あれおかしいな?こんなはずじゃなかった!?

響 恭也

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閑話 北方戦線

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 少し時はさかのぼる。妹のフレイアが早とちりをして飛び出していったあと、彼女が率いるべき部隊、騎兵100を後追いさせて送り出した
 クリフォードは軍を率いてロンディニウムを進発、テルローの地に陣を敷いた。
 対するはオズワルドの将軍メラス。宿将といってもよい地位にあり、軍歴は半世紀にも及ぶという老将であった。
 1万余りの兵を横陣に展開し、両軍は向かい合う。兵力はほぼ互角。地形の優劣もほぼない平地でのぶつかり合いとなる。
 数日前、レイルがシレジエンの西で会戦に及び、敵軍を撃破した報告は伝わってきている。
 ここで勝利を収めねばクリフォード自身の立場も悪くなりはしないが、レイルとの力関係が開きすぎるのも後々よくない。
 敵将メラスは、良くも悪くも堅実な用兵で知られており、下手な策を講じてもかかるとは思えない。ただし、前衛を勤めるグレイブ将軍が猪武者という情報が入っていた。彼をつり出して均衡を崩せば勝機はある。
「アーサー、策を」
「はい、古典的な手ですが、挑発してつり出すのがよいかと」
「ふむ、騎兵はどう使う?」
「とどめに使うべきですね。釣りだした敵前衛を包囲して崩し、追撃から中央突破を」
「いいだろう。さすが当代のアーサー・ウェルズリーだ」
「おほめに預かり光栄です」

 翌朝、クリフォードが陣前で演説を始めた。
「正統なるこの地を治めるべきフリードの旗のもとに、今戦いに臨む兵たちよ。わたしは諸君らに栄光を与えよう。テルローの戦いに参加したと言えば、この国の者は皆、諸君らを勇者として称えるような戦いをしよう」
「「「オオオオオーーー!」」」
「オズワルドの前衛は、まともに兵を率いることもできんようなヘタレだ。一気に血祭りにあげて諸君らの武名に加えてやれ!」
「「「オオオオオオーーーー!!」」」
「グレイブよ、お前に少しでも武勇を重んじることができるならば、今すぐ決戦と行こうではないか!」

「続け!」
 兵に声をかけ、一騎駆けをしてくる敵将。慌てて周囲の兵が続く。メラス将軍も釣りだされたのを理解しつつも、攻撃命令を下した。その勢いで敵の前衛を押し込めればよいと考えたようだ。
「弓箭兵! 撃て!」
 レイルから供与を受けた弩兵が斜め上に向けて矢を一斉に放つ。同時に通常の弓兵も一斉に射撃した。
 空を覆うほどの矢がお互いに降り注ぎ、盾の隙間をかいくぐった矢が兵たちを打ち倒してゆく。
 弩は通常の弓よりも威力が強く、鎧ごと射抜かれて倒れる兵が続出していた。
 怒り狂ったグレイブが指揮する兵は狂奔し、当たるを幸いと兵をなぎ倒し、徐々に陣列に浸透している。そこを陣列を徐々に下げて浸透を防いでいる。戦況は一進一退に見えた。
「まずい、グレイブに後退を命じよ。突出しすぎている!」
 メラスがそばの伝令兵に、命令書を持たせて派遣した。だが運悪く伝令兵は流れ矢に倒れ、それを見たメラスは複数の兵を出して、後退命令を前線に出す。
 ごくわずかなタイミングの差で、アーサーの振るった采配に従って動いた兵は戦況を一変させた。左翼に予備兵を投入し、敵を押し返す。そして中央と左翼の間に空いた間隙に騎兵をねじ込み突撃させたのである。
 グレイブの部隊は縦隊となっており、最前衛を絶えず入れ替えて突撃させる繰引きの動きでその鋭鋒を鈍らせることなく突撃を続けていた。前進しか考えない陣形であるがゆえに、側面攻撃には驚くほどもろい。
 一気に陣列が突き崩され、前衛も交代が来ないことで一気に突き崩される。そして、これは結果論ではあるが、突入した騎兵にグレイブ将軍自身が討ち取られるという事態が発生した。
 攻勢を止めて、左右と息を合わせて退くのではなく、単独で崩れたって下がるのは当然だが状況が違う。クリフォードは本陣に戻った騎兵をいったん休ませ、自らの直卒部隊をも投入し中央から押し込んだ。
 メラスはその動きを見て中央を下げ、包囲を狙って凹型に陣を変形させていったが、前線を預けていた副将が討たれているため、どうしても動きが鈍るし士気も下がる。そしてそのわずかな差は致命的な結果となって表れた。
「今です、騎兵の投入を!」
「ヒノモト騎兵、突撃だ!」
「「おおう!」」
 初代アーサー・ウェルズリー伯の夫人はヒノモト公の姪だった。その縁があり、ヒノモトの民がかの伯爵領に移住していた。彼らはその末裔である。
 馬上で長弓を構え、一糸乱れぬタイミングで撃ち放つ。それを3度繰り返し、敵陣のほころびに向け槍を構えて突撃する。
 前進しか考えない、鉾矢形の陣をとり、敵陣を切り裂いてゆく。分断されたラインに軽歩兵を浸透させ、一気に前進してゆく。クリフォード自身も前線に立ち、兵を鼓舞してゆく。ヒノモト騎兵の武勇に味方は奮い立ち、敵兵は混乱する。
 騎兵突撃から1時間もたたない時間ではあったが、メラスは撤退を指示した。左翼は予備兵を投入されていたが、右翼側は戦端が開かれてからほぼ休みなしで戦っている。自身の本体を構成する部隊を左翼に投入し、敵右翼を突いて後退させる。そこで敵が陣の再構成をする間隙を縫って全軍を後退させた。中央と右翼はかなりの損害を受けたが、何とか兵を取りまとめて戦線を離脱することに成功したのである。
「さすが老兵、しぶとい」
 クリフォードの言葉は、半分の賞賛と勝ちきれなかったボヤキで構成されていた。
 テルローの地でクリフォードはオズワルド軍を破り、東進の道を切り開いたのである。
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