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第一章
第8話
しおりを挟む「…あの先輩、ヤバそうだぜ。もう関わりたくねぇよ。」
歓迎会の会場から帰る途中、
ガンドが溜息を吐きながら呟く。
誰とでも仲良くなれそうな性格の
ガンドが苦手になるほどのオーラを
出してたのか…クラト先輩は。
「正直俺もクラト先輩は苦手だ。」
「だよな。……にしても、まだ13時だぜ?自室でダラダラすんのもいいけど、街に遊びに行かないか?」
確かに自室に戻っても読書で
時間を潰す事になるだろう。
「ああ。行こうか。」
しかし、ガンドは汗びっしょりの
状態なので、一旦自室に帰り、
シャワーを浴びて着替えた。
「よしッ!!準備完了~!!とりあえず、屋台で腹ごしらえしようぜ!!」
「そうだな。」
事務員の人に外出許可を貰い、
学校の外へ出る。
アルヴィート王国魔術学校は
王城の近くにあり、高台に位置する。
そのため、街へ行くには
坂道を歩いて降りる。
帰りは殆どの生徒が身体に"強化"魔術を
発動させて、上っていく。
レウとガンドは街へ着くと、
屋台で牛肉の串焼きを購入して食べた。
「うめぇ~!!」
「美味しい……。」
程よい弾力のあるミディアムレアの
肉を頬張り、噛み締めれば
じゅわりと肉汁が口いっぱいに
広がる。そして、
肉にかかっていたスパイーシーな
スパイスは見事に肉と調和している。
「だろ?ここの店、俺のお気に入りなんだわ!!」
「あんがとよ!!ガンド!!…ほれ!これはサービスだ!!」
そう言ってワイルドな店主は
俺とガンドにイカの串焼きを手渡した。
「うおッ!?あざっす、オッサン!!」
「ハハハ!!いいって事よ!」
店主にお礼を言って新鮮で
醤油の香ばしい香りが漂うイカを
食べながら、広場のベンチに腰掛ける。
「そう言えば、ガンドの家って学校から近いのか?」
「むぐっ?…んぐ。いや、少し遠い。」
「そうなのか。」
「レウの家ってアレだろ?あの辺境にある豪邸だろ?超羨ましいぜ。」
「まあ、そうだな。…夏休み、遊びに来るか?」
「え!?いいのか!?よっしゃあァ~!!親父に自慢してやろ!」
ガンドはとてもご機嫌だった。
多分きっと、ガンドを家に招待したら
母上と父上は大喜びするだろうな…。
普通の子と違う俺をしっかり育てて
くれた2人に少しずつ恩返ししたい。
そんな事を思っていた時だった。
「キャーァ!ひったくりよぉ~!!」
悲鳴が上がった方を見ると、
どう見ても不似合いなピンクの
バックを持った男がコチラへ
向かって来る。
「…チッ!邪魔だァ!!ぶっ殺すぞ!!」
そう言って男はナイフを取り出しつつ
こちらに走ってくる。
「ひったくりかァ!?やってやr…。」
「……ふぅ。ガンド、パス。」
「う…え、あ、えぇ!?」
俺はガンドに食べかけの
イカの串焼きを手渡して、
男に向かって歩き出す。
「ッ!!邪魔だって言ってんだろ!!死にてぇのか!?」
男との距離はあと5m。
男はそのままナイフを俺に向かって
突き出した。
…単純だな。
「し、死ねッ!!」
「……ハァ。」
俺は溜息を吐いて、
ナイフを横にずれて避けて
男の腹に思いっきり拳をぶち込む。
「グケハァッ!!?」
男は痛みのあまり意識を飛ばして
地面に倒れる。
その男からバックを取り、
悲鳴を上げていた女性へと返す。
「どうぞ。」
「あ、ありがとう。」
何故か顔を赤らめながら言う女性。
「いえ。それでは。」
俺は男の元へ戻り、
ADXを取り出して警備隊へと連絡した。
連絡を終えるとガンドが
不満そうな顔で近づいて来た。
「おいおい…レウ君や。俺の出番無しじゃねぇか。」
「ガンドが怪我したら嫌だから、やっただけなんだが…。余計なお世話だったか?すまん。」
そう言うとガンドは何故か
しゃがみ込んで顔を隠してしまった。
「よくもまぁ、恥ずかしい事をさらっと…。」
ボソボソと何かを呟くガンド。
恥ずかしい事って何だ?
俺が困惑していると、肩に手を置かれた。
「ハッハッハッ!!小僧、なかなかやるなァ!!」
何だと思いながら後ろを振り返ると
肌が黒く健康的な男性が笑っていた。
…というか、小僧と言われる程
貴方と歳は離れていないと思うが。
見た感じ30代だと思う男性を
訝しげに見る。
「おっと、すまん。別に怪しい者じゃねぇよ?ただの観光客だ。」
どうやら、俺の視線を
怪しい者かという意味で勘違いしたらしい。
「それで、俺に何の用でしょうか?」
「ん?ああ、小僧ってもしかして魔術学校の生徒か?」
さっきの動きを見てそう思ったんだろう。
確かに普通の一般学校の生徒では
ないと思うだろう。
「ええ。そうですが。」
「なら、王城までの道を教えてくれねぇか?迷っちまってよぉ~。ツレとはハグれるし…。あ、俺一応他国の大使として来てんだわぁ~。だから、頼むよ。」
他国の大使だと?
何でそんな重要人物がこんな所にいるんだ。
「大使?……そうですか。なら、一緒に行きましょうか。ガンド、すまない。」
…もし、大使ではなかったら
俺の手で捕らえればいいか。
「大使の方だったらしょうがねぇよ。じゃあ、行くか。」
ガンドはポリポリと頬を搔く。
…あれ?いつの間に、俺のイカの串焼きを
食べたんだ、ガンド。
そんなに怒ってるのか?
「すまんな。一応ADXの番号を教えておこう。何か面倒事に巻き込まれたら助けてやるよ。」
そう言って大使?はペンを出すと、
俺とガンドの手のひらに番号を書いた。
というか、面倒事ってなんだ。
大使なのにそんな気軽に
連絡先交換していいのか?
「あ、身体に"強化"魔術、使えますか?」
使えない場合は、営業用魔力車に
乗って行かなくては。
お金は確か…いくらだったか。
「おう、使えるぞ。」
「なら、"強化"魔術使った方がいいですよ。坂道がキツイですから。…じゃあ、行きましょう。」
その後、俺達は身体に"強化"魔術を使って
王城の門の前に着いた。
「いや~、ありがとよ!まじで助かったわ。」
「困っている人を助けんのは、当たり前だから、気にしないで下さいよ。」
道中ですっかり仲良くなった
大使?とガンド。
少し性格が似ているからか?
「…一体何処に行ってましたの?ローグ様ぁ~??」
ふと声がした方を振り向くと
若葉色の髪を風に靡かせて
立っている少女がいた。
「うげッ!?べ、ベッツィー!!お、遅れたのには理由が…。」
「言い訳は結構ですの!!早く行きますわよ!会談後はお説教です!!」
ずるずると細い腕で
かなり身体がガッチリしている
男性…大使?を引きずって
王城へと入っていく少女。
「……何だったんだろうな。」
「……そうだな。」
暫くその場に立っていたが
時刻を見るともう学校に
戻った方が良さそうなので
そのまま学校へと帰った。
ー ピリピリピリ。
学校へ帰るとADXの呼び出し音が
鳴った。
「お、じゃあ俺先に戻ってるわ。じゃあな。」
「ああ、ありがとう。また、明日。」
気をきかせてガンドが
先に帰って行った。
俺は人がいない場所に行き、
応答にこたえる。
ー ピッ。
「…はい。レウです。」
『レウ君、ユリヤよ。』
電話先はユリヤさんだった。
『至急、学校長室に来てちょうだい。』
「分かりました。すぐ向かいます。」
俺はそのまま学校長室へと向かう。
ついでに大使?に教えて貰った番号を
忘れないようにADXに登録する。
ー コンコンコン
「レウ・オールディスです。」
「入れ。」
中に入ると父上とユリヤさんがいた。
「レウ、済まないが今から王城へと一緒に向かってくれ。」
「王城ですか?」
先程行ったばかりなのだが…。
まさかあの大使?が何か…。
「ああ、実は国王に呼び出されてね。…今まで仕事について国王にはレウの事を伏せていたんだが…どうも嗅ぎつけられてね。」
申し訳なさそうに言う父上。
「それは俺の存在がバレたと言う事ですか?」
だとすると少し面倒だな…。
「いや、優秀な者がいるという風にしかバレていない。」
「そうですか…。」
という事は、身元バレはしていない。
けど、俺を連れていくという事は
国王に話すという事だろう。
「まあ、アイツがレウについてどうこうしようとしたら、私がボコボコにするから心配しなくていい。」
とてもいい笑顔で言う父上。
…それは逆に心配なのだが。
「それじゃあ、レウ君。」
グイッと超笑顔のユリヤさんに
腕を引っ張られた。
少し嫌な予感がする…。
「お着替えしましょうか。」
……お着替えはしないといけないと
思っていましたが、母上のように
アレもコレもと着せ替えるのは
やめて欲しいです。
そんなこんなで父上のストップが
かかるまで着せ替え人形に
なっていた俺は今、青をベースとした
正装を着ている。
「やっぱりレウ君は何着ても似合うわ~。」
満足気に笑うユリヤさん。
……疲れた。
「じゃあ、行こうか。」
俺と父上、ユリヤさんは
魔力車に乗って王城に着いた。
その後、王城の談話室へと通され
豪華なソファに腰掛ける。
暫くして、談話室の扉が開いた。
「やあ、我が親友のディオンよ!急な呼び出しすまないねぇ。」
爽やかな笑顔とともに
風格のあるオーラを纏いながら
アルヴィート王国現国王、
イヴァール国王陛下が入って来た。
陛下は中に入ると人払いをし、
ディオンの前に立った。
「すまないと思っているのなら、やめて下さい。」
父上は深い溜息をつきながら
ソファから立ち上がる。
…不敬にならないか?父上。
父上に倣って俺とユリヤさんも
ソファから立ち上がる。
「ユリヤも元気そうで良かったよ。」
「国王様もお元気そうで何よりです。」
そこで陛下が俺を見る。
「君は……初めて見る顔だね。」
「…お初にお目にかかります。自分はレウ・オールディスと申します。」
「オールディス?……え?ディオン!?お前って、子供いたの!?」
そこでバッと父上を見る陛下。
「ええ、いますよ。」
しれっと答える父上。
「何で教えてくれなかったのさぁ~。私とディオンの仲だろぉ~。」
「なんで私が可愛い可愛い我が子の事を、クソ野郎に教えなきゃならない?」
…父上。言葉遣いが物凄く砕けてるな。
陛下はそんな父上を見て笑っているので
2人はとても親しい仲なんだという事が
良くわかる。
「…そうか。レウ君と言うのか。ふむ……レウ君、是非娘のk…。」
「断る!!」
陛下が何かをいう前に
速攻で父上が断った。
「ちょ、早くない?イイじゃん。レウ君カッコイイし、キッカが育てたなら絶対いい子だし。」
「私が良くない!!それに……色々事情があって、それは無理だ。」
父上が顔を暗くして呟く。
「事情ね……まあ、また後で聞くよ。それより、私は例の貢献者を連れてきてって言ったけど……何処にいるんだい?」
「自分です。」
俺は直ぐに返事をする。
すると、陛下は驚いた顔をする。
「えぇ!?ディオン!?君、愛しの息子に危険な事させてんの!?」
「……させたくないが、レウは強いし、滅多な…それこそ国一つ滅ぼす位の勢力じゃなかったら、余裕で倒せる。何よりレウ自身の希望だ。」
「おおぉ……レウ君何者?」
「…こほんッ。まあ、兎に角お前が探してた人物は、レウだ。」
「へぇー。……レウ君、君の活躍は隣国にも知れ渡っててさぁー。あのよくちょっかいをかけてくるサルザット帝国も、最近は大人しくしてんだよー。いやー、本当に助かってるよ。確か隣国では……紅眼の死神とか言われてるよ、君。……ん?あれ?でも、レウ君って、紅眼じゃないよね?灰色だし…。」
じーっと俺の瞳を覗く陛下。
すると、グイッと父上に引き寄せられた。
「近い!!穢れる!!」
「酷くない!?…あ、もしかして認識変化装置付けてた?」
「いえ、認識変化装置ではなく、ある魔術を使うと瞳の色が紅くなるのです。」
俺が答えるとへぇーと頷く陛下。
「そっかそっか。で、本題なんだけど…レウ君のこれまでの功績を讃えて、ご褒美をあげようと思っててね?何がいいかな?」
にこにこと笑う陛下。
…ご褒美か。なら…。
「…では、サルザット帝国とのイザコザや闘いの時は、是非自分を使ってください。」
「ええ!?それでいいのかい?お金とか宝石とか我が娘とか我が娘とかあるのに??」
…何で我が娘を連呼するんですか、陛下。
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