真紅の殺戮者と魔術学校

蓮月

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第一章

第4話

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昼飯後、授業はないので
ガンドに捕獲されて
学校の広い庭の片隅に
座っている。

「って、さっきの話マジなのか!?」

「マジだよ。……俺は養子だけど。」

「そ、そうだったのか。……ん?って事は、あのディオン様って確か……ニコレッタ様と友人だったはず!!つまり、お前もしやっ……!!」

バッとこちらを見るガンド。
そこまでの情報があるくらい
ニコレッタさんの事を尊敬してるのか。

「ニコレッタさんから貰ったぞ。」

「マジかッ!!あのニコレッタ様本人に作って貰ったのかよ!!めちゃくちゃ羨ましいぃぃぃ!!」

うおおぉぉぉとまた
叫び声を上げているガンド。

「ニコレッタ様は、世界一の魔銃の作り手なんだぞ~。いいなぁ~マジで~。」

そんなに凄い人だったのか。
結構言葉遣いが荒い人だから
そんなふうに見えなかったな。

「本当に好きなんだな。の商品。」

「おう!俺、あのデザインセンスが好きなんだよ~。マジでカッケー!!」

「ふーん、それなら一つ君にやろう。」

「へぇー……ってええっ!?」

ガンドの背後にニコレッタさんが
立っている。
…ガンド、気づくのが遅いぞ。
「本当に好きなんだな。」は、
俺じゃなくてニコレッタさんが
喋ってたんだが。

「ふむふむ。君の魔銃、ちょっと借りるよ。」

ガンドから青い魔銃を
さっと抜き取ってじっと見つめる
ニコレッタさん。

「え、え、え!?ニコレッタ様!!?」

ガンドはまだ混乱している。
その内にカチャカチャと
何やら弄った後に、
ポイッとガンドに魔銃を返した。

「ほれ。ちょっと、計算式の速度を上げといた。あと、コレをプレゼントだ。」

背負っていたバックから
魔銃のホルダーを取り出して
ガンドに投げた。

「んじゃな。あ、レウ。魔銃はどうだった?」

「壊れなかったですよ。」

「ふむ!成功だな!!では、またな。あ、私は第5研究室に殆どの時間いるんでな。遊びに来てもいいぞ。あ、茶菓子は持参しろよ?じゃあな。」

スタスタとまた歩き
去っていったニコレッタさん。

「……こ、これはッ。ミュールズの魔銃ホルダー!!」

キラキラと耀く瞳でホルダーを
見つめるガンド。

「よかったな。」

「ああ!!まさかモノホンのニコレッタ様に会えるなんて!!」

その後興奮状態のガンドに
自習訓練場に連行された。

「よっしゃ!!早速、撃ってみるぜ!!」

訓練場操作パネルで
目標物の設定を行う。
どうやら、静止の的2つで
試してみるらしい。
ガンドは的に向かって魔銃を構える。

「…………ふーっ。」

呼吸を整えるガンド。

「…………。」

ー パアン、パアン!!

綺麗に2つの的の真ん中が
撃ち抜かれた。
ガンドはかなりの腕前だ。

「うぉーっ!!術式発動が速い!!」

「良かったな。それにしても、ガンドは射撃訓練をした事があるのか?」

「おう!叔父の家に射撃場があってよ!!よく通ってたんだ!!」

「通りで上手いはずだ。」

「へへっ。照れるな!」

頭を掻きながら笑うガンド。

「"貫通"以外は使えるのか?」

「ああ。一応、"火弾"と"雷弾"は使える。」

するとガンドは、この学年の攻撃科の
中でもかなり凄いな。

「レウは練習しないのか?折角来たんだし!」

チラリと周りを見渡す。
ここならガンド以外、
誰も見てないので大丈夫か。

「ああ。練習するよ。」

ケースから魔銃を取り出す。
とりあえず、一丁でいいか。
そして、操作パネルで
目標物の設定をする。
ランダムで10個…でいいか。

「え!?ランダム移動に的10個!?大丈夫か?」

「ああ、問題ない。」

魔銃を構えてスタートの合図を待つ。

ー ピッ、ピッ、ピーッ!

ー パンッ、パンッ!

まずは2つ右から。
次は…。

ー パンッ、パンッ、パンッ!!

下から3つ。

ー パンッ!

上から1つ降ってきた。

ー パンッ、パンッ!!

左斜め下からの的発射、2つ。

ー パンッ!

中央下からの的発射、1つ。

ー パンッ!

右斜め上から的落下、1つ。

ー ピーッ!!

「ふぅっ……。」

終わったか。
操作パネルに結果が表示される。
全弾命中と表示されていた。

「……す。」

「す?」

声に後ろを振り返ると
何故かガンドがぷるぷると
身体を震わせている。
何故だ?

「す、スゲェー!!レウ!!お前、めちゃくちゃ上手いな!!」

「…ありがとう。」

どうやら感動してくれていたらしい。
まあ、伊達に8歳から
地獄を生き抜いてきたからな…。

「今、"貫通"だけだったけど、他にも出来るのか!?」

「まあ、色々と。」

ここは濁しておこう。

「うおぉ!!スゲェ!!…よーし、俺も、もっと練習するぜ!!」

うおぉぉと叫びながら、
操作パネルで目標物の設定を
して、撃ちまくるガンド。
…魔力切れを起こしそうだな。








「……ハァッ、ハァ!!」

それから、ガンドは
かなりの数の的を撃って、
今は床に大の字で寝転がっている。

「大丈夫か?」

「ハァッ、ハァ……ッ…つ、使いすぎたァ~!!」

やはり、魔力切れになったらしい。
魔力切れになると、様々な症状が出る。
吐き気、眩暈、頭痛、悪寒、眠気、
筋肉痛、耳鳴り、倦怠感、吐血、
手足の痺れなど個人によって
症状が変わってくる。

「ガンド、魔力切れの症状は?」

「暫く身体がビキビキになって動かない。」

となると、筋肉痛?か。

「部屋まで運ぼうか?」

「いや、軽い魔力切れだから、少し休めば大丈夫だ。」

「そうか。…ガンド。」

ガンドに水を手渡す。
こっそりガンドが夢中で
撃ちまくっている間に買っといたものだ。

「おおっ!サンキュー!!」

ゴクゴクと行き良いよく飲むガンド。
あれだけ叫びながら動けば
喉は渇くだろう。

「……プハッ。……なぁ、レウ。」

ふと、真剣な顔をするガンド。

「何だ?」

「俺は、見た目通り馬鹿で五月蝿くて、空気読めない奴だけど…。」

「…………。」

自分で自分の事、結構辛辣に言うな…。

「……俺と友達になってくれるか?」

……友達か。そんなもの今まで無かった。

「…ああ。いいよ。」

俺の言葉にガバッと身体を
起き上がらせるガンド。
筋肉痛、大丈夫か?

「痛ッ!!…ほ、本当か!?」

「ああ。改めてよろしく、ガンド。」

「ああ!!よろしくな!レウ!!」

ニッとはにかむガンド。
俺もつられて笑う。

「え!?レウが初めて笑った!!」

「……失礼な、俺はよく笑ってるだろ?」

5年間で少しは表情が
変えれるようになったと思ったが、
どうやらまだまだらしい。

「いーや!俺は初めて見たね!!いっつも見かける時、仏頂面してた!!」

そんなに酷いのか。

「…そんなに俺の事見た事あるのか?」

「………………。」

「………………。」

「……ブッ!アハハ!!」

「……ハハッ。」

それから暫く2人で笑い合った。
ガンドの魔力切れが治まった後、
外を見ると結構暗くなっていたので
2人で男子寮に戻った。

「じゃあ、また明日な!レウ!!」

「ああ、明日。」

別れて自分の部屋に入る。
荷物を置いて机のADXで
夕飯を注文しようとすると…

ー ピロン。

自分が持つADXに連絡が入った。
直ぐに応答する。

「はい。レウです。」

『ディオンだ。』

父上からだった。

「何の御用でしょうか?」

『……が入った。準備次第、来てくれ。』

……か。

「……了解です。」

ー ピッ。

俺は夕飯を一旦諦めて、
制服を脱いで黒色の仕事着に着替えた。
そして、魔銃を上着のホルダーに
入れて窓から外に出る。

ー タンッ。

3階の窓から4階、5階、
そして屋根へと窓を伝って上がった。
そして誰にも見られないように
音をたてずに素早く移動する。
学校長室へと続く廊下にある
窓の内の1つから中へ入り、
学校長室のドアを5回ノックする。

ー コンコンコンコンコンッ

「入れ。」

「失礼します。」

許可を貰い、中へ入ると
父上は勿論だが、
父上の側近のユリヤさんがいた。

「久しぶり、レウ。」

「お久しぶりです、ユリヤさん。」

やはり、母上と似ていて
とても綺麗だ。

「レウ、それでお前を呼んだのはな。先程、学校の事務所に脅迫状が届いた。」

「脅迫状?」

「そうだ。内容は…これだ。」

父上からノート形のADXを受け取る。
そこには……


『今日、深夜零時にチロウ湖に学校長自ら来い。然もなくば、学校を爆破する。』


チロウ湖と言うと、
学校から離れた場所にある
小さな湖だったはず。

「……目的がわからないですね。」

何故、父上をチロウ湖に呼び出すのか。

「そうだ。相手が何を考えているのか、見当がつかないんだ。」

「まあ、政治関係なら"狂炎"に手を出すのはヤバイって分かってますから違うでしょう。」

ユリヤさんが苦笑しながら言った。
確かに、父上を殺すなら
軍隊の精鋭部隊でも
殺すのは困難だろう。

「となると……もしかして、他国ですかね?」

他に可能性があるとしたら、
他国の者達だ。

「しかし、そうなると何の目的だろうか?」

確かに父上を呼び出す目的は?

「……まあ、わからない事は置いておいて、本題を言いましょうよ、ディオン様。」

「ああ、そうだな。…レウには、私とユリヤがチロウ湖に行ってる間、この学校を警備して欲しい。」

「……誘導かもしれないって事ですか。」

わざと最強の父上を
学校から遠ざけて、学校で
何かをする可能性もある。

「そうだ。だから、警備を頼みたい。」

「了解しました。」

俺は頷く。
すると、ユリヤさんが
何かを差し出す。

「レウ、コレを。」

それは、耳につけるタイプの
ADXと、黒色の首輪。

「このADXは私とディオン様だけと連絡を取ることの出来るADXよ。これで何かあったら報告して。あと、この首輪は認識変化装置。これで髪色と目の色を変えれるわ。」

2つとも受け取り、
それぞれ身体に身につけた。
首輪を付けると、ヴンッと
いう音がして顔にエフェクトが
かかった。

「あ、茶髪に茶色の瞳になったわ。」

これで、身元バレの可能性は
低くなった。
けど、あのを発動すれば…。

「あとは、ちゃんとフードを被って、口元を隠すんだぞ。」

「はい。分かりました。」

「これで、話は以上だ。…夕飯は食べたか?」

「いえ、まだです。」

「なら、ここで食べるといい。私とユリヤは、もう行くが……気を付けてな。」

ポンと父上が俺の頭に
手を乗せる。
5年前から父上は俺によく
こうしている。
少し子供扱いされている気もするが、
心が落ち着くので嫌ではない。

「はい。父上とユリヤさんもお気をつけて。」

父上とユリヤさんが
出て行った後、学校長室にある
ADXから夕飯を注文して食べ、
外に出て屋根に上った。

「……午後11時か。あと1時間で約束の時間。」

さて、今夜何が起こるのか。
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