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第二章
第3話
しおりを挟む部屋で俺と母上、師匠が
談笑していると険しい顔をした父上と
ユリヤさんが入ってきた。
「父上…ユリヤさん…?」
「…何があった、ディオン。」
師匠は真剣な顔で父上を見ている。
「…先程、国王陛下から連絡があった。…ヤード王国で大規模な爆発が起きたそうだ。」
「なっ!?」
師匠は立ち上がってユリヤさんを見る。
「……事実です。」
ユリヤさんが師匠を見て
ゆっくりと口を開いた。
「…チィッ!!…おい、ディオン。俺はヤード王国に行く!!」
師匠は言うや否や扉へと手を掛けた。
そして俺を見る。
「…レウ!!」
「…はい。」
「…またな。」
「はい、お気を付けて。」
ー バタンッ。
師匠は部屋から出ていった。
師匠はヤード王国に思い入れがある。
よくヤード王国の海について
話をしてくれた。
『レウ!海はなぁ…広くて青い!悩みなんて吹っ飛んじまうくらい綺麗だ!いつか…一緒に行こうな!』
そんな師匠の好きな国が汚された。
あんなに動揺するのもわかる。
「父上、俺は…。」
「行かなくていい。いや…行くな。」
父上は直ぐに答えたが、
目は俺を見ていない。
「…国王陛下もお前には国にいて欲しいと仰っていた。陛下はヤード王国での爆発は、サルザット帝国が仕組んだ事だと思っている。だから、次はこの国で何かあるかもしれない…と。」
「この国で…。」
「ヒスティエ・バーデンがまた狙われる可能性もある。」
「!!」
そうだ…この騒動の最中に
また、ヒスティエが狙われるかもしれない。
「…なら、明日友達を呼びなさい。」
今まで静かに話を聞いていた
母上が俺を見つめた。
「それなら、ヒスティエちゃんを護ることが出来るわ。それと、他のお友達も。…クラト君は心配ないけれど。」
「…友達?」
父上が怪訝そうに母上を見る。
「レウのお友達が、此処に遊びに来る予定だったのよ。それを明日にするの。」
父上は顎に手を当てて
少し考える素振りをしてから
口を開いた。
「…そうだな、それがいい。此処より安全な所は王城以外にないからな。使用人には私が伝えておこう。」
「ありがとうございます…。」
「…それと、レウ。」
父上はやっと俺の目を見た。
「状況が変わった。…魔術の使用を許可する。魔銃は今、ニコレッタの所に整備に出しているから後で渡そう。」
「分かりました。」
何があるか分からない。
ナイフだけでは、心配だ。
使える武器は多い方がいい。
「では、俺は今からユリヤと王城に向かう。」
「いってらっしゃいませ。」
母上は何時もと変わらない
笑顔を二人に向けた。
「ああ。行ってくる。」
「行ってきます、キッカ姉様。」
二人も笑顔で応えた。
そして俺を見つめる。
「…留守を任せた。」
「はい。…お気をつけて。」
「ああ。」
ー バタンッ。
「…さて、忙しくなるわね。」
母上は暫く扉を見つめていたが、
そう言ってふふっと笑った。
「そうですね…。」
「私は色々と準備をしてくるから、レウはお友達に連絡してね?」
「はい。」
とりあえず、ガンドに聞こう。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「先程、ヤード王国に外商に行っていた父と連絡がとれました。」
アルヴィート王国王城の王の書斎にて、
仕事着に身を包んだクラトは
疲れた顔で王に報告した。
「そうか。父君は無事かい?……その顔を見るに、無駄な心配だったかな?」
イヴァール王はクラトを見て苦笑した。
「…父の運の良さは、ご存知でしょう?今回は取引をした店を出て、五分後にその店が…ボンッ!…となったそうです。母はそれを聞き、動揺して商品を壊しそうでした…。」
「…ぷっ!!あははは!!」
イヴァールは笑うのを堪えていたが
我慢出来ずに吹き出した。
「『取引が成立したお店が今、燃えちゃった…。』って心底残念そうに話す父に、毎回無事なのかって聞く自分が、間違っているのかと思うようになりました。」
「いやいや、間違ってないからね?……いや~、相変わらずだねぇー。」
イヴァールは昔を懐かしむように
すっと目を柔らかく細めた。
「他に報告は?」
「…ヤード王国国王側近、ベッツィー・ダウランドと連絡がとれました。」
イヴァールは直ぐに真剣な顔になった。
「…彼女は何と?」
「…状況は最悪らしいです。ヤード王国各地で火の手が上がり、今は人命救助を最優先して動いているそうです。」
「…そうか。」
イヴァールは思案するように
目を伏せた。
「爆発物の特定はまだ出来てなく、二次爆発の可能性を考え、拓けた土地に市民を避難させているそうですが…。」
クラトは意見を求めるように
イヴァールを見る。
「…爆発物が地中に埋まっている可能性は、低いだろう。広範囲での爆発なら、それだけ誰にも気付かれずに埋めるのは難しい。…いい判断だ。」
クラトは成程と頷き、
それにしてもと顔を顰める。
「爆発物についてですが…気付かれずに、大量に散布出来るもの…一番簡単なのは、輸入品に紛れ込ませる事ですが…。」
「ヤード王国と貿易をしているのは、我が国だけ…。それに、貿易と言ってもそこまで街に散布するだけの量の取引はしていない。」
「……手詰まりですね。」
「……ああ。」
ー コンコンコンッ
静まり返った部屋にノック音が響いた。
「…何だ。」
「ディオン様とユリヤ様がご到着なされました。」
通せとイヴァールが言うと、
直ぐに二人が部屋に入ってきた。
「…クラト?」
ディオンが何故お前がと
言いたげな顔でクラトの名前を呟いた。
まだクラトの謹慎処分は解けていないのに
何故だ、と。
「お久しぶりですね、ディオン様。」
クラトはにっこりと笑う。
「…ディオン、クラトに関しては状況が状況だ。だからそんな顔をするな。」
イヴァールはディオンを見て、
苦笑しつつ言った。
「…そうだな。」
ディオンはイヴァールに向き直る。
「どのくらい情報が入ってきている?」
ディオンの質問にクラトが
今わかっている情報を簡潔に話す。
そして、ディオンもメイヒョルが
ヤード王国に向かった事を話した。
イヴァールはメイヒョルが
向かったと聞いて、予想通りだから
問題ないと言う。
「…それにしても…なるほど、爆発物か…。」
「ああ、ディオンはどう思う。」
ディオンが目を閉じて考えていると、
ユリヤが口を開いた。
「陛下、関係ない事かもしれませんが…。」
「何だ?」
「私はヤード王国に知り合いがいるのですが…昨日、ADXで世間話をしていたところ、一部の反国王派の者達が、反乱の準備をしているかもしれないと言っておりました。」
「反乱!?」
クラトがびっくりした声を上げる。
それに続くようにディオンも
呆れた声を漏らす。
「…随分と馬鹿な事を考えたな。」
「…反乱?…何故?………っ!!」
イヴァールはぶつぶつと呟いていたが、
突然何かに気づいた様に顔を上げた。
「…そういう事か。」
「「「陛下?」」」
突然立ち上がったイヴァールを
驚いて見つめる3人。
イヴァールはADXを手に取ると、
何処かに連絡を取り始めた。
「…やあ、久しぶりだね。…うん、そうだね。…それで君に頼みたいんだが…。…ああ。」
イヴァールが連絡を取っている間、
3人は静かに待っていた。
「…ありがとう。…そうか。…うん、また。」
ー ピッ。
「ふぅ……取り敢えずこれでいいだろう。」
「陛下、何か分かったのですか?」
クラトが聞くとイヴァールは
ああと頷いた。
「今回の事件について大体分かった。…この件を考えた者は、余程頭が切れるな…。」
イヴァールは味方なら頼もしいが
敵とはなと苦笑する。
(だが……我が国には要らないな。この様な作戦を考え、実行する者など。…国を…民を…何だと思っている…。)
イヴァールは静かに心の中で呟き、
拳を握り締める。
「…まず、この事件の思惑についてだが、前回の学校で起きたサイバー攻撃と同様に、我が国とヤード王国の揺さぶりだろう。執拗に2度も行動を起こすとなると…もしかしたら、ヤード王国との同盟の件が漏れたのかもしれないな。」
という事は、内通者がアルヴィート王国か
ヤード王国のどちらかに…または
どちらにもいる可能性があるという事だ。
「では…今回の事件は、前回と同様に第一皇子が企んだと?」
ディオンの問いにイヴァールは頷く。
「そうだろうな。首謀者が第一皇子だとすると、爆発物が予想出来るからな。…恐らく、爆発物は第一皇子がヤード王国の者に渡したモノ。」
クラトは記憶を辿る様に
目を伏せた。
「取引したモノは、確か……魔銃。」
「魔銃?確かに、ヤード王国は魔銃の普及率は、アルヴィート王国とサルザット帝国に比べると、少ないので欲するのは分かりますが…。」
ユリヤが言うように、
ヤード王国では魔銃はあまり
出回っていない。
理由は、魔術の研究者が少なく、
また目指す者が居ても、
アルヴィート王国に留学し、
そのままそこで研究を続けるからだ。
さらに、ログル王が国の平和の為に
魔銃所持者に対して許可証の提出、
魔銃所持税など様々な法を
制定している為に、魔銃を所持しようと
する者は少ない。
「…魔銃が爆発なんてするんでしょうか?」
ユリヤの問いにクラトがチラリと
意味深な視線をイヴァールに向ける。
イヴァールはクラトの視線に対して、
許可するように頷いた。
「第一皇子率いる特殊部隊がある事はご存知ですか?」
ユリヤとディオンは首を横に振った。
「表向きには、第一皇子の護衛の為の隊となっていますが……あれは第一皇子にとって邪魔な者を排除する暗殺部隊です。」
クラトは内心思う。
その暗殺部隊で何を…
いや、誰を殺そうとしているのか、と。
イヴァール陛下?ログル王?
弟か妹か……それとも父親か?
「…そして、その部隊に入隊する者には第一皇子から特別な魔銃が与えられます。魔銃は最新式の優れたモノです。」
「…帝国は魔術に関する物は、進んでいるからな。」
ディオンは皮肉な口調で言った。
サルザット帝国が魔術先進国であるのは
国民を使い捨ての道具の様に
扱っているからだ。
子供と老人には農業や漁業をさせ、
成人男性には魔術の研究や
武器の生産などをさせている。
使い物にならない者や反抗する者は
その場で兵士によって即処刑。
身分が低い女性は、
身体を売ってその日その日の食べ物を
得ている。
普通の生活や贅沢な生活を
過ごす者などひと握り。
サルザット帝国はデムロス皇帝による
完全な独裁国家だ。
「更に、その魔銃にはある仕掛けが施されています。」
「仕掛け?」
「…何だと思います?ユリヤさん?」
「……発信機?」
ユリヤが言うとクラトは
それは別のモノに付けられてますと
苦笑して答えた。
「…仕掛けは爆発だ。」
イヴァールはポツリと呟いた。
「「…爆発!?」」
「…爆発する条件は、分からないがある条件を満たすと魔銃が爆発する仕掛けだ。」
「おそらく…自害の時の為でしょう。一人でも多くの敵を巻き込む為に…。」
「ッ…よく自分の部下にそんな事をさせられるな。」
ディオンはギリッと歯を噛み締めた。
ディオンの様子にクラトは、
目を伏せてゆっくりと首を横に振った。
「彼等は…自ら望んで……喜んで命を捨てるそうです。…第一皇子の為に。」
「なっ!!…自ら望んで?」
ユリヤは驚愕の表情を浮かべた。
「…一体どうして彼等は、第一皇子に命を捧げているのでしょうね?」
関係無い市民や血の繋がった兄弟を
容赦なく殺す第一皇子に、何故仕えるのか。
いくら大金を積んでも、自分の命を
簡単に自ら捨てられはしないだろう。
(…もっと詳しく調べないとな。)
クラトはこれからの計画を
新しく脳裏に刻んだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「…誰からでしたか?」
カッチリとしたフォーマルな服を
着こなす二十代程の男が、
ADXで連絡を終えた主に声をかけた。
「んー?…昔の悪友??」
「…ディオン様でしょうか?」
「いや、もう一人いるよー。」
男は記憶を辿るように
目を伏せてから、まさかという顔で
恐る恐る主に聞く。
「……イヴァール国王陛下ですか?」
「ピンポーン!正解だよ。久しぶりに連絡してきたと思ったら、めんどくさい事頼まれたよ…。早く、愛しの妻と息子に会いたいのに…。」
男の主はそう言ってしょんぼりする。
男は苦笑しながら主に尋ねる。
「…で、何を頼まれたんです?」
「…この国の修復だよ。」
そう言って男の主は
混沌と化したヤード王国を見つめた。
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