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20話

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   目が覚めた門の責任者を名乗る男に状況を説明する。
すると責任者は少しずつ何があったのか話し出した。

「最近アインスタッドに魔族が出るって話を聞いた事はあるか?」

   テラとライザーは頷く。

「俺達が変になってたのは恐らくその魔族が原因だと思うんだ」

「どういう事だ?」

「俺が警備している夜中に町の広場から煙が出ていると連絡を受けて駆け付けた所、マントで体を覆い白髪で耳が尖った奴が居たんだ。
捕まえようと近づいたんだが…そこからは何も覚えてないんだ…
多分そいつが魔族なんだと思う」

「つまりその魔族が煙でこの町の住民をおかしくしてるって事か?」

「確かな事は言えないが多分そうだと思う…
町の広場にから出てる煙が怪しいと思うんだが…」

「町の広場か…
そこまで行く間におかしくならないか心配だな」

 ライザーと門の責任者はどうやって町に入って広場から出ている煙をどうやって探るか考えている。
横で聞いていたテラもどうしていいか分からないので黙っていた。
結局答えが出ないまま兵士達は一旦町へと帰っていった。
煙は町の真ん中にある広場から出ているのでなるべく外側に居る事で少しでも煙を吸わないようにするらしい。


 翌日の朝
今日は兵士達が仲間を誘導してきてくれる手筈になっているのだが果たして上手く行くのかテラとライザーは不安に思いながらも兵士達がやってくるのを待っていた。
しかし兵士達は思いもよらない人物を連れて来た。

(おい兄ちゃんあれって魔族じゃないか⁉)

(そ、そうですよね…)

(これはマズいずらかるぞ)

(はい…)

 2人は隠れたままその場から離れていく。
兵士と魔族は辺りの茂みから2人を探しているようだ。

「居ました!」

 1人の兵士がテラとライザーを見つけ魔族に声を掛けた。

「見つかったぞ!急げ!」

「はい!」

「どこに行くんですかね?
私の事を探しに来たのではないんですか?」

 魔族は2人が逃げる前に降り立ち2人に話しかける。
2人は前を魔族に後ろは兵士に囲まれてしまった。
逃げ場を失いその場に留まる事しか出来なくなってしまい2人の額からは汗が出ている。

「うーん君達は私が探してた人とは違うみたいですね」

「なら見逃してくれねえかな?
俺達は町に居る知り合いを助けようと思っただけだからよ」

「そうですか…
では私が探している者を知っているか教えてくれませんか?」

「ああ俺達で分かる事なら…」

「この町のザリュウ剣術道場の師範をやっていた者でザリュウジュニアと言う者なのですが何かご存じですか?」

「ザリュウジュニアと言えば有名な剣士じゃねえか!
でも俺達はそれしか知らねえな」

そうですか…
ではこの町の事を他の者に知られて困りますから死んで貰いましょう」

 そう言うと魔族は魔法を詠唱する。

「ヤバい!あれは火の上位魔法だ!
逃げるんだ!」

 しかし2人が逃げようとすると兵士達が道を塞いできた。

「済まねえ…俺達家族を人質に取られちまったんだ…」

「ちっ!そうゆう事かよ!」

 ライザーは逃げ場失ったとみるやテラを持ち上げ兵士達に投げ込んだ。

「えっ!うわっ!」

「兄ちゃん悪いな!」

ライザーはテラを囮にして逃げ出した。

「フッフッフッ人間とは醜いものですね」

 魔族は笑いながらライザーに向けて魔法を放った。
その一撃をライザーを躱す。

「これでも勇者様のパーティーの一員だ甘く見て貰っちゃ困るな!」

 ライザーは逃げる足を止めずに魔族に向かって言う。

「ほう…なかなかやるもんですね…
ですがその程度で勇者のパーティーを名乗るとは笑えませんよ」

魔族はライザーを後ろから斬りかかった。

ザシュッ

ライザーの背中から鮮血が噴き出す。

「くそっ!なんでこっちに来るんだよ!」

「貴方の方が強そうですからね。
それに色々と知っていそうだからすぐには殺したりしませんからご安心を」

「何がご安心をだ!ふざけるんじゃねえ!」

 ライザーは剣を構え魔族に斬りかかるが背中の傷が響き剣速が出ていない。
ライザーの攻撃は簡単に防がれ魔族に頭を掴まれる。

「では眠って貰いましょうか」

 魔族は魔法を詠唱し始める。

「ふざけるんじゃねえぞ!」

 ライザーは蹴りを出すが魔族はそれを受けても笑っていた。
テラはその光景を見てどうするか悩む。
勝ち目はなさそうだが手助けをするか、自分を囮に逃げようとしたライザーを自分も見捨てるのか、自分の良心とも戦い悩んでいた。

(おい!兄ちゃん逃げろ!
俺達が戦ってる振りをして逃がしてやるから言う通りにしろ!)

 昨日話をした責任者がテラに声を掛けてきた。

(でもそんな事したら皆さんの家族が…)

(今はそんな事気にするな!とにかく言う通りにしろ!)

 兵士はテラの返事を聞く前に斬りかかってきた。
テラは兵士の剣を短剣で受け止める。

(後は頼んだぞ!)

兵士はテラをじりじりと押していき魔族から離れてテラを逃がそうとする。
森の中に入ると兵士はテラに声を掛ける。

「ここから逃げればそう簡単に見つからねえだろ!
上手く逃げて町の事を伝えてくれよ」

「でも皆さんが…」

「こっちは大丈夫さ…
さあ早く行け!」

 テラは兵士の言葉に流されるまま森の奥へと逃げて行く。
兵士はそれを見送ると自分の腹を剣で貫く。

「これでアインスタッドが…ぜえぜえ……助かると………良いな……」

「一人だけ恰好付けやがって…」

 もう一人の兵士も後を追うように自分の腹を剣で貫く。

「ダメな父ちゃんで…ごめんな………」

 2人の兵士は家族に責が及ばないように自刃して己の口を塞いだのである。
こうすれば家族には何もしないだろうという期待を持って…
そこに眠っているライザーを背負った魔族が現れる。

「おやおや回復術師如きに遅れを取ったのですか?
まあ本人達に聞けば分かる話ですね」

 魔族は兵士の頭に手をやり魔法を使う。
すると2人の兵士はゾンビとなって甦った。

「もう1人はどこですか?」

「これは一体………」
「……………」

「そういえば洗脳の魔法が解けている事を忘れてました」

 魔族が小さな瓶を取り出し瓶の蓋を開けると中から煙が出てきた。
それを吸ってしまった兵士達は再び洗脳されてしまう。

「もう一度聞きます。
もう1人はどこですか?」

「「あちらに逃げました」」

「貴方達は回復術師如きに逃げられたのですか?」

「いえ逃がしました」
「こいつが逃がしました」

「なるほど…」

 魔族は逃がしたと自白した兵士の洗脳を解く

「一体俺は…」

「貴方は私に手間を掛けさせてくれました。
お礼に貴方の家族は皆殺しにしてさしあげましょう」

「なっ!なんでだ!
あれっ?俺は死んだはずじゃ」

「どうやら記憶が曖昧になってるようですね。
牢に2~3日入れておけば元に戻るでしょう」

 魔族は兵士を眠らせ洗脳している兵士に担がせて町へと戻っていく。
テラの事は放っておいても問題ないと判断した。


 一方そのころテラは泣きながら森の中を走っていた。

(強くなったと思ってたのに…
結局僕は逃げてばかりだ…)

 テラは無我夢中で森の中を駆け抜けた。
走ってる途中で我に返ったが追手が来てると思い込みそのまま走り続ける。
疲れては回復魔法で疲労を癒し丸一日走り続けた。
   冷静になり後ろを振り返ると当然誰もおらずそれを確認してテラは安堵する。
辺りを見回すと目の前には湖が広がり後ろには森が広がっていた。
テラはここがどこか分からず村や町はないかと湖の方を見ていると岸辺に1軒の家を見つけた。

「あそこに行けばここがどこか分かるかな?」

テラは岸辺の家に向かいドアをノックする。

ドンドン
「どなたかいらっしゃいませんか?」

「誰だい!」

家の中から返事が返ってくる。

「すいません道に迷ってしまいましてここがどこか教えて頂けませんか?」

「ほう?そんな事言って私の首を取りに来たんじゃないじゃろうな?」

「違います!
僕はただここがどこか教えて欲しいだけです!」

   ようやくドアが開き中から杖を構えた老婆が出てきた。

「少しでも怪しい動きをしたらこの杖に溜めてある魔法を打っ放すからね!」

「は…はい!」

「見た所回復術士かい…そんなに強そうじゃないし道に迷ったってのは本当みたいだね」

「はい!間違いなく迷子です!」

   テラは杖を眼前に突き付けられている為言葉が少し変になっている。

「ふぉっふぉっふぉっ間違いなく迷子とは面白い小僧じゃな。
まあ立ち話も疲れるじゃろうから中に入りなさい」

「ありがとうございます」

   家の中はいかにも怪しい事をやってそうな大きな壺やビーカーやモンスターの素材が並べられている。
それを見て驚いているテラを老婆は見ていた。

「どうやら本当に私の命を狙って来た訳じゃなさそうじゃな。
道に迷ったそうじゃがここは魔女の森そう簡単に入ってこれる場所じゃないぞ」

「無我夢中で走ってたら着いてました…
どういう道を通ってきたかは覚えてません」

「ふぉっふぉっ嘘をついてるようには見えんし何かから逃げておったのか?」

   テラは町に行ったらどうせ話す事だからと魔族の事を包み隠さず話した。
自分1人逃げてしまった事や兵士達が犠牲になったであろう事も話した。

「なかなか面白そうな事になっとるようじゃな」

「面白くなんかありませんよ…」

「それにしてもアインスタッドに魔族が居るならザリュウの奴が黙っておるとは思えんのじゃが…」

「ザリュウさんを知っているのですか?」

「知ってるも何も私の元夫じゃからな。
それにしてもザリュウは何をしとるんじゃ?」

「ザリュウさんは別の魔族と戦って相討ちになり亡くなりました…」

「そうかザリュウの奴も逝ったか………
まあ奴も歳には勝てんかったようじゃな」

   そう言う老婆の目からは涙が流れていた。
テラはどう慰めればいいか分からずただ下を向いているだけだった。
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