一度目は勇者、二度目は魔王だった俺の、三度目の異世界転生

染井トリノ

文字の大きさ
55 / 132
魔法学園編(本編)

99.王城

しおりを挟む
 王都の中心から北へ歩く。
 庶民的な街並みが徐々に変化し、行き交う人々も気品溢れる雰囲気が強くなる。
 建ち並ぶ店や建築物も変わっていく。
 高さと大きさが増し、見るからに高級そうな建物が増えてきた。
 そんな街中を進むと、大きな門が行く手を遮っている。
 門へ近づく一人の青年が、門番の騎士と会話をする。
 何かを伝えた後、門番が合図を送る。
 すると、巨大な門がゆっくりと開き始めた。
 その先に広がる風景を眺め、青年が言う。

「これが王城の敷地か―――」

 レイブが一歩を踏み出す。
 突然だが、俺は今王城へ来ている。
 パレードの時に見た門を通り、遂に王城の中へ足を踏み入れる事になった。
 なぜ?
 それを説明するには、時間を少しだけ遡る必要があるだろう。
 今から半日程前、学園にいた俺に一通の手紙が届いたのだ。


「王城? 王城って言いましたよね?」

「うん、言ったね」

 シルフィーから封筒を渡される。
 彼女曰く、王都からの招待状らしい。
 レイブは驚いた表情のまま、渡された封筒を眺めた。
 驚いているのは彼だけではない。
 シルフィーを除き、その場で聞いていた全員が驚きを表情に出していた。

「す、すげぇな……」

「中身を確認しないのですか?」

「えっ? あ、ああ、そうだな」

 アリスに言われ封筒の封を切る。
 中には文字が書かれた一枚の手紙が入っていた。
 ごくりと息を飲み、呼吸と気持ちを落ち着かせてから、記された文章に目を通す。

「レイ、何て書いたある?」

「えーっと、なになに……通達状―――レイブ・アスタルテ殿、国王陛下が貴殿にお目にかかりたいとおっしゃられている。以下の日時に、王城までお越しいただきたい―――」

 その後には明日の日時と場所、最後のあいさつ文が記されていた。

 何だ?
 かなり短い文章だな。
 それに内容も抽象的で、詳しい内容はわからない。
 国王が俺に会いたがっているのは伝わった。
 おそらく先の事件、王都襲撃の功を労うとかそんな所だろう。

「国王に謁見しろって事か」

「すごいじゃないっすか! さすが王都を救った英雄っすね~」

「何か褒美でも貰えるんじゃねぇか?」

「どうだろうな」

 正直に言えば面倒臭い。
 別に褒美がほしくて動いたわけじゃないし、富も名声も今の俺には不要だ。
 そんなものかつて嫌と言うほど手に入ったからな。
 これって強制なのか?
 国王からの要求じゃ、従わないわけにはいかないよな……

「どうしたの? あんまり嬉しそうじゃないね」

 リルネットがレイブの表情を見てそう言った。

「そんな事ないぞ?」

「そうなの?」

「もちろん」

「そっか」

 実際はあまり嬉しくない。
 これはたぶん、リルにはバレてるだろうな。
 俺は周囲に聞えない程度の小さなため息をついた。

「あのさ皆、国王ってどんな人なんだ? 俺、パレードの時に遠目でしか見た事無いんだけど」

「どんな人か~ わたしは直接話した事無いからわからないかな」

「ボクも知らないよ~ 顔くらいなら知ってるけど」

 この場にいる全員が知らないと答えた。
 まぁそりゃそうだよね?
 パレードの時はそこまでじっくり観察もして無いし、イメージも湧かないな。
 エレナなら知ってるだろうけど、わざわざ聞きに行くのも面倒だ。
 会って確かめるのが早いか。
 この国の王に興味が無いわけじゃないし、丁度いいかもしれない。
 今の人間界の王がどんな人物なのか。
 この目で確かめに行くとするか!
 という感じで今に至る。
 それにしても1000年前にあった王城とは大分雰囲気が違うな。
 昔のはもっと質素だった気がする。
 これだけ時間が経ってれば当たり前か。

 王城を眺めながら足を進める。
 途中老いた使用人に声をかけられ、そのまま部屋に案内された。

「ではレイブ様、こちらで今しばらくお待ちください」

「わかりました。案内ありがとうございます」

 老いた使用人が一礼し、部屋を後にした。
 案内されたのはおそらく応接室だろう。
 王が座るであろう椅子と対面する形で机や椅子が配置されている。
 壁には国の紋章らしきオブジェが立て掛けられ、床はきめ細かいじゅうたんが敷かれている。
 今住んでいるリルの屋敷も豪華に感じたが、やっぱり王城は特別だな。
 派手で豪華で落ち着かない。

「座ってていいのかな?」

 どうやって待っているのが正解なのか解らず、レイブは部屋の中をグルグル歩き回っていた。
 すると、どこからか視線を感じる。
 その場で立ち止まり感じた先に目を向けると、そこには入り口とは別の扉があった。
 しかし少しだけ開いていて、明らかに誰かが覗き込んでいる。
 光る目が4つ、つまり二人だ。

 なんだ?
 敵意は感じられないから大丈夫だろうけど……
 よし、ちょっと試してみるか。
 
 立ち止まっていたレイブが歩きを再開する。
 歩く方向には何も無い。
 ただそこは扉から死角になる位置だった。
 覗きこんでいた二人の視界からレイブが消える。

「あれ?」

 小さな声が聞える。
 死角で見えなくなったレイブを追うように、少しだけ扉を開けたようだが、部屋に彼の姿が無くなっていた。

「あれあれ? 居なくなっちゃったよ?」

「ホントだ! さっきまで居たのに―――」

「俺に何かようかな?」

 不意に後ろから声をかけられ、二人の少女が振り向く。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。