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第一章
第13話
しおりを挟む「ひ、ひいぃッ!!」
ザウスが悲鳴をあげながら
その場に尻もちをつく。
ザウスの悲鳴により、俺が
何故か血を流しているのに
周りの野次馬も気づいて
悲鳴をあげる。
「…レウ!!何があったんだ!?」
「……最後のザウスの5発撃った魔術の内の2発が暴発してこちらに飛んできたんだ。それが当たった。…なに、大した事じゃない。」
「わ、私先生を呼んでくる!!」
ヒスティエは第3訓練場から
出て行こうと立ち上がり、
ドアへと駆け寄って行った。
「…アイツの魔術が?」
そう、最後にザウスがデタラメに
撃った魔術が俺とヒスティエの
方に飛んできたのだ。
魔銃は魔術発動の際に、
魔銃の銃口付近に魔術の展開式が
浮かび上がる。
なのに、最後の5発の内の2発は
何故か俺とヒスティエの方に
魔術の展開式が浮かび上がった。
ザウスはこちらには銃口を
向けていないのに。
そこで、俺は咄嗟に反応して
左腕を伸ばしてヒスティエを
庇い、俺に向けての1発は
俺が避けると後ろの奴に
当たってしまうので、
そのまま腹に受けた。
「ぼ、僕はやってない!!」
ザウスは泣きそうな顔で
俺を見つめる。
「じゃあ、てめぇ以外に誰がいんだよ!!」
そんなザウスにガンドが
ブチ切れて殴りに行こうとするのを
慌てて俺は止める。
「何で止めんだよ、レウ!!」
「…ちょっと耳を貸せ。」
俺はガンドを引っ張って
俺に近寄らさせる。
「…何だよ。」
ガンドは不満気な顔で
大人しく俺に耳を寄せた。
その耳に小さな声で呟く。
「…監視カメラを撃ってくれ。」
「…はぁ?」
…何言ってんのコイツ…みたいな顔で
見ないでくれ。
「頼む。良いからやってくれ。部屋の隅にある4つを撃ってくれ。今、それをしなければヤバいんだ。」
俺は真剣な顔でガンドを見る。
ガンドは俺の目をしばらくじっと
見ていたが、ハァ一と深いため息を
吐いてから立ち上がり、
すぐ様、魔銃を構えて撃った。
ー パンパンッ!パンパンッ!!
バキンッと嫌な音を立てて
監視カメラが壊れた。
「…これで、良いのか!?」
「ああ、ありがとう。」
そう言って俺はポケットから
ADXを取り出して父上に
連絡をする。
ー ピ~~~ピッ。
「父上、レウです。」
『ん?レウ??今は授業中じゃないのか?』
時計を見るともう授業の時間に
なっていた。
しかし、この部屋では
着席のチャイムすら鳴っていない。
「…実は問題発生です。多分、第3訓練場は外部から…ハッキングされてます。」
『何?』
父上の声音が厳しいものへと変わる。
「れ、レウ君!!」
ヒスティエが俺の元に
泣きそうな顔で寄ってくる。
「どうしよう!!ここの扉が…開かないの!!」
「え!?何だと!?」
ヒスティエの声に野次馬達が
扉に駆け寄り、扉を開けようとするが
扉はびくともしない。
「…やっぱりか。…父上、俺を含め約20名程の生徒が、第3訓練場に閉じ込められています。」
『ッ!!……セキュリティに関する事は、ニコレッタに任せているはずだが…アイツは何をやってるんだ!!』
ダンッと何かを叩く音が
ADXから聞こえる。
『…怪我人はいるか?』
「…怪我人はいません。…監視カメラは、ハッキングされていると思い、破壊しました。」
俺の怪我人はいないという言葉に
ガンドとヒスティエが
何か言おうとするが、目で黙らせる。
『そうか。なら、すぐに対処するから待っていてくれ。』
「了解です。」
ー ピッ。
「何で怪我人はいないって言ったんだよ!?レウ!!」
父上との連絡を絶った途端に
俺に怒るガンド。
「…大した事ないからな。ほら、既に血は止まっている。」
「は!?んなすぐに血が止まるわけ……止まってる?」
俺の傷口を見て驚くガンド。
「…昔から怪我が治るのが早いからな。」
…実は別に早くない。
ガンドが監視カメラを撃った時、
その場にいた全員の目線はガンドか
監視カメラに集まる。
その間に腹と腕に手を当てて
自分に治癒魔術を施しただけだ。
「……ザウス。」
「…ひ、ひぃっ!?」
俺はザウスへと近寄る。
怯えて少し後ずさるザウス。
「…一つ聞きたい事がある。…その魔銃、最近メンテナンスをしたか?」
「へ?」
怒鳴られると思ったのだろうか、
俺の質問に間抜けな声を出すザウス。
「…め、メンテナンス?…昨日、専門の者にメンテナンスさせたが…。」
「それは、お前の家のお抱えの者か?」
裕福な家はたまにお抱えの整備士を
雇っている事がある。
「…いや、昨日はワシリーに良い整備士を知ってるからって…一緒に整備して貰えるからって言われたからワシリーに魔銃を預けてやって貰った。……だよな?ワシリー……あれ?ワシリー??何処だ?」
ザウスの取り巻きの1人である
ワシリーという奴が居なくなったらしい。
「エリーナ!!ワシリーは!?」
「えっと…先ほどまでいらしてたのですが…。」
エリーナと呼ばれたザウスの取り巻きの
女子はキョロキョロと辺りを
見回して首を傾げる。
「……逃げられたか。」
俺は小さく呟く。
「え?何か言ったか??」
「何も?……ヒスティエ?」
急にヒスティエが俺の後ろから
制服をきゅっと掴んできた。
後ろにいるため、ヒスティエの
表情は分からない。
「………せぃ?」
「ん?」
「……また、私のせい?」
「……ヒスティエ。」
ヒスティエの声はひどく小さく、
掠れ、悲しみを含んでいた。
俺はくるりと体を半分反転させて
ヒスティエの頭を俺の胸に
押し付ける。
「…今回はヒスティエのせいじゃない。多分、俺のせいだ。だから、ヒスティエが気にする事じゃない。…それに、前に言っただろう?ヒスティエは何も悪い事はしてないって。」
そう言って煌めく銀髪を
さらさらと優しく撫でる。
「…………。」
暫く無言でそうしていると、
ガンドがこほんっと咳払いをした。
「あー…イチャついてるとこ悪いんだが、…俺らが気まずいから、そういうのは二人の時間の時にやってくれ…。」
ふと周りを見ると何故か
全員が俺とヒスティエを見ていた。
ガンドの言葉にヒスティエも
顔をあげて周りを見て
口をパクパクしてから、
あぅぅ…と顔を真っ赤にしながら
小さくうずくまった。
「イチャつくってどういう意味だ?」
「あー…えぇー?マジで言ってる?それ…。」
ガンドはもういいやとでも言いたげに
手をひらひらと振った。
ー ガチャン
「…全員無事かな?」
扉が開いて入って来たのは
ニコレッタさんだった。
周りの者達は扉が開いた事に
ホッとした表情を浮かべる。
「生徒は各自、自室に戻れ。今日は授業は全て無しだ。校外にも出るな。分かったな?」
ニコレッタさんの指示に
従ってこの部屋から出て行く生徒達。
「ニコレッタさん。」
「ああ、レウ。お前は残ってろよ?あと…ヒスティエ・バーデン、ガンド・メイヒュー、ザウス・モーソンの3人も。」
ニコレッタさんの言葉にヒスティエは
首を傾げつつ頷き、ガンドは
怒られんのかな…と呟き、
ザウスは顔を青くしていた。
ニコレッタさんは全員が出て行った
ところで俺達から事情を聞いた。
「ふーん。そうか。…なら、お前の取り巻きとやらが怪しいな。そいつは?」
ニコレッタさんはザウスを
ジロっと見ながら言ったので
ザウスはますます顔を青くする。
「どうやら、逃げたようです。」
「…ふむ。」
ニコレッタさんが何か考えていると
誰かのADXの着信音が鳴る。
ー ピー。
「…ん?…ああ、私のか。」
ニコレッタさんが何故か
胸の谷間にあった小さなADXを
取り出した。
ちなみにこれを見てヒスティエは
何故かじっとニコレッタさんを
見つめ、ザウスは顔を真っ赤にして
目を慌てて逸らし、ガンドは
ヒュゥッと口笛を吹いてから
すげぇーと呟いていた。
ー ピッ。
「何だ?…ああ、お前か。………そうか。ならいい。私も後で王城に向かう。…じゃあな。」
ー ピッ。
「…お前の取り巻きの件はどうやら片付いたようだ。身柄は王城に運ばれたらしい。」
「そうですか。」
なら安心だ。
…しかし、一体誰がワシリーを
捉えたのだろうか。
「じゃあ、ガンドとモーソン家のご子息は帰っていいぞ。レウとヒスティエはついてこい。」
「何で二人はついていくんだ…ですか?」
ガンドが仲間外れにされて
不服そうに口を尖らせる。
「ふむ。何故…か。」
「それに、レウは怪我してんですよ?」
「は?」
ニコレッタさんがじろーりと
俺を見てきた。
そしてニッコリと笑う。
しかし、目が笑ってないし、
周りから黒いオーラが漂っている。
「…レウ?」
…ガンドめ、余計な事を。
「もう血は止まっているので大丈夫ですよ?」
「そんな早く……ッ。」
ニコレッタさんは一瞬何かを
言おうとしたが、口を塞いで
それからため息を吐いた。
「なら、良い。行くぞ。」
俺とヒスティエは
ニコレッタさんの後に続いて
部屋を出た。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
~数十分前~
「………ここまで来れば大丈夫か。」
ポツリと呟いた少年は
ふうっと息を吐く。
少年がいるのは、
アルヴィート王国魔術学校から
少し離れた人気のない場所。
緑が生い茂る森の中、
少年は懐からADXを取り出して
誰かと通信を取ろうとする。
ー パキンッ!!
「!?」
突然、取り出したADXが
粉々になって地面に散らばる。
少年は呆然とその光る欠片を見つめた。
「…な、なッ!?」
やっと状況を理解した少年は
キョロキョロと周りを見回す。
「…こっちだよ。」
透き通るような声が少年の後ろから
聞こえてきた。
声に男が振り向くと
木の木陰から美少年が出てきた。
美少年はニコニコと笑いながら
立っているが、その背中には
スナイパー型の水色の魔銃が
キラリと光っている。
その姿に顔が引き攣る少年。
「…ごめんね?君のADX壊しちゃって。連絡取られると困るんだよね…。」
申し訳なさそうに言う美少年。
少年はその言葉にゾッとした。
バレている…自分が何者か、と。
「聞いてる?…ワシリー・ドレイク君?」
少年…ワシリーはゴクリと
唾を飲み込んだ。
本能が叫んでいる。
逃げろ、と。
しかし、その行為を留めているのは
完璧な美少年の笑顔。
…怖い、どうすればッ。
「…ふふっ。そんなに怖がらないでよ。僕がそんなに怖い?」
ああ、怖いと心の中で呟くワシリー。
「そっかー…残念だな。…ねぇ?君もそう思う?」
「当たり前でしょう。」
「え?」
ー パンッ!!……バチバチバチッ!!
「ぅがぁッぁぁあぁ!!!?」
ワシリーが最後に見たのは
おやすみと笑う美少年と
アルヴィート王国魔術学校の
制服を来た少女だった。
(あれは……誰だ?)
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