまだ行われていない。レイルとジークという、支柱になるべき人間が村を離れている。マッセナが何とか兵をまとめているが、彼は勇者であっても指揮官としてはやや心もとない部分がある。よってこちらも勝負を急ぐ必要があった。
「で、どうする?」
「どうするってあなた傭兵でしょ? 私たち戦いは素人よ? あなたが何とかしなさい!」
「人数と戦闘経験のある者は?」
「10人、一応全員盗賊とかと戦ったことはあるわよ」
「そうか・・すまないが荷物とか見せてもらっていいか? 何か使えるものがあるかもしれない」
「そうね、荷馬車の中に積み込んでるから・・こっちよ」
 旅芸人一座の中に場違いな男がいた。腕利きの傭兵にしか見えない。そういえば、一人だけ楽器を持っていない奴がいたなと思い出す。
「そちらは?」
「ああ、うちの用心棒よ。アレス、ご挨拶を」
「アレスだ。よろしく頼む」
「レイルだ、よろしく」
 お互いがお互いの力量を感じるところがあったのか、目礼だけであったが交わしたまなざしは鋭かった。
 荷馬車の中には食料と楽器が積み込まれている。金属製の打楽器や、低音を響かせる太鼓など。ほか、仮装用の仮面や衣装があった。
「夜襲をかける。その時に・・・」
「なるほど。じゃあ、手はずは・・・」
 レイルとリンは策を決め、準備を整えるとしばしの休息をとった。
 ビリジアン・ラクーンの面々は城門の前でたき火をして半数ごとに休息をとっていた。攻めかかる様子がないところを見ると、レイルの帰還を待って彼を捕らえ、それをもって開城を迫るのだろうと思われた。脳筋っぽく見える割に以外と頭を使っている。
 唐突に太鼓の音が鳴り響いた。かがり火が燃え盛り、その明かりに浮かび上がる人影。太鼓を打ち鳴らすは旅芸人一座の二人。ただし、悪霊を模した衣装をまとい、張り付けられた金具が火の明かりを照り返してこの世ならぬ雰囲気を醸し出す。あっけにとられた敵傭兵団だが、剣を抜き放って近づいてくる。同じく悪鬼の衣装をまとった二人連れが剣舞を始める。金属の鳴り物を響かせ、笛を吹き鳴らす。そして近づいていく兵が唐突に倒れた。何のことはない、笛に吹き矢が仕込まれており、塗られた毒で昏倒したのであるが、暗がりということもありそこまで頭が回らない。
 さらにもう一人も同じように倒れた。敵兵は混乱を始める。何か得体のしれないものが現れ、得体のしれない事態に陥っている。3人目が倒れた。混乱はさらに深まる。そこにこれも扮装したレイルたちが切り込んだ。そして自分たちの横や後ろからも唐突に太鼓の音が響き始める。敵兵は恐慌状態に陥った。そこにひそかに南門から外に出ていたマッセナたちが強襲をかける。旅芸人一座も戦闘に加わり、一気に西門付近の敵兵は駆逐された。そんなさなかに東門が攻撃されていると報告が入り、西門が開く。レイルたちは村の中央を突っ切って東門に向かった。
 門はすさまじい破壊力の攻撃で突破されていた。レイルの部下と村人たち数人が倒れている。門の内側に柵を作り一気に突入されないようにしておいたのが功を奏した。その柵も槍のひと振りで破壊される。
 槍を持った偉丈夫が獰猛な笑みを浮かべレイルを見据えていた。
「よう、昼以来だな」
「そうだな、俺はもう会いたくなかったんだが」
「そう言うなって、お前さん、俺のカンが外れてなければものすごく強いはずだ」
「あー、そう、だな」
「なんでぇ、気の抜けた返事するんじゃねえよ。これから楽しい戦いが始まるんだぜ?」
「戦いを楽しいと思ったことなんかない。ただまあ、振りかかる火の粉は払うさ」
「はっは、なんでもいい。俺を楽しませろ!」
「あー、めんどくせえ。そういやお前さん、名前は?」
「本名は故あって明かせないが、あだ名はあるぜ、クー・ホリンだ」
「ってお前があの・・」
「ふっふっふ、有名人はつれえな」
「ってだれ?」
「っておい!?」
「ああ、冗談だ。天下無双の槍使い。なんであんなけち臭そうな野郎の下にいる?」
「んー、腹減ってぶっ倒れてるとこに飯食わせてもらった。だから1戦限りで参戦するって契約だ」
「その一戦がこれか?」
「そうなるな。ってことでそろそろ行くぜ?」
 そう告げると猛獣のような速度で一直線に間合いを詰めてくる。レイルは両手剣、ホリンは槍で、間合いは槍のほうが広い。風切り音すら置き去りにして神速の刺突が走る。一呼吸で5回。レイルはかろうじて其れを躱す。後ろではマッセナが顔色を真っ白にしていた。「やべえ、ありゃ若より強い」
 戦いは一方的な様相だった。レイルはかろうじてその切っ先を躱す。そして槍を引く一瞬で間合いを詰めるが、巧みに立ち位置を入れ替え、また石突きを利用してレイルの剣先を防ぐ。槍先を躱し、防ぐが徐々にレイルは傷ついてゆく。そんな有様をレイルの部下たちは固唾をのんで見守る。
 この中で戦う二人の力量に最も近いマッセナが、レイルの足取りが妙であることに気付いた。ホリンの足取りは乱れることなく、レイルの踏み込みに対してステップを踏んで間合いをコントロールする。そして、同じことを延々繰り返す姿に違和感を感じ始めていた。それは戦いを続けるホリンにとっても同じことだった。ふと気づくと、レイルの向こうに城門が見える。立ち位置が180度入れ替わった格好だ。そしてレイルが今までと違い力づくで押し込んでくる。強引な振り降ろしに柄で受ける。つばぜり合い状態になるが、もともとホリンのほうが体格や腕力に優る。ぐっと押し返し槍を薙ぎ払うとレイルは剣で受けるが吹き飛ばされ、転倒した。レイルは立ち上がろうと手を地面につける。そして口元が何かをつぶやいていた。それは覚悟を決めた最後の祈りにも見えた。
「もらった!」
ホリンが踏み込んでくる、下段に槍を構えレイルに向け突き出す。そして普段通りの所作で動き、踏み込んだ足が地面に埋まった。
「え??」
 ホリンの下半身はすっぽり穴に埋まり、飛び跳ねたレイルが槍を抑える。そしてホリンの眼前にレイルの剣先が突き付けられていた。
「何が起きた?!」
「とりあえずそれは後だ、俺の勝ちってことでいいかな?」
 そう真顔で告げるレイルにホリンは唐突に吹き出した。下半身を地面に埋めたままゲラゲラと笑い転げる。
「いやー、俺も数えきれないほど一騎打ちやってきたが、落とし穴にはまって負けたの初めてだわ」
「猛獣をとっ捕まえるには罠にはめるのが一番だからな」
「ひでえな、猛獣かい!?」
「いけないか? 俺は全力を尽くしたぞ?」
「ああ、そうだな。俺の槍をあぞこまで外したのは二人目だわ」
「へえ、もう一人ってのは?」
「ああ、それは・・・」
 唐突に石つぶてが飛んできてホリンの額を直撃する。
 いつの間にか年齢不詳の女性があでやかな笑みを浮かべ広場に立っていた。
「セタンタ、相手が格下だって思っても油断はいけないね」
「げげ、師匠!?」
「えーと、あなたは?」
「ああ、私はスカサハ。そこの駄犬の一応師匠だよ」
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