番認定された王女は愛さない

青葉めいこ

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 後宮の最も広く豪華な一室、リーヴァの住居として竜帝が用意した場所、そこに竜帝はリーヴァとグートルーネとドゥンガ将軍だけを転移魔法で連れてきた。

 竜帝が現われると、見計らっていたかのように獣人の侍女達が居間のテーブルに紅茶やお菓子を運んできた。

 侍女達が去ると、竜帝とリーヴァはソファに座って向き合い、グートルーネとドゥンガ将軍は壁近くに立った。

「余の名はファヴニールだ。どうか名を呼んでほしい」

「それは、ご命令ですか?」

 まさかリーヴァに間髪かんはつれず、そう切り返されるとは思わなかったのだろう。竜帝は絶句した様子だ。

「……命令でなければ、貴女は余の名を呼んでくれないのか?」

「何を当たり前の事を」

 リーヴァは嗤った。まだ竜帝は分からないのだろうか?

「生理的嫌悪感しか抱けないモノの名など呼びたくないでしょう?」

 リーヴァの発言にグートルーネとドゥンガ将軍はぎょっとし、竜帝は悲しげに顔をくもらせた。

「ですから、わたくし、あなたに名を呼ばれたくありませんわ。呼ばせろと命令されれば逆らう事などできませんが。この結婚を決められたのと同じように」

「……怒っているのか?」

「そんなの当然でしょう?」

 そんな事も分からないのか?

「番だろうと、あなたを絶対に愛さない」と言っているにも係わらず権力で結婚を強要してきたのだ。

 それでどうして怒らないと思えるのか?

「貴女の怒りが和らぐように余は生涯貴女に尽くす。貴女の祖国も守る。だから、余を拒絶しないで、ちゃんと向き合ってほしい」

 竜帝が、世界最強の帝国の統治者が、弱小国の王女に困りきった顔で懇願している。

 獣人の尊崇の対象である竜帝のそんな姿に、グートルーネはただ驚いているが、獣人であるドゥンガ将軍はショックを受けた様子だ。

 リーヴァ以外の女性なら竜帝の懇願に心を動かされたかもしれない。

 けれど――。

「無理ですわ。あなたが竜である限り」

 生理的嫌悪感しか抱けないモノと向き合いたくなどない。

 こればかりは、どうしようもないのだ。

「……番が、わたくし以外の女性であればよかったですわね」

 竜帝は偉大な統治者で人型は美丈夫だ。

 人間であれ獣人であれリーヴァ以外の女性であれば、すぐに竜帝と心を通わす事ができただろうに。

 運命は残酷だ。

 番を求めるのが獣人の本能である以上、竜帝はリーヴァしか愛せない。

 リーヴァが決して竜帝を愛せなくても――。




「貴女の世話をする侍女達だ」

 竜帝に呼ばれて居間に来たのは十人の獣人の女性達だ。

「いりません。グートルーネだけで充分ですわ」

 素っ気なく言ったリーヴァに、一番年嵩の獣人の女性が声を発した。

「お言葉ですが、番様。竜帝陛下の妃となられるお方が、たった一人の侍女、しかも我が国の慣習を知らない者だけを傍に置くのは、何かとお困りになると思います」

「困らないわ。だって、ずっと引きこもるから」

 リーヴァの発言に、皆一様に怪訝そうな顔になった。

「運命が定めた番だとしても、わたくしは認めない。竜帝陛下を絶対に愛せないし愛さない。だから、竜帝陛下の番、竜帝妃としての責務を全て放棄させてもらうわ。

 そんなわたくしに対して、あなた達は不快感しか抱かないでしょう。そんな人達にお世話されても心が休まらないもの」

「竜帝陛下の番様ともあろう御方が、なんて事を!?」

 驚愕の声を上げたのは先程リーヴァに物申した獣人の女性だけだが、他の獣人の侍女達も信じられないと言いたげだ。

「そう言われるのは分かっていたわ。だから、獣人の侍女はいらない」

 リーヴァはグートルーネに目を向けた。

「わたくしは時がくるまで引きこもるつもりよ。それでも、わたくしに付き合う? 祖国に帰ってもいいのよ」

「わたくしは姫様の侍女です。姫様に従うだけです」

 きっぱりと言い切るグートルーネにリーヴァは「分かったわ」と頷いた。

「時がくるまで引きこもるので、広い部屋もドレスも宝石もいりません。台所と小さな部屋をお借りしますわ」

 リーヴァは竜帝に一方的に告げると、台所と近くにあった侍女用の小さな部屋二つ(一つはグートルーネ用だ)を占拠した上、グートルーネとドゥンガ将軍しか出入りできないよう後宮全体に結界を張った。

 リーヴァは攻撃魔法はからっきしだが、防御結界や生活魔法は得意なのだ。

 以前であれば竜帝にあっさり防御結界を破られただろうが、そんな心配はない。

「無理矢理連れて来られたんだから、ここにいる間の食材くらい貰ってもいいわよね」

 竜帝やその臣下達が押しかけても決して応答しないリーヴァだが、運ばれてくる食材だけはありがたく貰う事にした。


























 



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