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テラが太陽の光で目を覚ますと宿の前でロックが昨日の村人達と話し合っていた。
「いくらなんでもそりゃ安すぎるぜ」
「でも宿代だけでいいって話じゃないか」
「それは緊急だったからその価格でやったんだよ」
「うちも緊急なんだよ!」
朝から宿の前では怒声が飛び交っていた。
前日ロックから指示があるまでは宿で大人しくしているように言われた為、テラはその指示通り宿の中で過ごすことを決めていた。
朝食を食べに宿内の食堂に行くと女将が出迎えてくれた。
「おはようございますテラ様。
お陰様でアンは少しずつ話せるようになってきました」
「おはようございます。
昨日治療をしたばかりなのに早いですね。
今日は村の人の治療をするのでその前に治療をしましょうか?」
「そんな…テラ様にもご都合があるでしょうから…」
「大丈夫ですよ!では後でアンさんの部屋に伺いますね」
「ありがとうございます」
女将は心底感謝しているように目に涙を浮かべながらお礼を言った。
「あっ!すぐに朝食を用意しますね」
女将は慌てて裏へと下がっていった。
テラは朝食を食べ終わるとアンの下へと向かった。
「おは………おに……………」
「うん、おはよう。
今日も回復魔法を掛けるからちょっと大人しくしててね」
テラはそう言うと回復魔法を使う。
今日は喉と腕に魔法を使用した。
すると
「お兄……ありが……ます」
声が先程よりも出るようになり腕も少しだが動くようになったようだ。
それを見た女将はテラの後ろで泣き崩れている。
テラは今日の治療は終わった事を女将告げる事が出来ずにオロオロしていると部屋のドアがすごい勢いで開いた。
「おい!アンが治ったってのは本当か?」
「あ、あんた一体どこに行ってたんだい!」
「そんな事よりアンは大丈夫なのか?
って誰だてめえは!」
部屋に飛び込んできた男はテラの顔面を殴ろうと凄い速さでテラに向かってきた。
テラは躱すとアンに突っ込んでしまうと思い両手で防御しようとする。
「あんた!止めなさい!」
女将の言葉に男は止まった。
「こちらの方はテラ様と言ってねアンの治療をしてくれている方だよ」
「そ、そ、そうなのか?」
「そうだよ!しかも宿代だけで治療をしてくれている優しいお方だよ!
あんたもお礼を言っときなさい」
「お、おう、これは失礼いたしやした。
アンの治療をして頂いているそうでありがとうございます」
男はテラが治療をしていることを聞くと態度をがらりと変えテラにお礼を言ってきた。
それから女将にアンの治療の事を聞き目に涙を浮かべ喜びテラの手を握り何度も何度もお礼を言ってくる。
「テラ様は俺達に生きる希望をくれたんだからこんなぼろ宿で良ければいくらでも使ってください。
俺達に出来る事なら何でも言ってください」
「ではちょっとお願いをしても良いですか?」
「はい!俺に出来る事なら何でもやりますよ」
「えっと、この村で薬草を売ってる店はありますか?」
「薬草でしたらこの村では自分で取ってくるのが当たり前でさ。
必要な物があるなら俺が取ってきますよ」
「でしたら今書きますのでペンと紙をお借りしてもよろしいですか?」
「少々お待ちを」
テラはアンの治療に有効そうな薬草を書き上げて行く。
本当は今日自分で買いに行く予定だったがこの村には売ってないと聞き親父さんに任すことにしたのだ。
テラが薬草を書いている間親父さんは女将に何をしてたのか問い詰められていた。
どうやらアンが寝たきりになったショックで飲み友達の所でずっと飲んだくれていたらしい。
親父さんが女将にお灸を据えられて居る間テラは話し掛ける事が出来ずまだ書いているフリをして待っていた。
「全くあんたはアンの傍にもいてあげないで…」
「分かったからそのくらいにしてくれねえか…」
「全然わかってない!こんな状態だから…」
「おっ!そろそろテラ様が書き終わったみたいだぞ」
親父さんは逃げるようにテラの書いている手が止まっている事を告げる。
そしてテラの書き上げた薬草のリストを奪うように取り部屋を出て行く。
「テラ様ごめんなさいね。本当に慌ただしい人で困るわ」
「ははっ、でも薬草をアンさんに与える時は僕を絶対に呼んで下さいね。
間違えてあげると逆に悪化してしまいますから」
「分かりました、絶対にあの人に勝手にやらせませんから」
そしてテラが宿の方に戻るとロック弟が待っていた。
「おー兄ちゃん時間掛かったな」
「遅くなってすいません」
「気にするな、こんな村には回復魔法を使える人は滅多に来ないからそれだけ皆嬉しいのさ。
さっきもここの親父さんが凄い勢いで外に飛び出して行ったぞ。
どうせ兄ちゃんが治してやったんだろ?」
「いえ、僕はアンさんの治療に使える薬草のリストを渡しただけです」
「かぁーーー、なんだあの親父は薬草を探しに行っただけか。
俺はてっきり身体が良くなったから嬉しくて飛び出して行ったんだと思ったぜ」
「あはは」
「さてあんな親父はどうでもいいとして、今日の治療の事なんだが…」
ロック弟は今日の治療について話し始める。
テラの負担が少ないように1日何人見るかは決めずにテラが見る順番のみを決めていた。
料金も通常は銀貨5枚で金の無い人からは物品でも受けていた。
テラはその話を聞きどうせこの村から出れないのだから少しでも多くの人を治そうと心に決めた。
「小せえ村だからこっちから行く事にしてあるから兄ちゃんの都合で行って大丈夫だぜ」
「分かりました、では早速行きましょう」
テラ達は村を周り治療を行っていく。
道すがら会う人たちからも好意的に見られ屋台の前を通ると是非食べて欲しいと渡してくる。
テラは感謝し受け取ると頑張って治療をしないとと気合を入れるのだった。
日も落ちた所でロックから今日はお終いにしようと言われ今日の治療を終える。
「いや~それにしても兄ちゃんは凄い魔力量だな!
普通の奴なら5人も見たら魔力切れだって言ってその日は店仕舞いにしちまうのに兄ちゃんは今日だけでも10人も見ているんだからすげえよ」
「そうですか?よく分かりませんが冒険している時はもっと魔法を使っていたので」
「兄ちゃん冒険者だったのか!通りで魔法をいっぱい使えるはずだ。
モンスターを倒してレベル上げてないと魔力は上がらねえからな」
テラのレベルは既に20であり一般の人はせいぜい10もあれば高い方である。
一般の人は全くレベルを上げない者もおりテラのレベルは常人を遥かに超えていた。
ちなみにメルのレベルは40を超えている、これはモンスターにとどめを刺した物が多くの経験値を得るからだ。
「兄ちゃんもレベル高いならジャイアントポアをやっつけたりはできねえか?」
「それは回復術師の僕ではちょっと無理です…」
「そうだよな…うん、無理言って済まなかった」
「いえ気にしないで下さい」
テラも自分でジャイアントポアを倒せればメルの所に向かえるのにと悔しい思いをしていた。
そして一旦安らぎ亭に戻ってから準備をして酔いどれ酒場へと向かう。
酒場では丁重に出迎えられ奥へと案内される。
「お兄さんホントにありがとね、お陰様で親父も元気に料理を作っているわ」
「良かったです、でこれをご両親に渡していただけますか?」
テラは今日村の店で手に入れた皮と紐で作った指に穴の開いた手袋を差し出す。
「これは一体なんだい?手袋にしては穴が開いているし…」
「これは前に町で見た料理人さんが使っていた者を僕が見様見真似で作ったものです。
これを使うと手首に負担が掛からないと思いますので是非使ってみて下さい」
「本当かい!早速使ってみるよありがとね」
そう言うと給仕のお姉さんは自分の手にはめて具合を確かめている。
「おいおい、兄ちゃんは両親にって言ってただろ!
お前が使ってどうするんだ」
「あはは、ちょっと確かめてみたくて…
でもこれは手首が固定されるみたいでいい感じだよ。
早速渡してくるわ」
お姉さんは照れ笑いを浮かべながら奥へと下がって行った。
「全くカイリは相変わらずいい性格してるぜ」
「あのお姉さんと知り合いなんですか?」
「ああ、カイリは俺達兄弟と幼馴染みたいな奴でな俺達兄弟が父親の馬車でこの村に来るたびに遊んでいたんだ。
小さい頃から一緒だったからあいつの事はよーく分かってるさ」
「そうだったんですね、だからお姉さんを見る目が優しかったんですね」
「うん、そんな目してたか?」
「はい」
ロックが照れて頭を掻いている間に店の奥からカイリの両親が出てきた。
「ありがとうございます、この手袋は手首の負担が減って本当に使いやすいです」
「そうですか、良かったです」
「私の分までありがとうございます。
試しにフライパンを振ってみましたが全く痛くなりませんでした」
「見様見真似で作った物ですので細かい調整が必要だったら言ってくださいね」
「ありがとうございます、このままでも十分使えますので…
それでこちらの料金はいかがしましょうか?」
手袋の料金を聞かれテラはロックに小声で話す。
(材料費なんて大した事ないのでロックさんにお任せしますよ。
無料でも構いませんから)
(いいのか?じゃあ俺に任せてもらうぜ)
「えーそちらの手袋の料金なんだが兄ちゃんが頑張って作った力作だから高いぜ!」
「えっ!うちにそんなお金は…」
「そうだな…じゃあお金じゃなくカイリの手料理って事で手を打たないか?」
「そんな…カイリの手料理なんて今まで作った事ないから食べれた物じゃないぞ!
そんな物をお礼にしては失礼だろ!」
「お父さん?聞こえてるんだけど?」
「カイリからも言ってくれ!この手袋のお礼がお前の手料理なんて言ってるんじゃぞ!
そんな物毒を食べさすような物じゃろうがい!」
「お・と・う・さ・ん?私の料理は毒なのかしら?」
「そうじゃ!カイリの手料理なんて食べれる物じゃないだろ?」
「そこまで言われたら私にもプライドって物があるんだから作ってやろうじゃない。
ロックとお兄さんちょっと待っててね。
お母さんはちょっと手伝いお願い」
そういってお姉さんは裏へと戻っていった。
「ロックこれでいいんだろう?
それにしてもカイリの料理を食べたいだなんて物好きな…」
「親父さんありがとな。
親父さんもあいつがこれで料理に目覚めてくれればしめたものだろ?」
「そうだが、本当にいいのか?
この手袋の価値はカイリの料理程度じゃ全然釣り合わないぞ」
「いいんだよ!今回の料金は俺に一任されているからな」
「はい!今回の事はロックさんにお任せしたので僕は大丈夫ですよ」
「本当にすまねえな、じゃあカイリの料理の口直しでも作ってくるわ」
親父さんはそう言って裏へと戻っていった。
いつの間にか店内は混んでいたが常連が勝手にグラスに酒を注いだりして楽しんでいた。
テラ達は飲み物を飲みながら話しているとお姉さんが料理を運んできた。
「私が料理をするのなんて子供の頃以来よ!
だからありがたく頂いてね」
「おう!じゃあ早速頂こうかな」
「ちょっと待ちなさい!あんたじゃなくこちらのお兄さんへのお礼なんだからお兄さんが先に食べるんでしょうが」
「ちっ!細けえ事を…ほらっ兄ちゃん食べてみな」
「ではお先に頂きますね」
テラはカイリの料理に口をつけ食べてみるがなんとも微妙な味だった。
調理は上手く行っているのだが味付けが全くと言っていいほどないみたいだ。
その表情を見ていたロックも恐る恐る料理に手を付ける。
「かぁーこれは何と言って良いか困るな…」
「何が困るのよ!どう美味しいでしょ?」
「これは味付けが全くされてないだろ?
塩とか胡椒とかちゃんと使ったか?」
「えっ?塩とか胡椒使わないと味ってないの?
フライパンとかで炒めれば味って付くんじゃないの?」
「そんな訳あるか!ちゃんと味付けしないと素材の味しかしねえよ。
試しに一口食べてみな」
カイリは一口食べてみて微妙な顔をする。
「これは酷いわね…とてもお店で出せる物じゃないわ」
「親父さんの偉大さが分かったか?
少しは料理の練習もした方が良いぞ。」
「分かったわよ!これからは料理も練習するわ」
カイリは少し不貞腐れているようだが、渋々料理の練習をすることを決めた。
テラはそのやり取りを横で見ていたがロックがこの店で再び親父さんが腕を悪くした時に備えてカイリにも料理をするように仕向けたのだと思い優しく見守っていた。
「ほら、言わんこっちゃないだろ?
これで口直しでもしてくれ」
親父さんが料理を運んできてくれてそれを食べるテラ達。
お世辞とかは一切抜きにとても美味しい料理に舌鼓を打つ。
昨日食べた料理も美味しかったのだが、今日の料理は一線を画していた。
「この料理本当に美味しいです」
「そりゃ俺が気合を込めて作った料理だからな。
お礼なんだからどんどん食ってくれ」
結局テラ達は食べきれない量の料理が運ばれてきてその日は動けなくなるまで食べる羽目になった。
「いくらなんでもそりゃ安すぎるぜ」
「でも宿代だけでいいって話じゃないか」
「それは緊急だったからその価格でやったんだよ」
「うちも緊急なんだよ!」
朝から宿の前では怒声が飛び交っていた。
前日ロックから指示があるまでは宿で大人しくしているように言われた為、テラはその指示通り宿の中で過ごすことを決めていた。
朝食を食べに宿内の食堂に行くと女将が出迎えてくれた。
「おはようございますテラ様。
お陰様でアンは少しずつ話せるようになってきました」
「おはようございます。
昨日治療をしたばかりなのに早いですね。
今日は村の人の治療をするのでその前に治療をしましょうか?」
「そんな…テラ様にもご都合があるでしょうから…」
「大丈夫ですよ!では後でアンさんの部屋に伺いますね」
「ありがとうございます」
女将は心底感謝しているように目に涙を浮かべながらお礼を言った。
「あっ!すぐに朝食を用意しますね」
女将は慌てて裏へと下がっていった。
テラは朝食を食べ終わるとアンの下へと向かった。
「おは………おに……………」
「うん、おはよう。
今日も回復魔法を掛けるからちょっと大人しくしててね」
テラはそう言うと回復魔法を使う。
今日は喉と腕に魔法を使用した。
すると
「お兄……ありが……ます」
声が先程よりも出るようになり腕も少しだが動くようになったようだ。
それを見た女将はテラの後ろで泣き崩れている。
テラは今日の治療は終わった事を女将告げる事が出来ずにオロオロしていると部屋のドアがすごい勢いで開いた。
「おい!アンが治ったってのは本当か?」
「あ、あんた一体どこに行ってたんだい!」
「そんな事よりアンは大丈夫なのか?
って誰だてめえは!」
部屋に飛び込んできた男はテラの顔面を殴ろうと凄い速さでテラに向かってきた。
テラは躱すとアンに突っ込んでしまうと思い両手で防御しようとする。
「あんた!止めなさい!」
女将の言葉に男は止まった。
「こちらの方はテラ様と言ってねアンの治療をしてくれている方だよ」
「そ、そ、そうなのか?」
「そうだよ!しかも宿代だけで治療をしてくれている優しいお方だよ!
あんたもお礼を言っときなさい」
「お、おう、これは失礼いたしやした。
アンの治療をして頂いているそうでありがとうございます」
男はテラが治療をしていることを聞くと態度をがらりと変えテラにお礼を言ってきた。
それから女将にアンの治療の事を聞き目に涙を浮かべ喜びテラの手を握り何度も何度もお礼を言ってくる。
「テラ様は俺達に生きる希望をくれたんだからこんなぼろ宿で良ければいくらでも使ってください。
俺達に出来る事なら何でも言ってください」
「ではちょっとお願いをしても良いですか?」
「はい!俺に出来る事なら何でもやりますよ」
「えっと、この村で薬草を売ってる店はありますか?」
「薬草でしたらこの村では自分で取ってくるのが当たり前でさ。
必要な物があるなら俺が取ってきますよ」
「でしたら今書きますのでペンと紙をお借りしてもよろしいですか?」
「少々お待ちを」
テラはアンの治療に有効そうな薬草を書き上げて行く。
本当は今日自分で買いに行く予定だったがこの村には売ってないと聞き親父さんに任すことにしたのだ。
テラが薬草を書いている間親父さんは女将に何をしてたのか問い詰められていた。
どうやらアンが寝たきりになったショックで飲み友達の所でずっと飲んだくれていたらしい。
親父さんが女将にお灸を据えられて居る間テラは話し掛ける事が出来ずまだ書いているフリをして待っていた。
「全くあんたはアンの傍にもいてあげないで…」
「分かったからそのくらいにしてくれねえか…」
「全然わかってない!こんな状態だから…」
「おっ!そろそろテラ様が書き終わったみたいだぞ」
親父さんは逃げるようにテラの書いている手が止まっている事を告げる。
そしてテラの書き上げた薬草のリストを奪うように取り部屋を出て行く。
「テラ様ごめんなさいね。本当に慌ただしい人で困るわ」
「ははっ、でも薬草をアンさんに与える時は僕を絶対に呼んで下さいね。
間違えてあげると逆に悪化してしまいますから」
「分かりました、絶対にあの人に勝手にやらせませんから」
そしてテラが宿の方に戻るとロック弟が待っていた。
「おー兄ちゃん時間掛かったな」
「遅くなってすいません」
「気にするな、こんな村には回復魔法を使える人は滅多に来ないからそれだけ皆嬉しいのさ。
さっきもここの親父さんが凄い勢いで外に飛び出して行ったぞ。
どうせ兄ちゃんが治してやったんだろ?」
「いえ、僕はアンさんの治療に使える薬草のリストを渡しただけです」
「かぁーーー、なんだあの親父は薬草を探しに行っただけか。
俺はてっきり身体が良くなったから嬉しくて飛び出して行ったんだと思ったぜ」
「あはは」
「さてあんな親父はどうでもいいとして、今日の治療の事なんだが…」
ロック弟は今日の治療について話し始める。
テラの負担が少ないように1日何人見るかは決めずにテラが見る順番のみを決めていた。
料金も通常は銀貨5枚で金の無い人からは物品でも受けていた。
テラはその話を聞きどうせこの村から出れないのだから少しでも多くの人を治そうと心に決めた。
「小せえ村だからこっちから行く事にしてあるから兄ちゃんの都合で行って大丈夫だぜ」
「分かりました、では早速行きましょう」
テラ達は村を周り治療を行っていく。
道すがら会う人たちからも好意的に見られ屋台の前を通ると是非食べて欲しいと渡してくる。
テラは感謝し受け取ると頑張って治療をしないとと気合を入れるのだった。
日も落ちた所でロックから今日はお終いにしようと言われ今日の治療を終える。
「いや~それにしても兄ちゃんは凄い魔力量だな!
普通の奴なら5人も見たら魔力切れだって言ってその日は店仕舞いにしちまうのに兄ちゃんは今日だけでも10人も見ているんだからすげえよ」
「そうですか?よく分かりませんが冒険している時はもっと魔法を使っていたので」
「兄ちゃん冒険者だったのか!通りで魔法をいっぱい使えるはずだ。
モンスターを倒してレベル上げてないと魔力は上がらねえからな」
テラのレベルは既に20であり一般の人はせいぜい10もあれば高い方である。
一般の人は全くレベルを上げない者もおりテラのレベルは常人を遥かに超えていた。
ちなみにメルのレベルは40を超えている、これはモンスターにとどめを刺した物が多くの経験値を得るからだ。
「兄ちゃんもレベル高いならジャイアントポアをやっつけたりはできねえか?」
「それは回復術師の僕ではちょっと無理です…」
「そうだよな…うん、無理言って済まなかった」
「いえ気にしないで下さい」
テラも自分でジャイアントポアを倒せればメルの所に向かえるのにと悔しい思いをしていた。
そして一旦安らぎ亭に戻ってから準備をして酔いどれ酒場へと向かう。
酒場では丁重に出迎えられ奥へと案内される。
「お兄さんホントにありがとね、お陰様で親父も元気に料理を作っているわ」
「良かったです、でこれをご両親に渡していただけますか?」
テラは今日村の店で手に入れた皮と紐で作った指に穴の開いた手袋を差し出す。
「これは一体なんだい?手袋にしては穴が開いているし…」
「これは前に町で見た料理人さんが使っていた者を僕が見様見真似で作ったものです。
これを使うと手首に負担が掛からないと思いますので是非使ってみて下さい」
「本当かい!早速使ってみるよありがとね」
そう言うと給仕のお姉さんは自分の手にはめて具合を確かめている。
「おいおい、兄ちゃんは両親にって言ってただろ!
お前が使ってどうするんだ」
「あはは、ちょっと確かめてみたくて…
でもこれは手首が固定されるみたいでいい感じだよ。
早速渡してくるわ」
お姉さんは照れ笑いを浮かべながら奥へと下がって行った。
「全くカイリは相変わらずいい性格してるぜ」
「あのお姉さんと知り合いなんですか?」
「ああ、カイリは俺達兄弟と幼馴染みたいな奴でな俺達兄弟が父親の馬車でこの村に来るたびに遊んでいたんだ。
小さい頃から一緒だったからあいつの事はよーく分かってるさ」
「そうだったんですね、だからお姉さんを見る目が優しかったんですね」
「うん、そんな目してたか?」
「はい」
ロックが照れて頭を掻いている間に店の奥からカイリの両親が出てきた。
「ありがとうございます、この手袋は手首の負担が減って本当に使いやすいです」
「そうですか、良かったです」
「私の分までありがとうございます。
試しにフライパンを振ってみましたが全く痛くなりませんでした」
「見様見真似で作った物ですので細かい調整が必要だったら言ってくださいね」
「ありがとうございます、このままでも十分使えますので…
それでこちらの料金はいかがしましょうか?」
手袋の料金を聞かれテラはロックに小声で話す。
(材料費なんて大した事ないのでロックさんにお任せしますよ。
無料でも構いませんから)
(いいのか?じゃあ俺に任せてもらうぜ)
「えーそちらの手袋の料金なんだが兄ちゃんが頑張って作った力作だから高いぜ!」
「えっ!うちにそんなお金は…」
「そうだな…じゃあお金じゃなくカイリの手料理って事で手を打たないか?」
「そんな…カイリの手料理なんて今まで作った事ないから食べれた物じゃないぞ!
そんな物をお礼にしては失礼だろ!」
「お父さん?聞こえてるんだけど?」
「カイリからも言ってくれ!この手袋のお礼がお前の手料理なんて言ってるんじゃぞ!
そんな物毒を食べさすような物じゃろうがい!」
「お・と・う・さ・ん?私の料理は毒なのかしら?」
「そうじゃ!カイリの手料理なんて食べれる物じゃないだろ?」
「そこまで言われたら私にもプライドって物があるんだから作ってやろうじゃない。
ロックとお兄さんちょっと待っててね。
お母さんはちょっと手伝いお願い」
そういってお姉さんは裏へと戻っていった。
「ロックこれでいいんだろう?
それにしてもカイリの料理を食べたいだなんて物好きな…」
「親父さんありがとな。
親父さんもあいつがこれで料理に目覚めてくれればしめたものだろ?」
「そうだが、本当にいいのか?
この手袋の価値はカイリの料理程度じゃ全然釣り合わないぞ」
「いいんだよ!今回の料金は俺に一任されているからな」
「はい!今回の事はロックさんにお任せしたので僕は大丈夫ですよ」
「本当にすまねえな、じゃあカイリの料理の口直しでも作ってくるわ」
親父さんはそう言って裏へと戻っていった。
いつの間にか店内は混んでいたが常連が勝手にグラスに酒を注いだりして楽しんでいた。
テラ達は飲み物を飲みながら話しているとお姉さんが料理を運んできた。
「私が料理をするのなんて子供の頃以来よ!
だからありがたく頂いてね」
「おう!じゃあ早速頂こうかな」
「ちょっと待ちなさい!あんたじゃなくこちらのお兄さんへのお礼なんだからお兄さんが先に食べるんでしょうが」
「ちっ!細けえ事を…ほらっ兄ちゃん食べてみな」
「ではお先に頂きますね」
テラはカイリの料理に口をつけ食べてみるがなんとも微妙な味だった。
調理は上手く行っているのだが味付けが全くと言っていいほどないみたいだ。
その表情を見ていたロックも恐る恐る料理に手を付ける。
「かぁーこれは何と言って良いか困るな…」
「何が困るのよ!どう美味しいでしょ?」
「これは味付けが全くされてないだろ?
塩とか胡椒とかちゃんと使ったか?」
「えっ?塩とか胡椒使わないと味ってないの?
フライパンとかで炒めれば味って付くんじゃないの?」
「そんな訳あるか!ちゃんと味付けしないと素材の味しかしねえよ。
試しに一口食べてみな」
カイリは一口食べてみて微妙な顔をする。
「これは酷いわね…とてもお店で出せる物じゃないわ」
「親父さんの偉大さが分かったか?
少しは料理の練習もした方が良いぞ。」
「分かったわよ!これからは料理も練習するわ」
カイリは少し不貞腐れているようだが、渋々料理の練習をすることを決めた。
テラはそのやり取りを横で見ていたがロックがこの店で再び親父さんが腕を悪くした時に備えてカイリにも料理をするように仕向けたのだと思い優しく見守っていた。
「ほら、言わんこっちゃないだろ?
これで口直しでもしてくれ」
親父さんが料理を運んできてくれてそれを食べるテラ達。
お世辞とかは一切抜きにとても美味しい料理に舌鼓を打つ。
昨日食べた料理も美味しかったのだが、今日の料理は一線を画していた。
「この料理本当に美味しいです」
「そりゃ俺が気合を込めて作った料理だからな。
お礼なんだからどんどん食ってくれ」
結局テラ達は食べきれない量の料理が運ばれてきてその日は動けなくなるまで食べる羽目になった。
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