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魔法学園編(本編)
142.神は見ている
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教会の扉が開く。
中で待っているのは、神父姿の男性。
そこへ三人の魔術師が歩み寄る。
「お帰りなさい皆さん、どうなりましたか?」
カイン神父が慌てた様子で駆け寄ってきた。
その質問に、リルネットが答える。
「予み通りでした。ゴードンさんの自宅を調べた結果、彼が犯罪に関わっている事がわかりました」
「やはりあの男でしたか……では―――」
「ですが、彼は犯人ではありません」
「なっ……それはどういう―――」
「犯人は彼ではなく、もっと身近にいたんです」
リルネットはカイン神父に話す隙を与える事無く続ける。
二度も自分の発言に割り込まれたカイン神父は、次の彼女の言葉を聞く。
ごくりと喉を鳴らし、一滴汗を流しながら。
「貴方ですよカイン神父、犯人は貴方です」
その場に衝撃が走った。
唐突に犯人扱いされたカインは、焦りを見せつつも笑顔でこう答えた。
「急に何を言っているのですか? わたしが犯人であるはずが―――」
「ずっと違和感を感じていたんです」
「?」
「貴方からの情報を聞いて、私達はゴードンを犯人だと思いました。ですがわたしは、貴方の発言がどうしても引っかかっていた……カイン神父、貴方は言いましたよね?」
カイン神父は、ゴードンの名前を出す前にこう言った。
私も同じ思いです。どんな理由があるのかは知りませんが、犯人の男は絶対に許されない事をしている。未来ある子供達を攫うなど……
「一見正しい事を言っているようですが、どうにも可笑しいんです。カイン神父、なぜあなたは犯人を男だと言ったのですか?」
「―――っ!!」
この時にわかっていた情報では、犯人の人相は愚か性別もわかっていなかった。
それなのに彼は、発言の中で男というワードを使っていたのだ。
そしてその後、ゴードンの名前を出した。
「あの時、わたし達も犯人が男だとは知りませんでした。でもあなたの発言の後、ゴードンさんの話を聞いて、無意識のうちに決め付けてしまった。あなたに誘導されてしまっていたのです」
「さっきから何を言っているのです? 私は神父、神に遣える者ですよ? その私が犯罪を犯すなどありえない」
「神に遣える者……ですか」
「そうです。いいかげんにしてもらわないと、さすがの私でも怒りますよ」
リルネットが両目を閉じる。
そして、
「その神が、貴方を犯人だと教えているんです」
ゆっくりと開かれた眼は、灰色から透き通るようなエメラルドグリーンへと変化していた。
「その眼は一体……」
「もう一度自己紹介をしましょう。わたしはアストレア皇国の第二皇女、リルネット・エーデル・アストレア」
「アストレア皇国の第二皇女……まさか、覚姫」
カイン神父はすべてを察した。
彼女の眼が、自分のすべてを見抜いていることを。
「よかった。やはりご存知だったのですね。ならもう理解しているんでしょう?」
カイン神父は黙り込んだ。
しかしすぐに声を上げ高笑いをする。
「まさか、こうも簡単にバレとは……これだから神って奴は嫌いなんだ」
カインの表情が変化する。
優しい雰囲気も消え、鋭い眼光でリルネットを睨む。
「お見事だ。一応聞くが、その眼はどこまで見えているのかな?」
「あなたが犯人で、この教会に引き取った子供達もいずれは売り捌くつもりだった……という事くらいまでは見えていますよ」
「ああそうか、そこまで見えてるんじゃもう誤魔化しようも無いな」
「てめぇ……」
「何だその顔、騙されてたのがそんなに腹立たしいか?」
怒りを露にしているグレンの変わりに、リルネットが答える。
「違いますよ。わたし達が怒っているのは、あなたの行い全てです。子供達を育てていたのも、学び舎を開いていたのも、全て人身売買のためだったんですね」
「当たり前だろ? 他にどんな理由で見ず知らずのガキを育てるんだ? どうせ死ぬしかない連中を育ててやったんだ。その後どうしようが俺の自由だろ?」
「驚きました。まかかこれほどの屑とは……その様子だと、ゴードンが犯罪に関わっている事も知っていて利用したのですね?」
「ああ、そうだぜ? あのデブは馬鹿だから簡単に利用できると思ったんだが、とんだどんでん返しもあったもんだ」
カインはやれやれと両手を振った。
そんなカインに対して、グレンが詰め寄る。
「覚悟はできてんだろうな?」
「覚悟? そんなもん必要ないな。ここでの商売は出来なくなったが、ここ以外にも町や国は腐るほどあるんだ」
「この状況で逃げられると思っているのですか?」
アリスも臨戦態勢に入る。
グレンも拳を振るう準備は出来ていた。
「それはこっちのセリフだ。お前達こそ、俺の秘密を知って無事に帰れると思うなよ?」
その場に緊張が走る。
「そもそもお前達がこの教会へ足を踏み入れた時点で、もう終わってるんだよ」
「そうですね。もう終わっています」
リルネットが言うと、カインの足元に魔法陣が出現。
そこから伸びる鎖に拘束される。
「くっ……ネグローブか、だが―――」
なんだ?
どういう事だ?
「無駄ですよ。教会に施されていた罠なら、もうとっくに解除してあります」
「なんだとっ」
「カイン神父……貴方は神を嘗めすぎている」
グレンの拳がカインに直撃する。
彼を拘束した後、魔法によって子供達の情報を入手。
国の騎士達にも協力を依頼し、人身売買に関わった者達を捕らえる事に成功した。
ゴードンの方も密輸の容疑で身柄を拘束され、事件はこれ以上大きくなる前に終息した。
「そんな事があったわけか。大変だったな二人とも」
すべてが終わった後、依頼から戻ったレイブと話をした。
「今回はリルのお手柄だな」
「はい。リル様が居なければ、私達は真実にたどり着けませんでした」
カインは言葉と立場を使って、三人を上手く誘導していた。
犯罪者は元来、犯罪からもっとも遠い場所にいようとする。
カインもまた被害者側に立つ事で、彼女達を欺こうとした。
後からわかった情報によると、彼は同様の手口を他の町でも繰り返していたらしい。
だから手馴れていたのだろう。
相手を騙す事、欺く事に……
「……」
「リル?」
「レイ、わたし決めたよ」
「何を?」
「ずっと迷ってたんだ。この眼をどう使うか……でも今回の事でわかった。わたしの眼はこうやって誰かを助けられるんだって」
彼女は今回、神眼を使うことで真実にたどり着いた。
初めからそうしていれば早かったと思うだろうが、彼女がこれまで抱えていた苦悩がそれを躊躇させていた。
しかしそれも、今日限りで終わる。
「わたしは見るよ。そうする事で救えるものがあるのなら」
「そうか、なら頑張れ」
「うん!」
レイブ抜きで挑んだ依頼は、彼女に思わぬ成長を与えた。
そしてこの成長が、彼女に更なる試練を与える事になる。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
次回更新は1/15(火)12時です。
感想お待ちしております。
中で待っているのは、神父姿の男性。
そこへ三人の魔術師が歩み寄る。
「お帰りなさい皆さん、どうなりましたか?」
カイン神父が慌てた様子で駆け寄ってきた。
その質問に、リルネットが答える。
「予み通りでした。ゴードンさんの自宅を調べた結果、彼が犯罪に関わっている事がわかりました」
「やはりあの男でしたか……では―――」
「ですが、彼は犯人ではありません」
「なっ……それはどういう―――」
「犯人は彼ではなく、もっと身近にいたんです」
リルネットはカイン神父に話す隙を与える事無く続ける。
二度も自分の発言に割り込まれたカイン神父は、次の彼女の言葉を聞く。
ごくりと喉を鳴らし、一滴汗を流しながら。
「貴方ですよカイン神父、犯人は貴方です」
その場に衝撃が走った。
唐突に犯人扱いされたカインは、焦りを見せつつも笑顔でこう答えた。
「急に何を言っているのですか? わたしが犯人であるはずが―――」
「ずっと違和感を感じていたんです」
「?」
「貴方からの情報を聞いて、私達はゴードンを犯人だと思いました。ですがわたしは、貴方の発言がどうしても引っかかっていた……カイン神父、貴方は言いましたよね?」
カイン神父は、ゴードンの名前を出す前にこう言った。
私も同じ思いです。どんな理由があるのかは知りませんが、犯人の男は絶対に許されない事をしている。未来ある子供達を攫うなど……
「一見正しい事を言っているようですが、どうにも可笑しいんです。カイン神父、なぜあなたは犯人を男だと言ったのですか?」
「―――っ!!」
この時にわかっていた情報では、犯人の人相は愚か性別もわかっていなかった。
それなのに彼は、発言の中で男というワードを使っていたのだ。
そしてその後、ゴードンの名前を出した。
「あの時、わたし達も犯人が男だとは知りませんでした。でもあなたの発言の後、ゴードンさんの話を聞いて、無意識のうちに決め付けてしまった。あなたに誘導されてしまっていたのです」
「さっきから何を言っているのです? 私は神父、神に遣える者ですよ? その私が犯罪を犯すなどありえない」
「神に遣える者……ですか」
「そうです。いいかげんにしてもらわないと、さすがの私でも怒りますよ」
リルネットが両目を閉じる。
そして、
「その神が、貴方を犯人だと教えているんです」
ゆっくりと開かれた眼は、灰色から透き通るようなエメラルドグリーンへと変化していた。
「その眼は一体……」
「もう一度自己紹介をしましょう。わたしはアストレア皇国の第二皇女、リルネット・エーデル・アストレア」
「アストレア皇国の第二皇女……まさか、覚姫」
カイン神父はすべてを察した。
彼女の眼が、自分のすべてを見抜いていることを。
「よかった。やはりご存知だったのですね。ならもう理解しているんでしょう?」
カイン神父は黙り込んだ。
しかしすぐに声を上げ高笑いをする。
「まさか、こうも簡単にバレとは……これだから神って奴は嫌いなんだ」
カインの表情が変化する。
優しい雰囲気も消え、鋭い眼光でリルネットを睨む。
「お見事だ。一応聞くが、その眼はどこまで見えているのかな?」
「あなたが犯人で、この教会に引き取った子供達もいずれは売り捌くつもりだった……という事くらいまでは見えていますよ」
「ああそうか、そこまで見えてるんじゃもう誤魔化しようも無いな」
「てめぇ……」
「何だその顔、騙されてたのがそんなに腹立たしいか?」
怒りを露にしているグレンの変わりに、リルネットが答える。
「違いますよ。わたし達が怒っているのは、あなたの行い全てです。子供達を育てていたのも、学び舎を開いていたのも、全て人身売買のためだったんですね」
「当たり前だろ? 他にどんな理由で見ず知らずのガキを育てるんだ? どうせ死ぬしかない連中を育ててやったんだ。その後どうしようが俺の自由だろ?」
「驚きました。まかかこれほどの屑とは……その様子だと、ゴードンが犯罪に関わっている事も知っていて利用したのですね?」
「ああ、そうだぜ? あのデブは馬鹿だから簡単に利用できると思ったんだが、とんだどんでん返しもあったもんだ」
カインはやれやれと両手を振った。
そんなカインに対して、グレンが詰め寄る。
「覚悟はできてんだろうな?」
「覚悟? そんなもん必要ないな。ここでの商売は出来なくなったが、ここ以外にも町や国は腐るほどあるんだ」
「この状況で逃げられると思っているのですか?」
アリスも臨戦態勢に入る。
グレンも拳を振るう準備は出来ていた。
「それはこっちのセリフだ。お前達こそ、俺の秘密を知って無事に帰れると思うなよ?」
その場に緊張が走る。
「そもそもお前達がこの教会へ足を踏み入れた時点で、もう終わってるんだよ」
「そうですね。もう終わっています」
リルネットが言うと、カインの足元に魔法陣が出現。
そこから伸びる鎖に拘束される。
「くっ……ネグローブか、だが―――」
なんだ?
どういう事だ?
「無駄ですよ。教会に施されていた罠なら、もうとっくに解除してあります」
「なんだとっ」
「カイン神父……貴方は神を嘗めすぎている」
グレンの拳がカインに直撃する。
彼を拘束した後、魔法によって子供達の情報を入手。
国の騎士達にも協力を依頼し、人身売買に関わった者達を捕らえる事に成功した。
ゴードンの方も密輸の容疑で身柄を拘束され、事件はこれ以上大きくなる前に終息した。
「そんな事があったわけか。大変だったな二人とも」
すべてが終わった後、依頼から戻ったレイブと話をした。
「今回はリルのお手柄だな」
「はい。リル様が居なければ、私達は真実にたどり着けませんでした」
カインは言葉と立場を使って、三人を上手く誘導していた。
犯罪者は元来、犯罪からもっとも遠い場所にいようとする。
カインもまた被害者側に立つ事で、彼女達を欺こうとした。
後からわかった情報によると、彼は同様の手口を他の町でも繰り返していたらしい。
だから手馴れていたのだろう。
相手を騙す事、欺く事に……
「……」
「リル?」
「レイ、わたし決めたよ」
「何を?」
「ずっと迷ってたんだ。この眼をどう使うか……でも今回の事でわかった。わたしの眼はこうやって誰かを助けられるんだって」
彼女は今回、神眼を使うことで真実にたどり着いた。
初めからそうしていれば早かったと思うだろうが、彼女がこれまで抱えていた苦悩がそれを躊躇させていた。
しかしそれも、今日限りで終わる。
「わたしは見るよ。そうする事で救えるものがあるのなら」
「そうか、なら頑張れ」
「うん!」
レイブ抜きで挑んだ依頼は、彼女に思わぬ成長を与えた。
そしてこの成長が、彼女に更なる試練を与える事になる。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
次回更新は1/15(火)12時です。
感想お待ちしております。
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