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4 皇后
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表立っては人に嫌われなかった人生だと思う。
陰では嫌われ悪口を言われていたかもしれないが、表立っては美しく聡明な皇后として敬愛されていた。
だから、彼女に面と向かって、女として、母として、人として、欠陥品だと指摘された上、あなたがこの世で一番嫌いだと言われて、本当に驚いたのだ。
確かに、私は人の心の機微に疎い。
政務なら何手先も読めるのに、これが恋愛などの複雑な心理となるとお手上げだ。
そもそも、私は他人に興味がない。
私を愛していると言った子爵や皇帝だろうと、腹を痛めて生んだ皇太子だろうとだ。
彼女の指摘に、普通なら失礼だと怒りを覚えるのだろう。
けれど、私は違った。
初めて、他人に興味を持ったのだ。
元婚約者の娘、息子の婚約者、将来の義理の娘で、皇太子妃ならびに皇后となる少女。
彼女に対する認識は、そんなものだった。
あの日、死刑前日となる彼女に会いに行ったその日までは――。
彼女に会いに行く前に、彼女の従弟から面会を求められた。
帝国内で絶大な権力を持つ宰相を務める公爵家の令息とはいえ、ただの未成年の少年に会おうと思ったのは、なぜなのか。
何かの予感が働いていたのか。
開口一番、彼女の義弟、公爵令息は頭を下げて言った。
義姉を助けてほしいと。
今現在、皇帝以上の権力を持つ皇后しか義姉を助けられない。義姉が絶対にそれを望まなくても、どうか義姉を助けてほしい、と。
表立って死んだ彼女のその後の面倒は、全て自分が見るからと。
その必死な様子に、さすがに人の心の機微に疎い私でも気づく。
ただ単に、従姉で義姉である彼女を助けたいのではないのだと。
彼にとって、彼女が唯一の、愛する女だから、助けたいのだと。
勿論、自分も彼女を助けたい気持ちは同じだったから、あっさり許諾したのだが。
さらに、公爵令息は意外なお願いをしてきたのだ。
彼女が息子に対し、なぜ、あんな凶行に及んだのか、そして、それ以前の皇太子の彼女に対する態度を知り、これは充分情状酌量の余地があると思った。
そもそも、彼女をあそこまで追い詰めたのは、私達親世代なのだ。
彼女が指摘した通り、確かに、最初は罪悪感に駆られて彼女を助けようと思った。
表立っての死刑は免れない。
被害者は皇太子であり、彼女の行為は、あまりにも残虐だった。
そもそもの非は皇太子にあったとしても、この世界のほとんどを支配している帝国の皇太子を断種した上、廃人にまでしたのだ。
どこかで落とし所は必要だった。
だから、表立っての死刑は実行する事にした。
だが、実際は生きられると知れば、彼女は喜ぶのだと、単純にそう思っていた。
皇太子妃や公爵令嬢ではなくなり、今までの名や身分を捨てる事になっても、新たな自由な人生を生きていいのだと知れば、喜ぶのだと。
けれど、その認識が甘かったのだと、彼女と直に対面して分かった。
彼女は最初から死を覚悟して、あんな凶行に及んだのだ。
最初から、息子の妻に、皇太子妃や皇后になるつもりなどなかった。
初夜で殺すつもりだったのだと、あっさり白状したのだから。
ただ単に殺すのではなく、男根をちょん切ったのは、馬鹿息子がとち狂ったせいだが。
尊厳を奪われようとしたのだ。彼女が息子の尊厳を奪うのは当然の事だろう。
それだけ、皇太子やその取り巻きが彼女を傷つけ、追い詰めたのだ。そう思っていた。
だが、そのそもそもの原因は、私達親世代なのだ。
彼女があんな凶行に及んだのは、私達が追い詰めたせいだと思っていた。
だが、その認識が、そもそも間違っていたのだと気づいた。
彼女が毒杯を賜る場で、たった一人に向ける膨大な熱量を宿す恋うる眼差しに――。
人の心の機微に疎い私だが、初めて興味を持った対象だからか、気づいてしまったのだ。
彼女があんな凶行に及んだのは、皇太子に対する仕返しなどではない。
ただ、愛する「彼」を皇太子の下に置かないためにだ。
そのためだけに、あんな事をした。
人から見れば、愚かだと嗤われる所業であっても、ただ愛する人に最高のものを与えたいという思い故に。
私には彼女のその想いを理解できない。
彼女としても、私や他の誰かに理解されたいとは思っていないだろう。
彼女のその想いは彼女だけのものなのだから。
だから、きっと、今ここで死んでも、彼女は後悔などしないのだろう。
だが、私は私のエゴで彼女を助ける。
彼女の義弟に頼まれたからではない。
ただ、初めて興味を持った人間である彼女を死なせたくないのだ。
陰では嫌われ悪口を言われていたかもしれないが、表立っては美しく聡明な皇后として敬愛されていた。
だから、彼女に面と向かって、女として、母として、人として、欠陥品だと指摘された上、あなたがこの世で一番嫌いだと言われて、本当に驚いたのだ。
確かに、私は人の心の機微に疎い。
政務なら何手先も読めるのに、これが恋愛などの複雑な心理となるとお手上げだ。
そもそも、私は他人に興味がない。
私を愛していると言った子爵や皇帝だろうと、腹を痛めて生んだ皇太子だろうとだ。
彼女の指摘に、普通なら失礼だと怒りを覚えるのだろう。
けれど、私は違った。
初めて、他人に興味を持ったのだ。
元婚約者の娘、息子の婚約者、将来の義理の娘で、皇太子妃ならびに皇后となる少女。
彼女に対する認識は、そんなものだった。
あの日、死刑前日となる彼女に会いに行ったその日までは――。
彼女に会いに行く前に、彼女の従弟から面会を求められた。
帝国内で絶大な権力を持つ宰相を務める公爵家の令息とはいえ、ただの未成年の少年に会おうと思ったのは、なぜなのか。
何かの予感が働いていたのか。
開口一番、彼女の義弟、公爵令息は頭を下げて言った。
義姉を助けてほしいと。
今現在、皇帝以上の権力を持つ皇后しか義姉を助けられない。義姉が絶対にそれを望まなくても、どうか義姉を助けてほしい、と。
表立って死んだ彼女のその後の面倒は、全て自分が見るからと。
その必死な様子に、さすがに人の心の機微に疎い私でも気づく。
ただ単に、従姉で義姉である彼女を助けたいのではないのだと。
彼にとって、彼女が唯一の、愛する女だから、助けたいのだと。
勿論、自分も彼女を助けたい気持ちは同じだったから、あっさり許諾したのだが。
さらに、公爵令息は意外なお願いをしてきたのだ。
彼女が息子に対し、なぜ、あんな凶行に及んだのか、そして、それ以前の皇太子の彼女に対する態度を知り、これは充分情状酌量の余地があると思った。
そもそも、彼女をあそこまで追い詰めたのは、私達親世代なのだ。
彼女が指摘した通り、確かに、最初は罪悪感に駆られて彼女を助けようと思った。
表立っての死刑は免れない。
被害者は皇太子であり、彼女の行為は、あまりにも残虐だった。
そもそもの非は皇太子にあったとしても、この世界のほとんどを支配している帝国の皇太子を断種した上、廃人にまでしたのだ。
どこかで落とし所は必要だった。
だから、表立っての死刑は実行する事にした。
だが、実際は生きられると知れば、彼女は喜ぶのだと、単純にそう思っていた。
皇太子妃や公爵令嬢ではなくなり、今までの名や身分を捨てる事になっても、新たな自由な人生を生きていいのだと知れば、喜ぶのだと。
けれど、その認識が甘かったのだと、彼女と直に対面して分かった。
彼女は最初から死を覚悟して、あんな凶行に及んだのだ。
最初から、息子の妻に、皇太子妃や皇后になるつもりなどなかった。
初夜で殺すつもりだったのだと、あっさり白状したのだから。
ただ単に殺すのではなく、男根をちょん切ったのは、馬鹿息子がとち狂ったせいだが。
尊厳を奪われようとしたのだ。彼女が息子の尊厳を奪うのは当然の事だろう。
それだけ、皇太子やその取り巻きが彼女を傷つけ、追い詰めたのだ。そう思っていた。
だが、そのそもそもの原因は、私達親世代なのだ。
彼女があんな凶行に及んだのは、私達が追い詰めたせいだと思っていた。
だが、その認識が、そもそも間違っていたのだと気づいた。
彼女が毒杯を賜る場で、たった一人に向ける膨大な熱量を宿す恋うる眼差しに――。
人の心の機微に疎い私だが、初めて興味を持った対象だからか、気づいてしまったのだ。
彼女があんな凶行に及んだのは、皇太子に対する仕返しなどではない。
ただ、愛する「彼」を皇太子の下に置かないためにだ。
そのためだけに、あんな事をした。
人から見れば、愚かだと嗤われる所業であっても、ただ愛する人に最高のものを与えたいという思い故に。
私には彼女のその想いを理解できない。
彼女としても、私や他の誰かに理解されたいとは思っていないだろう。
彼女のその想いは彼女だけのものなのだから。
だから、きっと、今ここで死んでも、彼女は後悔などしないのだろう。
だが、私は私のエゴで彼女を助ける。
彼女の義弟に頼まれたからではない。
ただ、初めて興味を持った人間である彼女を死なせたくないのだ。
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