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第一部 ジョセフ
24 黙れ、クソガキ②
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「……今、なんて言った?」
地面に倒れ込んだまま顔を上げたフランソワ王子が震える声で言った。今まで誰からも言われた事がないだろう科白だから聞き間違いだと思ったのだろうが生憎違う。
お祖父様に似た幼いながら整った顔だが思いっ切り地面にダイブしたせいか鼻の頭を少し擦りむけて赤くなっている。
「黙れ、クソガキと言った」
私は冷たく繰り返すと、はっきりと嘲笑してみせた。
「さすがは、あのお父様の甥っ子だ。自分の都合の悪い事は聞こえなくなる便利な耳を持っているんだな」
「ぼくは王子だ! 国王の孫だ! そのぼくにむかってよくも!」
フランソワ王子は立ち上がると私に掴みかかろうとしたので、私は遠慮なく彼の足を引っかけてもう一度地面に転がした。
「それをいうなら、ジョゼフィーヌも国王の孫。お前と同じだろう。私もお前も、たまたま祖父を国王に持ったにすぎない。自分の力で勝ち得た訳でもない身分で威張るな」
「ジョゼフィーヌの言う通りよ」
悔しそうに私を睨みつけるフランソワ王子に、王妃に似た美しい声がかけられた。
「わたくしは、いつも言っているでしょう? 王子である事を笠に着て我儘を言うのはやめなさいと。何度も同じ事を言わせないでちょうだい」
王太子妃のフランソワ王子に向ける眼差しも声音も冷たいものだった。実の母親が息子に送るとは思えないものだ。
「……ははうえ~~!」
涙目で王太子妃を見るフランソワ王子だが、王太子妃はフランソワ王子を一切無視し、ボワデフル子爵家の人々に向き直った。
「……愚息が失礼いたしました」
王太子妃自らの謝罪にボワデフル子爵家の人々も慌てた様子だ。
「……い、いえ、妃殿下。私の孫息子こそ失礼いたしました」
レオンの祖父、ボワデフル子爵が王太子妃に頭を下げている。
「……お祖父様」
その祖父の姿に思うところがあるのだろう。レオンは悔しさをにじませながらも、王太子妃とフランソワ王子に向かって頭を下げた。
「妃殿下……フランソワ王子殿下。失礼な言動をしてしまい申し訳ありませんでした」
「あなたは悪くないわ。あなたは、この誕生日会の主役で、ジョゼフィーヌと話す約束を愚息より先にしていたのでしょう? 愚息が割り込んだのが悪いのだから」
王太子妃はレオンにそう言うと周囲の人々を見回した。
「お騒がせして申し訳ありません。わたくしとフランソワは帰りますので、どうかレオンの誕生日を祝ってあげてください」
王太子妃は近くにいた護衛に合図を送りフランソワ王子を抱えさせると一緒に帰って行った。
「ジョゼフィーヌ嬢」
私が王太子妃とフランソワ王子を見送っていると、ボワデフル子爵が近づいてきた。
確か四十代前半だったか。長身痩躯。祖父なのだから当然だがリュシアンとレオンによく似た美形だ。
「あなたがあんな言動をしたのは、レオンとレオンの家族である私達を守るためですよね?」
祖父の言葉に、レオンは驚いた顔になった。
「あなた達のためではありませんよ。あのクソガキ……フランソワ王子の言動にむかついたのも本当だから」
どれだけあのクソガキ……もといフランソワ王子に非があっても相手は王子だ。彼に乱暴な言動をすればレオンは勿論、彼の家族の立場も悪くなるだろう。
今生の私は、国王と寵姫でもあるブルノンヴィル辺境伯の孫娘。叱られるとしても、レオンとその家族よりは大事にならないと考えたのだ。
幸い王太子妃は実の息子が係っていても客観的に物事を見られる人のようだ。というより、王太子妃もお祖母様と同じで実の息子を愛せないようだ。政略結婚の結果出来た息子だから愛せないのだろうか?
とにかく結果的に私やレオン、彼の家族にお咎めがなくて済んでよかった。
「ありがとうございました」
ボワデフル子爵は私に頭を下げた。
「……あなたにお礼を言われる事など何もありませんよ。私が勝手にやった事ですから」
大した事などしていないのに、大人の男性に頭を下げられるのは何とも居心地が悪かった。
「……今回も貴女に助けられたな」
レオンは、ぼそりと呟いた。
地面に倒れ込んだまま顔を上げたフランソワ王子が震える声で言った。今まで誰からも言われた事がないだろう科白だから聞き間違いだと思ったのだろうが生憎違う。
お祖父様に似た幼いながら整った顔だが思いっ切り地面にダイブしたせいか鼻の頭を少し擦りむけて赤くなっている。
「黙れ、クソガキと言った」
私は冷たく繰り返すと、はっきりと嘲笑してみせた。
「さすがは、あのお父様の甥っ子だ。自分の都合の悪い事は聞こえなくなる便利な耳を持っているんだな」
「ぼくは王子だ! 国王の孫だ! そのぼくにむかってよくも!」
フランソワ王子は立ち上がると私に掴みかかろうとしたので、私は遠慮なく彼の足を引っかけてもう一度地面に転がした。
「それをいうなら、ジョゼフィーヌも国王の孫。お前と同じだろう。私もお前も、たまたま祖父を国王に持ったにすぎない。自分の力で勝ち得た訳でもない身分で威張るな」
「ジョゼフィーヌの言う通りよ」
悔しそうに私を睨みつけるフランソワ王子に、王妃に似た美しい声がかけられた。
「わたくしは、いつも言っているでしょう? 王子である事を笠に着て我儘を言うのはやめなさいと。何度も同じ事を言わせないでちょうだい」
王太子妃のフランソワ王子に向ける眼差しも声音も冷たいものだった。実の母親が息子に送るとは思えないものだ。
「……ははうえ~~!」
涙目で王太子妃を見るフランソワ王子だが、王太子妃はフランソワ王子を一切無視し、ボワデフル子爵家の人々に向き直った。
「……愚息が失礼いたしました」
王太子妃自らの謝罪にボワデフル子爵家の人々も慌てた様子だ。
「……い、いえ、妃殿下。私の孫息子こそ失礼いたしました」
レオンの祖父、ボワデフル子爵が王太子妃に頭を下げている。
「……お祖父様」
その祖父の姿に思うところがあるのだろう。レオンは悔しさをにじませながらも、王太子妃とフランソワ王子に向かって頭を下げた。
「妃殿下……フランソワ王子殿下。失礼な言動をしてしまい申し訳ありませんでした」
「あなたは悪くないわ。あなたは、この誕生日会の主役で、ジョゼフィーヌと話す約束を愚息より先にしていたのでしょう? 愚息が割り込んだのが悪いのだから」
王太子妃はレオンにそう言うと周囲の人々を見回した。
「お騒がせして申し訳ありません。わたくしとフランソワは帰りますので、どうかレオンの誕生日を祝ってあげてください」
王太子妃は近くにいた護衛に合図を送りフランソワ王子を抱えさせると一緒に帰って行った。
「ジョゼフィーヌ嬢」
私が王太子妃とフランソワ王子を見送っていると、ボワデフル子爵が近づいてきた。
確か四十代前半だったか。長身痩躯。祖父なのだから当然だがリュシアンとレオンによく似た美形だ。
「あなたがあんな言動をしたのは、レオンとレオンの家族である私達を守るためですよね?」
祖父の言葉に、レオンは驚いた顔になった。
「あなた達のためではありませんよ。あのクソガキ……フランソワ王子の言動にむかついたのも本当だから」
どれだけあのクソガキ……もといフランソワ王子に非があっても相手は王子だ。彼に乱暴な言動をすればレオンは勿論、彼の家族の立場も悪くなるだろう。
今生の私は、国王と寵姫でもあるブルノンヴィル辺境伯の孫娘。叱られるとしても、レオンとその家族よりは大事にならないと考えたのだ。
幸い王太子妃は実の息子が係っていても客観的に物事を見られる人のようだ。というより、王太子妃もお祖母様と同じで実の息子を愛せないようだ。政略結婚の結果出来た息子だから愛せないのだろうか?
とにかく結果的に私やレオン、彼の家族にお咎めがなくて済んでよかった。
「ありがとうございました」
ボワデフル子爵は私に頭を下げた。
「……あなたにお礼を言われる事など何もありませんよ。私が勝手にやった事ですから」
大した事などしていないのに、大人の男性に頭を下げられるのは何とも居心地が悪かった。
「……今回も貴女に助けられたな」
レオンは、ぼそりと呟いた。
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