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「……俺も、俺を守って死んでいった臣下達を忘れる事はできないからな」
「……ウィル」
イレーヌは悲しそうな痛ましそうな顔になった。
「それでも、俺は彼らよりも貴女が大事だ。彼らに報いるために、こいつと戦って死ぬつもりだった。でも、できなくなった」
命が惜しいからではない。
イレーヌがウィルに生きていてほしいと願っているからであり――。
彼を愛しているからだ。
人間に過ぎない自分が魔族の彼を殺せない事は分かっている。
だが、もし、殺せるとしても、できない。
彼が死んだら、イレーヌの心も死ぬと分かるからだ。
「貴女が俺に生きてほしいと願うように、俺も貴女に生きて幸福になってほしいと願っているんだ。母上」
初めてウィルはイレーヌを「母上」と呼んだ。
「……ウィル」
イレーヌは非常に驚いた顔をしていた。まさか「母上」と呼ばれるとは思いもしなかったのだろう。
「だから、必ずイレーヌを、母上を、幸せにしろ」
ウィルはセバスチャンに挑むような眼差しを向けた。
「幸、不幸は、その者の感じ方次第だ」
セバスチャンの言う通りだ。他人から見れば幸福でも当人は不幸だと感じているかもしれない。逆も然りだ。
それにしても「ああ、必ずイレーヌを幸せにする」と言えば丸くおさまるのに、そう言わないのは彼が魔族で人間とは違う思考で生きているからなのか、彼だからなのか。
「それでも、イレーヌの幸せは、お前と共にある。だから、イレーヌを裏切るな」
「長い間、アイリーンを想ってきた。けれど、今はイレーヌを愛している。だから、絶対とは言えない」
魔族でも人間でも絶対に変わらない想いなどない。
けれど、それでも――。
「あなたの魔刻印で生かされている身よ。私かあなた、どちらかが心変わりした時が、私の最期になるわ」
イレーヌは穏やかに言った。ずっと死を望んできた彼女にとって死は恐怖ではなく安らぎなのだ。
彼女が今生きている理由は、ただ一つ、セバスチャンへの愛故だ。
……我が子を見守るためではない。愛してくれている事は分かっている。それでも、彼女の父に似たウィルの容姿故に罪悪感を刺激され「見ていてつらい」という気持ちもあるのだ。
セバスチャンへの愛がなくなったら、また彼の心が離れてしまったら、イレーヌには、もう生きている意味もないのだ。
「……それは、せめて俺の寿命が尽きた後であってほしいね」
いくら魔族の息子でも、人間に過ぎないウィルは、魔族ほど長くは生きられない。魔刻印によりセバスチャンと同じ寿命を持つイレーヌよりも確実に早く死ぬのだ。
「……ごめんなさい。ウィル。本当は母親の私が先に死ぬはずだのに。我が子を失っても、人間として異端になっても、私は彼と生きていきたいの」
「謝るな。貴女が生きて幸せなら、俺は、それでいいんだ」
ウィルは微笑んだ。
「とりあえず、俺は、この国を出るよ。王太子だった俺が生きていて、ずっとこの国にいては都合が悪いだろう?」
ウィルは後半は魔王とセバスチャンに向けて言った。
「別に僕とセブは気にしないけど、確かに、うるさく言う奴らもいるかな」
魔王が、のんびりと言った。
「この世界は魔族に支配された」
セバスチャンの言う通りだ。人間が支配する最後の国だったこのゼドゥ国も魔族に侵略されてしまったのだから。
「この国でも他国でも、人間に過ぎないお前が、ふらふら出歩いていたら危険な目に遭うのは確かだな」
セバスチャンは、どうでもいいように言ったが、イレーヌは真っ青になった。
「だからって、ずっと、お前やイレーヌの傍にいる訳にはいかないし、お前だって嫌だろう?」
いくらウィルが二人の息子であっても、ようやく想いが通じ合った恋人達にとっては邪魔者でしかない。
「……私にはどうでもいいが、お前が死ぬとイレーヌが悲しむからな」
セバスチャンは溜息を吐いた。
「お前の体にも魔刻印を押してやる。私は魔族の次位だ。ジム、魔王が相手でない限り、どんな奴が襲ってきても、これで、お前は死なずに済む」
「僕が君を殺す理由は、まずないだろうから安心していいよ」
魔王が、にこにこと言った。
「……魔刻印を押されると、俺もイレーヌと同じになるのか?」
セバスチャンより弱い魔族や人間が襲ってきても無事でいられるが、その代わり、不老で彼が死なない限り死ねなくなるのだろうか?
「ただお前を守るだけの魔刻印にするつもりだったが、そうしてほしいのか?」
魔刻印にも、いろいろとあるらしい。
「私とジムは強大な魔力故に、自殺か他殺でない限り死なない。イレーヌと同じ魔刻印を押されれば、お前もそうなるが?」
「本当に、そうしてほしいのか?」と言外に尋ねるセバスチャンにウィルは頷いた。
「ああ。そうしてほしい」
「ウィル!?」
イレーヌは驚いた顔だ。ウィルがそんな事を言いだすとは思いもしなかったのだろう。
「……ウィル」
イレーヌは悲しそうな痛ましそうな顔になった。
「それでも、俺は彼らよりも貴女が大事だ。彼らに報いるために、こいつと戦って死ぬつもりだった。でも、できなくなった」
命が惜しいからではない。
イレーヌがウィルに生きていてほしいと願っているからであり――。
彼を愛しているからだ。
人間に過ぎない自分が魔族の彼を殺せない事は分かっている。
だが、もし、殺せるとしても、できない。
彼が死んだら、イレーヌの心も死ぬと分かるからだ。
「貴女が俺に生きてほしいと願うように、俺も貴女に生きて幸福になってほしいと願っているんだ。母上」
初めてウィルはイレーヌを「母上」と呼んだ。
「……ウィル」
イレーヌは非常に驚いた顔をしていた。まさか「母上」と呼ばれるとは思いもしなかったのだろう。
「だから、必ずイレーヌを、母上を、幸せにしろ」
ウィルはセバスチャンに挑むような眼差しを向けた。
「幸、不幸は、その者の感じ方次第だ」
セバスチャンの言う通りだ。他人から見れば幸福でも当人は不幸だと感じているかもしれない。逆も然りだ。
それにしても「ああ、必ずイレーヌを幸せにする」と言えば丸くおさまるのに、そう言わないのは彼が魔族で人間とは違う思考で生きているからなのか、彼だからなのか。
「それでも、イレーヌの幸せは、お前と共にある。だから、イレーヌを裏切るな」
「長い間、アイリーンを想ってきた。けれど、今はイレーヌを愛している。だから、絶対とは言えない」
魔族でも人間でも絶対に変わらない想いなどない。
けれど、それでも――。
「あなたの魔刻印で生かされている身よ。私かあなた、どちらかが心変わりした時が、私の最期になるわ」
イレーヌは穏やかに言った。ずっと死を望んできた彼女にとって死は恐怖ではなく安らぎなのだ。
彼女が今生きている理由は、ただ一つ、セバスチャンへの愛故だ。
……我が子を見守るためではない。愛してくれている事は分かっている。それでも、彼女の父に似たウィルの容姿故に罪悪感を刺激され「見ていてつらい」という気持ちもあるのだ。
セバスチャンへの愛がなくなったら、また彼の心が離れてしまったら、イレーヌには、もう生きている意味もないのだ。
「……それは、せめて俺の寿命が尽きた後であってほしいね」
いくら魔族の息子でも、人間に過ぎないウィルは、魔族ほど長くは生きられない。魔刻印によりセバスチャンと同じ寿命を持つイレーヌよりも確実に早く死ぬのだ。
「……ごめんなさい。ウィル。本当は母親の私が先に死ぬはずだのに。我が子を失っても、人間として異端になっても、私は彼と生きていきたいの」
「謝るな。貴女が生きて幸せなら、俺は、それでいいんだ」
ウィルは微笑んだ。
「とりあえず、俺は、この国を出るよ。王太子だった俺が生きていて、ずっとこの国にいては都合が悪いだろう?」
ウィルは後半は魔王とセバスチャンに向けて言った。
「別に僕とセブは気にしないけど、確かに、うるさく言う奴らもいるかな」
魔王が、のんびりと言った。
「この世界は魔族に支配された」
セバスチャンの言う通りだ。人間が支配する最後の国だったこのゼドゥ国も魔族に侵略されてしまったのだから。
「この国でも他国でも、人間に過ぎないお前が、ふらふら出歩いていたら危険な目に遭うのは確かだな」
セバスチャンは、どうでもいいように言ったが、イレーヌは真っ青になった。
「だからって、ずっと、お前やイレーヌの傍にいる訳にはいかないし、お前だって嫌だろう?」
いくらウィルが二人の息子であっても、ようやく想いが通じ合った恋人達にとっては邪魔者でしかない。
「……私にはどうでもいいが、お前が死ぬとイレーヌが悲しむからな」
セバスチャンは溜息を吐いた。
「お前の体にも魔刻印を押してやる。私は魔族の次位だ。ジム、魔王が相手でない限り、どんな奴が襲ってきても、これで、お前は死なずに済む」
「僕が君を殺す理由は、まずないだろうから安心していいよ」
魔王が、にこにこと言った。
「……魔刻印を押されると、俺もイレーヌと同じになるのか?」
セバスチャンより弱い魔族や人間が襲ってきても無事でいられるが、その代わり、不老で彼が死なない限り死ねなくなるのだろうか?
「ただお前を守るだけの魔刻印にするつもりだったが、そうしてほしいのか?」
魔刻印にも、いろいろとあるらしい。
「私とジムは強大な魔力故に、自殺か他殺でない限り死なない。イレーヌと同じ魔刻印を押されれば、お前もそうなるが?」
「本当に、そうしてほしいのか?」と言外に尋ねるセバスチャンにウィルは頷いた。
「ああ。そうしてほしい」
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