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魔法学園編(本編)

109.思い出になった場所

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「巡回ですか?」

「そうだ。街の探索も兼ねて、砦内部の様子を見て来てほしい」

「わかりました」

 マッケンの指示を聞いた一行は、言われた通り街の巡回へと向かった。
 全員でまとまって周るのも効率が悪いので、2人1組のペアに分かれて。
 レイブとペアになったのは……

「行きましょうか? 先輩」

「ええ」

 フレンダだった。
 理由は単純で、同じ騎士団員だからというもの。
 今回レイブは騎士団員としてこの任務についている。
 ならば行動を共にするのも、同じ騎士団員の彼女が適任だと判断したのだ。
 ちなみに他のペアは、リルネットとアリス、クランとグレン。

「意外と街の中は穏やかですね」

「そうみたいね。とても魔物の襲撃を受けている街とは思えないわ」

 街を巡回する二人は、行き交う人々を見てそう感じた。
 皆怯えている様子は一切無い。
 まるで何事もなかったように日常を過ごしている。

「被害は砦の外で治まっているんでしょうね。でなきゃ、こんなに落ち着いていられない」

「そうね」

 それだけここにいる騎士達が優秀だという事か。
 街の人に話を聞いてみると、皆口を揃えて心配していないと答える。
 どうやら強い信頼を得ているらしい。

「凄いですね。ここまで信頼されるなんて中々できないですよ」

「ええ……」

 フレンダ一言だけ返して街を見回す。
 その瞳から少しばかりの憂いを感じられる。
 この時レイブは、同時に少し前の出来事を思い返してた。

「アルベルトさん、今の話本当なんですか?」

「本当だよ」

 団長室で話すレイブとアルベルト。
 これは騎士団員としての初任務を言い渡された後の出来事。
 フレンダは帰宅しレイブだけが残っている。
 というより話があると残されている。
 その話の内容は、フレンダの過去に関わる事だった。

「今言ったように、このグレーテン砦は彼女の父、騎士テスカルト・アルストロメリアが最後を迎えた場所だ」

「彼女はそれを?」

「もちろん知っているだろうね」

「そうか。だから先輩は……」

 先程の彼女から感じた違和感の正体。
 それが今ハッキリした。
 彼女はこの砦がどんな場所か知っていた。
 グレーテン砦は彼女の父が命をとして守りぬいた場所。
 そして彼女の中で父が思い出に変わってしまった場所でもある。
 だから彼女は思い出していたのだ。
 亡き父の事を……

「どうしてこれを初任務にしたんですか? まさか彼女を試して?」

「そうだね。彼女が騎士を目指すのなら、これは超えなければならない壁の一つだろう。その機会を与えたかったというのもある。しかし半分は偶然だ。ちょうどこのタイミングで増援が必要になったからね」

「そうですか……」

「心配なら君が支えると良い」

 そんな事言われてもな~
 実際どう支えると良いのか……というか、そもそも支えが必要なのかどうか……
 デリケートな問題だし、彼女の今後に大きく影響し来る問題でもある。
 さて、どうするのが正解か。

「あっ!」

 考えながら歩いている所為で、俺は前から歩いてきた女性とぶつかってしまった。

「すいません。お怪我はありませんか?」

「大丈夫です。あら? あなた方新しい騎士様ですか?」

「え、はい。今日からこの街へ来ました。レイブといいます」

「そちらのあなたは?」

「フレンダ・アルストロメリアです」

 女性がフレンダの名前に小さく反応する。

「そう……ご苦労様です。それでは」

 そのまま女性は立ち去った。
 そうしているうちに一日が終わる。
 巡回を終えたレイブたちは、本部に戻っていた。

「おつかれ様、そっちはどうだった?」

「特に問題なかったぜ?」

「こっちも大丈夫だったよ!」

 グレンとリルネットが答えた。
 街の様子はどこも変わらず穏やかだったらしい。
 本日は襲撃も無かった分、比較的平和だった。
 それからマレクとも合流し、彼の案内で食堂へ向かう。
 そこでは大勢の騎士団員が待っていて、レイブ達を歓迎する催しが開かれていた。

「ありがとうございます。わざわざ俺達のために」

「礼を言うべきなのは我々の方だよ。増援無しではそろそろ厳しい状況だったからね」

「お力になれるように頑張ります」

 レイブがマッケン隊長と話している。
 その横にはフレンダもいた。
 彼女は周りで楽しそうに話す騎士達を見ている。

「マッケン隊長」

「何かな?」

「宜しいのですか? そのような厳しい状況で、こんな……」

「気の抜けた顔をしていて?」

「い、いえ! そういうつもりでは!」

 マッケンは豪快に笑う。

「構わないよ。実際気を抜いているのは確かだしね? ただ私は厳しい状況だからこそ、こういう時間が大切だと思っているんだよ。常に気を張っていては保たないからね」

「確かにそうですね」

「フレンダ、君も今日は楽しむと良い。騎士団員として他の騎士と交流を深めるのも大切だぞ?」

「はい!」

 マッケンの言葉を聞いたフレンダが席を立つ。
 そのまま他の騎士達にあいさつをしに行った。
 相変わらず真面目だな。
 リルネット達も楽しそうに話をしている様子が伺える。

「よし」

 レイブが席を立つ。
 そして徐に食堂の外へと向かった。
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