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誓い
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負傷者の手当てを急がせ、戦力の確認を行う。同時に討ち取った敵兵を一か所にまとめておく。古来の籠城戦で腐敗した兵の死体を投げ込み、疫病を起こさせた事例が存在する。こういった処理は早いほうがいい。
「私も手伝おうか、レイル殿」
「スカサハ殿、ありがたいがこの手の作業は慣れております」
「何、こうするのだ」
スカサハが虚空に指を滑らせると魔術文字が描かれる。
【アンスズ!】
唱えられた呪は魔術文字に力を与え、積み上げられていた死体は一瞬で焼き払われた。
「さて、私の力はご理解いただけたと思う」
「そうですね、あなたは私に何を求めますか?」
「この地の安寧を」
「はい? そういうのはもっと大物に頼んでくださいよ?」
「私は君がその大物になると見ているのだがね」
「買い被りですよ」
「あのバカ弟子は、私が今まで鍛えた戦士の中でも群を抜いている。正直ね、殺し合いで向き合ったら武術では五分五分、ルーンを使ってやっと勝ち目が見えるってレベルだね。ああ、そういえば、この前魔術も仕込んでるから、あいつがそれを的確に使い始めたら・・・8割以上で私の首が落ちる」
「残り2割は?」
「あいつを取り逃がす。正直に言おう、私ではあいつは殺せない」
「えっと・・・それって・・・?」
「あいつが力におぼれ、戦士としての誇りを失ったとき、それを止められるものはこの世界にもいるかどうか・・けどね、性根はまっすぐなんだ。だからさ、本当の頼みはこっちになるけど」
「はい」
「あいつの友になってくれ。あいつを縛る手綱になってくれ。そして、あいつが傷ついたとき、立ち直らせる導きとなってくれ」
「スカサハ殿。剣を交えたから言うのだが・・」
「うん? なにかな?」
「ホリン殿の槍はとてもまっすぐだった。一突き一突きに誇りが込められていた。そして彼の武術に誇りを与えたのは師の功績でしょう」
「・・・そう・・かな?」
「ホリン殿は貴女を母のように慕っておりますよ」
「あ”??」
目の前には修羅がいた。殺される、本能的に感じた恐れをのままに言葉を言い換える。
「いえ、その…姉のように?」
「うん、そうだね」
何事もなかったかのようにスカサハが答える。あまりの何もなさにいっそ恐れを感じた。つーか、まき散らした殺気で小鳥が地面に落ちてる。洒落にならない。
「というわけで、出ておいでセタンタ!」
呼びかけに答えて、頭上からホリンが飛び降りてきた。どうもそこの木の上で今の話を聞いていたようだ。
「レイルよ。師匠相手に年を連想させる言葉は禁句だ」
「ああ、肝に銘じる・・・死ぬかと思った」
小声でささやくように交わした言葉もどうやら聞き取っていたのか。ちっとも笑っていない目をして笑顔でうなずく。怖い。
「レイル、ここで一つ誓いを立てようと思う。聞き届けてくれるか?」
「私でよければ立ち会わせていただこう」
レイルの答えを聞いて、ホリンは槍を地面に突き立てた。
「森羅万象の精霊と、戦士の誇りたる我が槍、ゲイ・ボルグにかけて誓う。我は、自らを打ち破った戦士に従う。わが主の名はレイル! 我は主の猟犬となり、主の望みのままに獲物を仕留めよう。我が槍は主のためにのみ振るわれることを生涯の誓いとしよう!」
「その誓い、このスカサハが聞き届けた」
周辺に満ちていた魔力が方向性をもって渦巻く。スカサハに目で促され、レイルが誓いの言葉の答えを返す。
「その誓い、主ではなく、友として受けよう!」
それを聞いてホリンが吹き出す。満面の笑みを浮かべレイルの目を見てさらに答えを返す。
「わが友レイルのために、全身全霊をもって戦うことを誓う!」
「わが友ホリンのために、我が戦士の魂をかけて誓おう。決して裏切らぬ。ともに助け合い生き抜くことを!」
「誓いはなった。主神ダグザよ。ご照覧あれ!」
渦巻いた魔力が地面に突き立てた剣と槍に吸い込まれてゆく。
「レイル殿、私の頼みを聞き入れてくれてありがたく思う。この恩に報いるため、私にできることなら3回に限り叶えさせていただこう」
「わかりました。いつか助けを求めることがありましたら。必ず」
「なんだったら、貴殿の妻になってもよいぞ?」
「はっはっは、私のような未熟者では貴女とは釣り合いませんよ」
スカサハの背後でホリンがサムズアップをしている。ここで下手にうなずくとえらいことになりそうな予感がしていた。
「ところで、俺はあんたの家臣になると誓いをかけようとした。なのになんで対等の誓いに変えた?」
「んー・・なんとなく?」
「なんとなくか・・・わははははは」
いきなりホリンが笑い出す。肉食獣のような剣呑な笑いではなく、大型犬がニカッと笑うような表情だった。
「ありがとうな。レイル、これからもよろしく…な」
「ああ、ホリン。頼りにさせてもらう」
「あー、俺らしかいないときはセタンタでいい。親からもらった名前だ」
「わかった。セタンタ」
「ただまあ、一応それなりに武名なんかもついてるから、戦いのときとかはホリンの名前が通ってるかもしれねえ」
「そうか、わかった」
なんか和気あいあいとしてしまった雰囲気の中、偵察に出していたジョルジュが駆け込んできた。どうやら、逃げ散った盗賊団の本拠が分かったようだ。レイルは出撃の指示を出し、ホリンと肩を並べて歩き出した。そんな二人を安どの表情でスカサハが見送るのだった。
「私も手伝おうか、レイル殿」
「スカサハ殿、ありがたいがこの手の作業は慣れております」
「何、こうするのだ」
スカサハが虚空に指を滑らせると魔術文字が描かれる。
【アンスズ!】
唱えられた呪は魔術文字に力を与え、積み上げられていた死体は一瞬で焼き払われた。
「さて、私の力はご理解いただけたと思う」
「そうですね、あなたは私に何を求めますか?」
「この地の安寧を」
「はい? そういうのはもっと大物に頼んでくださいよ?」
「私は君がその大物になると見ているのだがね」
「買い被りですよ」
「あのバカ弟子は、私が今まで鍛えた戦士の中でも群を抜いている。正直ね、殺し合いで向き合ったら武術では五分五分、ルーンを使ってやっと勝ち目が見えるってレベルだね。ああ、そういえば、この前魔術も仕込んでるから、あいつがそれを的確に使い始めたら・・・8割以上で私の首が落ちる」
「残り2割は?」
「あいつを取り逃がす。正直に言おう、私ではあいつは殺せない」
「えっと・・・それって・・・?」
「あいつが力におぼれ、戦士としての誇りを失ったとき、それを止められるものはこの世界にもいるかどうか・・けどね、性根はまっすぐなんだ。だからさ、本当の頼みはこっちになるけど」
「はい」
「あいつの友になってくれ。あいつを縛る手綱になってくれ。そして、あいつが傷ついたとき、立ち直らせる導きとなってくれ」
「スカサハ殿。剣を交えたから言うのだが・・」
「うん? なにかな?」
「ホリン殿の槍はとてもまっすぐだった。一突き一突きに誇りが込められていた。そして彼の武術に誇りを与えたのは師の功績でしょう」
「・・・そう・・かな?」
「ホリン殿は貴女を母のように慕っておりますよ」
「あ”??」
目の前には修羅がいた。殺される、本能的に感じた恐れをのままに言葉を言い換える。
「いえ、その…姉のように?」
「うん、そうだね」
何事もなかったかのようにスカサハが答える。あまりの何もなさにいっそ恐れを感じた。つーか、まき散らした殺気で小鳥が地面に落ちてる。洒落にならない。
「というわけで、出ておいでセタンタ!」
呼びかけに答えて、頭上からホリンが飛び降りてきた。どうもそこの木の上で今の話を聞いていたようだ。
「レイルよ。師匠相手に年を連想させる言葉は禁句だ」
「ああ、肝に銘じる・・・死ぬかと思った」
小声でささやくように交わした言葉もどうやら聞き取っていたのか。ちっとも笑っていない目をして笑顔でうなずく。怖い。
「レイル、ここで一つ誓いを立てようと思う。聞き届けてくれるか?」
「私でよければ立ち会わせていただこう」
レイルの答えを聞いて、ホリンは槍を地面に突き立てた。
「森羅万象の精霊と、戦士の誇りたる我が槍、ゲイ・ボルグにかけて誓う。我は、自らを打ち破った戦士に従う。わが主の名はレイル! 我は主の猟犬となり、主の望みのままに獲物を仕留めよう。我が槍は主のためにのみ振るわれることを生涯の誓いとしよう!」
「その誓い、このスカサハが聞き届けた」
周辺に満ちていた魔力が方向性をもって渦巻く。スカサハに目で促され、レイルが誓いの言葉の答えを返す。
「その誓い、主ではなく、友として受けよう!」
それを聞いてホリンが吹き出す。満面の笑みを浮かべレイルの目を見てさらに答えを返す。
「わが友レイルのために、全身全霊をもって戦うことを誓う!」
「わが友ホリンのために、我が戦士の魂をかけて誓おう。決して裏切らぬ。ともに助け合い生き抜くことを!」
「誓いはなった。主神ダグザよ。ご照覧あれ!」
渦巻いた魔力が地面に突き立てた剣と槍に吸い込まれてゆく。
「レイル殿、私の頼みを聞き入れてくれてありがたく思う。この恩に報いるため、私にできることなら3回に限り叶えさせていただこう」
「わかりました。いつか助けを求めることがありましたら。必ず」
「なんだったら、貴殿の妻になってもよいぞ?」
「はっはっは、私のような未熟者では貴女とは釣り合いませんよ」
スカサハの背後でホリンがサムズアップをしている。ここで下手にうなずくとえらいことになりそうな予感がしていた。
「ところで、俺はあんたの家臣になると誓いをかけようとした。なのになんで対等の誓いに変えた?」
「んー・・なんとなく?」
「なんとなくか・・・わははははは」
いきなりホリンが笑い出す。肉食獣のような剣呑な笑いではなく、大型犬がニカッと笑うような表情だった。
「ありがとうな。レイル、これからもよろしく…な」
「ああ、ホリン。頼りにさせてもらう」
「あー、俺らしかいないときはセタンタでいい。親からもらった名前だ」
「わかった。セタンタ」
「ただまあ、一応それなりに武名なんかもついてるから、戦いのときとかはホリンの名前が通ってるかもしれねえ」
「そうか、わかった」
なんか和気あいあいとしてしまった雰囲気の中、偵察に出していたジョルジュが駆け込んできた。どうやら、逃げ散った盗賊団の本拠が分かったようだ。レイルは出撃の指示を出し、ホリンと肩を並べて歩き出した。そんな二人を安どの表情でスカサハが見送るのだった。
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