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魔法学園編(本編)

101.鞘の在り処

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「会えて光栄です。レイブさん」

 王妃ヴィクトリカが優しい声で言う。

「こちらの方こそ、人間界を統べる方々とこうしてお会いできた事に、深く感謝しております」

「人間界を統べるか……我々はそんなに大層な人間ではないよ。むしろ多くの人間を救った君の方が、よっぽど偉大な存在だと思うよ。王都を守ってくれて本当にありがとう。我々が今こうして笑っていられるのは君のお陰だ。国民を代表して礼を言わせてほしい」

「お言葉ですが王よ。此度の戦いに勝利できたのは、私だけの力ではありません。王国に属する騎士や魔術師達が一丸となった結果です」

 事実その通りだ。
 あれだけの襲撃に対して、今回程度の被害で済んだのは奇跡に等しい。
 間違いなく俺一人では、ここまで守りきることはできなかっただろう。
 特にエレナの存在は大きかった。
 彼女が居なければ、あの悪魔を止められなかったに違いない。

「そうだな。君の言う通りだ。だがその中で君の功績が大きい事も事実。王都を覆う隠すほど巨大な魔物……あれを倒したのは君だ。あれは君にしか倒せなかっただろう……そうも言っていたよ」

 彼?
 誰の事だろう?

「今日来てもらったのは、君にお願いしたい事があったからなんだよ」

「私に? 仕事の依頼か何かですか?」

「それに近いね。レイブ君、君に娘達の―――王女専属の騎士になってほしい」

 国王からの願い。
 それを聞いたレイブは、予想していなかった事に対する驚きを顔に出す。
 ライムとレイムは、プレゼントをあける時のような期待を胸に抱き、宝石のように瞳を輝かせている。
 詳しい話を聞くために、レイブ達は座って話を続けることにした。
 国王の左には王妃が、その隣にライムとレイムが座る。
 レイブは対面する形で前に座った。

「専属の騎士ですか……それは私に、王城に入れという事ですよね?」

「そうなるね。もちろん四六時中と言う訳では無いが」

「一応まだ私は魔法学園の生徒です。王城に入ってしまうと、通えなくなると思うのですが?」

「それについては学園長と交渉しよう。君ほどの魔術師なら、わざわざあと2年半も学園に通うまでも無いだろう? 現時点を持って国家魔術師の資格を与える事も、国王である私であれば可能だよ」

 国王の意見はご尤もだと思う。
 元々学園に通うこと事態が目的ではなかったレイブにとって、国家魔術師の話も今すぐに資格が得られるのは悪い話ではない。

「どうだろう? 君にとっても悪い話では無いと思うのだが」

「そうですね……」

 悪い話ではない。
 そう、悪い話では決して無い。
 だけど……
 
 この時、彼の脳裏には彼女達の姿が浮かんでいた。
 共に王都へ赴き生活しているリルネットとアリス。
 クラスメイトで一緒に生徒会に入ったクラン。
 互いの秘密を共有しあったシルフィー。
 他にも、学園を通して出会った多くの者達の姿が浮かんだ。

「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」

 謝罪の意味を込めて、俺は深々と頭を下げた。
 直接見なくてもわかる。
 ライムとレイムはガッカリしている事だろう。

「そうか……理由を聞いても良いかな?」

「はい」

 俺は下げた頭をあげた。
 国王の表情は依然穏やかで怒っている感じはしない。
 二人はというと、予想通りの表情をしていた。
 期待を裏切ってしまったことに罪悪感を感じている。
 それでも、テキトーな返事をするわけにはいかなかった。

「お誘いは本当に嬉しいです。ですが私には、まだ学園でやりたい事があるんです。それを成し遂げずに学園を去るわけにはいきません」

 俺にとって学園は、単なる魔法の学び舎ではない。
 いいやこの場合、そうではなくなったという方が正しい。
 学園は多くの者達と出会った場所であり、絆を……思い出を作ってきた場所だ。
 生まれ育った村以外で、初めて出来た居場所でもある。

「それに……俺にはもう、その笑顔を必ず守ると誓った人が、守るべき姫がいるんです。その誓いを投げ捨てるつもりはありません」

 神の悪戯に翻弄され、これまでの人生の大半を苦しみ続けた彼女の……
 リルの笑顔を守ると、あの時心に決めた。
 それは騎士としての誓いと変わらない。
 誓いであるなら果たすべきだろう。
 それに彼女は俺の所有物でもある。
 支配した者としての責任として、途中で投げ出すわけにはいかない。
 たとえ、国王からの願いであってもだ。

 レイブは国王と目を合わしたまま逸らさない。

「その眼……これはもう、何を言っても無駄なようだね」

「本当に申し訳ありません」

「謝らないでくれ。これは私の我がままなんだ。それも国王としてというより、父親としてのね」

「……」

 ライムとレイム、娘達に対する親心だった。
 父親として二人が慕っているのなら、ずっと傍にいてもらいたい。
 そういう願いだった。

「お兄ちゃん……」

 ライムが泣きそうな声で話しかける。
 隣にいるレイムも、悲しそうな顔をしていた。

「ごめんな二人とも。俺にはまだ、やらないといけない事あるんだ。だから、ずっと一緒にいは居られない」

「お兄様……レイム達の事嫌いなの?」

 レイムが声を震わせ言った。

「そうじゃないよ。自分を慕ってくれる人を嫌いになんてなるわけない」

「だったらお兄ちゃん、また会いに来てくれる?」

「もちろん! 今度は二人が招待してくれるかな?」

 二人の表情が変わる。
 曇天だった表情は、涙の雨を降らせる前に晴れていく。
 輝く太陽のような笑顔が二つ、レイブの前に現れる。
 そうして息を合わせて答えた。

「「はい!!」」
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