一人になってしまった回復術師は世界を救う

新兎丸

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19話

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「よう兄ちゃん危ない所だったな…」

「あっ…お前は僕を馬車に投げ込んだ奴!」

「静かにしろ!大きい声を出すんじゃねえ!」

「ふざけるな!お前のせいで僕は…

「今はそんな事話してる場合じゃねえんだよ!
この町の皆はおかしくなっちまったんだ!
そこで兄ちゃんの力が必要なんだよ!」

「…どういう事ですか…」

 テラを茂みへと引き込んだのはセラスの剣のライザーだった。
以前テラをメルから引き離すためにロック兄弟の馬車に投げ込んだ張本人だ。
そんなライザーがテラに助けを求めている。
テラはライザーから町の現状について聞いてみた。

「俺達がこの町に来た時はまだ大丈夫だったんだが突如町の人の雰囲気が変わりやがったんだ。
兄ちゃんも見て分かっただろうあの町の異様な雰囲気を?」

 テラは頷く。

「そしたらよいきなり俺達の事を襲ってきやがったから迎え撃とうとしたらメル様がやめろって言うから俺達は退散したんだ」

メルと言う言葉にテラはビクッと反応する。
しかしライザーは気にせず話を進める。

「それでどうするべきか話し合った結果、王都に居る大賢者様にご助力頂こうって話しになった訳だ。
王都の大賢者様が使う回復魔法ならこの町の住民も治せるだろうって事さ。
俺は他の奴らが大賢者様の所に行ってる間この町を見張ってるんだ」

「話は分かりましたがどうして僕の力が必要なんですか?
僕の力なんて大した事ない寄生虫だと言っていたのは貴方じゃないですか!」

「あの時は悪かったな…
でも兄ちゃんは回復魔法が得意なんだろ?
俺達の仲間の賢者がよ回復魔法を使ったんだがなかなか厄介な状態らしくてな、とてもじゃないが魔力が持たないってよ。
そこでメル様が言ってたぜ兄ちゃんの出番だぜ!
兄ちゃんならどんなに魔法を使っても魔力切れなんか起こさないってメル様が言ってたぜ!
なあ兄ちゃんこの町を助けると思って協力してくれないか?」

 テラは悩んでいた。
アインスタッドを助ける事に異論はないのだがこの男に力を貸していいのか悩んでいた。
この男の事だから何か裏があるのではと考えみたが結論が出ない。

「なあ兄ちゃんはこの町がこんな状態のまま放っておくのか?
もしメル様が言ってた通りの奴ならそんな事はしないと思うんだが」

 テラはメルの事を思い受ける事にした。

「分かりました。
僕に出来る事があるならお手伝いしましょう…」

「よし!それでこそメル様の従者だった男だ!」

「別に僕はメルの従者じゃありませんけど
でも終わったらメルとちゃんと話をさせて下さい!
それが僕が手伝う条件です」

「分かった分かった。
じゃあ早速町の奴等を治していこうぜ!
俺が少しずつここに連れてくるから待ってろ!」

 ライザーはそう言うとアインスタッドに向かってしまった。
テラは茂みからライザーの様子を覗く。
するとすぐに1人の男に声を掛けこちらへと連れて来た。

「よう兄ちゃん早速頼むぜ!」

「分かりました」

 テラは状態異常回復の魔法を詠唱する。

「ふーん君が無料で体の悪い所を治してくれるって奇特な人か」

「今こちらのお兄さんは魔法を詠唱しているので何かあれば私が聞きますよ」

 連れてこられた男とライザーが話をしている。
どうやら男は無料で回復魔法を受けられると聞いて連れてこられたようだ。
テラの状態異常回復の魔法が発動するが効果は薄い。
男の状態を確かめながら再び魔法の詠唱を始める。

「おいおい一回で良くならないって腕が悪いんじゃねえか⁉」

 男が騒ぎ出すのをライザーが宥める。

「大丈夫ですよこちらのお兄さんはこう見えても腕の良い回復術師なので多分ちょっと手違いがあっただけですのでそのままお待ちください」

「本当かよ…
これで治らなかったら俺はもう行くからな」

「大丈夫ですからもう少しお待ちください」

 ライザーはそう言いながらテラの事を睨むようにみる
心の中ではやっぱりポンコツだったかと疑っていた。
 テラはライザーの視線を感じ慌てながら魔法を発動する。
すると男はその場で糸の切れた人形の様にパタッと倒れてしまった。

「おぉー上手く行ったようだな!
仲間の賢者が治した時もこんな感じだったぜ」

「そうですか…
そうすると全員かなり厄介な状態みたいですね…」

「やっぱりそうなのか?
賢者の奴もそんな事言ってたが…」

「最初の魔法で治らなかったのはレベルの低い魔法だったからです。
毒とかなら最初の魔法で大体治るのですが全く効果があるようには思えませんでした。
今みたいな強力な魔法を全員にやるとなると相当な時間が掛かりそうです」

「それでもやるしかねえだろうが!
俺の名声…町の人の為にも俺達はやるしかねえんだ!」

 テラは何か聞き捨てならない事を聞いたような気がしたが、それが何と言ってた分からなかった為渋々だが頷く。
2人は同じ要領で町の人を治療していく。
5人目の治療を行っている時最初の1人が目を覚ました。

「うん?俺は一体…ここはどこだ…?」

「ここは町のすぐそばさ?今がいつだか分かるかい?」

 ライザーが起きた男に事情を説明する。
どうやら男は最近の記憶があいまいになっているようだ。
ライザーから話を聞いている内に男はどんどん顔が青くなっていく。

「俺は本当にそんな事をしていたのか?
勇者様を殺そうとしたなんて………
あんたの嘘じゃないのか?」

「残念ながら本当だ。
俺もメル様のパーティーの一員だが確かに町の皆が突然襲ってきた…
何か原因があると思うんだが何か心当たりはないか?」

 起きた人にライザーが色々聞いてみるが心当たりはないようだ。
その後も同じように10人程治療をした所でその日は止める事にした。
起きた者に何を聞いても記憶があいまいで何があったか覚えている者はいなかった。
回復した者にはテラとライザーの事は秘密にするように念押しをしてから町へと帰していった。

「奴等を見張っていれば何があったか分かるのにな…」

「どうゆう事ですか?」

「前に治療した奴は次の日にはまた元に戻ってやがったんだ!
だから見張っていれば何があったのか分かるだろう?」

「そうゆう事ですか…
それなら1人を治療して様子を見れば良かったのでは?」

「ああん!俺達が町に入ろうとすると捕まっちまうからこうしてるんだろうが!
少しでも多く奴等を治療して少しずつ町の奴等をまともにするしかねえんだよ!」

 ライザーのやり方に異論を唱えたかったが特にテラにも代案がある訳ではないので言わないでいた。
その日はライザーと一緒にもう少し離れた所で交代で見張りをしながら休むことになった。
テラは回復魔法を使わないといけないからとライザーから多めに休むように言われテラは早々と横になる。

(メル…今は王都に居るのか…早く会いたいよ…
今の僕なら少しはメルの役に立てるのに…)

 テラはメルの事を考えながら眠った。
途中ライザーと見張りを交代して朝になった。
2人は昨日と同じように町から出てくる人を狙って治療をしていく。
しかし昨日よりも入り口を警戒する人数が増えていた為思うように治療をする人を確保できないでいた。

「くそっ!俺達の事がばれたのか!
もし町から兵士や冒険者が出てきたら昨日キャンプした所まで引き上げるぞ!」

「分かりました…」

 ライザーは苛立っているがテラは落ち着いていた。
テラは魔力による気配察知により昨日より増えた人数が少数と分かっていた為慌てていなかったのだ。
しかし町から出てくる人数は昨日に比べて少なく朝から張っていたのに治療したのは5人に留まった。
 これは冒険者風な格好をしている者や少しでも腕が立ちそうな者を外したからだ。
今アインスタッドの外に出る者はモンスターを倒す冒険者が圧倒的に多いがその者達がもしかしたらテラ達を捕縛しに来た者かもしれないと思うと手が出せなかった。
本来なら商人等も多く行き交うはずなのだが今のアインスタッドからは商人らしき者は一切出てこなかった。
 そうこうしているうちに再び夜になる。

「くそっ!全然上手く行かねえじゃねえか!
どうなってやがるんだ!」

「町の人たちに警戒されているのかもしれませんね…
明日は反対側でやってみますか?」

「他の入り口は全部封鎖されてるんだよ!
だから町から出る者も入る者もみんなあの入り口を通るしかねえんだ!」

「そうすると…

テラはライザーに危険な提案をする。

「ほう思い切った事を考えるな…
それならこうした方が…」

 2人は明日の事を話し合ってから眠った。
次の日の朝テラとライザーは昨日より更に離れた所で話をする。

「よしっ!都合よく居るな…
じゃあ昨日話した通り上手くやれよ!」

「頑張ります…」

 テラは1人で町の入口へと走って向かう。
そこで兵士に呼び止められ話をする。

「止まれ!この町に何の用だ!」

「助けて下さい!この先で仲間がゴブリンに襲われているんです!」

「なんだゴブリン如き簡単に倒せるだろう?」

「すいません…まだ冒険者に成りたてでして…」

「ちっ!仕方ねえな…おい助けに行ってやるから場所を教えろ!」

「ありがとうございます!こっちです!」

 テラは兵士3人を引き連れてライザーと待ち合わせた所へと向かう。
そこにはライザーがゴブリン5匹と戦っていた。

「おぉーテラ待ってたぞ!これで助かったぜ!」

 ライザーの実力ならゴブリン如き一撃で倒せるのだがわざとてこずってるように戦っている。

「なんだたったの5匹じゃないかこの程度なら俺達だけで十分だからそっちで休んでな」

 兵士の言葉にライザーはぺこぺこしながらその場を離れる。
兵士達がゴブリンと戦っている間にライザーは他の兵士から見えない所に1人ずつ連れ込んでいく。

「こっちにもゴブリンが来ました」

「ゴブリン程度ならいくらでも任せておけ」

 ライザーは兵士が他の兵士から見えない所に入った瞬間眠り粉を使って眠らせる。
眠っている間にテラは状態異常回復魔法を使う。
その要領で他の2人も眠らせて治療をしていく。

「よし!上手く行ったな!
兄ちゃんも意外と悪い事考えるんだな」

「僕が言ったのは兵士を入り口からモンスターが居ると言って引き離すだけだったんですけど…」

「とにかく昨日話した通り後何人かこちらに連れ込んで来るぞ!」

 テラは再び町の入り口に向かい兵士に助けを求める。

「先ほどの人達だけではゴブリンが多いから誰か呼んできて欲しいって言われたのですが…」

「ちっ!たかがゴブリン如きに増援だとたるんでる奴らだ!
こうなったらこの門の責任者である俺が直々に行ってやろう!
お前は俺と一緒に来い!お前は兵舎に行って門の応援を呼んで来い」

「ありがとうございます」

 新たに兵士2名を引き連れテラはライザーの所に向かう。
兵士達はテラの恰好が回復術師で戦闘に向いてないと判断し何も疑ってなかった。
再び同じ要領で2人を眠らせた後治療を行った。
その時には最初に連れてった兵士の1人が起きておりライザーの演技に協力してくれた為スムーズに事は運んだ。
 そして起きた兵士から情報を得ようとしたが碌な情報はなかった。
しかし最後に起きた門の責任者からようやく情報を得ることが出来たのだった。
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