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第一章
第6話
しおりを挟む暫く、父上と珈琲片手に
学校生活について話していると…
ー ガチャッ
「…入って下さい。」
ユリヤさんがドアを開けて、
中へ、と俺と父上を促す。
中へ入ると少女はココアの
入ったコップを持って座っていた。
どうやら、少しは落ち着いた様だ。
「…先程、少し彼女から事情を聞きました。レウ君の話と繋ぎ合わせると…彼女、ヒスティエ・バーデンは、部屋にいた所、何者かによって薬で眠らされて拉致されたそうです。」
「そうか。…ヒスティエ君、こんばんわ。私は、ディオン・オールディス。この学校の学校長であり、この国の宰相を勤めている。そこに立っているのは、私の息子であるレウ・オールディスだ。彼が君を助けたんだよ。」
「……あ、貴方が?」
震える声で俺に視線を向ける
ヒスティエ。
「初めまして。レウ・オールディスです。」
軽くヒスティエに会釈をする。
「え、あ、は、初めまして。ヒスティエ・バーデンです。」
ヒスティエも俺に軽く頭を下げた。
「……それで、だな。何故君が攫われそうになったのか、私達には分からないんだが…君は何か心当たりがあるかい?」
優しい声音でヒスティエに
語りかける父上。
その言葉に僅かにヒスティエが
肩を震わせたのがわかった。
…多分心当たりがあるのだろう。
「…………………。」
ヒスティエは何も言わずに
黙り込んでいる。
その様子を見て父上が
ヒスティエの肩に手を置く。
「……話したくないなら、詮索はしないよ。ただ、今後も今回の事件のような事が、起こる可能性がある。君を守る為に情報が必要なんだ。……もし、話してくれる気になったら、私か、ユリヤか、レウに教えてくれ。」
その言葉にゆっくりと
首を縦に振るヒスティエ。
「私とユリヤは基本的に、この部屋にいるが、一応連絡を交換しておこう。…レウは、第一学年攻撃科のCクラスに在籍しているから。」
「分かりました。…あの、私のせいで………ごめんなさい。」
ヒスティエは悲痛な声を
出してポロりと涙を零した。
「君は悪い事をしたのか?」
俺はヒスティエに問いかける。
その言葉にふるふると
首を横に振るヒスティエ。
「…なら、君が謝る必要はない。悪いのは君を拉致しようとした奴らだ。だから、罪悪感で泣かなくてもいい。…………え?」
すると、何故かさらに
泣き出してしまった。
「…ディオン様、レウ君に女の子の扱い方を教えたのは貴方ですか?」
「…教えてないよ。ついでに言うと、キッカも違う。」
「では、アレは天然?……だとしたら、末恐ろしい子ですね…。」
ユリヤさんと父上が
ひそひそ喋っているが、
全て聞こえている。
泣かせたくて、泣かせた訳じゃない。
「…父上、ユリヤさん、そんなに俺を責めないで下さい。俺が人の心に疎いのは知っているでしょう?」
俺の言葉に何故か
微妙な顔をする2人。
何でそんな顔をするんですか…。
「いや、責めてる訳じゃないぞ!」
「ええ、将来有望ねって事よっ!」
そんなに酷かったのか…。
今度休みの日に、母上に
女心というものを教えて貰おうかな…。
その後、明け方になって来たので
俺は授業に出席するため、自室に戻った。
父上には、今日は休んだ方がいいと
言われたが、そんなに疲れていない。
徹夜だが、眠くもない。
何日かまともに寝られなくても
幼い頃に何度か経験した為、慣れている。
ヒスティエは、自室が荒れている状態の
為に別の部屋で今日は休むそうだ。
その方がいいだろう。
「……シャワーを浴びる時間はあるな。」
とりあえず、シャワーは
浴びた方がいいだろう。
さっと浴びて、いつもより
しっかりと朝食を取る。
身体を動かした為に、
その分食べなくては。
制服に着替えて外に出る。
少し時間がギリギリなので
早足で教室に向かった。
教室に着いた時には、五分前。
「……ふーっ。」
自分の席に座って息を吐いた。
ギリギリセーフだ。
「…今日は遅かったわね?」
また、隣の席のルチアが声をかけてきた。
…というか、「おはよう」が先ではないのか。
「…準備に時間がかかったんだ。」
まあ、本当に準備に時間はかかった。
嘘ではない。
「ふーん。」
もう興味がないとばかりに
そっぽを向くルチア。
…何なんだ、いったい。
「おはよーう!!皆さん!!元気ですかー?体調不良の方はー?いませんかー?」
担任のリンダ先生が
教室に入って来た。
「…いないですねー?えっと、今日は予定通り、授業をしますが、明日はなんとッ!Dクラス合同で、学校の敷地内にある山の中を走ってもらいまーす!!」
「えー!?本気で!?」
「うわっ、最悪~!!」
「山の中!?走れんの!?」
リンダ先生が騒がしくなった
教室を静かにさせるために、
パンパンッと手を叩く。
「はいはいー!静かにー!!ちなみに、最初に速くゴールした3人には…豪華なご褒美がありますー!!」
「うおおぉぉぉぉ!!」
「燃えてきたァー!!」
「ご、ご褒美って何だろうね!!」
また騒がしくなる教室。
「はいはーい!まだ明日だからねー!…って事で明日は、動きやすい格好で本校舎裏に集合でーす。それじゃあ、授業始めるよー!」
山の中を走るのか。
なら、明日の"朝の日課"はやめておこう。
…というか、どのくらいの距離を走るんだろう?
授業後、教室を出て
食堂へと歩いていると…
「おっ!レウ!!発見!!」
「ああ、ガンドか。」
後ろからガンドに声をかけられた。
「今日も一緒に食おうぜー!」
「ああ。その後に、ニコレッタさんの所に行くんだが、ガンドも一緒に行くか?」
多分行くって言うだろう。
「お!行く行く!!」
「わかった。…………ッ。」
ー パシッ。
俺はガンドの右肩を手ではらった。
「うおっ!?どうした!?レウ!?」
「…ああ、悪い。肩にゴミが付いてたんだ。」
「え、マジか。サンキュー!」
食堂に行って昼飯を食べた後、
急ぐガンドに引き摺られるように
第5研究室に向かう。
「…ここが、第5研究室か。」
ー コンコンコンッ
「誰だ?」
「レウ・オールディスです。」
「が、ガンド・メイヒューですッ!」
「お、入っていいぞー。」
了承を得て、
部屋のドアをゆっくりと開ける。
研究室は散らかっていると
思ったが、意外にも綺麗にされていた。
「よく来たな、お前達。丁度さっき、ユリヤが片付けたから部屋は綺麗だ。適当にくつろげ。」
…ユリヤさんが掃除をしているのか。
多分、ニコレッタさんは掃除を
しないタイプなんだろう…。
「ニコレッタさん、魔銃の調整をお願いします。」
「おお、わかった。ついでに、君のも見てやろう。」
「え!?マジっすか!!ありがとうございますッ!!」
やったァー!!と騒ぐガンド。
「あ、あとコレをどうぞ。」
甘い焼き菓子をニコレッタさんに
手渡した。
「お!ありがとな!!茶とかは、あそこの棚にあるから適当に飲んでいいぞ。」
ニコレッタさんが、魔銃を
弄っている間、俺とガンドは
紅茶を飲みながら談笑する。
「そう言えば、明日は合同授業だよな!!」
「ああ。山の中を走るらしいな。」
「裏の山だろ?あそこは確か攻撃科と防衛科の生徒の訓練の為に作られた場所だから、デッカい滑りやすい石の坂道とか、断崖絶壁の場所とかがあるらしいぜ。」
それはかなり考えられて
作られているな…。
「ああ、彼処からはよく生徒の悲鳴が聞こえるぞ。」
そこでさらりと怖い事を
言うニコレッタさん。
「ど、どんだけハードなんだ…。」
ガンドが顔を引き攣らせている。
「まあ、頑張れ。彼処は攻撃科と防衛科の生徒は必ず乗り越えなきゃならない試練だ。」
ニヤリと笑うニコレッタさん。
「うー…、よし!!ここは勝負を絡ませたほうが、やる気が出る!!レウ!!どっちが先にゴール出来るか競走しようぜ!!」
「勝負?いいけど……。」
「よしッ!!燃えてきたァ!!」
その後、魔銃の調整が終わり、
お礼を言って研究室から出る。
「俺は今から、訓練場で撃ってくけど、レウは?」
「俺は今日は寄る所があるから、遠慮しとくよ。」
「そっか!じゃあ、また明日な!!」
「ああ、また明日。」
ガンドが走り去って行く姿を見送る。
そして、また研究室に入った。
「……それで、レウ。話ってなんだ?」
あらかじめ、ガンドが去ってから
話があると言っておいた。
「…これを見て下さい。」
俺はポケットからあるものを
取り出して見せる。
「こ、これは!!……少し貸してくれ。」
そう言うと、ニコレッタさんは
そのあるものを工具で弄った。
「…………これで良し。これで、これの機能は止まったぞ。」
ニコレッタさんが俺にあるものを返す。
「ありがとうございます。」
「それで……この盗聴器は、お前が付けられたのか?」
「いえ、俺ではなくガンドの服に付けられてました。」
そう、俺がニコレッタさんに
手渡したものは薄型の約2センチほどの
大きさの盗聴器。
食堂に入る前にガンドの右肩に
付いていたものだ。
「ガンドに?……あいつ、誰かに恨まれてんのか?」
「……いえ、ガンドは恨まれる様な奴じゃないです。」
「うーん…。となると…もしかして、お前か?最近、ガンドとよく一緒にいるだろ。」
俺?…となると、仕事の方の関係者が
この学校に居るという事か?
「…ヒスティエだったか?彼女絡みかもしれんな。」
どうやら父上から、
ヒスティエの事件については
聞いているらしい。
「……とりあえず暫くは、気をつけます。」
「ああ、そうした方がいい。」
お礼を言って研究室を出る。
そして、盗聴器だったものを
ポケットにしまう。
…一体誰が何の目的でガンドに
盗聴器なんかを仕掛けたのか。
そして、ヒスティエの狙われる理由は
何なのだろうか…。
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