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14話

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   テラが目を覚ますとログハウスの中だった。
何が起きたか分からず辺りを見回すとザリュウとマイトが居た。

「ようやく起きおったか!
お主はもう少しでジャイアントグリズリーに殺される所じゃったのだぞ!」

「すいませんでした・・・
ザリュウさんが助けてくれたのですね?」

「そうじゃ!
お主が戦っている所の一部始終を見させて貰っていたのでな」

「えっ!そうだったのですか!?
全く気付きませんでした・・・」

「お主のレベルでは気付かぬのも無理はあるまい。
それよりもどうしてあの時逃げなかったのじゃ?
まさかジャイアントグリズリー相手に勝てると思い上がっていた訳ではあるまいな?」

   ザリュウが鋭い眼光を放ちながらテラを見る。

「あの時はマイトさんが逃げられたのか分からなかったので少しでも時間を稼ごうとしました・・・」

「うむその心意気は立派じゃ!
ただし心意気だけでは人を救うことは出来んぞ!
ちなみに言っておくがあの時マイトはお主を見捨ててとっくに逃げ出しておったわい!」

「えっそうだったのですか!?
でもマイトさんが無事で良かったです」

   マイトはテラの言葉を聞いて申し訳なさそうにしている。

「こやつはお主の事を見捨てて逃げ出しおったから儂がたっぷり叱ってやったわい。
とりあえず今日の所は体の傷を癒し大人しくしておれ」

   ザリュウはそう言うと外へと出ていってしまった。
するとマイトがテラに近寄り土下座をする。

「テラ済まなかった!
俺が逃げちまったせいでお前が危険に晒される事になっちまって・・・
こんな事になって怒ってるよな・・・
けどもう二度と俺はお前を残して逃げたりしないから この通りだ許してくれ!」

「マイトさん僕は別に怒ってませんよ。
それよりマイトさんが無事で居てくれて良かったです」

「テラ・・・お前はこんな俺を許してくれるのか・・・
死にそうな思いをしたのに・・・」

「許すも何も僕は怒ってませんから」

「テラ・・・・・・・・・
ありがとう・・・
俺は生涯この約束を違わないと誓う!」

    マイトは目に涙を一杯に浮かべながらテラの手を握り頭を下げる。

「ちょっとマイトさん・・・
大袈裟過ぎませんか?」

「これぐらいさせてくれ!
俺はそれ位の事をしてしまったんだから・・・」

   マイトはジャイアントグリズリーから逃げた時の事を話し出した。
逃げている最中にザリュウに捕まり弟弟子のテラが残って戦っている事を知った。
ザリュウに連れられ戻ると2頭のジャイアントグリズリーがテラを追いかけており、それを見たザリュウが1頭をすぐに仕留めた。
   
   そしてもう1頭も仕留めると思いきや樹上で様子を伺っていた。
ザリュウはテラが逃げずに戦っている真意を知りたかったから追い込まれているテラをすぐには助けなかったそうだ。
   
   テラが意識を失う際に放った言葉にマイトは衝撃を受けたそうだ。
自分より弱いテラがマイトを逃がす為に戦っている事に感動と同時に自分が惨めに思えた。
だからマイトはそんな惨めな思いを二度としないように、もう1人で逃げるような真似は絶対にしないと心から誓った。
   
   テラはマイトの話を聞いて少し照れくさく感じながらもマイトの誓いを真摯に受け止め「これからもよろしくお願いします」と返事をした。

   テラの傷は想像以上に深く回復魔法を何度も使用して傷を癒す。
魔法の使用による疲れからなのかジャイアントグリズリーに追い掛け回された疲れなのか分からないが、テラの疲労は相当あったためザリュウに言われたように今日は早めに体を休め明日に備える事にする。
マイトは責任を感じ家の外で剣の訓練をしていた。

 翌日も2人はモンスターの巣に向かう。
昨日のように2人が手に負えないモンスターが来た際にはすぐに逃げると決め、2人ははぐれているモンスターを探すことにする。
丁度良くはぐれていたGランクの人型モンスターであるゴブリンを見つけマイトがすぐに仕留める。

「今日はラッキーだったなまさかこの森でゴブリン程度が出てくるとは俺達ついてるぜ!」

「マイトさん…ゴブリンって集団で行動するモンスターですよね…」

「うん?そうだがそれがどうしたんだ?」

「確か…知能も人間の子供並みにあって上のクラスのゴブリンジェネラルやゴブリンキングってそれよりも頭が良いんですよね…」

「そうだが一体どうしたんだ?」

「えっとそのゴブリンが餌って事は考えられませんか…」

「ああ………考えられるな…
悪い何も考えずに倒してしまって…」

「とにかく早く逃げましょう…」

 2人は倒したゴブリンを回収せずに逃げ出そうとするがその先にゴブリンジェネラルが現れる。
先程のゴブリンは人間の子供ぐらいのサイズだったがゴブリンジェネラルは2mを超えるサイズだった。
ゴブリンジェネラルはBランクのモンスターであり弱いゴブリン達の統率を取る事が出来る。
そのゴブリンジェネラルが2人の前に単独で現れたのだ。

「マイトさんゴブリンジェネラルって事はゴブリン達が周りに隠れてるって事ですよね…」

「そうゆう事だな…これは諦めて戦うしかないな」

 マイトは剣を構え戦闘準備に入る。
テラは支援魔法の詠唱を始める。
一方ゴブリンジェネラルは片手を上げその手を勢いよく振り下ろす。
すると周りから矢や石が2人に向かって飛来してくる。
その前にテラの支援魔法が発動して2人の防御力がUPする。

「くそっ!この量はヤバいぞ!」

マイトは剣と盾で矢などをはじきながら言う。

「痛っ!マイトさんどうしますか?」

テラは躱し切ることが出来ず数発喰らってしまう。

「ゴブリンジェネラル以外の奴がどこに居るか分からないからどうしようないだろう!」

「僕なら気配でなんとなくどこに居るか分かるので僕が魔法で攻撃してみます」

 テラはそう言うとクレイニードルの詠唱を始める。
マイトは半信半疑ながらもテラと自分に飛来する矢等を防ぐ。
クレイニードルが発動し隠れて攻撃してきていたゴブリンに命中し絶命させる。
それを確認する間も惜しいとテラは再び詠唱を始める。
10発程クレイニードルを放った所で前方に居たゴブリンジェネラルが仲間をやられた怒りからなのか突撃してきた。

「テラ!不味いぞ」

「マイトさんどうしますか⁉」

「どうするも何もないだろ!
俺がゴブリンジェネラルを止めておくからその間に周りのゴブリンを倒せ!」

 マイトは向かってきたゴブリンジェネラルに対して構える。
テラは一刻も早くマイトを援護するため周りのゴブリンに向かってクレイニードルを放ち続ける。
マイトは切りかかってはすぐに離れるヒットアンドアウェイで戦っている。
Bランクのゴブリンジェネラル相手に上手く戦っているが目に見えて体の傷は増えていっている。
テラはマイトを横目に見ながら焦りながらもクレイニードルを放ち続ける。
クレイニードルによって残り数匹となった所でゴブリン達は逃げ出す。

「よし!これでマイトさんの援護が出来る」

 テラがマイトを見るとマイトは盾がなくなり体中から血を流し戦っていた。
テラは慌ててマイトに回復魔法を使用する。

「テラありがとな!これでまだ戦える!」

「支援魔法で援護します!」

 テラは自分の出来る限りの支援魔法をマイトに使用する。
それによりマイトはゴブリンジェネラルに対して互角に戦えるようになっていた。
ゴブリンジェネラルは苛立つように周りに向かって何か声を上げる。
テラは周りを警戒するがゴブリンジェネラルの声に反応するものはなかった。
増援はないと安堵したテラはクレイニードルの詠唱を始める。
増援がなく劣勢だと察したゴブリンジェネラルは剣を上段から一気に地面へと叩きつけた。

「くっ!砂ぼこりで前が見えない」

「マイトさん!こうゆう時は魔力で相手を探知ですよ」

「そうか!やってみる」

 2人はゴブリンジェネラルの持っている魔力を探知しようと辺りを探る。
砂ぼこりで見えない中マイトが声を上げる。

「いた!あの木の上に居るぞ!」

 テラはマイトの指示した場所に向かってクレイニードルを放つ。

「グギャッ‼」

クレイニードルがゴブリンジェネラルに命中する。
クレイニードル自体は大したダメージを与える事は出来なかったがゴブリンジェネラルは2人に見つかった事で木を飛び降りてくる。
ゴブリンジェネラルが着地した瞬間にマイトが切り込んでいく。

「おりゃぁぁぁー!」

 マイトの切り込みをゴブリンジェネラルは剣で受け止める。
その間にテラはクレイニードルをゴブリンジェネラルに向かって放つ。
威力は小さいがゴブリンジェネラルに対して嫌がらせにはなっている。
ゴブリンジェネラルが苛立ってテラの方を見た瞬間にマイトはゴブリンジェネラルの腕を切り落とす。

「ギャァァァァァ」

 ゴブリンジェネラルが痛がっている間にマイトは剣を何度も振り下ろす。
テラもクレイニードルで援護をする。
そしてついにゴブリンジェネラルは動かなくなった。

「よっしゃあー俺達でゴブリンジェネラルをやったぞー!
テラもお疲れ」

 そう言いながらマイトは動かなくなったゴブリンジェネラルに近寄る。

「マイトさん危ない!」

「えっ!」

 ゴブリンジェネラルは剣を落としてしまっているのでマイトに残っている拳を振るう。
マイトは拳を腕で防ぐが吹っ飛ばされてしまう。

「くっ!死んだふりだったのか…」

 再び立ち上がったゴブリンジェネラルがテラの方へと向かってきた。
テラは短剣を両手に構えゴブリンジェネラルに相対する。
ゴブリンジェネラルは拳をテラに向かって振るう。
テラはゴブリンジェネラルの拳を横っ飛びで躱す。

「マズい!どうしよう…」

 しかしゴブリンジェネラルはテラが考えるのを待ってくれず拳を振るってくる。

「グギャッーーーー」

 ゴブリンジェネラルは再び雄たけびを上げテラに向かってくる。
テラはゴブリンジェネラルの拳がなんとか片手なので回避出来ているが1発でも喰らってしまったらテラでは死んでしまうような威力だった。
   テラも短剣を繰り出し攻撃をするがゴブリンジェネラルの表皮を傷付ける程度しかダメージを与える事しか出来ない。
ゴブリンジェネラルの攻撃は当たらずテラの攻撃はほとんど効かない…
決め手がなく焦るテラだったがゴブリンジェネラルもテラに当たらず苛立っているようだ。

「どうすれば・・・」

   テラは吹き飛ばされたマイトの方を見るがマイトの姿は見えない。

(マイトさん無事で居てください)

   ゴブリンジェネラルに向き直るとテラは支援魔法を詠唱しながら短剣を構える。
ゴブリンジェネラルが拳を振り下ろしてくるがテラは拳を躱しながら短剣で攻撃をする。
いつまでも続きそうな戦いにテラは挑むのであった。
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