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第二章
第9話
しおりを挟む前回に引き続き、R18です。
戦闘シーンが出てきます。
また、残虐なシーンが多々あります。
ご注意ください。
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(これは…凄いね。)
ー ザシュッ!!
クラトは目の前で素早く無駄のない
動きで、敵を殺していくレウを
見て息を呑んだ。
想像していたより、レウは圧倒的だった。
(ナイフだけで…これとか…魔銃なんか使ったら…うん…。考えるのやめよ。)
クラトは溜息と共に首を振って、
邪念を払う。
「どうかしましたか?クラト先輩。」
溜息に気づいたレウが、
クラトを振り返る。
気にしなくていいと笑って
手をヒラヒラと振っておくクラト。
「…それにしても、これで何人目ですかね?」
レウ君はふぅっと一息吐いた。
顔はもううんざりと言っていた。
「…片付け大変だよねー。」
クラトは周りに散乱する遺体を
見て顔を顰めた。
ここはまるで戦場のようだ、と。
「…それには同感だわ。」
ガサリと音を立てて茂みから、
同意の声を上げてルチアが姿をみせる。
「ルチアちゃん!…無事かい?」
「大きな怪我はないわ。過擦り傷くらい。」
ルチアはゆっくりとクラトに近づいた。
クラトはルチアに酷い傷が無いのを
確認して、ほっと息を吐いた。
そんな二人の様子をレウは、
感情の読めない目で見つめている。
「……………。」
そして、ふとルチアの背後の
木々に意識を集中する。
クラトはADXで誰かと連絡を
取っている最中で、
ルチアは何か物思いに耽っていた。
レウは懐からゆっくりとナイフを
取り出した…が。
ー カチャッ。
「……止まれ。」
男の低い声が聞こえたと同時に、
完全にナイフを取り出す前に、
ルチアの後頭部に魔銃が突きつけられた。
「!!」
「なっ!?」
ルチアは驚いた表情から、
忌々しげにため息を吐いた。
クラトは焦った表情を浮かべている。
「…そのまま動くな。ナイフを捨てろ。それと、魔銃もだ。」
レウはナイフを持っていた手から
力を抜いて、両手を上げる。
クラトも渋々従う。
「……要求は何だ。」
クラトは焦りで声が震えている。
「…………。」
男は何も答えない。
その反応にますます冷静さを、
失うクラト。
「…何をしている。」
その時、綺麗なアルトの声音が
その場に広がる。
それと同時に男の背後から、
背の低い人物が現れる。
「……隊長。」
「我々の任務を忘れたのか。」
「気づかれたため、止むを得ず…。」
「………。」
隊長と呼ばれた人物は、
何故かレウをじっと見つめる。
顔はフードに隠れていて、
よく見えないが、レウを見つめている
ことはわかった。
「…殺すなら、早くして。」
ルチアが苛立った声で叫ぶ。
横目で敵の隊長を睨みながら。
「……ん?」
不意に敵の隊長が、
ルチアに近寄り、顔をまじまじと
見つめ始めた。
「な、何…?」
急に顔を近くで見られて戸惑うルチア。
だが、次に紡ぎ出された言葉に
真っ青になる。
「…まさか、殿下?」
「……ッ!?」
ルチアの反応を見て、敵の隊長は
くすりと笑った。
「…こんなところにいらっしゃるとは。探していたのですよ?」
言葉と共にルチアに手を差し出す。
「さあ、帰りましょう?貴方のお兄様方がお待ちですよ。」
「…ッ!!嫌ッ!!!」
「どういう事だ!?」
ルチアの悲鳴に、クラトが声を上げる。
そのクラトに敵の隊長は、
溜息を吐いて視線を向ける。
「…祖国に帰るだけですよ?」
「彼女は嫌がっている!!」
敵の隊長は、冷めた声を出す。
「私も本人の意思を尊重する事は、大事だと思っていますが、今回はそうもいかないのですよ。」
ルチアに魔銃を向けていた男が、
サッとルチアを拘束した。
ルチアは暴れるがビクともしない。
「…傷つけるなよ。」
「了解です。」
「離して!!嫌よ!!」
「ルチア!!」
クラトがルチアの名を呼んだと
同時に、ぞわりと凍えるような殺気が
クラトを襲う。
「無礼者が。気安く名を呼ぶな。」
「ッ!!」
「この方はサルザット帝国第二皇女ルチア殿下である。お前如きが名を呼ぶ資格などない。」
「な…に…?」
その言葉にクラトはルチアを見る。
ルチアは視線を受け、項垂れる。
その様子にそれが事実だとレウと
クラトは理解する。
「さあ、行きましょう、殿下。」
先程までの勢いは無く、
引かれるように歩き出すルチア。
「…私達が去るまで、動かなければ危害は加えない。」
そう言って立ち去ろうと、
敵の隊長が踵を返す。
クラトはどうすればいいのか
わからなかった。
ルチアが…まさか第二皇女だったという
ことに頭が混乱していた。
何故、どうしてが頭の中を埋め尽くす。
…だから、クラトは気づかなかった。
隣に立つレウが笑っているのを。
ポツリと呟かれた声にも。
「…狩りとれ、ネイピア。」
呟かれた言葉と共にルチアを、
拘束していた男の首が地面に落ちた。
ー ドシャッ。
「「「…は?」」」
頭がない男の首から鮮血が吹き出す。
鮮血は男の胴体と地面…そして、
捕らえていたルチアを赤く染めた。
「…ッ!!」
部下が一瞬で殺られ、
呆然となるが、すぐ様辺りを警戒する
敵の隊長。
だが、何処から攻撃があったのか
分からない。
「…な……これ……ァぁ。」
ルチアは額からヌルりとしたものを
手でゆっくりと拭う。
手は、真っ赤に染まっていた。
「あ…あ……ぁ…。」
ルチアは恐怖とパニックで、
ふらりと地面に倒れ込む。
「殿下!!」
敵の隊長はルチアに手を伸ばすが、
下手に動くべきではないと思い、
その場に留まるが、その様子を
嘲笑うかのように、声が発せられる。
「…まさか、皇女殿下が目の前にいたとはね?たまには、良い事もあるじゃないか。」
「…ッ!?」
敵の隊長は、声のした方へと視線を向ける。
そこには、つい先程無力化した筈の
相手…レウが笑みを浮かべて立っていた。
「…お前が…殺ったのか…。」
「……他に誰が?」
何故そんなつまらない事を聞くと
言わんばかりの表情を浮かべるレウ。
「…魔銃は…そこに捨ててある…。どうやって殺した!?」
分からない恐怖に、
声を荒らげて問いかける敵の隊長。
レウは溜息を吐きながら、
さも面倒だという風に答える。
「…魔術だが?」
「魔銃が無ければ、この距離だと使えないはず!!」
「…はァ。じゃあ、使えるなら?どういう事だと考えればいいのではないか?」
レウは冷めた目で敵の隊長を見据える。
その瞳には、何の感情も感じ取れない程、
冷えた何かが映っていた。
それに気づき、ゴクリと唾を飲み込む
敵の隊長。
「ふん。…今日は気分が良い。皇女殿下を置いて行くのなら、追いかけはしない。断ったら、そこの男と同じ様に頭と胴体がお別れするが?」
「…お前は……レウ・オールディス…なのか?」
「…ん?…ふーん。僕の事を探ってるのか。…馬鹿な事を。」
愚かな事だと呟くレウ。
「…レウ…君……?」
漸く状況を把握出来てきたクラトが、
いつもと様子が違うレウを見る。
だが、レウは敢えてクラトを無視する。
「で?…死ぬか、逃げるか…どちらかさっさと選べ。」
レウは右手を前に突き出す。
「………ぐッ…!!」
すぐ様、敵の隊長はその場から離脱した。
迷っていたら、命は無いと本能で理解した。
「…ふん。」
レウは気配が無くなってから、
突き出した手をだらんと下ろし、
捨てたナイフと魔銃を回収する。
「……ッ…ルチアッ!!」
クラトはハッとルチアに駆け寄る。
ルチアはショックで気絶しているだけ
だった。クラトは、ホッと息を吐く。
「…さて、帰りましょうか。クラト先輩?」
レウはにこりとクラトに笑いかける。
その様子に、クラトは目を見張る。
「…どう…したんだ…レウ君…。」
「…何をそんなに、驚いているんですか?クラト先輩。僕が何かしましたか?」
「!!」
クラトはルチアを血が付着していない
地面に、移動させてからナイフを
手でギュッと握り、レウを睨む。
「…君は誰だ。」
「何言ってるんですか?レウですが…。」
「…レウ君は自分の事を僕ではなく、俺と言う。」
クラトの言葉に、レウは
考える様に手を顎に軽く当てる。
「…あぁ、思わず癖で僕って言ってたのか。」
「………っ。」
レウはいつも浮かべる笑顔を消し、
嘲笑を浮かべる。
「仰る通り、僕はレウ・オールディスではないよ。」
「…レウ君は…殺したのか!?それとも、監禁しているのか!?答えろ!」
クラトは前者でない事を祈りつつ、
ナイフを持つ手に力を入れる。
力の入れすぎで、手は白い。
「フッ。レウなら、ここにいるよ。」
レウは人差し指で軽く、
トントンと頭を触る。
「は…?」
「この身体は、レウ・オールディスの身体でもあり、僕の身体でもあるんだよ。…こう言えば、分かるかい?」
「…もしかして。」
クラトは握っていたナイフを、
ポトリと落とす。
「…二重人格。」
「正解。」
クラトの答えにニヤリと笑うレウ…
正確には、レウでなないもう一人の人格。
「一体…いつ…から…。」
「…プールサイドで君と話していた後、レウは気分が悪くなった。」
「ッ!!あの時か!!」
「レウから主導権を奪い取るのに、手間取っちゃってね…。無駄に身体を疲労させたよ。」
もう一人の人格は、やれやれと
肩をすくめる。
その言動にクラトは、再び怒りを
滲ませて叫ぶ。
「レウに身体の主導権を返せ!!」
「…はァ?」
クラトの言葉にもう一人の人格は、
殺気を辺りに漂わせる。
ビリビリと痛いくらいの殺気に、
クラトの額から汗がつっと、
流れ落ちる。
「勘違いしてるようだけど…僕の方が主人格だからね?この身体は元々僕のもの。それを一時レウに、貸し与えていただけにすぎない。」
言葉と共にもう一人の人格が、
クラトに一瞬で近づく。
「…ッ!?」
そして、クラトの首を右手で
掴みあげ、絞める。
"身体強化"魔術を使っているので、
簡単にふわりとクラトの身体が宙に浮く。
「グゥッ!!…アァ…ッ!!」
クラトは手を外させようと、
藻掻くがビクともしない。
「ムカつくなぁ、愚か者は。ただ自分が知り得る情報が正しいと信じて、正義を振りかざす。周りを見ない。知ろうとしない。勝手に善悪を決めつけ、勝手に裁きを下す。…あぁ、ほんとムカつく。」
ギリリッと更に絞めつける手に、
力を入れる。
灰色の瞳は狂気が宿っていた。
「ガッ…ッゥ!!」
クラトは顔を苦痛に歪ませる。
レウの身体だとわかっていたが、
このままだと死んでしまうと思い、
絞めつける手に爪を立てる。
ー ガリリッ!!
「……痛いなぁ。」
言葉と裏腹に、楽しげに笑う
もう一人の人格。
「…ッ…レ……ゥ!!」
クラトは酸欠で飛びそうになる意識を、
気力でとどめる。
「…レ…ヴ…!!」
「呼びかけたって無駄さ。………ッ!!」
不意にクラトの身体が地面に、
落とされた。
「ゲホッ!ゲホッ!!カハッ…!!」
咳き込みつつ、涙目でヒューヒューと
息を吸い込むクラト。
「……クソッ。時間をかけすぎたか。」
もう一人の人格は何故か、
胸を鷲掴むようにしている。
その様子をクラトが虚ろな目で見る。
「…ッ…グッ!!…レウ!!邪魔をするな!!…グガッ!!」
「!!」
レウと聞いて、目を見開くクラト。
絞めつけられたせいで、ちゃんと
声を出せないが、枯れた声で呼びかける。
「ッ…レヴ!!…レウ君!!」
「ッチッ!!まあ、暫くは大人しくするしかないか…。」
もう一人の人格は、膝から崩れ落ち、
ピタリと動きを止めた。
そして、数秒後ピクリと身体が動き、
口が震える。
「……ク…ラト…先輩…。」
「!!」
いつもの変わらない声音…
こちらを気遣う気持ちが乗せられた声が、
発せられた。
「…これ…以上…傷つけ…たくない……。嫌だ…。」
レウ…は、訴えるように胸を押さえた。
灰色の瞳からは、雫がポロポロと頬を伝う。
とめどなく溢れる涙を、拭おうとせずに
顔を苦しげに歪ませて流し続ける。
「…レウ…君。」
クラトはその様子を涙を堪えるために、
顔を歪ませて見ていた。
夜空はいつの間にか、雲が去り、
月が浮かんでいた。
レウの頬を伝う雫を、静かに照らすために
出て来たかのようだ。
その姿は神秘的であったが、
胸がとても締め付けられるようだった。
「…俺は…どう…すれば…いいんだ…。」
呟かれた言葉に、返答があった。
『…幸せになんてなれない。君も周りも。』
呪いのように脳に響くその返答に、
ギリッと歯を噛み締めるレウ。
「…何で……何処で……間違えたんだ…ッ。」
その問いの返答には沈黙が流れた。
疲労と涙で掠れる視界。
そして、意識が段々と遠ざかる。
意識が途切れる寸前…掠れた声が脳に
響いたが、レウにはもう聞こえなかった。
『……ごめんな。』
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