真紅の殺戮者と魔術学校

蓮月

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第一章

第11話

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「…ねぇ。」

誰かの声が聞こえた。
俺はゆっくりと重い瞼を開けて
声のした方へと視線を向ける。
しかし、そこには誰もいない。
起き上がり、周りを見渡すが、
ただ草原が続いているだけ。
見上げると、漆黒の闇の中に
1つだけ月が佇み、
俺を見下ろしていた。

「何処だ、ここ…。」

ただ、呆然とそこに
座っていると…

「…ねぇ。ねぇってば。」

今度は後ろから声が聞こえた。
振り向くと、少し離れた場所に
フードを被った者が立っていた。
見た感じ、少年の様な…。

「…誰だ?」

「ええっ!?酷いな~。俺の事、わかんないの?俺は君の事、よく知ってるのに。」

少年は大袈裟に驚いたという風に
手を上げる。

「そんな事を言われても、分からないんだが…。」

「えー…。まあ、いいや。」

少年の顔はフードで見えないが
ニヤリと笑った気がした。

「…君、まだ殺れてないの?」

「は?…アイツって…」

「顔にの男。」

「……っ。」

「ハハハッ。ポーカーフェイスが台無しだよ?」

一瞬動揺してしまった。

「さっき、言ったじゃん?…君の事はぜーんぶ知ってるってね?」

少年はそう言うと、
クスクスと笑いながら歩き去っていく。

「待て!」

俺は少年を追いかけようと
足を1歩前に出そうとするが進まない。

「……?」

足元を見ると泥濘ぬかるみに足を取られていた。
泥濘は血で真っ赤に染まっている。

「…ねぇ、君遅いんだよ。」

少年の声がして前を見ると
少年は足を止めて振り返っていた。

「早くしなよ。じゃないと…」

少年は魔銃を取り出して
俺に銃口を向けた。


「皆、死んじゃうよ?」


ー パンッ!

少年が何故か悲しげに告げたと同時に、
魔銃で腹を撃たれた。
腹に鋭い痛みが走る。
見ると、血がコポリと垂れた。
そして段々と意識がぼんやりとする。


最後に目に映ったのは、
何故かを持って、
月を見上げる少年だった。























「…………ゥ。」

微かにまた声が聞こえる。

「……レ……ウ。」

ああ、この声は……。

「……は、母…上。」

俺の声は掠れて小さい。

「レウ!!気づいた!?」

目を開けると、
俺の母上がそこにいた。

「…此処は?」

周りを見ると先程までの草原もなく、
かと言って学校や家の自分の部屋でもない。

「此処は、王城の客室の1つよ。」

「王城…。」

ぼんやりとする頭で、記憶を辿る。
…仕事で、戦場に行って
敵兵をほぼ殲滅して、重症者を治癒して、
そして……倒れた。

「レウ……。」

母上が俺を優しく抱きしめる。
…温かい。

「……心配かけてすみません。」

「…貴方がしたい事を止めはしないわ。けど、無理はしないで。」

俺の肩に顔を埋めながら言う母上。
俺はそっと母上の背中に手を回す。

「……はい。」

暫く俺は温かいぬくもりに浸った。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



ー ガチャンッ!!

黒で統一された部屋に
コップが割れた音が響く。
部屋にはこの部屋の主と
2人の屈強な男と下級軍兵の軍服を
身に纏う男の4人がいた。

「ひっ!!」

割れた音……否、目の前に
座っている男の鋭い視線に
下級軍兵の男が悲鳴をあげる。

「…使えないな。…処分しろ。」

「「はっ。」」

固く重量のある声に従い、
声の主の後ろに控えていた2人の男が
下級軍兵の男を掴んで、
部屋から引き摺り出した。

「…を捕まえ損ね、有利だった戦にも負けるとは。」

誰もいない部屋で重い声が
ただ響く。

「失礼します。ドヴォラグ宰相様、書類をお持ちしました。」

「入れ。」

扉を開けて入って来たのは、
若い青年だった。
青年はドヴォラグに書類を手渡す。
そして、ドヴォラグはパラリと
その書類を読み始める。

「……やはり、ヤード王国が動き出したか。」

ドヴォラグは苦々しく
言葉を吐き捨てた。

「はい。」

それに機械のように答える青年。

「……なら、を急がねば。」

ドヴォラグは椅子から立ち上がり、
コートを羽織る。

「…引き続き、アルヴィート王国を監視しろ。」

「はっ。」

ドヴォラグはそう青年に
言い残して部屋から出る。

…彼の名前は
 マグリオット・ドヴォラグ。
サルザット帝国、宰相。
そして…

 顔にがある男…。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


俺が目を覚ましてから数日がたった。
母上と話した後、父上がやって来て
もう暫く休むように言われた。

「……暇だ。」

休めと言われたが、体はもう
大丈夫だし、元々怪我はない。
なので、ずっとベットで
あの夢について考えていた。

あの夢は妙にリアルだった。
腹の痛みは本当に気が遠くなる様な痛みだった。
それに……

「……あの少年は一体何者だ?」

記憶を辿るが覚えがない。
もしかして…あの研究所にいた
俺と同じ被検体の者か?
いや、あんな感じの少年はいなかったはず。
…俺の作り上げた妄想?
……もう、訳が分からない。

「…それに、何故アイツ三本傷の男を知っていたのか。」

そう、俺がアイツを
探しているという事を知っていた。
それを知る人物は、父上と母上、
ユリヤさん…。それと
国王陛下ぐらいだと思うが…。
……ああ、あともいたか。

つまり、5人しか知らない。
しかも5人ともその事を誰かに
話すような人ではない。
…国王陛下は分からないが。

ー ピリピリピリッ

テーブルの上に置いてある
俺のADXが着信を告げる。
ベットから起き上がり、
ADXを手に取って応答する。

ー ピッ

「…はい。レウです。」

『うおおぉぉぉぉぉ!!?レウッ!?お前っどうしたんだよ!?無事かッ!?』

キーンッと耳が鳴る程の
音量で話すガンド。
…拡声器使って喋ってるのか?

「ガンド、落ち着け。声がデカイ。俺は無事だし、元気だ。」

『え、あ、おおっ…げ、元気なんだな?なら、何で5日も学校休んでんだよ?』

「…少し、家の用事で遠出をしていた。」

『なんだ、そうなのか。良かったぜ、5日も休む程のヤバイ状態なのかと…。全身骨折とか手足がバラバラになったとか……。』

「…………。」

現代の医療技術はかなり進歩している。
人間の手では治療困難な手術でも、
機械がコンマ数ミリのズレもなく
短時間で成功させる。
機械は途中で停電しても
問題がない様に動力は魔力だ。
つまり、人間は機械に魔力を
注いでいるだけでいいのだ。
その為、医者は魔力量が
多い者がなる職業である。

薬は数十分後には効果がでて、
その日の内に風邪なら治る程の効き目。
勿論、副作用は皆無だ。

治癒魔術は膨大な魔力と時間がかかり、
医療に魔術は使われていない。
その為、現代の医療技術は飛躍的に
進歩したのだ。

「…心配かけて悪かったな。明日からは学校に行くから。」

『おう!!なら、明日は心配かけた詫びに午後、ちょっと付き合ってくれ。』

「ああ。いいぞ。……じゃあ、また明日。」

『おう!!』

ー ピッ。

「……て、事で明日から学校に行ってもいいですか?父上。」

俺は後ろで腕を組んで立っている
父上に振り向きながら問いかける。
父上はガンドの叫び声を聞いて
慌てて部屋に入って来ていた。

「……ぜーったいに、無理はするなよ。」

ガンドを使って学校に行くのを
こじつけた俺をジトッと見る父上。
そんな父上に俺は苦笑しながら言う。

「…無理しませんよ。だから、あんまり今回の事で自分を責めないで下さい。…目の下に隈がありますよ?」

そう言うと、父上は一瞬
驚いた顔をして、すぐさま
後ろを向いてしまった。

「こ、これは、仕事を片付けてて…。」

「父上もちゃんと、身体を休めて下さいね。」

俺は母上の真似をして言ってみた。
少し声音を柔らかく、そしてにっこりと
笑ってみせる。

「う……っ…わ、分かった。」

…動揺させるには効果が抜群だった様だ。
そう言うと父上は、部屋を出て行った。


「……レウめ…それは反則だぞッ……。」


扉の向こうから微かに聞こえた声に
思わず、笑ってしまった。
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