番認定された王女は愛さない

青葉めいこ

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「ここは?」

 リーヴァとグートルーネがドゥンガ将軍に転移魔法で連れてこられたのは、メロヴィーク帝国の皇宮ではないようだ。

 貴族の館の庭のようだが出迎えてくれるはずの竜帝や獣人達がいないのだ。

「ドゥンガ公爵邸の庭、俺の家の庭です。竜帝陛下抜きであなたと話したくて。勿論、竜帝陛下の許可は得ております」

「あなたがわたくしと?」

 あまりいい話とは思えなかった。ドゥンガ将軍は竜帝の片腕で親友。リーヴァが竜帝に素っ気ないどころか嫌悪感も露な態度しかとらなかった事を聞いたはずだ。

 庭の外れにある東屋には事前に言っておいたのか、紅茶やお菓子や軽食が用意されていたが使用人らしき獣人達はいなかった。

「竜帝陛下の番に無体な真似など絶対にしないが、二人きりなのは妙な誤解を招くでしょう。我が番……王女殿下の侍女殿もどうか同席をお願いします」

 リーヴァはドゥンガ将軍の対面に腰かけた。

 グートルーネは侍女らしく傍らに立っていようとしたが、二人に促され恐縮しながらリーヴァの隣に座った。

「彼女は私の乳姉妹で侍女のグートルーネ・ブルグート伯爵令嬢ですわ」

「……グートルーネ」

 リーヴァが教えると、ドゥンガ将軍はリーヴァが傍にいるのも忘れたかのように熱い眼差しをグートルーネに注いだ。

 竜帝にそうされたらリーヴァは嫌悪感のあまり卒倒するか逃げ出すかだがグートルーネは満更でもなさそうだ。

 邪魔するのも気が引けるが、これでは時間だけが過ぎてしまう。

「……わたくしと話したいのでしょう。どうぞ、お話ください」

 リーヴァが話を促すとドゥンガ将軍は、またばつが悪そうな顔になった。

「……竜帝陛下に伺いました。番認定されても、あなたはあの方を番だと認めない、決して愛さないと」

 意を決して話しだしたドゥンガ将軍にリーヴァは頷いた。

「……ええ。その通りですわ。あなた方獣人方にとっては不快でしょうが、運命が定めた番だろうと、わたくしは絶対に認めないし、竜帝陛下を愛さない」

 獣人の尊崇の対象である竜帝に番認定されながら、認めない、愛さないリーヴァに嫌悪感を抱くだろう。帝国での生活は、さぞかしつらいものになるだろう。

 けれど、これがリーヴァの本心だ。

 帝国で快適な生活を送りたいからと、生理的嫌悪感しか抱けない竜帝を愛するふりなど絶対に無理だ。そうするくらいなら虐げられたほうがましだ。

「……確かに、他の獣人では、あなたの本心を聞けば不快に思うでしょう。いくら竜帝陛下が庇おうと、帝国ここでの生活は、さぞかしつらいものになるでしょうね」

 ドゥンガ将軍が今言った事はリーヴァが予想していた事だ。それについては驚きはしない。

 リーヴァが意外に思ったのは――。

「『他の獣人では』と仰いましたね。あなたは違うのですか?」

 ドゥンガ将軍は竜帝の親友で片腕だ。竜帝を番と認めず愛さないリーヴァに対して、さぞや不快感があるだろうと思っていたのに。

 ドゥンガ将軍は沈痛な表情で今までの会話とは関係のない事を言いだした。

「……俺の母は人間です」

 獣人と人間の夫婦は珍しくはない。獣人の番が同じ獣人ではない事もあるからだ。

 獣人と人間の間に生まれた子供は、獣人か人間、あるいは両方の特徴を受け継ぐという。ドゥンガ将軍は獣人の特徴を受け継いだようだ。

「それがどうしたんですか?」とはリーヴァは言えなかった。ドゥンガ将軍の沈痛な表情もあるが、彼が何を言おうとしているのか、何となくだが予想できたからだ。

「……獣人の虎族こぞくの父に番認定され、相愛の人間の夫と三人の息子から無理矢理引き離されたんです。番なのだから、いずれ母は自分を愛すると父は絶対の自信を持っていましたが、息子おれを産まされても母は死ぬまで父を憎み絶対に愛さなかった。愛する家族とは二度と会えず、憎んでいる父のもとで暮らさざるを得なかった母が自殺しなかった理由は、ただ一つ。愛する夫を死なせないためだった」

 この世界での結婚は命を共有する。自殺でも他殺でも伴侶が死ねば自分も死んでしまうのだ。

「……そんな両親を見てきたから、俺は獣人でありながら番を求める本能を嫌悪してきた。どれだけ番に嫌われても憎まれても愛さずにはいられない。……まるで呪いだ」

 ドゥンガ将軍は、ほろ苦く微笑んだ。

「……皮肉なものですね。そんな俺が番を見つけてしまうなんて」

 トゥンガ将軍は切なそうな苦しそうな何とも複雑な感情のこもった目でグートルーネを見つめていた。

「……ドゥンガ将軍」

 リーヴァは何を言っていいのか分からなかった。

 番という概念がない人間のリーヴァには、嫌悪感しか抱けない竜帝に番認定され求愛されても迷惑以外のなにものでもない。

 けれど、獣人達もまた、どうしようもなく番を求める本能に苦しんでいるのかもしれない。

 相手のこれまでの生き様も知らず、どれだけ嫌われても憎まれても愛さずにはいられない。

 シグルズは「恐ろしい」と言い、ドゥンガ将軍は「呪い」だと言った。

 まさにその通りだと思う。























  



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