真紅の殺戮者と魔術学校

蓮月

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第一章

第5話

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※注意※
今回は話の場面がよく変わります。
変わる場面では※印で区切ってあります。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「こちら、A班。そちらの様子はどうだ?」

黒い影達がアルヴィート王国魔術学校の
校門前に立ち止まった。
この時間、この場所は
誰も出歩かない為、影達以外の気配は無い。

『…ジジッ……こちらB班。予定通り、湖の近くに"狂炎"を確認。それと、側近の女も確認。』

影達の1人のADXから
低い男性の声が流れる。

「……了解。では、こちらも移動を開始する。」

『…ジジッ……了解。くれぐれもを、傷つけないように。』

低い声の主はの部分に
含みをもたせて言った。

「……了解。」

スッとADXの通信を切る。

「……では、行くぞ。」

1人の声に他の影達が頷いた。

「「「"強化"術式発動。」」」

ー タンッ。

複数の声の主は途端に
暗闇へと溶け込んで行った。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

アルヴィート王国魔術学校から
離れた場所にあるチロウ湖。
昼はデートスポットとして人気のある湖だが、
今時刻は、真夜中。
いつもは誰もいない時間帯に
2人の男女がいた。

「…着いたな、チロウ湖。」

赤髪を靡かせながら、
ディオン・オールディスは呟く。
その言葉に側近のユリヤ・ブラックリーは
頷き、同意する。

「……気配は……複数ありますね。」

「……多くて10人だな。」

微かに聞こえる足音に、
2人が耳をそばたてていると、
不意に少し離れた場所から
キラリと光る何かが。
それを見てユリヤがディオンの
前にすぐ様出る。

「ッ!!」

ー パアンッ!
ー キインッ!

魔銃を撃った音と何かの
甲高い音が静かな夜に響いた。

「……いきなり攻撃とは、失礼ですね。」

ユリヤの突き出された右手の前には、
横1m、縦2mの薄緑の透明なシールドが
展開されていた。

「ハハッ、流石私の優秀な側近。」

ヒュウッと軽く口笛を吹き、
フッと笑うディオン。
それに仏頂面でため息を
こぼすユリヤ。

「…どうも。少し、魔銃が月の光に反射したのが見えたお陰で反応出来ました。それにしても、ここは光が無いので見にくいですね……。」

湖の周りには電灯は一つもない。
光は、月の微かな淡い光と、
湖に反射して映るもう一つの月の光のみ。
暗闇に目が慣れている2人でも
少し見辛い様だ。

「……では、ちょっと仕事をしやすくしようか。」

そう言ってディオンは
ニヤリと笑いながら、魔銃を
上に向かって構えた。

ー パンッ!

途端にチロウ湖周辺が、光に包まれた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「……ふぅ。」

ある部屋で少女がふいに、
読みかけの本から顔をあげた。
少女はかなりの時間、黙々と本を読んでいた。
そのため、喉の渇きを感じたので
一旦本を読むのを止めたのであった。

「…ココア、飲もうかな。」

甘く温かいココア。
読書で疲れた脳に糖分をと、
ココアを作ろうと椅子から立ち上がり、
棚にあるコップを手に取る。
そのコップには小さな花が
沢山彩られているもので、
少女のお気に入りのものだった。

「……ふふっ。」

お気に入りのコップで、
大好きなココアを飲む。
思わず、笑顔がこぼれた。

「スプーン2杯っと…ッ…ンン!?」

ー カシャーンッ!!

突然、部屋にコップが割れる音が響いた。
そして、窓がキイッと開けられる音が。
……その後、その部屋から音は
一切、聞こえなくなった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

確保。これより、帰還する。」

黒い影が腕にはめている
時計を見ながら言った。

「「「了解。」」」

その黒い影の声に
従って元来た道へと
影達は足を向けた。

「……こんばんわ。」

「「「!?」」」

いつの間にか黒い影達の前に
何者かが立っていた。
その者は漆黒のコートを身にまとい、
口元を隠しているため、
何者かよくわからない。
しかし、声からしてかなり若い者だと
いうことはわかる。
予想外の展開に戸惑う影達。

「な、何者だ!」

「……それはこっちのセリフなんですが。ここはアルヴィート王国魔術学校ですよ?見た感じ、生徒でも教師でもない方が、どうしてこの学校の女子生徒を抱えて立っているんです?」

立ち塞がる者がため息を吐いた。
その余裕がある態度に、
冷静さを欠いた声があがる。

「ッ……そこを退け!死にたくないなら、さっさと消えろ!!」

1人の影の声に戸惑いの声があがる。

「こ、殺さなくていいのか!?目撃者だぞ!?」

「しょうがない!!時間がねぇんだ!!」

焦る影達。
そこへ更に彼らを焦らせる声が。

「それは、チロウ湖で足止めしている"狂炎"が、戻って来てしまうから……ですか?」

「なっ!?」

何者かの指摘に戸惑う影達。
その態度は相手に確信を持たせた。

「やはりですか。…しかし、残念でしたね。貴方達の計画はまあまあ良かったのですが、一つ誤算がありました。」

何者かは、ピッと人差し指を立てた。

「それは、学校に残した戦力の事を考えていなかった点です。……それでは、5人中4人の方には…。」

そして何者かは、懐から
サバイバルナイフを取り出して
微笑んだ。

「……死んでもらいましょう。」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「……ハァ。これで片付いたかな?」

俺は足元に転がる死体を見て
ため息を吐く。
少し始末するのに時間がかかってしまった。
最近、ナイフに触っていなかったからだろう。

「……ば、化け物ッ!!」

残して置いた襲撃者が
声を震わせて俺を見ている。

「化け物ですか。まあ、その通りですね。……それにしても、"狂炎"のテリトリーに入る割りには、弱くないですか?魔術を使うまでもないなんて…。」

全て体術とナイフで
4人とも片付いてしまった。
…さて、色々吐いて貰いましょうか。

「…貴方達がここへ潜入した目的は、そこに眠っている少女ですね?」

「……ッ。お、俺は何も知らねぇ!!」

ガクガクと震える生き残り。

「ふーん。なら……。」

微笑みながらガチャリと
魔銃を取り出して生き残りの
額に銃口を当てる。

「用済みですね。」

「うあッ!?ま、待ってくれ!!知ってる事は話すからッ!!撃たないでくれッ。」

裏の仕事をやる人間にしては
あっさり情報を吐きそうだ。

「……お、俺達の目的はこいつを、雇い主の元へ届ける事だ。」

「雇い主?とは、誰です?」

「裏の仕事の斡旋者だ。名前というか…コードネームはスペードって奴だ。依頼主は分かんねぇ。スペードに、聞こうとしたら知らない方がいいって…。」

知らない方がいいって事は…
それだけの権力者か。

「あ、あとは知らねぇよ!本当だよ!!」

様子からして、
多分もう情報はないだろう。

「そうですか。ありがとうございました。」

ー パンッ!

「ガッ!?」

とりあえず、"雷弾"を使って
気を失ってもらう。
その後、生き残りを拘束して
耳に装着しているADXで
父上に連絡を試みる。

ー ピッ、ピッ、ピピッ!

『どうした、レウ?』

どうやら父上の方も
片付いたようだ。

「学校に侵入し、1人の女子生徒を拉致しようとした5人の侵入者を1人を残して処分しました。」

『やはり、誘導か。目的がまさか、女子生徒とは…。その女子生徒は?』

「無事です。今は俺の近くで気を失ってます。」

多分、薬で眠らされたんだろう。

『そうか…。ご苦労だったな、レウ。私ももうすぐ学校に着く。戻ったら、私の部屋で話そう。』

「了解です。後始末が終わり次第、学校長室に向かいます。」

ー ピッ。

「……さて、と。」

俺は傍らで眠っている少女と、
気を失っている生き残りを見て
ため息を吐く。
今日で何回目のため息だろうか。

「お片付けといきますか…。」

俺はその後、父上の指示でやって来た
父上の部下の方々に死体の処理と、
生き残った奴の処遇を任せた。
そして、傍らで眠っている少女を
抱き上げる。
少女の容姿を見たが、
第一学年の攻撃科では見たことがない。

「レウ君、その子を連れてディオン様の部屋へ行ってくれ。」

「あ、はい。あとは、宜しくお願いします。」

父上の部下の方々に
ペコッとお辞儀をし、
少女を抱えて走り出す。
学校長室へ入り、少女を
とりあえずソファに下ろす。

「……よく、見ると随分と整った顔立ちをしているな。」

先程は暗くてよくわからなかったが、
少女の容姿は輝く銀髪に、
白く透き通った肌、そして
とても整った顔の美少女と
言っていい位の少女だった。

ー ガチャッ。

「レウ!お疲れ様。」

父上とユリヤさんが
扉を開けて入って来た。

「父上もお疲れ様です。」

「…それで、この子が拉致されそうだった子?」

ユリヤさんがまじまじと
少女を見る。

「ええ。」

「この子は…えっと……。」

父上はADXを操作して
調べている。

「……ヒスティエ・バーデン。第一学年防衛科在籍。」

「俺と同い歳でしたか。」

「……何か家庭事情に特別な事は記載されていないな。」

「では、本人に聞いてみた方がいいですね。」

「そうだな。」

「……どうやら、お目覚めみたいみたいですよ。」

ユリヤさんの声に少女を
見ると、驚いた顔でこちらを
見ていた。
少女の開いた瞳は、
青い空の様な綺麗な色をしていた。

「…え、え??」

どうやら、急展開すぎて
混乱しているらしい。

「…暫くユリヤに任せるか。」

父上は少女の様子を見て、
同性であるユリヤさんに
任せる様だ。

「なら、少し隣の部屋で待ちましょう。」

俺と父上は隣の部屋へと
移動した。

「…レウ。今回は……。」

父上が心配そうに俺に
声をかけた。
多分きっと、無茶をしていないかと
言う事だろう。

「…大丈夫ですよ。今回はを使うまでもありませんでしたから。」

だから、俺は安心させれるように
微笑みながら言った。
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