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第二章
第6話
しおりを挟む水着に着替え、プールサイドに
行くとルチア以外は全員、
プールに入っていた。
「…おう!!レウ、遅かったじゃねぇか!!」
ー バッシャアッ!!
「…………ケホッ。」
すまないと謝ろうとした瞬間、
ガンドから大量の水がかけられた。
まだプールに入っていなのに、
既に全身ビショ濡れだ。
「アッハッハッ!!ビックリし…」
ー バッシャアンッ!!
「うっ、ガボッ!?ゲホゲホゲホッ!!」
「仕返しだ。」
俺はガンドの一歩手前の位置に
行き良いよく飛び込んだ。
口を開けて笑っていたガンドは、
波にのみ込まれて、まともに
水を飲み込んだ。
「ぷぷぷっ。ばーか。」
ミルが口に手を軽く触れて、
小馬鹿にしたように笑った。
「ゲホッ……くっそぉー!!」
ガンドはそう言うやいなや、
魔術で手の平に水の球を作り、
投げつけて来た。
水の球はガンドの手の平から
少し離れると、すぐに
球の形は崩れて、広がりつつ
俺の顔にかかった。
「………。」
俺は無言で頭ぐらいのサイズの
水の球を作り、ガンドに向けて投げた。
「!?!?」
見事にガンドに当たる。
…少し心がスカッとした様な気がした。
「レウ君、遅かったね?何かあったのかい?」
「クラト先輩。」
後ろからクラト先輩が近づいてきた。
「ただ忘れ物をしただけですよ。」
「ふーん?そうなんだ。」
…話を変えた方がいいな。
「そう言えば、ルチアとヒスティエはプールに入らないのか?」
未だ、プールに脚を付けているだけの
二人に声をかける。
「えっと、私泳げないから…。」
ヒスティエが申し訳なさそうに声を出す。
「…気分。」
ルチアはツンっと顔を横に向けた。
「…実はルチアちゃんも、泳げないんじゃないの?」
クラト先輩はにこにこしながら
ルチアに問いかける。
…意地悪な顔をしているな。
「泳げるわよ!」
ルチアは怒って、クラト先輩に
脚で水をかけた。
水は綺麗にクラト先輩の顔に当たる。
「…………。」
「…な、何?」
何も言わないクラト先輩に
少しビクつきながらルチアが、
声をかける。
すると、クラト先輩は
物凄く良い(黒い)笑顔で、ルチアに近づく。
「…えっ。」
ルチアは危険を察知したのか、
プールから遠ざかろうと片脚を上げるが、
そこで腰をガシッとクラト先輩に
手でホールドされた。
「はい、高い高ーい。」
「きゃあああぁぁ!?」
そしてそのまま小さい子が
される様にルチアは高く持ち上げられた。
「お、下ろして下ろして!!」
「え?下ろして欲しい?」
クラト先輩はゆっくりと
下ろしつつ、片腕をルチアの背中に
回し、もう片方の腕で膝裏を支えた。
そしてプールサイドから遠ざかる。
「な、な、なッ!?!?」
「暴れると落ちちゃうよ?首に手を回さないと。」
クラト先輩に言われてすぐに
サッとクラト先輩の首に手を回すルチア。
「あの反応って、やっぱり泳げないんだね。」
「…それより、水が怖いって感じだな。」
ミルとガンドがポツリと呟いた。
「…昔のガンドみたい。」
クスッとミルがガンドを見て笑う。
「なッ!!あ、あれは子供の頃の話だろ!?」
ガンドが真っ赤になって慌てる。
「…ガンドも昔は水が怖かったのか?」
「そうだよー。私にしがみついて離れなかったんだから。怖い怖いって言って。」
「うわあああ!!レウに言うなよォ~!!」
「何て言うんだっけ……ああ、黒歴史?」
俺がそう言うと、ガンドは
ガクッと項垂れた。
「アハハ!」
「くそぅ!これでもくらえっ!!」
笑い続けるミルをガンドが水をかけて
止めようとするが、綺麗に避けている。
「レ、レウ…君。」
「どうした、ヒスティエ?」
声に振り返るとヒスティエは
困った様な顔をして言う。
「わ、私に泳ぎ方…教えてくれないかな?」
「…先ずは、プールに入ろうか。」
泳ぎ方の前に先ずプールに入らなければ。
「手で支えるから。」
「う、うん。」
恐る恐る水に入ろうとするヒスティエ。
だが、腰のあたりまで水に浸かった所で
止まってしまった。
「…怖いか?」
「う…ん。今まで水に入った事がなかったから…。」
「…なら、ああいう風に入ってみるか?」
俺は視線をクラト先輩とルチアに向ける。
「ほーら、怖くないよー。」
「ヤダヤダヤダ!!」
クラト先輩がちょっとづつ、
パシャパシャと水に浸からせて
水に慣れさそうとしている。
「えええぇぇ!?」
ヒスティエは急に真っ赤になってしまった。
「(え、え、え!?あ、あれってお姫様抱っこっていうやつだよね!?ほ、本で見た事あるやつだよね!?か、身体が凄い密着するよね!?)」
…レウによって、ヒスティエの頭の中は
パニックに陥っていた。
「ヒスティエ?」
「は、はいっ!?」
「…やっぱり怖いか?」
「え?あ、え?うん、いいえ!!」
肯定?否定?
「…どっちだ?」
「レウ…。それはヒスティエには厳しいよ…。」
何故か顔を引き攣らせて言うミル。
ガンドもうんうんと頷いている。
「そうか…。」
じゃあ、どうすればいいのだろう。
「うーん…恐らく勘違いしてるよね…うん…。まあいいや。こういうのはね。勢いよ!勢い!!」
ミルは俺を見ながら苦笑しつつ、
プールサイドに上がり、ヒスティエの
後ろに立った。
「み、ミル…?」
ヒスティエが訳が分からないと
いった表情を浮かべる。
俺もミルを訝しげに見やる。
ガンドはハッとしてから、
みるみる顔が青くなった。
…意味が分からない。
「行っくよぉー……てい☆」
ードンッ。
「うぇっ!?」
ー バシャンッ。
「ヒスティエ!?」
ミルは少し強くヒスティエの背中を押した。
そして、ヒスティエは驚いた顔をしながら、
プールに落ちた。
「大丈夫か!?」
俺はすぐにヒスティエを
水の中から抱き上げる。
「………けほっ。」
ヒスティエは目をぱちぱちしながら、
俺を見た。
そしてゆっくりと笑う。
「…びっくりした…けど、水の中って気持ちがいいね。…ちょっと、鼻が痛いけど。」
確かに少し鼻が赤い。
「ふふふっ。ほら、大丈夫でしょ?」
そう言いつつ、ミルがまた
プールの中に入って来た。
「ガンドもこれで大丈夫になったんだから。」
ね?とミルはガンドに笑いかける。
「…あの時は、死ぬかと思った。」
ガンドはミルを恨みがましい表情で見る。
…通りで、青い顔をしていた訳だ。
「そ、れ、に?レウも役得だし?」
「何の事だ?」
役得?役得ってなんだ?
「…っぁ。れ、レウ!!も、もう下ろしても大丈夫だよ!!」
ヒスティエが急にわたわたと
し始めたので、ゆっくりと水の中に
下ろした。
「で?どうだった?」
ミルが俺の耳元で何か聞いてきた。
「どう、とは?」
「惚けちゃって~。柔らかかった?」
「?」
柔らかかった、って何だ?
肌か?まあ女性は男性よりも
柔らかいが…。
「…え、まじか。」
何か知らないが、ミルは
あんぐりと口を開けている。
「……どうした?」
俺が問いかけると、じっと
俺を見つめてくるミル。
何かを…探るような目だ。
「レウって、何か変わっているね。ズレている…っていうか…何か普通と違う。」
ズレている、か。
それは認識か?
「…レウ坊ちゃん。」
声に顔を上げると、
プールサイドに使用人の女性が立っていた。
「テラスにお飲み物をお持ち致しました。」
「ありがとう。…一旦、上がろうか。」
俺の声に皆頷き、
プールサイドに上がる。
「そう言えば…ねぇ、レウ君?レウ君も何故ラッシュガードを着ているのかな?」
テラスに案内しようとしたら、
不意にクラト先輩が言った。
「レウ君が着てると、ルチアちゃんも脱いでくれないし…。」
「脱がないわよ!?」
…さて、何て言い訳をしよう。
完全に油断していた。
「これは……」
「男子たる者…潔く?」
ミルが何故か問いかけるように呟く。
すると、それに目を輝かせて
ガンドがにやりと笑う。
「…脱ぐべし!!」
ガンドとミルは言うやいなや、
俺のラッシュガードに手をかけた。
咄嗟に脱げないように引っ張るが、
二人の方が速かった。
「……ッ。」
「へへッ!!速いだろー!……え?」
「…なっ…!!」
ラッシュガードの前のファスナーが
開いて、胸や腹の傷が見えてしまった。
…もちろん一番醜い胸の傷も。
「…レ…ウ…?何で…お前…こんなッ…傷が!?」
「……ど、どうして…。」
「……昔の傷だ。」
ゆっくりとラッシュガードを脱ぐ。
これで上半身を隠すものはない。
「…あまり、見ていて気持ちのいいものではないから、隠していた。別に見られたくない、嫌だとは思っていないから気にしなくていい。」
と、言ってみるものの、
ガンドもミルもヒスティエも
悲痛そうな顔でこちらを見てくる。
「そっか。色々大変だったんだねー。」
クラト先輩はいつもと変わらない
表情を浮かべている。
ルチアは少し動揺しているが、
特に変わらない。
「あ、僕、ちょっとキッカ様に話しておかないといけない事があったんだった!レウ君一緒について来てくれない?」
「?…いいですけど。」
急にどうしたんだ?
「君達三人とルチアちゃんは、先にテラスに行ってていいよ。使用人さんを待たせてしまったら、悪いし…。」
クラト先輩は申し訳なさそうな顔をした。
「…ふん。わかったわ。先に行ってるわね。」
ルチアは何故かクラト先輩を
軽く睨んで、頷いた。
「え?ちょっと待てよ!俺はまだレウに…ッ!!」
何故か途中で言い淀んだガンド。
その目線の先にはクラト先輩が。
「ガンド?」
俺が問いかけるように言うと、
何故か悔しそうに唇を噛むガンド。
「…行きましょう。」
ルチアはやや強引にガンド達を
引っ張って行った。
四人が視界からいなくなってから、
クラト先輩は口を開く。
「…さて、これで二人っきりだね。」
「は?」
「え?もしかして、本当にキッカ様に用事があると思ったの?あれは口実だよ。」
クラト先輩は呆れた様に笑う。
「君と話したいなら、こうするのが手っ取り早い。」
クラト先輩はプールサイドにある
ベンチに座り、俺に横に座るように促した。
「…話とは?」
「君についての事だね。」
クラト先輩は俺の目を見て
はっきりと答えた。
「僕が君について、知っている事は簡単に言うと…オールディス家の養子、一流の兵士、頭がキレる、施設で育った…って事だけだね。」
…クラト先輩はその施設が、
どんな施設かは知らなかったのか。
「施設で酷い扱いを受けたという事も知っていた…けれど、まさかここまで酷いとは思ってもいなかったよ。」
クラト先輩は俺の胸の醜い傷に
目を向ける。
「…特に、その傷。心臓の位置じゃないか。」
心臓の位置にある醜い傷は、
手の平のサイズで、焼かれて変色し、
皮膚が盛り上がっている。
クラト先輩は俺をじっと見つめ、
話すのを待っている。
俺は少し息を吐いてから、話し始めた。
「…施設と言っても……ただの施設ではなく、研究施設にいました。」
「…研究施設?」
クラト先輩は眉を顰めた。
多分、酷い管理者が務める教会の
孤児施設を予想していたのだろう。
「サルザット帝国の研究施設…一部の人達には、"ファーム"と呼ばれていた施設です。」
「!!…あの施設か…。という事は、その傷は…肉体改造されて…。」
「そうです。…肌が焼かれているのは、肌に直接彫られた魔術式を隠す為でしょう。」
最初は肌に太い針で魔術式を書く。
魔術式が反応してから、
麻酔をし、胸を切り開き、心臓に細工する。
その後、身体が拒絶反応を
起こさなかったら、成功。
ある程度、体力が戻ってから
技術の漏洩防止の為に肌を焼く。
心臓の細工以外は、麻酔をされない。
魔術式を刻まれる時も、肌を焼かれる時も、
もういっそ殺してくれと思う程の痛みだった。
「肉体改造をされた時の傷がこれです。他の傷は、訓練で命令通り出来なかった時、施設の連中にいたぶられた傷です。」
「…………。」
クラト先輩は、最初に傷を見た時と
違って顔を歪ませている。
「…レウ君があの研究施設にいた、これで全ての不可解な点が繋がったよ。」
「…俺はクラト先輩はすでに、知っていると思っていました。」
国王陛下の密偵なら。という、
意味を含めた視線を向ける。
「…国王陛下も知っているのかい?」
「ええ。この事を知っているのは、父上、母上、ユリヤさん、ニコレッタさん、師…メイヒョル師匠、国王陛下…そして、クラト先輩です。」
「…僕の母上も知っているのか。」
クラト先輩は何か考える様に
目を閉じている。
「そうです。入学式の日に…ですね。」
「……そうか。」
暫く、クラト先輩は
その状態で一言も喋らなかったが、
ゆっくりと立ち上がり、目を開けた。
「…君の事について、知りたかったのは単純に友人を心配しての事だ。仕事とか…そう言った事情は抜きにして。」
…え?
「…それは、驚きました。」
クラト先輩は俺の顔を見て、
くすりと笑った。
「一人…一人でも、事情を知っている友人が居てもいいだろう?その友人に僕はピッタリだと思うのだけど?」
クラト先輩はパチッと
茶目っ気にウインクをした。
その様子に、俺も自然と笑顔になる。
「ふっ…そうですね。」
「もう少し嬉しそうな顔をしても、バチは当たらないんじゃないかな?…ふふっ。」
その後、俺達は暫く笑いあった。
先程まで、暗い会話をしていたとは
思えないほどに、
空気が済んでいるようだった。
『…運命は君を嘲笑っているのに、呑気に笑っているなんてね。愚者か…道化師か…。まあ、どっちにしろ君はただの亡霊にすぎないか。』
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