真紅の殺戮者と魔術学校

蓮月

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第一章

第10話

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ー ピピピッ。

国王陛下の謁見から
2週間が経った朝食時に、
ADXのコール音が部屋に響いた。

「はい。レウです。」

『ディオンだ。すまないが今日は学校を休んでくれ。…"仕事"だ。』

"仕事"か。
朝の呼び出しという事は
に行くのか?

『着替えたら、校門前に来てくれ。』

「了解です。直ぐに支度します。」

ー ピッ。

俺はすぐさま朝食を済ませて
黒衣の仕事着に着替える。
そして、魔銃のケースを持って
窓から飛び降りる。
受け身をとって着地し、
そのまま校門へ走った。

校門前に着くと、既に
父上とユリヤさんが魔力車に
乗って待っていた。

「おはようございます。父上、ユリヤさん。」

「おはよう、レウ。」

笑顔で挨拶してくれるユリヤさん。

「おはよう、レウ。…朝からすまないな。」

父上は申し訳なさそうに
笑って言った。

「いえ、大丈夫です。」

俺は早速、魔力車に乗り込む。
運転手は俺が乗ると同時に
車を走らせた。

「…朝から"仕事"という事は、場所はですか?」

「ああ、そうだ。…午前3時頃に、陛下から連絡があった。今日の"仕事"は、陛下直々の指令だ。」

国王陛下直々の…。

「…全くアイツは何でもう少し早く連絡をくれないんだ!絶対嫌がらせだろう…。学生時代もそうだった。俺が寝ている時に、わざわざ午前2時に起こされて何事だと思ったら、宿題手伝えとか…ふざけるな!」

父上はぶつぶつと陛下に
対して悪態をついている…。
ユリヤさんはというと
手元の書類をパラパラと
見て、時折サインをしている。

そして、数時間後。
着いた場所は、サルザット帝国と
アルヴィート王国の国境付近の
とある北西部、
アルヴィート王国軍の駐屯地。
そこでは、アルヴィート王国軍兵達が
忙しなく動き回っていた。

「補給物資は!?届いたか!?」
「負傷者は!?いるか!?」
「こちらに、深手の者が!!」
「今の戦況は!?どうなっている!?」

「レウ、こっちだ。」

父上の後ろに付いて行く。
いつの間にかユリヤさんは
何処かへ行っていた。

父上と俺は、大きなテントの
うちの一つに入る。

「あ!ディオン様!!」
「お疲れ様です!ディオン様!!」

テントの中には、父上の部下がいた。

「ああ、お疲れ。戦況は?どうなっている??」

父上が聞くと、部下の1人が
敬礼をしながら答える。

「はっ!只今の戦況は、均衡状態にあります。ただ、敵の兵士の数がこちらより多く、少し押されています。」

父上は少し考えるように
テーブル上にある地図を見ている。

「そうか…じゃあ、レウをこの地点に向かわせよう。」

父上が指した場所を見ると、
開けた場所ではなく、木々が
生い茂った場所。

父上の言葉に一斉に俺を見る
父上の部下の人達。
ある人は嬉しそうに目を輝かせ、
ある人は怪訝そうな表情を浮かべ、
ある人は俺を畏怖の籠った瞳で見つめる。

俺はそれらの視線を受け止めつつ、
地図を見つめる。

「…という事は、その場所から横へ出て敵を攻撃すればいいですか?」

俺の言葉に頷く父上。

「ああ、奇襲だ。こちらも相手も、木々の中だと戦いにくい為か、この場所には目をつけていない。」

確かに、木々があると魔銃での
攻撃はしにくいが…。
俺は元々、魔銃が使えなかったので
ナイフを使った接近戦が主な戦い方だった。
だから、俺にとっては戦いやすいのだが…。

「では、魔銃で戦った方が良いですね。」

「そうだな。…奇襲の合図は、赤い狼煙だ。時刻は今から大体1時間後。それと同時に、この場所から攻撃を開始してくれ。他の兵士は、巻き込まれないように撤退させるから、十分に力を発揮してくれ。」

「了解です。では、早速向かいます。…父上。」

俺は正面から父上の目を見る。

「何だ?レウ。」

「…""の使用許可を。」

俺の言葉に表情を曇らせる父上。
…あの魔術を使えば、早々に片がつく。

「……分かった。無茶はするな。……頼むから。」

低い声音で呟く父上。
俺は父上に微笑んで言う。
安心させるように。

「…はい。行ってきます、父上。」

俺はテントから出て、
指示された木々が生い茂る地点へと
移動を開始する。

「撃て!!」
「ぐぅあッ!!」
「ぎゃあァァ!!」
「クソッ!!」

おびただしい叫び声。
赤く色付き、湿った地面。
鉄のような血の噎せ返る臭い。
…段々と戦場へと近づいている。

俺は目的地の木々へと到達する。
とりあえず、魔銃ではなく
愛用しているナイフを1本取り出して構え、
警戒しながら木々の中へ入っていく。

父上は、敵は恐らくいないと
言っていたが用心の為、警戒は怠らない。
奇襲のより良い場所を探しながら奥へと進む。
ある程度、入った所で戦場の方へと
移動した。

「この辺か…。」

木々の中から戦場をスコープで見つめる。
腕時計を見ると、丁度予定の時刻まで
あと少しだった。

ー パンッ……ヒューゥー…。

音の方へとスコープを向けると、
赤い狼煙が見えた。
作戦開始の合図だ。
…準備に入ろう。

「……すぅー。」

何度か深呼吸を繰り返す。そして、
魔術の名を…自分に魔術名を呟く。

「……""魔術、発動。」

ードクンッ。

言葉と共に身体中が熱を帯びる。
まるで全身が心臓のように脈打つ。
そして、瞳の色はきっとに変わっている。
…ああ、早く次の魔術を発動しなければ、

俺は魔銃を懐から2丁取り出して
更に魔術を発動させる。

「…身体"強化"魔術、発動。」

既に二つの魔術を発動しているが、
まだ、身体が熱い。
心臓は煩く音を刻んでいる。

俺は行き良いよく、木々から出て
戦場へと向かう。
敵はまだこちらに気づいていない。

5、6人程の敵兵の射程距離まで迫り、
広範囲攻撃魔術を呟く。

「…"炎風"、発動。」

魔銃の引き金を引くとともに
術式の発動位置が計算され、敵兵へと
魔術が発動される。

ー ドオォンッ!!

「ぎゃあぁァァ!?」
「ぐぎゃああァァ!!」
「アヅイィィィ!?」

"炎風"の魔術は、
発動領域に炎の竜巻を
出現させる魔術だ。
かなりの高度な魔術の為、
普通の魔力量の人は使

「何だ!?」
「何処からの攻撃だ!?」
「おい、彼処だ!!」
「…な、ひ、1人だと!?」

先程の攻撃で敵兵に
敵の兵士がいる事がバレた。
こちらに、銃口を向ける敵兵。
その前に移動し、更に
広範囲攻撃魔術を呟く。

「…"凍結"、発動。」

ー バキバキバキッ!!

数十人の敵兵が足元から
凍っていく。

「こ、この魔術はッ!?」
「広範囲攻撃魔術、"凍結"!?」
「あ、あ、こ、凍っていくッ!?」
「ぎ、あ、ぁ、ァ、ッ…。」

ー パキンッ!!

数十体の氷のオブジェが
戦場に乱立する。

「あ、アイツは…まさかッ!!」
「あのッ!紅いッ、眼ッ!!」


『"紅眼の死神"だ!!』


…俺はあの暗い暗い研究所に
いつの間にか居た。
そして、身体を切り開かれ、
心臓に
埋め込まれ、"魔力増幅"魔術を
使えるようになった。

"魔力増幅"魔術。
体内の魔力を増幅させる魔術。
それは魔術を永続的に
使えるという夢のような魔術。
それと同時に、実現不可能といわれる魔術。
その理由は2つある。

1つ目、"魔力増幅"魔術の発動の際に
用いる魔力量がかなり必要になる。
元々魔力量が多い者でも、発動が
不可能である程の魔力量が必要なのだ。

2つ目、魔力が増幅した際に
多すぎる魔力量に身体が耐えられず死ぬ。

以上の理由で"魔力増幅"魔術は
実現不可能とされていた。

しかし、帝国の非道な人体実験が
効果をなし、成功体として
俺は"魔力増幅"魔術を使える。
…そう、俺は何百人もの犠牲の上に
立ち、生きている。

「…"風牙"、発動。」

"凍結"魔術の範囲外にいた敵兵に
次々と風の刃が襲う。

「ぎゃあ!!」
「手がァ!!アァァ…。」
「ッ…このッ!!」

敵兵の1人が俺に向かって
銃口を向け、引き金を引く。

ー パァン。

「……クッ、ソがァ。」

敵兵が発動した魔術は、
"火弾"だったらしく、
俺の後ろでボウッと音を立てて
火が燃え、消えた。

「…"火弾"、発動。」

ー パァン。

「グギッ…ぎゃあァァ!!」

俺に"火弾"魔術を使った奴は
燃えて暫くの間、踠き苦しんでいたが
ピクリとも動かなくなった。

「ッ……てっ、撤退だ!!」

敵兵達が次々と撤退し始める。
魔力が残り少ない者が多いのか、
身体に"強化"魔術を発動させている者は
少なく、足の遅い者が多い。

俺は2つの銃口を逃げ行く敵兵の背に向ける。

「…"流星"魔術、発動。」

ー パンパンッ。

魔術の発動と共に敵兵達の
頭上に突如、2メートル程の
岩石が次々と現れる。
そして、岩石は容赦なく
敵兵達に襲いかかる。

「ぎゃあァ!!」
「ガフッ!!」
「嫌だ嫌だ!!…ガッ!!」

暫くして岩石は落ちなくなった。
…生き残った敵兵は、数人か。
ある者は腕から血を流し、
ある者はふらふらと歩いている。

俺は残りの敵兵を片付けようと
走り出そうとしたが、耳に付けていた
ADXのコール音が鳴った為、
立ち止まる。
相手は恐らく父上だ。

ー ピッ。

「はい、レウです。」

『レウ、状況はどうなっている?』

「数人の敵兵以外は殲滅しました。これから残りを一掃してきます。」

『…いや、待て。残りはいい。直ぐに戻ってきてくれ。…お前の力が必要だ。』

父上はすまないと小さく呟いた。

「…分かりました。直ぐに向かいます。」

ー ピッ。

俺は向きを変え、アルヴィート王国軍の
駐屯地へ…父上のいる所へと向かう。
身体"強化"魔術を発動している為、
風のように速く走り、直ぐに
目的地に辿り着く。

「父上。」

父上を見つけて、声をかける。
父上は俺を見つけると悲痛な目で
俺を見つめた。

「無事か?」

「ええ。それで、何かあったんですか?」

「ああ、こっちに来て欲しい。」

とりあえず身体"強化"魔術を解除する。
その後、父上の後に付いて行くと
あるテントに入った。
このテントは治療所らしく、
怪我人が沢山いた。
更にテントの奥に進むと
かなりの重症者が2人、
ベットに寝かせられていた。

重症者はそれぞれ、
息をしているのが不思議なくらい
衰弱していた。
体のあちこちに貫通痕がある。

「で、ディオン様!!お疲れ様です。」

俺が重症者の様態を見ていると、
治療班の者が1人やって来た。
その人は重症者2人を見ると
悔しそうに顔を歪めながら言う。

「残念ですが…この者達は、あまり長くはないでしょう…。」

「そうか…。レウ。」

「…治せばよいのですか?」

俺はそう言いながら重症者の1人の
身体に手を当てる。

「ああ、頼む。」

「…"治癒"魔術、発動。」

発動と共に重症者の身体の傷口が
ほんのりと黄緑色の光を纏う。
そして、徐々に光が消えると
そこに傷口は無くなっていた。

「……ふぅ。」

終わると同時に一瞬眩暈がしたが、
直ぐに治まる。

「…"治癒"魔術を1人で使えるなんて。」

治療班の者がポツリと呟く。
通常、"治癒"魔術は魔力量が標準の
者なら5人がかりで1つか2つの
傷口を治すことしか出来ないのだ。
それを俺は1人で全ての傷口を治した。
"魔力増幅"魔術が使える
俺だからこそできる事だ。

俺はもう1人にも"治癒"魔術を
発動させて治した。

「……終わりました。」

「ありがとう、レウ。…もう休んでいい。」

「…わかりました。」

俺は"魔力増幅"魔術を解除する。

「…ッ……ぅ……。」

途端に全身が痛みに襲われる。
視界はボヤけて意識が遠のく。
…いつもより、長く"魔力増幅"魔術を
使ってしまったらしい。
いつもなら、鋭い一瞬の全身の痛みで
終わるのだが…。

「……レ……ゥ……!!」

遠くで父上の声が聞こえたが、
俺の意識は暗い闇の中へと落ちていった。
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