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私は私のまま生きていく
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お久しぶりですね。元旦那様。
正直言って、面会を希望しても、周囲が止めるより、あなた自身が会ってくださらないかと思っていましたの。本来の体に戻った元妻になど興味ないでしょうから。
暇だから、ですか?
そうですわね。
今のあなたは主に王国を守護する結界を維持するための魔力炉に、その絶大な魔力を注ぐためだけに、高貴な罪人が囚われる王宮の西の塔で生かされている。
一見ブレスレットとアンクレットに見えるあなたの両手足を縛める魔道具は、あなたの生命維持に必要な魔力以外の魔力を全て吸い上げ魔力炉に注ぐだけでなく、あなたが逃げだしたり自殺しないための術式も組み込まれている。
魂を入れ替えるという禁呪を使ったのです。本来なら死刑になるのが当然のあなたが生かされているのは、偏に、その絶大な魔力を有効活用しようと王家や重臣の方々が考えたからですわね。
自慢どころか、唯一の拠り所だった魔力を搾取されるだけで、誰も会いに来ないのなら暇を持て余して当然ですわね。
勝手に自分と妹の体に魂を入れ替えられたという事だけをとれば、私もまた被害者ですけど、その状況を受け入れ、あなたに文句一つ言わなかった私もまた死刑になって当然だったのに、こうして生きているだけでなく、あなたと違って幽閉される事もなく自由な生活を送る事もできている。
妹が姉もまた自分と同じ、いえ、死にかけた事を思えば自分以上の被害者だと周囲に訴えたからですね。
それが、あの妹の優しさだろう、ですか?
ふふ、あなたは、本当に、あの子の事も、私の事も、何一つ分かっていないのですね。
あの子が姉を死刑にも幽閉にもしなかったのは、優しさでも気遣いでもない。むしろ、逆です。
自分の体と人生を奪った加害者である私とあなたが、あっさり死ぬのが、あの子には許せないのですよ。
あなたは自由と魔力を奪われ、ある意味で、死ぬよりもつらい目に遭っている。
だから、姉に対しては、私が望んでいた未来、女子爵となった姿を見せつける事、修道女として信じてもいない神に仕えさせる事が、あの子の復讐なんですよ。
私の体に入った妹は修道女となり、妹の体に入った私は、あなたを夫にして女子爵となっていた。世間的には、姉が修道女、妹が女子爵。魂が本来の体に戻っても、それは変わりませんもの。
まあ、領民にとっては優れた領地経営をしてくれるなら、私か妹、どちらが女子爵となっても構わないでしょうね。そして、幸い、あの子には、それだけの能力がある。貴族の家に生まれた者としては、領民を虐げるような無能が領主にならなくてよかったと思っていますわ。
私個人としては、望んでいた未来を、女子爵の座を奪われたのは悔しいですけれど。まあでも、死刑にならず、あなたと違って幽閉される事もなく自由に生活できるのだから、そんな事を言ってはいけませんわね。
ふふ、わざわざ、あの子と私の魂を入れ替える必要などなかったのに。
むしろ、あの子のほうが、あなた好みの女だったのだから。
怪訝そうな顔をしていますが、あの子は、私などよりも、ずっと酷薄でしたたかな女ですよ。魂を入れ替えられても、本来の自分の体が死に瀕しても、このまま姉の体で生きていこうと割り切れるほどの。
私が入った妹の体が死にかけると、あなたは伯爵令嬢の体に私を入れた。
それが運の尽きでしたね。
妹に比肩する美少女の伯爵令嬢、私の婚約者だった辺境伯の従妹にあたる方。
彼女には、あなたに匹敵する魔力があったけれど、どういう訳か、自分では行使できず、代わりに、あなたの師匠でもある魔術師に魔力を譲渡していた。
そして、あなたの師匠は、彼女からもたらされる絶大な魔力を使って私達を元に戻した。そのお陰で、私も妹も伯爵令嬢も健康を取り戻して、こうして生きている。
妹は、その縁で伯爵令嬢の弟君と知り合い、相思相愛となり結婚した。
私もですけど、あの子も、あなたの美しい顔は愛しても、その人格には興味なかった。けれど、伯爵令嬢の弟君に対しては、伯爵令嬢に似た美貌だけでなく、その人格も愛しているらしいですわ。
妹と伯爵令嬢の体になった途端、寝込むようになったから、あなたは私、いえ、妹と伯爵令嬢の体を抱かなかった。あなたが体調の悪い妻を強引に抱くようなクズ野郎でなかったのは、あの子と伯爵令嬢には幸いでしたわね。
伯爵令嬢は身を穢されずに済み、妹も真に愛する男性に純潔を捧げる事ができたのですもの。
私は私の体でしか生きられない。たまに、そういう人間がいるそうですね。
魂を入れ替える禁呪自体、膨大な魔力と繊細で難解な術式が必要であり、何より、禁呪ですもの。それを行使できる、また行使しようという魔術師は、まずいない。
だから、あなたほどの魔術師でも、私のように自分の体以外受け付けない人間がいるなど想定していなかったのも仕方ありませんね。
でも、私がそういう人間だと分かった後でも、あなたは私と伯爵令嬢の魂を入れ替えた。そして、やはり伯爵令嬢の体でも私は寝込むようになってしまった。
その時ですね。私のあなたへの恋情が完全になくなったのは。
最初の、妹と入れ替えられた時はよかった。
辺境伯と結婚せずに済みましたもの。
辺境伯の顔が好みじゃないし、贈られてくるプレゼントもセンスが皆無で嫌だったし、人の話を聞かず、一方的に、つまらないどうでもいい話をする所も嫌い。彼の領地であるくそ寒い辺境伯領にも行きたくなかった。
だから、妹には災難だったでしょうけれど、妹と入れ替えてくれて感謝しましたわ。
でも、さすがに、死にかけた私を元の体に戻さず、伯爵令嬢の体に入れられては恋情も醒めました。
私と妹は趣味嗜好や価値観、思考回路も似ているのに、誰もそれに気づかず、両親ですら外見が美しい妹だけを愛した。私と妹が入れ替わった後も、それに全く気づかず、変わらず溺愛してくるのですもの。両親が愛しているのは妹の美しい外見だけで、人格など、どうでもよかったのだと分かりましたわ。
でも、辺境伯だけは私と妹が入れ替わった事に気づいて、私と妹を元に戻そうと奮闘した。修道院にまで行って、私の体になった妹を連れ戻そうとしたり、挙句、あなたに何度も何度も、しつこいくらい私達を元に戻すように言ってきたから、うっとうしくなって、あなたは彼を殺したわね。
非難している訳ではありませんわよ。私が「別人」になっても気づくくらい私を愛してくれても、私は辺境伯が嫌い。死んでも何とも思わないわ。むしろ、これで、本当に彼と結婚せずに済んだという喜びしかないわ。辺境伯家も、あんな無能より、もっと有能な人間を当主にしたほうが余程いいでしょうしね。
ところで、元旦那様。
私と妹は、その美貌だけに価値を見出していましたが、あなた自身や他の方々は、その絶大な魔力だけに価値を見出していたようですね。
あなたは外見が妹で中身が私の「私」を愛した。この体でこの中身の本来の私を愛してくれなかった。私が死にかけても元の体に戻してくれなかったもの。
あなたが本当の意味では私を愛してくれなかったように、その美貌や魔力を抜きにして、本当の意味で、あなたを愛してくれた人はいたのかしら?
ああ、でも、こんな所に閉じ込められ、誰に会う事もなく、ただ魔力を搾取されるだけの人生なら、愛されない事など、もうどうでもいいですわね。
せいぜい、その絶大な魔力を国のために役立ててくださいな。
私もまた、この国に生きる国民の一人なので、末長い安寧を祈っているのです。そのために、あなたの魔力が必要なら、一日でも長く生きていてほしいと思いますわ。
ああでも、誰に会う事もなく話す事もない、ただ魔力を搾取されるだけの人生で、どれだけ正気を保てるかしら?
元妻として、一日でも長く正気でいられるよう祈っていますわ。ふふ、むしろ、さっさと発狂して、ただ魔力を魔力炉に注ぐだけの人形となるほうが幸せかしらね。
禁呪を行使して人に迷惑かける事もない。
愛されない事に苦しむ事もない。
たとえ、発狂しても、生きている限り、あなたの魔力は魔力炉に注がれ、国のために役立てられるのですもの。充分すぎるほどの存在意義ではないですか。
なぜ、そんなひどい事を俺に言うんだ、ですか?
決まっているじゃないですか。
私を殺しかけた、あなたへの意趣返しですわ。
魔道具に拘束され、ここに幽閉された時に、自身に訪れる未来を予測していたでしょうが、はっきり他人に告げられたほうがダメージが大きいでしょう?
だから、こうして直接、懇切丁寧に教えてさしあげたのですわ。
さようなら、元旦那様。
もう二度とお会いする事はありません。
せっかく永らえた命ですもの。
望んでいた未来を絶たれても、誰に愛されなくても、私は私のまま精一杯生きていく。
この体で、この中身の、私は私のまま生きていく――。
正直言って、面会を希望しても、周囲が止めるより、あなた自身が会ってくださらないかと思っていましたの。本来の体に戻った元妻になど興味ないでしょうから。
暇だから、ですか?
そうですわね。
今のあなたは主に王国を守護する結界を維持するための魔力炉に、その絶大な魔力を注ぐためだけに、高貴な罪人が囚われる王宮の西の塔で生かされている。
一見ブレスレットとアンクレットに見えるあなたの両手足を縛める魔道具は、あなたの生命維持に必要な魔力以外の魔力を全て吸い上げ魔力炉に注ぐだけでなく、あなたが逃げだしたり自殺しないための術式も組み込まれている。
魂を入れ替えるという禁呪を使ったのです。本来なら死刑になるのが当然のあなたが生かされているのは、偏に、その絶大な魔力を有効活用しようと王家や重臣の方々が考えたからですわね。
自慢どころか、唯一の拠り所だった魔力を搾取されるだけで、誰も会いに来ないのなら暇を持て余して当然ですわね。
勝手に自分と妹の体に魂を入れ替えられたという事だけをとれば、私もまた被害者ですけど、その状況を受け入れ、あなたに文句一つ言わなかった私もまた死刑になって当然だったのに、こうして生きているだけでなく、あなたと違って幽閉される事もなく自由な生活を送る事もできている。
妹が姉もまた自分と同じ、いえ、死にかけた事を思えば自分以上の被害者だと周囲に訴えたからですね。
それが、あの妹の優しさだろう、ですか?
ふふ、あなたは、本当に、あの子の事も、私の事も、何一つ分かっていないのですね。
あの子が姉を死刑にも幽閉にもしなかったのは、優しさでも気遣いでもない。むしろ、逆です。
自分の体と人生を奪った加害者である私とあなたが、あっさり死ぬのが、あの子には許せないのですよ。
あなたは自由と魔力を奪われ、ある意味で、死ぬよりもつらい目に遭っている。
だから、姉に対しては、私が望んでいた未来、女子爵となった姿を見せつける事、修道女として信じてもいない神に仕えさせる事が、あの子の復讐なんですよ。
私の体に入った妹は修道女となり、妹の体に入った私は、あなたを夫にして女子爵となっていた。世間的には、姉が修道女、妹が女子爵。魂が本来の体に戻っても、それは変わりませんもの。
まあ、領民にとっては優れた領地経営をしてくれるなら、私か妹、どちらが女子爵となっても構わないでしょうね。そして、幸い、あの子には、それだけの能力がある。貴族の家に生まれた者としては、領民を虐げるような無能が領主にならなくてよかったと思っていますわ。
私個人としては、望んでいた未来を、女子爵の座を奪われたのは悔しいですけれど。まあでも、死刑にならず、あなたと違って幽閉される事もなく自由に生活できるのだから、そんな事を言ってはいけませんわね。
ふふ、わざわざ、あの子と私の魂を入れ替える必要などなかったのに。
むしろ、あの子のほうが、あなた好みの女だったのだから。
怪訝そうな顔をしていますが、あの子は、私などよりも、ずっと酷薄でしたたかな女ですよ。魂を入れ替えられても、本来の自分の体が死に瀕しても、このまま姉の体で生きていこうと割り切れるほどの。
私が入った妹の体が死にかけると、あなたは伯爵令嬢の体に私を入れた。
それが運の尽きでしたね。
妹に比肩する美少女の伯爵令嬢、私の婚約者だった辺境伯の従妹にあたる方。
彼女には、あなたに匹敵する魔力があったけれど、どういう訳か、自分では行使できず、代わりに、あなたの師匠でもある魔術師に魔力を譲渡していた。
そして、あなたの師匠は、彼女からもたらされる絶大な魔力を使って私達を元に戻した。そのお陰で、私も妹も伯爵令嬢も健康を取り戻して、こうして生きている。
妹は、その縁で伯爵令嬢の弟君と知り合い、相思相愛となり結婚した。
私もですけど、あの子も、あなたの美しい顔は愛しても、その人格には興味なかった。けれど、伯爵令嬢の弟君に対しては、伯爵令嬢に似た美貌だけでなく、その人格も愛しているらしいですわ。
妹と伯爵令嬢の体になった途端、寝込むようになったから、あなたは私、いえ、妹と伯爵令嬢の体を抱かなかった。あなたが体調の悪い妻を強引に抱くようなクズ野郎でなかったのは、あの子と伯爵令嬢には幸いでしたわね。
伯爵令嬢は身を穢されずに済み、妹も真に愛する男性に純潔を捧げる事ができたのですもの。
私は私の体でしか生きられない。たまに、そういう人間がいるそうですね。
魂を入れ替える禁呪自体、膨大な魔力と繊細で難解な術式が必要であり、何より、禁呪ですもの。それを行使できる、また行使しようという魔術師は、まずいない。
だから、あなたほどの魔術師でも、私のように自分の体以外受け付けない人間がいるなど想定していなかったのも仕方ありませんね。
でも、私がそういう人間だと分かった後でも、あなたは私と伯爵令嬢の魂を入れ替えた。そして、やはり伯爵令嬢の体でも私は寝込むようになってしまった。
その時ですね。私のあなたへの恋情が完全になくなったのは。
最初の、妹と入れ替えられた時はよかった。
辺境伯と結婚せずに済みましたもの。
辺境伯の顔が好みじゃないし、贈られてくるプレゼントもセンスが皆無で嫌だったし、人の話を聞かず、一方的に、つまらないどうでもいい話をする所も嫌い。彼の領地であるくそ寒い辺境伯領にも行きたくなかった。
だから、妹には災難だったでしょうけれど、妹と入れ替えてくれて感謝しましたわ。
でも、さすがに、死にかけた私を元の体に戻さず、伯爵令嬢の体に入れられては恋情も醒めました。
私と妹は趣味嗜好や価値観、思考回路も似ているのに、誰もそれに気づかず、両親ですら外見が美しい妹だけを愛した。私と妹が入れ替わった後も、それに全く気づかず、変わらず溺愛してくるのですもの。両親が愛しているのは妹の美しい外見だけで、人格など、どうでもよかったのだと分かりましたわ。
でも、辺境伯だけは私と妹が入れ替わった事に気づいて、私と妹を元に戻そうと奮闘した。修道院にまで行って、私の体になった妹を連れ戻そうとしたり、挙句、あなたに何度も何度も、しつこいくらい私達を元に戻すように言ってきたから、うっとうしくなって、あなたは彼を殺したわね。
非難している訳ではありませんわよ。私が「別人」になっても気づくくらい私を愛してくれても、私は辺境伯が嫌い。死んでも何とも思わないわ。むしろ、これで、本当に彼と結婚せずに済んだという喜びしかないわ。辺境伯家も、あんな無能より、もっと有能な人間を当主にしたほうが余程いいでしょうしね。
ところで、元旦那様。
私と妹は、その美貌だけに価値を見出していましたが、あなた自身や他の方々は、その絶大な魔力だけに価値を見出していたようですね。
あなたは外見が妹で中身が私の「私」を愛した。この体でこの中身の本来の私を愛してくれなかった。私が死にかけても元の体に戻してくれなかったもの。
あなたが本当の意味では私を愛してくれなかったように、その美貌や魔力を抜きにして、本当の意味で、あなたを愛してくれた人はいたのかしら?
ああ、でも、こんな所に閉じ込められ、誰に会う事もなく、ただ魔力を搾取されるだけの人生なら、愛されない事など、もうどうでもいいですわね。
せいぜい、その絶大な魔力を国のために役立ててくださいな。
私もまた、この国に生きる国民の一人なので、末長い安寧を祈っているのです。そのために、あなたの魔力が必要なら、一日でも長く生きていてほしいと思いますわ。
ああでも、誰に会う事もなく話す事もない、ただ魔力を搾取されるだけの人生で、どれだけ正気を保てるかしら?
元妻として、一日でも長く正気でいられるよう祈っていますわ。ふふ、むしろ、さっさと発狂して、ただ魔力を魔力炉に注ぐだけの人形となるほうが幸せかしらね。
禁呪を行使して人に迷惑かける事もない。
愛されない事に苦しむ事もない。
たとえ、発狂しても、生きている限り、あなたの魔力は魔力炉に注がれ、国のために役立てられるのですもの。充分すぎるほどの存在意義ではないですか。
なぜ、そんなひどい事を俺に言うんだ、ですか?
決まっているじゃないですか。
私を殺しかけた、あなたへの意趣返しですわ。
魔道具に拘束され、ここに幽閉された時に、自身に訪れる未来を予測していたでしょうが、はっきり他人に告げられたほうがダメージが大きいでしょう?
だから、こうして直接、懇切丁寧に教えてさしあげたのですわ。
さようなら、元旦那様。
もう二度とお会いする事はありません。
せっかく永らえた命ですもの。
望んでいた未来を絶たれても、誰に愛されなくても、私は私のまま精一杯生きていく。
この体で、この中身の、私は私のまま生きていく――。
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