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35話

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   テラは他の冒険者に絡まれながらもなんとか下へと続く階段を見つけて降りていく。
しかしこの洞窟には冒険者が多くテラはモンスターとなかなか戦えないでいた。

「なんでこんなに人がおおいんだろう…
これはかなり下まで行かないとモンスターと戦えないぞ」

   この洞窟に冒険者が多いのは最近メル達セラスの剣がレベル上げに使っていた事が広まり自分も強くなって一旗上げようとしている冒険者がやって来ている為だった。
テラは急いで下へと降りようとするが格好がいかにも魔法使いみたいにローブを羽織っている為何度も絡まれてしまう。
 強引に仲間に入れと言われたり装備や金を全て置いてけと言われたりテラは全て隙を見て逃げていたが既に洞窟の2階で精神的に疲れていた。

「なんで皆僕に絡んでくるんだろう…
そんなに僕は弱く見えるのかな…
どうすれば絡まれずに先に進めるんだろう…」

 テラが絡まれるのは1人で居居る上に弱そうに見えるからなので考えてもどうしようもないことなのだが、テラは悩んでいた。
そこに1つのパーティーが現れる。

「そこの君!もしかして回復魔法を使えたりしないか?」

「いえ…回復魔法は使えませんが…」

「そうか…では何か薬草などは持ってないか?
お金なら払うから持ってたら分けてくれ!」

 一見すると粗暴そうな格好の男なのでテラは警戒していたがあまりの必死さに耳を傾ける。

「一体どうしたんですか?どこも怪我をされてるようには見えませんが…」

「怪我してるのは俺じゃねえんだ!
この先の階段を降りた所で俺のパーティーメンバーが皆モンスターにやられちまって動けなくなっちまったんだ。
だから頼むから薬草を分けてくれ!」

 テラは必死に助けを求める男の言葉を信じてみる事にした。

「実は回復魔法を使えますので僕が治しに一緒に行きますよ」

「本当か!じゃあこっちだから俺の後ろを付いて来てくれ!」

 男が先導し下へと降りる階段の所まで行き下へと降りて行く。
降りて少し歩いた所で辺りを岩に囲まれた部屋のような所へと行きつく。
するとそこに男女が倒れていた。
テラは倒れている人に駆け寄ると後ろからここまで連れて来た男がこん棒でテラの後頭部を殴りつける。

「へへっお頭上手くいきやしたぜ」

 男の言葉に倒れていた男女が起き上がり男の方が口を開く。

「その言葉遣いを直せと言っただろうが!
しかし今回は1人だけか…
もっと金を持ってそうな奴を連れて来いと言っただろうが!
 だが今回上手く行ったのは僥倖だったな。
このまま今日は何の獲物も取れないかと思っていたぞ」

「へい!ありがとうございやす」

 男達は話し終わるとテラの荷物を奪おうと手を伸ばす。

「こういう事だったんですね…」

 テラは伸ばして来た男の手を掴み言い放つ。

「なっ!こいつどうして…
俺の一撃が効かなかっただと!」

 実は男の一撃はテラを昏倒させるほどの一撃だったが、テラはミールから貰った短剣に回復魔法を仕込んでおいたのでそれを意識を失う前に発動させたのだ。

「よくも騙してくれたな!」

 テラは両手に短剣を構え男に斬りかかる。
しかしすぐに後ろから殺気を感じて横っ飛びにジャンプする。
テラがジャンプする前までいた場所にロックニードル突き刺さる。

「へぇーよく避けれたね…でも次は外さないよ!」

 ここまで男にべったりと寄り添っていた女が魔法を放ったのだ。
しかも普通のロックニードルよりも詠唱が短く放ったのだ。
テラはその瞬間自分では勝てないと悟った。

(これはまずいな…あんなに早く魔法を使われたら隙を狙うのは難しいぞ)

 テラは警戒しながら3人が見える所へと下がって行く。
しかしお頭と言われた男は座ったまま動いてなかった。

「ちょっと身のこなしの良い回復術師程度早く片付けちまえ!」

「へい!お頭!」

 テラを連れて来た男が地を蹴りテラへと突進してくる。
手にはこん棒が握られそれを一気に振り下ろす。
テラはその一撃を避けるが地面にこん棒が当たると地面にぶつかり小石がテラへと向かってくる。
それを腕で防いでいると女がロックニードルを詠唱しているのが目に入った。

「クレイニードル!」

 テラは咄嗟にクレイニードルを女に向かって放ってしまう。
クレイニードルは詠唱してこちらを見てなかった女の腹部に突き刺さり女は倒れる。
その光景を座ってみていた男が怒りに震えながら立ち上がる。

「貴様よくも人の女をやってくれたな…
絶対に貴様は許さんぞ!」

 男は剣を構えテラに襲い掛かって来る。
テラはぜルマルの短剣で男の剣を受けるが男の剣は折れるどころかテラの短剣を弾き飛ばしてしまう。
ぜルマルの短剣が弾き飛ばされテラはもう片方の短剣を男に向けるが、男は下から切り返した剣でテラの一撃を防いでしまう。
そしてその隙を付きもう一人の男がテラの後ろから横なぎにこん棒を振るいテラは弾き飛ばされてしまう。

「ゲホッゲホッ…この人達強い…」

「当り前だろ!俺はAランクこいつもBランクなんだ!お前みたいな奴に油断しなければやられるはずがないんだよ!」

「そんな凄いのになんでこんな事を…」

「そんなこと貴様が知る必要はない!とっととくたばりやがれ!」

 男がテラに斬りかかろうとした時男の背中に矢が突き刺さる。

「な ん だ と…」

 するともう一人の男にも矢が飛んできて足に突き刺さる。
そして4人組のパーティーが姿を現す。

「そこまでだ!紅蓮の刃!
お前らの愚行全て見させてもらったぞ!」

「手前らはセラスの盾!どうしてここが…」

「君のパーティーメンバーがそこの子に声を掛けているのを見かけてね。
たかだか3階ぐらいでパーティーメンバーが誰にも見られずに強いモンスターにやられる事があるのか気になって尾行させてもらったのさ」

 少女が前に立ち紅蓮の刃に向かって言い放つ。

「全く…たまたま怪しい奴を見かけただけでしょ
アンネリーゼそのくらいにして早くこいつらを捕まえますよ」

「せっかく人がカッコつけてるのに…
マルヴィンの馬鹿…」

 セラスの盾は4人で周りを取り囲み紅蓮の刃へとじりじりと迫っていく。
するといきなり紅蓮の刃のリーダーの男がテラに向かって走り出す。
それに合わせてもう一人の男も矢が足に刺さったままテラへと襲い掛かる。
テラは短剣を構え迎撃しようとするが紅蓮の刃の2人は後ろから弓矢を放たれ足に喰らってしまう。

「くそっ!神弓と呼ばれるのは伊達じゃないって事かよ!」

「お前なんかに褒められても嬉しくないんだけど…
さて動けないように縛らせて貰うよ。
暴れたらあっちのお嬢さんがドカンとやってくるから大人しくしてね」

 ようやく紅蓮の刃は縄を巻かれ大人しくなる。

「さてあちらのお嬢さんはどうかな?」

 マルヴィンはテラのクレイニードルを腹部に受けた女に向かっていく。

「生きてますね…どうやらこのままでも命に別状はなさそうですね。
あと賢者の君は大丈夫ですか?」

「はい!大丈夫です!
それよりも貴方方は一体どういった方達なのでしょうか?」

 テラは既に傷を自分で治していたのでセラスの盾について聞いてみる。

「私達はセラスの盾というパーティーを組んでましてね…一応私がリーダーのマルヴィンと申します。
たまたま洞窟に入ったら怪しい人が貴方に声を掛けているのを見かけましたので手出しをさせて頂きました。
これでも全員が名の通った冒険者なのですが知りませんか?」

「すいません…」

 テラが謝ると分かりやすいぐらいにマルヴィンは肩を落とす。
そこにアンネリーゼが話に加わってくる。

「私達を知らないとは貴方新人?
これでもセラスの剣と並んで有名なんだけど本当に知らないの?」

「はい…すいませんが…」

「私達の事を知らない冒険者が居たなんて信じられないわ!
貴方本当は知っていってからかってるんじゃないでしょうね!」

「やめなさいアンネリーゼ!
この子はアンネリーゼと言って凄腕の賢者なのですがちょっとお転婆でしてね…
そういえばこの間は盾より剣の方が強そうだからセラスの剣って名前の方が良かったって泣き喚いていたんですよ」

「うっ…マルヴィンそれは言わないお約束よ…」

「全く何がお約束ですか…
話が逸れてしまいましたが私達は貴方の事を騙したりしないので一緒に兵士の居る洞窟の入り口まで来て頂けませんか?
私達だけで説明するより被害者も一緒に居た方が良いと思いますのでお願いします」

「分かりました。僕はテラと言います。
短い間ですがよろしくお願いします。」

 テラは先を急ぐと言いたい所だったが丁寧にお願いしてくるマルヴィンのお願いを断る事が出来なかった。
こうしてテラは一度入り口に戻る事になったのだ。
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