真紅の殺戮者と魔術学校

蓮月

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第一章

第9話

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「んー…理由を聞いてもいいかい?」

陛下は少年の様な笑顔で言った。
しかし、目は俺の真意を探るように
細められている。

「理由は帝国のを探し出すためです。」

「……そうかい。で?君はその人物をどうするんだい?」

どうする?…決まっている。
もうコレはだ。

「ストップだ。」

そこで父上から静止の声が上がった。
父上は横目で陛下を睨んでいる。

「もう今日は遅い。そろそろレウは学校に帰す。」

陛下は怖い怖いとボソッと
呟きながら肩をすくめた。

「まあ、詳しくは聞かないが…君の目的には力を貸そう。その代わり、今まで通り仕事を頑張ってくれ。」

陛下の返答は予想外だった。
詳しい事は聞いてないが、
力を貸してくれる…。

「さて、これからディオンと2人きりでワイン片手に、思い出話に浸るから、ユリヤはレウ君を送っていってあげてくれ。」

「了解しました。…レウ、行きましょう。」

「…はい。失礼致します。」

陛下の考えている事は
よく分からないが今は、
後回しにしよう。
俺とユリヤさんは部屋を出た。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ごめんって。そんな怒んないでよ、ディオン。」

レウとユリヤが居なくなった部屋で
イヴァールはディオンに笑顔で謝る。

「全然誠意が伝わってこないぞ、イヴァール。」

ふうっと溜息を吐きながら
ワインのボトルを手に取り、
グラスに注ぐディオン。

「ふふっ。……それで、あの子は養子だよね?キッカは、身体が弱くて、子供が作れないはず…。」

イヴァールはディオンから
グラスを受け取って
ワインを口に少し含んだ。

「…そうだ。」

ディオンはゆっくりと頷く。

「それに…君とキッカの家系に、あの様な珍しい容姿の者はいない。……何処から連れてきた?」

イヴァールは次いで
ブルーベリーのジャムが付いた
クラッカーを摘んだ。

「…五年前の"ファーム"でたった1人生き残った子……それがレウだ。」

「"ファーム"の件の?…そうか、報告には誰かに引き取られたとあったが…君が引き取っていたのか。」

ディオンはグイッとワインをあおる。

「…あの子は普通の子供ではなかった。"ファーム"の研究員らによって、酷い扱いを受けていた。」

「精神的に?…もしかして、レウ君が強い理由って…肉体改造…なのか?」

イヴァールは思わず顔を顰める。
隣国のサルザット帝国では、
残虐な人体実験や肉体改造を
行っていると聞く。
あの"ファーム"もサルザット帝国の
者による犯行だと分かっている。

「…ああ。」

「そうか…。じゃあ、レウ君が言っていたって、"ファーム"のリーダーだったの事か。」

「そうだと思う。その男が生きていると聞いた時のレウの顔は…酷く冷めていた。」

その時の顔を思い出したのか、
ディオンは顔を歪める。

の男に関しては、密偵によってサルザット帝国の皇帝側近である事しか、分かっていない。…なかなか、尻尾を掴めない男だ。」

「あの"ファーム"の件で唯一1人だけ逃げ延びた奴だ。そう簡単には、捕まるまい。」

「…対策が必要だな。」

イヴァールはくるくると
ワインの入ったグラスを
回して目を細めた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「では、おやすみ。レウ。」

「おやすみなさい、ユリヤさん。」

俺は学校までユリヤさんに
送ってもらい、男子寮に向かって
歩き始める。
さわさわと風が黒い髪を揺らす。
ふと空を見上げると、
不格好な月が浮かんでいた。

「………………。」

暫くして、男子寮とは
普段から人気のない校舎から
離れた場所にあるベンチへ向かう。
そのベンチに着くと同時に
溜息をこぼし、呟く。

「はぁ……。俺に何か用か?」

ゆっくりと後ろを振り向くと、
そこにはクラスメイトである
ルチア・べディングトンが、
立っていた。

「…バレてたか。」

ふっと笑うルチア。

「バレバレだったが。」

俺がそう呟くと、自嘲気味に
苦笑するルチア。

「結構自信あったんだけどな…。まあ、いいや。そこ、座って。…少し話そうよ。」

ルチアに従ってベンチに腰掛ける。
ルチアもよいしょと言って横に座った。

「何でそんな立派な服着てるの?」

「ああ…家の方で用事があった。」

そう言えば、国王陛下に謁見する為の
豪華な正装を着ていたのだった。

「ふーん。お金持ちは大変よね。」

ルチアはじーっと俺の姿を見てから
こほんっと咳払いをして、
真剣な表情をする。

「…ねぇ、単刀直入に聞くけど、貴方って何者?」

何者、か。
何故そんな事を聞くのか。

「レウ・オールディス。アルヴィート王国魔術学校攻撃科第一学年在籍。父はディオン・オールディス。母はキッカ・オールディス。以上。」

淡々と告げると、ルチアは
顔を少ししかめた。

「それは知ってる。そうじゃなくて…貴方、何かを隠してる。本当は、今日の訓練、余裕で1位で終えれたでしょ?」

じっと、俺の目を見つめるルチア。
隠してるだと?それは…。

「それは、ルチアの方じゃないか?」

俺がそう言うと、少し目を
外らすルチア。
ルチアは目を瞑り、すぅっと
息を吸い込んだ。

「……一つだけ、これだけ聞かせて。」

先程の質問の答えは…多分、
イエスだろう。

「……貴方はサルザット帝国の者?」

「帝国の?それは無いが…何故そんな事を聞く?」

「…本当に帝国とは関係ない?」

ルチアの目は疑いの色を
宿していた。
サルザット帝国の手の者?
死んでも嫌だな。
もしかして…

「もしかして、ルチアはサルザット帝国の者か?」

そう聞くと、ヒュッと
息を呑む音が聞こえた。

「…っ、ぇえ。そうよ。」

震え、掠れた声で呟くルチア。
この様子だと、帝国から…逃げてきた?

「帝国から亡命してきた者か?」

近年、サルザット帝国からの
亡命者は多いと聞く。
徹底された身分格差、重い税金、
奴隷制度……逃げたくなる理由は多い。

「ええ。…けど、私は亡命者達とは違って命を狙われているの。だから、この事は秘密よ。貴方の父上には教えてもいいけど。」

弱々しく笑うルチア。
これまでに何回命の危険に
晒されたのだろうか。

「それにしても、何故命を狙われている?」

ルチアは少しの間押し黙る。

「……それは言えないわ。けど、私は死ぬ訳にはいかないの。…兄さんを助けるまでは。」

「帝国にはまだ、ルチアの兄がいるのか?」

「ええ。…私をアルヴィート王国に逃がしてくれた兄さんを助ける。それが、私が死ねない理由。その為に、この学校で学んでいるのよ。」

ルチアの目に決意の光が
輝いて見える。
兄の為…か。

「だから、もしこの学校で騒ぎがあったなら…私のせいかな。この前…何かあったのでしょ?この学校で。……ごめんね。」

ルチアは気づいていたのか。

「…軽い騒ぎがあったが、アレはルチアのせいではないな。」

「私のせいじゃない?…じゃあ、貴方??」

ルチアは驚いた表情で俺を見る。
俺でもないが、ヒスティエの事は
ルチアには伏せておきたい。

「…まあ、そうだ。」

「……本当に貴方何者?実は何かの組織の人間??」

むーっと悩むルチア。
まさか、ヒスティエと同じように
こんな少女が命を狙われているとは。
それだけの理由とはなんだ?

「ま、いいわ。私だって隠し事してるし。話はお終い。じゃあ、またね。」

ルチアは考えるのを諦めた表情で
女子寮の方向へ歩いて行く。
俺は急いでルチアを呼び止める。

「ルチア。」

「何?」

「一応、俺のADXの連絡先を教えとく。何かあったら、連絡しろ。」

俺はADXを取り出す。
ルチアは一瞬驚いた表情をしたが
にっと、はにかむ。
その後、お互いに連絡先を交換して
ルチアは自室へと帰って行った。

ルチアの姿が見えなくなるのを確認する…
と、同時に後ろに広がる森の中へ
懐から瞬時にナイフを出して投擲する。

ー ヒュンッ…カッ。

暫く様子を見てから森へと
足を踏み入れる。
数メートル歩いた先の木に、
先程投擲したナイフが刺さっているのを
見つけて、引き抜く。

「…逃げられたか。」

確かに僅かだが人の気配を感じた。
俺の見張りか。
それともルチアを狙う者か。
それにしても、かなりの手練だ。

「……ふぅ。」

俺は今度こそ自室へと
戻る為に歩き始めた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ディオンが帰った後、
イヴァールは執務室で
書類処理をしていた。
書類に目を通していると…

ー コンコンッ

机を叩く音がして、イヴァールが
顔を上げるとそこに1人の青年が
立っていた。

「…国王陛下、密偵の""が只今戻りました~。」

クスクスと笑いながら報告を
する密偵の青年。

「ハハッ。君のコードネームのセンスは最高だね。仕事毎に変わるけど…今回のは1番だ。」

イヴァールはクッと笑い、
書類を置いて立ち上がる。
そして棚からお菓子とジュースを
取り出して青年に差し出す。

「では、これからコレにしましょうか?私も気に入っているので。…あ、報告ですが、帝国は今のところ動きはありません。」

青年はお菓子を受け取り、
もぐもぐと食べ始める。

「そうか。やはり、内乱を鎮圧するのに手間取っているか…。そう言えば、君はディオンの息子には会ったかい?」

「ん?ああ、ええ。レウ君でしたよね?いやー、彼凄いイケメンですよねー。」

「だよねー。是非娘の婿に欲しいんだけどね。」

「うははッ。ディオン様が全力で阻止しますよ?」

心底楽しそうに笑う青年。
対してイヴァールは拗ねた顔をする。

「もう妨害されてる。」

「アッハッハッ!やっぱり!」

「娘も喜ぶと思うんだけどなぁ~。…他に報告は?」

青年はイヴァールの問いかけに
ニヤリと笑う。

「アルヴィート王国魔術学校に、サルザット帝国の少女がいましたよ。亡命して来たと言っていましたが…命を狙われているそうです。」

顎に手を当てて考えるイヴァール。

「ふむ。それは気になるな…。では、その少女についても調べてくれ。」

「了解です。帝国への"手土産"はどうします?」

「そうだな…『北西の国境付近で軍の動きあり。』で、いいだろう。」

それを聞いた青年は顔を
顰めて言う。

「それは、デカすぎる"手土産"では?」

「…いや、これくらい与えた方が疑われない。それに、レウ君を向かわせるから、寧ろ沢山の軍勢を引き連れて来てくれなきゃ困る。」

クスクスと笑うイヴァール。

「ああ、美味しい餌だと思わせといて、実は罠って事ですか。…それにしても、私もレウ君の無双っぷりを見たいなぁ~。……あ、そろそろ時間なので、戻りますね。それでは。」

青年はふっと笑って
音も立てずに静かに部屋を
出ていった。

「…相変わらず、嵐のように去っていくな~"腹黒"君は。」

イヴァールは1人部屋で呟いた。
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