あれおかしいな?こんなはずじゃなかった!?

響 恭也

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マントヴァ包囲戦

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 マントヴァの城塞にメラス軍は入城した。敗残兵を収容して何とか7000の軍を保っている。もともと補給拠点でもあり、物資は豊富に確保できていた。
 アースガルド地方最大の都市、マグデブルグには1万の兵が入り、クリフォード軍も途中で兵を増やして15000に膨れ上がっていた。
 レイル本隊は南都アンスバッハに迫っていた。シレジエン周辺でレイルが撃破したオズワルド兵が入り、必死の防戦準備を行っている。レイル軍も近隣の領主はシレジエンの兵力を動員し、15000ほどの兵力を率いている。そして、双方の中間にあるマントヴァの城塞が非常に厄介な位置取りになっていた。湖沼を使って攻め口は、中央の島にかかる3本の橋だけである。そして、アンスバッハとマグデブルグのどちらにもほぼ等距離にあり、それぞれを包囲すると後背を突く位置になるのである。むろん補給線を脅かされることにもなり、ここを無力化しておかないと進軍ができない。可能であれば、同数ほどの兵力を貼り付けて包囲する。そして先にマグデブルグとアンスバッハを落とせば、孤立して自落するのは明白である。なかなかに厄介な状況だった。 

「さて、どうしたものか…?」
「常識的な手立てならば、どちらかの兵を二分して、マントヴァの包囲でしょうな」
「それをすることのデメリットは?」
「攻略に時間がかかります。本国から援軍が来たら戦線が瓦解する危険性がかなり高くなります」
「だよなあ。それ以外の手は?」
「両軍から3000ほど分離してマントヴァの包囲ですね」
「それも考えたが、包囲軍の連携が取れなくて突破される危険が高くないか?」
「おっしゃる通りです」
「なればこれしかないか。よし、シレジエンまで退く」
「ええ、それがいいですね。クリフォード候にも使者を?」
「念のため出そう。だが同じ結論に至っているのではないかな?」

「アーサー、策を!」
「全軍を後退させ、セヴァストポリで防備を固めるが上策かと」
「理由は?」
「おそらく陛下の方も同様の判断かと思いますが、マントヴァを餌にして敵軍をまとめます。そののち撃破する」
「なるほど、マントヴァには1万ほどしか収容できぬ。メラスはともかくとして、偽報で引っ張り出すか」
「左様にございます」

 スカサハの出した使者はセヴァストポリに向かっていた。ここは大昔の砦跡であり、修復によって簡易な陣を築いている。そしてクリフォードにレイルからの提案を伝え、取って返した。
 レイルは1万を率いて北上、マントヴァの東に布陣した。それと時を同じくして南下してきたクリフォード軍1万がマントヴァの西に布陣する。湖沼地帯のため、両軍の連絡は難しい。マントヴァは包囲されるのと同時に分断も果たしている状態だった。
 メラスは3倍の軍に囲まれても全く動揺を見せなかった。力攻めで落ちる城ではない。むしろこちらに敵の攻勢をひきつけ、本国からの援軍と挟撃できるし、それを待つだけの物資も確保している。メラスの誤算は、レイルのというかフリード軍の土木工事技術を甘く見ていた点であろう。

 マントヴァ城砦は北と南西、南東の3方向に橋がかかっている。橋周辺の城壁は高く作られているが、それ以外は2メートルほどで、乗り越えることは難しくない。取り付ければであるが。
 ジークの指揮により、周辺から集められた土嚢と材木で、幅3メートルほどの橋がかけられていった。弩を使った射撃で、敵の弓兵は反撃を封じられる。そして同時進行で、マントヴァ湖沼に流れ込む川は、湖の南方からきているが、そこにも架橋し、両軍の連絡路がつながっていった。
 その連絡路を落とすため、マントヴァの兵が出撃してくるが、橋の出口を包囲するように土嚢を用いた陣を作る。安価に調達でき、矢を通さない。3方向からの射撃で敵兵は橋を渡れず、盾兵を前衛にして守りを固めるだけで前進できなくなった。
 大楯を並べた筏を出し、架橋を支援する。弩兵が雨あられと矢を打ち込んで敵軍の反撃を阻止した。
 そして北の橋には徳の兵を配置せず、手薄なままだった。メラスとしては逆にそちらから兵を出撃させ、野戦での撃破を意図していると想定し、防備の兵の身を置き、出撃はさせなかった。
 架橋作業は徐々に進み、あと1,2日で城壁に届きそうな状態だった。橋の木材の上には湖底からくみ上げられた泥が撒かれ、火矢を防ぐ工夫をしている。夜襲などに備え、不寝番の見張りが置かれ、日々の攻防戦に城兵は徐々に疲弊していった。
 レイルがマントヴァを包囲して10日目。北の橋を渡る騎兵が現れる。援軍が来ているとの報に兵は沸き立ったが、その出所がアンスバッハとマグデブルクであったことで、メラスは悲嘆の声を上げた。
「なんということだ、わが軍は敗れた。レイルめに釣りだされた」
 そこからの展開は一方的だった。南北の援軍は個別に出撃していたため、同時に後背を襲うということができなかった。城砦内部の兵は橋をすべて塞がれ突破できない。レイルとクリフォードの軍に城砦への接近を阻止され、それぞれ追尾してきた別動隊に挟撃され殲滅されていった。
 2度の戦闘が終わり、援軍壊滅の報が伝わると、メラスは降伏勧告を受諾し、本国への退却を条件に城砦を明け渡した。
 また兵力のほとんどを撃破されたアンスバッハとマグデブルクも降伏し、ついにレイルの軍によってフリード王国の旧領は回復されたのである。
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