真紅の殺戮者と魔術学校

蓮月

文字の大きさ
38 / 42
第二章

第7話

しおりを挟む

遅くなってすみません。
今回はストーリー上、少し短めにします。
次回は頑張って早く投稿するので、
お待ち下さい。

---------------------------------------------


「さて、そろそろお腹も空いたし、食堂へ行こうか。きっと、もう用意してくれてるだろう。」

クラト先輩はコキコキと首を
鳴らしながら、立ち上がる。

「そうですね。」

俺も後に続いて立ち上がり、
歩きだそうと前に足を出した。
けれど、目の前が急に歪む。

「……っ。」

思わず、その場に立ち止まる。
この感覚は長期休暇前の街での事件で
倒れる直前の…。

「久々にまともな食事を摂るかも……って、レウ君!?」

クラト先輩が俺に駆け寄ったのが
わかったが、視界は歪んでいて見えない。

「大…丈夫です。少し立ちくらみがしただけです。」

「本当に大丈夫!?」

「…少し、部屋で休んできます。クラト先輩は食堂へ行ってください。」

「部屋まで、運ぶよ。」

俺は瞼をぎゅっと強く閉じてから、
ゆっくりと瞼を上げる。
ぱちぱちと何度か瞬きをすると、
視界は少しクリアになった。

「…もう大丈夫です。一人で戻れます。」

「…そう。わかった。」

服に着替えたところで、
ちょうど、使用人が呼びにきたので
クラト先輩を連れて行ってもらう。

「レウ坊ちゃん…。」

「少し休めば大丈夫だと、母上に。」

「…分かりました。」

俺は自室に戻り、ソファに倒れ込む。
頭が痛む…。視界はぐるぐると回る…。

「…ぅ。」

ゆっくりと目を閉じると、
意識は暗い闇の中に落ちていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「こちらです。」

「案内ありがとう。」

クラトは、案内してくれた使用人に
微笑み、部屋へと入る。

「ああ、良かった。ちょうど食べ始めるところだったのよ。…あら?レウは?」

キッカは安心した様な顔をしてから、
首をこてんと傾げた。
クラトを案内した使用人が
さっと、キッカに近づき、報告する。

「レウ坊ちゃんは、気分が優れないので部屋で休む、と。」

「そうなの!?レウは大丈夫なの!?」

キッカは椅子から立ち上がり、
おろおろと慌てる。

「キッカ様、レウ君なら大丈夫ですよ。気の緩みから、急に疲れが出たんでしょう。ここ数日、随分と熱心に勉強していたそうなので。」

クラトはキッカを安心させるために、
さらりと流れる様に嘘をついた。

急に疲れが出たのは、
過去について少し誰かに話せたから
だろうと勝手にクラトは推測する。
素直にそう話せば、あとの四人の
視線が…特に一人の男子の視線が
鋭くなるだろうと思ったから止めた。

「…そう。」

キッカはしゅんとして、椅子に座る。
見た目はまだ20代前半に見える容姿
だが、彼女が年相応に息子の心配を
するところを見て、クラトは
ああ、彼女も一人の母親なのだなと
ぼんやりと思った。

クラトがふと周りに視線を向けると、
ルチアがじっとクラトを見ていた。

「…ルチアちゃん、どうしたの?そんなに僕を見つめて。」

「別に何でもないわよ。」

「そっかー…。ところでもう一人、僕に穴が開くほどの視線を向ける人がいるのだけれど…。」

クラトはそう言いながら、
熱い視線の方向へ目を向けた。

「…何でだ。」

「うん?何のこと?」

クラトはわざと惚けて、肩を竦めた。
その様子にガンドは苛立ちを
隠さずに、語気を強くして言う。

「俺はレウと話したかったのに、何で!!」

「何で追い出したのか…って?じゃあ、あのまま気まずい雰囲気でいた方がよかった?」

「ッ。」

ガンドは唇を噛み締めた。
頭ではクラトの言う事が…
クラトが行った事は正しいと
わかってはいるが、口は言葉を
荒々しく紡いでいく。

「…俺はッ!一言レウに謝りたかったんだ!!」

「何で謝るの?レウ君は、言っていたよね?傷跡を見られる事は、別に気にしていないと。ただ、それで周りの空気が壊れるのが、嫌だっただけと。…何故君が謝る必要が?」

それまで、何の事を言っているか
わからなかったキッカは、
クラトの言葉に何があったのかを悟った。
レウの昔の傷跡に関係することだ…と。

「レウは俺達を気づかっていたのに、それを俺がぶち壊した事だよ!!」

「…まあ、確かにぶち壊したよね。だが、それを言うなら、計らずとも君の行動を誘導した僕の方が悪いね。」

クラトはわざと、レウのラッシュガードに
ついて話を振った。
ガンドやミルが行動を起こすと予想して。
だが、それを正直に言う必要はないので、
予想していなかったが、偶然そう
なってしまったという事にしておく。
しかし、ルチアは気づいている様子だが、
と内心苦笑した。

「それは……。」

「…あの時、必要だった言葉は謝罪じゃなかった。レウ君はそれを望んでいなかった。レウ君が望んでたのは、楽しい時間を過ごす事だ。」

上手く気持ちの切り替えが
出来ないルチア以外の三人のために、
あの場はそうしたとは、
言わないでおくクラト。
ガンドに必要なのは、言葉のナイフ
ではなく、自分で反省をすることだと
思ったからだった。

「…クソッ。」

「ガンド君!!」

ガンドは部屋から出てってしまった。
ヒスティエは慌てて追いかける。

「…ふぅ。まあ、あの二人はほっといて食べましょう。折角の美味しい料理が冷めてしまう。」

クラトは適当に空いている席に座る。
キッカはそんなクラトを見て、悲しげに笑う。

「…ごめんなさいね。それと、ありがとう。クラト君。」

「…何のことやら。」

クラトはふっと爽やかに笑った。
ルチアはそんなクラトを見て、
何故か顔を俯かせていた。
一方、ミルは定まらない視線で、
静かに座っていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「はぁっ、はぁ…っ。ガンド君…。」

ヒスティエは漸く部屋から
出ていったガンドに追いついて、
肩で息をした。
ガンドとヒスティエがいる場所は、
食堂に行く前にいたテラスだった。
ガンドはそこで、椅子に
項垂れて座っていた。

「…俺……馬鹿だよな…。」

ガンドはポツリと声を漏らした。
ヒスティエはガンドの横に、
何も言わずに座った。
きっと、ガンドが求めているのは
同意ではないと思ったから。

「…餓鬼みてェに、クラト先輩に八つ当たりしてさ。自分のやり場のない自分に対する憤りを、クラト先輩にぶつけたって意味無いのに。」

ヒスティエはまだ何も言わない。

「レウの傷跡見た時にさ、最初に俺が思った事…何だと思う?……失敗した、だ。」

最低だよと自嘲気味にガンドは
笑った。

「レウの傷跡の事についての疑問とかじゃなくて…レウに嫌われると…自分がした行為で嫌われてしまうと、思ったんだ。…本当にレウの事を思うなら、その傷跡はどうしたんだー…って思うのが正しいだろ?」

ガンドはゆっくりと顔を上げた。
酸っぱいものと苦いものを
同時に食べた時の様な顔だな、と
ヒスティエは思った。

「…私は頭が真っ白になった。それで、何も言えなかったよ。」

ヒスティエは目を瞑った。
まだ、父と母が身を呈して自分を
庇う姿が瞼に焼き付いている。
父は傷を負って血が出ていた。
母もボロボロになっていた。
レウの傷跡を見た瞬間、
あの時の出来事が頭を埋めつくした。

「…私もクラト先輩みたいに、冷静に考えられなかった。レウ君の事を…考えられなかったよ。」

「……。」

ガンドはヒスティエを見つめた。
そうして、そう言えば自分は
ヒスティエの事も何も知らないなと思った。
彼女も過去に何かあったのかもしれない…
それとも、そんな事はなく、
俺と同じ様に普通に暮らしていたのかも
しれない…とふと考えた。

「…レウ君の事、全然知らなかった。だから…だから、レウ君が元気になったら…体調が良くなったら、一緒にレウ君について…話してくれる限りレウ君に聞こう?もう、こんな事にならないように…。」

ヒスティエはガンドに微笑む。
ガンドはゆっくりと頷いた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「…ん…っ。」

ゆっくりと瞼を開けると、
窓の外はもうオレンジ色から
闇色に染まりかけていた。

「…ふぅ。」

ソファから起き上がり、
窓へと近寄る。

「……そういえば、もこんな空だったな。」

全てが狂った日。
全てが終焉へと動き出した日。
もう、どうすることもできなかった。
だから、壊した。

それは、エゴか。
いや、違う。
彼らが救いとは思っていなくとも、
彼らにとって救いだった。

別に彼らを救いたいとは、
きっと思っていなかった。
ただ、が…。

彼女は綺麗だった。
容姿もそうだったが、心が。
まさしく、あそこに必要だったもの。
その彼女が望んだから。

…今回は違う。

のミスだ。
まあ、あの状況では難しかった。
時間もなかった。

「…。」

今回はミスは許されない。
前回よりは時間があるが、
やはり十分な時間はない。

「…まずは情報収集をしなければ。」

そのためには…

「なぁ、?君は。今の君は邪魔でしかない。」


これで暫くは出てこれないだろう。

「…さて、今夜は動きがあるんだっけ?久しぶりに身体を動かすから…訛ってなければいいんだけど。」

コキコキと身体を鳴らす。
手足の感覚を確かめ、深呼吸する。

「…めんどくさいけど、えーと…青髪のやつ…名前なんだっけ?…まあ、アイツにバレないように、レウにならないとなぁ。」

目を閉じ、身体の魔力の流れを感じとる。
すると、心臓がキリリと痛み顔を顰める。

「…人の身体を勝手に弄るなよ。」

目を開け、忌々しげに舌打ちする。
自分はつくづく運がない。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


…暗い。

ここは何処だ…。

…?

…水の中?

…呼吸はできる。

身体は動かない…。

どんどん沈んでいく…。

眠イ…。

モウ…どうでも良クなル。

…何ガ?

……わカらナイ。

ワカラナイ。

…?

ナニカガキコエタ。

…『ネテロ…ジャマ…』?

……ナゼダ?

………コノママデイイカ?

ジャア……コノママ……。


『おやすみ』

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...