24 / 113
第一部 ジョセフ
24 黙れ、クソガキ②
しおりを挟む
「……今、なんて言った?」
地面に倒れ込んだまま顔を上げたフランソワ王子が震える声で言った。今まで誰からも言われた事がないだろう科白だから聞き間違いだと思ったのだろうが生憎違う。
お祖父様に似た幼いながら整った顔だが思いっ切り地面にダイブしたせいか鼻の頭を少し擦りむけて赤くなっている。
「黙れ、クソガキと言った」
私は冷たく繰り返すと、はっきりと嘲笑してみせた。
「さすがは、あのお父様の甥っ子だ。自分の都合の悪い事は聞こえなくなる便利な耳を持っているんだな」
「ぼくは王子だ! 国王の孫だ! そのぼくにむかってよくも!」
フランソワ王子は立ち上がると私に掴みかかろうとしたので、私は遠慮なく彼の足を引っかけてもう一度地面に転がした。
「それをいうなら、ジョゼフィーヌも国王の孫。お前と同じだろう。私もお前も、たまたま祖父を国王に持ったにすぎない。自分の力で勝ち得た訳でもない身分で威張るな」
「ジョゼフィーヌの言う通りよ」
悔しそうに私を睨みつけるフランソワ王子に、王妃に似た美しい声がかけられた。
「わたくしは、いつも言っているでしょう? 王子である事を笠に着て我儘を言うのはやめなさいと。何度も同じ事を言わせないでちょうだい」
王太子妃のフランソワ王子に向ける眼差しも声音も冷たいものだった。実の母親が息子に送るとは思えないものだ。
「……ははうえ~~!」
涙目で王太子妃を見るフランソワ王子だが、王太子妃はフランソワ王子を一切無視し、ボワデフル子爵家の人々に向き直った。
「……愚息が失礼いたしました」
王太子妃自らの謝罪にボワデフル子爵家の人々も慌てた様子だ。
「……い、いえ、妃殿下。私の孫息子こそ失礼いたしました」
レオンの祖父、ボワデフル子爵が王太子妃に頭を下げている。
「……お祖父様」
その祖父の姿に思うところがあるのだろう。レオンは悔しさをにじませながらも、王太子妃とフランソワ王子に向かって頭を下げた。
「妃殿下……フランソワ王子殿下。失礼な言動をしてしまい申し訳ありませんでした」
「あなたは悪くないわ。あなたは、この誕生日会の主役で、ジョゼフィーヌと話す約束を愚息より先にしていたのでしょう? 愚息が割り込んだのが悪いのだから」
王太子妃はレオンにそう言うと周囲の人々を見回した。
「お騒がせして申し訳ありません。わたくしとフランソワは帰りますので、どうかレオンの誕生日を祝ってあげてください」
王太子妃は近くにいた護衛に合図を送りフランソワ王子を抱えさせると一緒に帰って行った。
「ジョゼフィーヌ嬢」
私が王太子妃とフランソワ王子を見送っていると、ボワデフル子爵が近づいてきた。
確か四十代前半だったか。長身痩躯。祖父なのだから当然だがリュシアンとレオンによく似た美形だ。
「あなたがあんな言動をしたのは、レオンとレオンの家族である私達を守るためですよね?」
祖父の言葉に、レオンは驚いた顔になった。
「あなた達のためではありませんよ。あのクソガキ……フランソワ王子の言動にむかついたのも本当だから」
どれだけあのクソガキ……もといフランソワ王子に非があっても相手は王子だ。彼に乱暴な言動をすればレオンは勿論、彼の家族の立場も悪くなるだろう。
今生の私は、国王と寵姫でもあるブルノンヴィル辺境伯の孫娘。叱られるとしても、レオンとその家族よりは大事にならないと考えたのだ。
幸い王太子妃は実の息子が係っていても客観的に物事を見られる人のようだ。というより、王太子妃もお祖母様と同じで実の息子を愛せないようだ。政略結婚の結果出来た息子だから愛せないのだろうか?
とにかく結果的に私やレオン、彼の家族にお咎めがなくて済んでよかった。
「ありがとうございました」
ボワデフル子爵は私に頭を下げた。
「……あなたにお礼を言われる事など何もありませんよ。私が勝手にやった事ですから」
大した事などしていないのに、大人の男性に頭を下げられるのは何とも居心地が悪かった。
「……今回も貴女に助けられたな」
レオンは、ぼそりと呟いた。
地面に倒れ込んだまま顔を上げたフランソワ王子が震える声で言った。今まで誰からも言われた事がないだろう科白だから聞き間違いだと思ったのだろうが生憎違う。
お祖父様に似た幼いながら整った顔だが思いっ切り地面にダイブしたせいか鼻の頭を少し擦りむけて赤くなっている。
「黙れ、クソガキと言った」
私は冷たく繰り返すと、はっきりと嘲笑してみせた。
「さすがは、あのお父様の甥っ子だ。自分の都合の悪い事は聞こえなくなる便利な耳を持っているんだな」
「ぼくは王子だ! 国王の孫だ! そのぼくにむかってよくも!」
フランソワ王子は立ち上がると私に掴みかかろうとしたので、私は遠慮なく彼の足を引っかけてもう一度地面に転がした。
「それをいうなら、ジョゼフィーヌも国王の孫。お前と同じだろう。私もお前も、たまたま祖父を国王に持ったにすぎない。自分の力で勝ち得た訳でもない身分で威張るな」
「ジョゼフィーヌの言う通りよ」
悔しそうに私を睨みつけるフランソワ王子に、王妃に似た美しい声がかけられた。
「わたくしは、いつも言っているでしょう? 王子である事を笠に着て我儘を言うのはやめなさいと。何度も同じ事を言わせないでちょうだい」
王太子妃のフランソワ王子に向ける眼差しも声音も冷たいものだった。実の母親が息子に送るとは思えないものだ。
「……ははうえ~~!」
涙目で王太子妃を見るフランソワ王子だが、王太子妃はフランソワ王子を一切無視し、ボワデフル子爵家の人々に向き直った。
「……愚息が失礼いたしました」
王太子妃自らの謝罪にボワデフル子爵家の人々も慌てた様子だ。
「……い、いえ、妃殿下。私の孫息子こそ失礼いたしました」
レオンの祖父、ボワデフル子爵が王太子妃に頭を下げている。
「……お祖父様」
その祖父の姿に思うところがあるのだろう。レオンは悔しさをにじませながらも、王太子妃とフランソワ王子に向かって頭を下げた。
「妃殿下……フランソワ王子殿下。失礼な言動をしてしまい申し訳ありませんでした」
「あなたは悪くないわ。あなたは、この誕生日会の主役で、ジョゼフィーヌと話す約束を愚息より先にしていたのでしょう? 愚息が割り込んだのが悪いのだから」
王太子妃はレオンにそう言うと周囲の人々を見回した。
「お騒がせして申し訳ありません。わたくしとフランソワは帰りますので、どうかレオンの誕生日を祝ってあげてください」
王太子妃は近くにいた護衛に合図を送りフランソワ王子を抱えさせると一緒に帰って行った。
「ジョゼフィーヌ嬢」
私が王太子妃とフランソワ王子を見送っていると、ボワデフル子爵が近づいてきた。
確か四十代前半だったか。長身痩躯。祖父なのだから当然だがリュシアンとレオンによく似た美形だ。
「あなたがあんな言動をしたのは、レオンとレオンの家族である私達を守るためですよね?」
祖父の言葉に、レオンは驚いた顔になった。
「あなた達のためではありませんよ。あのクソガキ……フランソワ王子の言動にむかついたのも本当だから」
どれだけあのクソガキ……もといフランソワ王子に非があっても相手は王子だ。彼に乱暴な言動をすればレオンは勿論、彼の家族の立場も悪くなるだろう。
今生の私は、国王と寵姫でもあるブルノンヴィル辺境伯の孫娘。叱られるとしても、レオンとその家族よりは大事にならないと考えたのだ。
幸い王太子妃は実の息子が係っていても客観的に物事を見られる人のようだ。というより、王太子妃もお祖母様と同じで実の息子を愛せないようだ。政略結婚の結果出来た息子だから愛せないのだろうか?
とにかく結果的に私やレオン、彼の家族にお咎めがなくて済んでよかった。
「ありがとうございました」
ボワデフル子爵は私に頭を下げた。
「……あなたにお礼を言われる事など何もありませんよ。私が勝手にやった事ですから」
大した事などしていないのに、大人の男性に頭を下げられるのは何とも居心地が悪かった。
「……今回も貴女に助けられたな」
レオンは、ぼそりと呟いた。
7
あなたにおすすめの小説
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】どうやら時戻りをしました。
まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。
辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。
時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。
※前半激重です。ご注意下さい
Copyright©︎2023-まるねこ
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる