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第一章
第7話
しおりを挟む翌朝、俺は制服ではなく、
動きやすいTシャツと短パンに着替えた。
準備を終えて、隣の部屋の扉をノックする。
「…ガンド?起きてるか??」
バタバタドカンッ!、という
慌ただしい音の後にガンドが
部屋から出てくる。
「はよッ!!悪ぃな、レウ。待たせちまって!」
「おはよう、ガンド。そんな待ってないから大丈夫だ。」
俺とガンドは本校舎裏に向かう。
その途中で、ヒスティエを見かけた。
…一応、声をかけておこう。
「おはよう、ヒスティエ。」
俺の声にビックリして振り返る
ヒスティエ。
「え?…あ、おはようございます!」
「ん?レウの知り合い??それとも…まさかの…。」
ニヤニヤとガンドがしているが、
全くの検討違いだ。
「知り合いだ。…体調はどうだ?」
「あ、大丈夫です。気にかけてくれてありがとうございます、レウさん。」
ペコッとお辞儀をするヒスティエ。
「同い年なんだから、そんな堅くならなくていい。普通にレウでいいから。」
「え、あ、じゃあ、レ、ウ…。」
何故か言った後に顔が
真っ赤になっていくヒスティエ。
「熱があるのか?」
思わず額に手を当てる。
「ヒヤッ!?」
俺の行動にヒスティエは
思わずビクッと身体を震わせた。
しまった。身体に触れられるのは
嫌だったか。
「すまない、許可なく触れてしまって。」
慌てて手を額から離す。
「いいい、いえ!そ、その…し、失礼します!!」
もごもごと喋った後に
凄い勢いで走り去って行くヒスティエ。
…そんなに嫌だったのか。
「…後で、謝らないとな。」
ボソリと呟くといきなり
ガンドに肩をガシッと掴まれ、
ガクガクと揺さぶられる。
「いやいやいや!?ちょ、えぇ!?アレで付き合ってないのか!?……もしかして、レウって女たらしなのか?」
「は?何でそうなる??…それより、行かないと遅れるぞ。」
ぶつぶつ言っているガンドを
連れて本校舎裏に着く。
すでに殆どの生徒が集まっていた。
「はーい、来た人は私にクラスと名前を言ってねー。」
「Cクラス、レウ・オールディスです。」
「Dクラス、ガンド・メイヒューです。」
「レウ君に、ガンド君ね!!OK!じゃあ、これを腕につけてね。」
そう言って渡されたのは、
恐らく発信機の付いた腕輪。
暫くして全員が揃った。
「では、ルール説明を行いますよー。まず、コースは地面に書かれているラインやあちこちにある標識を頼りに進んで行って下さい。コースアウトすると、腕輪からブザー音がなるので、きちんとコースに戻ってねー。コースは遅くても1時間にはゴール出来るでしょうー。あと、身体に"強化"術式とかの魔術は使っては駄目でーす。基本は魔術禁止です。もしも危険な目にあった場合のみ、使用を許可します。魔術を使ったら分かるので、ちゃんとルールを守ってやりましょう。…破ったら減点ですからね☆」
リンダ先生は最後に、にこりと
笑ったが目だけは笑っていなかった…。
「では、スタートラインに集まって下さーい!」
ぞろぞろとスタートラインに
集まる生徒。
俺とガンドは列の真ん中らへんにいる。
「…ではでは、行きますよ~?…よーい…スタート!!」
ー ピーッ!!
一斉に走り出す生徒達。
コースの序盤は緩やかな坂道だ。
道幅も余裕のある広さで走りやすい。
そう思って走っていると、
近くで余裕そうに話す声がする。
「意外と余裕かもな。」
「そうだな。俺、兄貴に覚悟しとけ!って言われたんだけど…冗談だったんだな。」
「ああ、お前の兄貴も攻撃科だったんだっけ?」
暫く走っていると
段々と道幅が狭くなり、
土だけだった地面に小石が
混ざり始めた。
所々で、足元をとられて
驚いた声が上がっている。
「むぅ、これは走りにくいぜ。」
ガンドは顔を顰めている。
今では、もう足元は手の平サイズの
石ばかりが転がっている。
「きゃあ!?」
「うわあっ!?」
不意に先頭の方から声があがった。
少しスピードをあげてそこへ辿り着く。
「…これは。」
そこは、崖になっていた。
深さは15メートル程か。
崖の下は、小川が流れている。
「降りて渡らねぇと行けねぇか。」
確かに標識はこの下を指し示している。
それに降りる為のロープも用意されていた。
「へっ!やってやらぁ!!」
ガンドはそう言うと、
ロープをしっかり持って
懸垂降下を開始する。
多分これは戦争時の山の中での
動きを想定して設置されているんだろう。
なかなか考えられている。
「レウ!!置いてくぞ!!」
「ああ。」
俺は返事を返して、とりあえず
ポケットから黒の手袋をだして
手につけ、ロープを握る。
…握った感じ、大丈夫そうだな。
「…よし。」
丁度いい加減にロープを握って
一気に足を使わずに下まで降りる。
「うえぇ!?レウ、手大丈夫か!?」
「大丈夫だ。手袋をしているし、慣れている。」
「何で手袋持ってんの!?」
「…常時、持ち歩いているから。」
「は!?っていうか、慣れてんの!?ファストロープって難しいのに!」
ファストロープとは、俺が今
やったように、足を壁につけて
徐々に降りていくやり方ではなく、
一気に足を使わずに手でスピードを
調節して降りるやり方だ。
これは、なかなかコツがいる。
「それより、今は行くぞ。」
「おっしッ…着いた。…ああ、そうだな!」
小川は深さは足の踝ほどまでしか
ないため、特に気にせず進む。
「…んで、今度は上がんのか。」
「…ああ。」
今度はロープがないため、
出っ張りのある箇所を頼りに
上がっていくしかない。
ガンドは手をボキッと鳴らしてから
上り始めた。
「……ッ……ハッ…。」
数分後、崖の上に着いた。
「……ふぅ。レウ、体力あるなぁー。息一つ乱れてないじゃん!」
この位ならまだ余裕だ。
後ろを見るとまだ多くの生徒が
崖の上で戸惑っているか、
崖の下で疲れて休憩をしていた。
先程、余裕そうに
会話をしていた生徒達も今は小川で
休憩をしていた。
「行けるか?」
「……ああ!!」
先へとガンドと一緒に進む。
崖を登りきった先は、
巨大な岩を並べたような坂道だった。
進むと同時に足の指で踏ん張らないと
滑ってしまう。
体幹が不安定な者は、
ふらふらと、ゆっくりしか進めない。
「よっ、と。」
ガンドは多少はふらつきながらも
すいすいと進んでいる。
「お、道が。」
やっと、道が序盤のコースと
同じようになってきた。
ゴールはもうすぐだろう。
「よっしゃ!ラストスパートだ!!」
いきなりグンッとスピードを
上げるガンド。
一応、勝負している為、
俺も負けじとスピードをあげて
ガンドに並ぶ。
「お!新しく2名来たぞ!!」
「おおっ!!頑張れー!!」
「ラストだー!!」
ゴールだと思われる場所が
見えると同時に、沢山の声が聞こえてきた。
あれは…先輩達か?
「うおおおぉぉお!!」
ガンドが叫び声をあげる。
ゴールまで、あと少し。
…残念だけど、ガンドには負ける気がしない。
そこで、俺は更にスピードを
上げてガンドの前に出る。
「なにィ!?」
ー ポーンッ!ポーンッ!
「ゴール!!おめでとーう!!」
そしてそのままゴールした。
ゴールした瞬間、ガンドは
ゴロンと地面に大の字に寝転がった。
「あーッ!クッソ~!!負けたぜぇ~…。」
ガンドはとても悔しそうだ。
「ハハッ。レウについてこれただけでも、充分凄いよ。」
声に振り返ると、そこには父上がいた。
何故かとてもにこにこしている。
「え!?が、学校長!?」
突如現れた父上…学校長に
慌てるガンド。
「ふふっ。ガンド君だったっけ?お疲れ様。」
「え!?え!?あ、ありがとうございまッ!!痛ッ!!…噛んだぁー!!」
テンパりすぎて思いっきり
舌を噛んだガンド。
「落ち着け、ガンド。……御覧になられていたのですか?」
俺がそう問いかけると、
クスリと笑う父上。
「当たり前じゃないか。大事な息子の頑張る姿を見るのは。」
「…………。」
職権を乱用……活用しすぎやしないか?
と、思わず心の中で呟いた。
「あら?学校長!?いらしていらっしゃったのですか!?」
そこにリンダ先生が、
驚いた表情でこっちにやって来た。
…父上、連絡してなかったのか。
「ああ、時間がとれたからね。だが、もう行かないといけないんだ。…引き続きよろしく頼むよ。」
「あっ、はい!!」
父上は爽やかに立ち去って行った。
その後ろ姿をキラキラとした表情で
見つめるリンダ先生。
…ひょっとして?
「リンダ先生?」
俺が声をかけてやっと
意識がハッキリとするリンダ先生。
「あら、やだわー!私ったら!!こほんッ…えっと、レウ君とガンド君!!おめでとう!!レウ君は2位で、ガンド君は3位よ!」
へぇ、あのくらいのスピードで2位なのか。
それにしても、トップは誰だ?
「さあ、ゴールした人から攻撃科の先輩達が歓迎パーティーを開いてくれてるから……ほらほら!!行って行って!!あ、ちなみにこれで今日の授業は終わりだから、楽しんだら自由解散ね!!」
なるほど。この授業は
毎年恒例であり、また攻撃科の
先輩達からの歓迎会も兼ねているのか。
「おめでとう!!」
「これから頑張ってね!!」
「何でも気軽に質問しろよな!!」
その後、無事に全員がゴールして
お菓子を食べたり、談笑して過ごした。
「なぁ、ガンド。」
「んぐ?……何だよ、レウ。」
ガンドは凄い勢いでお菓子を食っている。
「トップでゴールしたのって、誰だ?」
「んぁ?…そういや、知らないなー。」
「それなら、ルチアちゃんっていう子だよ。」
爽やかな声がした後ろを
振り返ると、そこには青い髪の
見知らぬ生徒が立っていた。
その人はよいしょっと、と言って
俺とガンドの前に座った。
「初めまして、レウ君と…ガンド君だったかな?」
「初めまして。……レウは俺ですが、貴方は?」
一応同じ学年の攻撃科の生徒の
顔はある程度覚えているが、
この人は見た事がない。
「ああ、僕?僕は、攻撃科第二学年のクラト・ウォティラ。よろしくね。」
にっこりと笑うクラト先輩。
…何故か背中に悪寒が走った。
ガンドを見ると、ガンドも
何故か腕をさすって風邪か?と
ボヤいている。
「いやー、それにしても君があの"狂炎"の御子息なんだね~。」
にこにこと俺を見てくるクラト先輩。
…俺の事を観察している様だ。
ここはとりあえず、話の流れを変えよう。
「そうですが…。ああ、それよりトップはルチア…だったのですか?」
「ああ、そうだよ。ルチア・べディングトン…だっけ?いやー、女の子なのに凄い体力だよね。」
確かに見た目とギャップがある。
しかし、ここでルチアについて
話を続ける訳にはいかない。
本能が早くこの人から離れた
方がいいと言っているから。
「そうですね。…では、俺は疲れたのでそろそろ自室に戻ります。」
「あ、俺も戻る!」
俺が立ち上がるとガンドも
お菓子を数個ポケットにしまいながら
立ち上がった。
「そうなの?見た感じ、レウ君はそんなに疲れた感じでは無さそうだけどね?」
クラト先輩も立ち上がりつつ、
首を傾げている。
相変わらず、にこにこしているが
さっきまでと違って面白がるように
少し口の端が上がっている。
…何を考えているのだろう。
「んー。もう少しレウ君とは、話したかったけど…まあ、また今度話そうか。じゃあ、レウ君……。」
スッとクラト先輩が俺の耳元へ
顔を近づける。
「……近々、仕事で会った時はよろしくね?」
俺は思わず1歩後ろに下がった。
クラト先輩はニヤッと笑った後に
俺の横を通って去って行った。
それにしても仕事…。
一体どういう事だ?
「レウ?どうした?何か変なこと言われたのか?」
ガンドが心配そうに声をかけてくれた。
「いや、また今度と言われただけだ。」
クラト先輩の事はまた後で考えよう。
彼は俺にとって敵か…
まだ、判断材料が足りない。
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