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「……お分かりになったでしょう? 私がどれだけ最低な女か」
ただただ呆然とイレーヌの話を聞いているウィルに、イレーヌは自嘲の笑みを向けた。
「……国や家族を奪った男を憎むよりも、身代わりにされた事に憤る、どうしようもない女です。こんな私に、あなたの母だと名乗る資格も、そう思ってもらえる資格もない」
何より、父そっくりに成長した現在のウィルに対して複雑な想いがある。
それでも――。
「それでも、母として、あなたに生きていてほしいと思う気持ちに嘘はありません」
ウィルはゼドゥ国の国王の息子ではない。けれど、自分を王太子と信じ自分を庇って死んでいった臣下達への罪悪感が、死ぬと分かっていても彼に戦いを挑む理由なのだろう。
王妃と国王がウィルを王太子にした。ウィルが王太子として生きる破目になり、彼に重傷を負わされたのは、王妃と国王のせいだ。
ウィルには何の罪もない。
けれど、そう簡単に割り切れないのだろう。
実際に、目の前で自分を庇って死んだ人間を目にしては。
「……俺に、あいつと戦うなというのか? あいつが俺の生物学上の父親だから?」
ウィルはほろ苦く笑った。
「……貴女の胎にいるうちから俺を殺そうとした男を生物学上以外で父親と思えというのは、絶対に無理だ」
「そういう事ではありません」
ウィルの誤解を解くためにイレーヌは必死な顔で言った。
「いくら血が繋がっていても肉親の情を抱けない人もいます。愛情は強制できません。
彼が父親だから戦うなと言っているのではありません。私はただ、あなたに生きていてほしいのです。……それが、あなたを苦しめる事になっても、生きていてほしい。ただ、それだけなんです」
これはイレーヌの我儘だ。
時には生きている事のほうがつらい。この十八年、イレーヌもそうだった。
ウィルも自分一人が生き残った現実がつらいのだ。
それでも、我が子には生きていてほしい。
それが、ウィルを苦しめる事になっても――。
「……俺は十八年、貴女の傍にいなかった。こんな俺がいなくなったとしても、悲しまなくていいんだ」
ウィルは優しく微笑んだ。その顔がひどく父に似ていて、イレーヌは泣きたくなった。
「……確かに、十八年、あなたは私の傍にいなかった。それでも、我が子が、この世界のどこかに生きていてくれる事が、ここに閉じ込められ決して死ねない私の支えになった」
イレーヌは泣きそうな顔で微笑んだ。
「……あなたは私の最後の希望。それを奪わないで」
ウィル自身がいなくなる事を望んでいるのだとしても、イレーヌは絶対に認めない。
ウィルのためではない。自分のためだ。
自分がこれからも生きるために、ウィルには生き続けてほしい。
そんな醜い思いが言わせた言葉だった。
「……イレーヌ」
ひどく困った顔をしたウィルだが、次の瞬間、顔色を変えた。
ウィルだけではない。イレーヌもだ。
自分達の目の前に現れた存在故に――。
空間が揺らいだと思ったら、目の前に現れたのだ。
魔族だが「彼」ではない。
尖った耳、短い黒髪と黒い瞳、中背痩躯、そして、彼に匹敵する美貌。
同じ魔族だのに、彼とは、だいぶ印象が違う。
彼の表情からは人間とは違う思考回路と長すぎる生による重厚さが窺い知れた。それが、人間離れした美貌と相まって他者を威圧する空気を放っていた。
けれど、現れた魔族の青年は、親しみやすささえ感じる穏やかな顔をしている。
だが、なぜだろう。
イレーヌには、この目の前の一見、穏やかで優しげな顔をした魔族のほうが、彼よりも恐ろしい存在に思えて仕方なかった。
それは、ウィルも同じらしく、ひどく緊張した顔をしている。それでも、魔族からイレーヌを庇うように彼女の前に立った。
「やあ」
魔族は、ひどく人懐っこい笑顔をイレーヌとウィルに向けた。
それでも、イレーヌとウィルの警戒心は解けなかった。
そんなイレーヌとウィルに構わず、魔族は自己紹介した。
「僕はジェームズ。魔王だ」
「「魔王!?」」
イレーヌとウィルは同時に驚きの声を上げた。
ジェームズと名乗った魔王は、しげしげとウィルを見つめると納得したように頷いた。
「……ああ、なるほど。あの馬鹿娘が惚れるのも分かる。いい男だね。君」
「……魔王が俺達に何の用だ?」
強張った顔で尋ねるウィルとは対照的に魔王は穏やかに言った。
「君達に会いたかったんだ」
「私達に?」
ウィルの背後でイレーヌは首を傾げた。なぜ、魔王がイレーヌとウィルに会いたいなどと思うのだろう?
「君に付きまとっていたあの馬鹿娘、僕の娘なんだ」
魔王は、さらりとイレーヌとウィルにとって衝撃的な発言をした。
「……あのアイリーンという魔族、あなたの娘なんですか?」
イレーヌの確認に魔王は頷いた。
「ああ。僕と僕の愛する人間の女、アイリーンとの間に産まれた娘だ」
(……魔王が愛する人間の女性も「アイリーン」)
あの魔族のアイリーンは母親の名前をそのまま名付けられたのだろう。
魔族のアイリーンは彼と知り合いだった。だから、もしかしたら、彼の想い人は彼女ではないかと思っていた。……そうだったら絶望するなと。
けれど、本当は、彼の真実の想い人は――。
それだったら、身代わりが必要な理由も納得できる。
……だからといって、身代わりになどなってやる気はさらさらないが。
そもそも誰も誰かの身代わりになどなれないのだから――。
ただただ呆然とイレーヌの話を聞いているウィルに、イレーヌは自嘲の笑みを向けた。
「……国や家族を奪った男を憎むよりも、身代わりにされた事に憤る、どうしようもない女です。こんな私に、あなたの母だと名乗る資格も、そう思ってもらえる資格もない」
何より、父そっくりに成長した現在のウィルに対して複雑な想いがある。
それでも――。
「それでも、母として、あなたに生きていてほしいと思う気持ちに嘘はありません」
ウィルはゼドゥ国の国王の息子ではない。けれど、自分を王太子と信じ自分を庇って死んでいった臣下達への罪悪感が、死ぬと分かっていても彼に戦いを挑む理由なのだろう。
王妃と国王がウィルを王太子にした。ウィルが王太子として生きる破目になり、彼に重傷を負わされたのは、王妃と国王のせいだ。
ウィルには何の罪もない。
けれど、そう簡単に割り切れないのだろう。
実際に、目の前で自分を庇って死んだ人間を目にしては。
「……俺に、あいつと戦うなというのか? あいつが俺の生物学上の父親だから?」
ウィルはほろ苦く笑った。
「……貴女の胎にいるうちから俺を殺そうとした男を生物学上以外で父親と思えというのは、絶対に無理だ」
「そういう事ではありません」
ウィルの誤解を解くためにイレーヌは必死な顔で言った。
「いくら血が繋がっていても肉親の情を抱けない人もいます。愛情は強制できません。
彼が父親だから戦うなと言っているのではありません。私はただ、あなたに生きていてほしいのです。……それが、あなたを苦しめる事になっても、生きていてほしい。ただ、それだけなんです」
これはイレーヌの我儘だ。
時には生きている事のほうがつらい。この十八年、イレーヌもそうだった。
ウィルも自分一人が生き残った現実がつらいのだ。
それでも、我が子には生きていてほしい。
それが、ウィルを苦しめる事になっても――。
「……俺は十八年、貴女の傍にいなかった。こんな俺がいなくなったとしても、悲しまなくていいんだ」
ウィルは優しく微笑んだ。その顔がひどく父に似ていて、イレーヌは泣きたくなった。
「……確かに、十八年、あなたは私の傍にいなかった。それでも、我が子が、この世界のどこかに生きていてくれる事が、ここに閉じ込められ決して死ねない私の支えになった」
イレーヌは泣きそうな顔で微笑んだ。
「……あなたは私の最後の希望。それを奪わないで」
ウィル自身がいなくなる事を望んでいるのだとしても、イレーヌは絶対に認めない。
ウィルのためではない。自分のためだ。
自分がこれからも生きるために、ウィルには生き続けてほしい。
そんな醜い思いが言わせた言葉だった。
「……イレーヌ」
ひどく困った顔をしたウィルだが、次の瞬間、顔色を変えた。
ウィルだけではない。イレーヌもだ。
自分達の目の前に現れた存在故に――。
空間が揺らいだと思ったら、目の前に現れたのだ。
魔族だが「彼」ではない。
尖った耳、短い黒髪と黒い瞳、中背痩躯、そして、彼に匹敵する美貌。
同じ魔族だのに、彼とは、だいぶ印象が違う。
彼の表情からは人間とは違う思考回路と長すぎる生による重厚さが窺い知れた。それが、人間離れした美貌と相まって他者を威圧する空気を放っていた。
けれど、現れた魔族の青年は、親しみやすささえ感じる穏やかな顔をしている。
だが、なぜだろう。
イレーヌには、この目の前の一見、穏やかで優しげな顔をした魔族のほうが、彼よりも恐ろしい存在に思えて仕方なかった。
それは、ウィルも同じらしく、ひどく緊張した顔をしている。それでも、魔族からイレーヌを庇うように彼女の前に立った。
「やあ」
魔族は、ひどく人懐っこい笑顔をイレーヌとウィルに向けた。
それでも、イレーヌとウィルの警戒心は解けなかった。
そんなイレーヌとウィルに構わず、魔族は自己紹介した。
「僕はジェームズ。魔王だ」
「「魔王!?」」
イレーヌとウィルは同時に驚きの声を上げた。
ジェームズと名乗った魔王は、しげしげとウィルを見つめると納得したように頷いた。
「……ああ、なるほど。あの馬鹿娘が惚れるのも分かる。いい男だね。君」
「……魔王が俺達に何の用だ?」
強張った顔で尋ねるウィルとは対照的に魔王は穏やかに言った。
「君達に会いたかったんだ」
「私達に?」
ウィルの背後でイレーヌは首を傾げた。なぜ、魔王がイレーヌとウィルに会いたいなどと思うのだろう?
「君に付きまとっていたあの馬鹿娘、僕の娘なんだ」
魔王は、さらりとイレーヌとウィルにとって衝撃的な発言をした。
「……あのアイリーンという魔族、あなたの娘なんですか?」
イレーヌの確認に魔王は頷いた。
「ああ。僕と僕の愛する人間の女、アイリーンとの間に産まれた娘だ」
(……魔王が愛する人間の女性も「アイリーン」)
あの魔族のアイリーンは母親の名前をそのまま名付けられたのだろう。
魔族のアイリーンは彼と知り合いだった。だから、もしかしたら、彼の想い人は彼女ではないかと思っていた。……そうだったら絶望するなと。
けれど、本当は、彼の真実の想い人は――。
それだったら、身代わりが必要な理由も納得できる。
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