一人になってしまった回復術師は世界を救う

新兎丸

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12話

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 テラの寝ている部屋に忍び寄る影があった。
部屋に忍び込むとそっと刀を取り出す。

「マイトさんもう気付いてますよ」

 テラはベッドではなく扉の傍で声を掛ける。
マイトと呼ばれた侵入者はそっと刀を降ろす。

「テラも気配を察知するの上手くなったな!
最初の頃は毎日のようにこの竹光で叩いてやったのに」

「お陰様で…
あれだけ毎日何度も何度もやられれば少しは気配が分かるようになりますよ」

 テラが道場に入門してから2週間が経ちメキメキと力を付けていた。
相変わらず剣や槍を使うのは無理だがザリュウに提案された短刀と魔法杖の組み合わせはテラに馴染むものであったらしく日増しに上手になっていっていた。
しかし一番上達したのは魔力を使った気配察知である。
今まで感覚でやっていた事に魔力を応用出来ると知りザリュウに教えてもらったらすぐに使う事が出来た。
それが毎日の襲撃によりどんどん研ぎ澄まされていった。

「気配察知はもう俺より上かもしれねえな」

「マイトさんには他の事で何も敵わないのでそれぐらい勝たせてくださいよ」

「むむ!テラの癖に生意気言うな!」

 マイトはテラより半年前に入門した兄弟子であるが歳はテラの1つ上だった。
歳が近い事もあり2人はすぐに仲良くなり一緒に行動することも多くなっていた。

「おっと!そろそろ道場に戻らねえとザリュウ様に叱られちまうから先に戻ってるぜ!
せっかく人が起こしてやったんだから遅れるなよ」

「はい!後から行きますので先に行ってください」

「じゃ!また後でな」

 そう言い残してマイトは部屋を後にした。
テラは部屋を出て朝食を食べた後冒険者ギルドへと向かう。
ザリュウの道場に通い始めて2週間が経ち毎日訓練をする傍らメルの情報を聞きに冒険者ギルドへと通うのが毎日の日課となっていた。

「今日は何か勇者の情報はありませんか?」

「勇者様が王都を後にした後の情報はございません。
まだ王都の冒険者ギルドも混乱中らしくダメですね。
この町から派遣された兵士達からも新しい情報はありません」

「そうですか…また明日も来ますね」

 テラは冒険者ギルドを後にする。
1週間前に情報を聞きに冒険者ギルドを訪れた時衝撃の話を耳にしていた。

勇者を狙った魔族達が王都を襲撃した。
その時の襲撃により王都は機能不全に陥っている。
勇者はパーティーと共に魔族を撃退し自分が王都に居ては危険だと言い残してどこかに行ってしまった。

 以上の話を聞いた時テラは一刻も早くメルを助けに行こうとしたが肝心のメルがどこに居るのか分からない状況だったのでこの国で有数の都市アインスタッドで情報を集めているのだ。

(メル無事で居てくれよ)

 そう思いながらテラはザリュウ剣術道場で訓練に励む。
基礎体力を付ける訓練と短刀の使い方をメインに訓練する。

「テラ君もう少し相手の死角を狙った攻撃を心掛けて下さい」

「はい師範!」

 テラはジュニアに言われた通り両手に持った短剣をフェイントを絡めて攻撃していく。
その攻撃に合わせてマイトがジュニアに剣による攻撃を繰り出すが全てジュニアの持った短剣に捌かれていく。

「マイト今のは良かったですよ」

「ありがとうございます。
呆気なく捌かれてしまいましたけどね」

「それは私と貴方のレベルが違うからですよ。
レベルが上がればもぅ少し力も上がって簡単には捌けなくなりますよ」

 この時マイトのレベルは10でありこの道場の門下生の中では一番低いレベルだった。
テラもレベル21でマイトの次に低いレベルであった。
ザリュウ剣術道場の門下生は定期的にモンスターを狩る事を義務付けられており皆レベルが高かった。
そこで実践を想定した訓練は終わり体を鍛える為、鎧を着こみ道場の外を走り出すテラとマイト。

「この訓練が一番きついよな…
特にテラが来てからは倒れるまでやるってどんな鬼畜だよ………」

「すいません…僕が来たばっかりに…」

「いや本気にするんじゃねえよ!
テラの回復魔法のお蔭で毎日の筋肉痛から解放されて助かってるんだぜ。
ただそれを利用して鬼畜なメニューを組んだザリュウ様と師範が鬼なだけだ」

 テラの回復魔法で疲労や筋肉痛を癒し更に訓練をするという鬼畜なメニューが組まれてしまい門下生達は一様に精神的に疲労度が増していた。
しかしそれもザリュウの狙いであり精神的に疲れた状態で戦えるようにしているのである。
テラだけは倒れられたらまずいので適度に休憩を挟むように指示されていた。
しかしテラは一刻も早く強くなるために休憩を余り取らず訓練で疲れてきたら回復魔法を使い自分の体を癒してまた訓練を始めるというように自らを精神的に追い込んでいた。

「テラもあまり無理するなよ。
今の訓練は先輩達でさえ大変らしいから入ったばかりの俺達がひいひい言ってるのは当然の事なんだからな」

「お気遣いありがとうございます。
でも僕は早く強くならないといけないので…」

「前に言ってた勇者の為か?
まあ何にしてもあまり無理し過ぎても良くないから適度に休めよ」

「はい!気を付けます」

 テラ達は自分の限界まで道場の周りを走った後回復魔法で回復し再び実践的な訓練を行い一日が終わる。
ザリュウは2人の訓練を見ていて「そろそろか」と呟きテラとマイトに話しかける。

「2人とも頑張っておるな」

「「はい!」」

「お主達は明日から儂と一緒に森に籠ってもらう。
そこで対モンスターの手解きをしてやろう。
後の細かい事はジュニアから聞いてくれ」

「「はい!」」

 ザリュウはそう言い終わるとその場を後にする。
入れ替わりにジュニアが2人の所に来て説明をする。

「明日はいつも通りの時間に道場に来て下さい。
10日間程の訓練になりますので必要な物は各自で準備して下さい。
食料や水はこちらで用意するので持って来ないで下さい。
以上になりますが質問は?」

「「ありません」」

「よろしいですかでは明日は遅れないように来てください」

「「ありがとうございました」」

 テラとマイトは荷物をどうするかとか明日の事を2人で話し合いテラは宿へと戻る。
宿に戻ったテラはザリュウから貰った短剣を研いだり荷物の準備をしたりと忙しく過ごしていた。
そこにテラを訪ねて来る者が居た。

「よう兄ちゃん元気か?」

「ロックさん!?今日はどうしたんですか?」

「なあに弟の結婚が来月に決まってその買い出しに俺が来たって訳よ。
そして村の奴等に頼まれて兄ちゃんにとっておきのプレゼントを持ってきたのさ」

   ロック兄が小さな袋をテラに差し出す。
中には小さなペンダントが入っていた。

「これを僕に?」

「このペンダントはドナ村を開拓した祖先が王様から貰ったものらしいぞ。
これはかなり貴重な物で持っている者にはいざと言う時身を守ってくれると言われているそうだ。
確かに渡したからな」

「えっと・・・そんな貴重な物頂いて良いんでしょうか?」

「良いんだよ!
これは冒険者みたいな危険な職業の者が持っていた方が良いんだよ。
それに俺が持って帰ったら怒られちまうから受け取ってくれよ」

   テラは貴重な物と聞いてなんとか断ろうとしたが強引に受け取らされてしまった。
2人はご飯を食べながら色々と話をした。
テラの訓練の事、短剣を使い始めた事、ロック弟の事、王都が魔族に襲われた事についても話をした。

「兄ちゃん気をつけろよ・・・
魔族が活発に行動してるのは10年ぶりぐらいの事なんだがその時はここらにも魔族が出ていくつかの町が魔族に襲われかなりの被害が出たんだ」

「そんな事があったんですか!?」

「ああ俺の親父もまあまあ強かったんだがその時に魔族に操られたモンスターに殺られてな・・・


「それは・・・大変でしたね・・・」

「だからザリュウのジジイの所で存分に鍛えて貰いな!
あのジジイは1人で魔族にも勝ったぐらい強いからな」

「ザリュウさんってそんなに強いんですか・・・ 
それにしてもザリュウさんをジジイだなんて・・・
ザリュウさんはまだ若いじゃないですか?」

「あん?あのジジイはもう70近いぞ!
ははーんさては弟に遊ばれたな。」

「うぇっ?そんなに高齢だったんですか!?
まだ40歳ぐらいだと思ってました・・・」

「あの人間離れした動きと若い見た目だから仕方ねえが、あのジジイは俺のじいちゃんと同じぐらいだからジジイでいいんだよ」

   テラは最初に道場を訪れた時にロック弟にザリュウの年齢を聞いたら驚くと言われていたが失念していた。
   2人はそんな話をしながら今日は酒抜きで食事をするのだった。

   次の日の朝
既にロック兄は宿を出てドナ村へと向かっていた。
弟の結婚式を派手に祝うために各所を回り色々な物品を集めて居るのだった。
   テラも御祝儀に幾らか包みロック兄に預けていた。
そして村人から貰ったもので使わない物をロック兄が売り捌くと強引に持っていった物の売上も御祝儀にしていた。

   宿を出て冒険者ギルドに寄ってから道場に行くと門の前にザリュウの姿があった。

「うむお主はちゃんと遅れずに来たな」

「おはようございます。
もしかしてマイトさんは遅れているんですか?」

「まだ姿が見えない所を見ると遅れていると言っても良いだろう。
すまんが起こして来て貰えんか?」

   ザリュウのお願いをテラは二つ返事で受け入れマイトを呼びに行く。
しかし部屋にマイトの姿はなく探してみるとどうやらトイレの個室に隠れているようだ。
個室をノックすると返事はないが人の気配はする。
試しに声を掛けてみる。

「マイトさん?」

「・・・テラか」

「そうですテラですが体調が悪いのですか?」

「・・・いやそうゆう事じゃないんだが・・・
笑わずに聞いてくれないか?」

「はい!絶対に笑いません」

「俺さ昨日の晩モンスターに殺される夢を見たんだ・・・
夢の中では俺とテラが一緒にモンスターに刺し殺されてた・・・
俺の夢ってたまに当たるからさ、こうして森に行かなければ夢の通りにならないだろ?
だからこうしてるんだ」

「えっと・・・なんて言えば良いのか分かりませんがその事をザリュウさんに伝えてはダメでしょうか?
もしかしたら良い解決策があるかもしれませんよ」

「こんな事ザリュウ様に話してじゃあ行きませんってなるはずねえだろ!」

「その通りじゃ」

「「!!」」

   いつの間にか現れたザリュウに2人は驚く。

「マイトよお主が行かないとなればテラは1人でも儂と行く事になるじゃろう。
そうなればテラの死ぬ確率が高くなるがお主はそれで良いのか?」

「いえ良くはありませんが・・・」

「そうじゃろだからお主が見た光景にならぬ様お主が守ってやれ!
それが出来んのならお主は我が門下から追放じゃ!
仲間を守れぬような者は我がザリュウ剣術道場には不要じゃからな」

「・・・・・・・・・」

   しばし時が経ちゆっくりとトイレのドアが開く。
出てきたマイトはザリュウの前で土下座する。

「ザリュウ様申し訳ありませんでした。
兄弟子として守る立場の私がこんな体たらくを見せてしまい言い訳もございません」

「ふむ良いのじゃ初めから強い人間なんておりゃせんのじゃから時にはこうゆう事もあろう。
ただしお主のせいで出発が遅れた分は行動で取り返して貰うぞ!」

「はい」

   ひと騒動あったがようやく出発する3人。
目的地の森までは徒歩で向かう。
しかしテラとマイトには目的地を知らされずこの先険しい道程が待ち受けている事を2人はまだ知らなかった。

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