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魔王時代編
3.見てしまった
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資料を読み漁ってわかったことがある。
現在の魔界は、人類によって侵略を受けている。それは今もなお続いていて、徐々に領土が減少している。紙の資料だけで信じられなかった俺は、建物内にいる一番偉い悪魔をに尋ねた。
「君じゃな、わしに用があるというのは」
「はい」
年老い髭を生やした悪魔が、ひび割れたカップでのどを潤している。この悪魔の名はガジェルと言う。五〇〇年以上生きていて、三〇〇年前は魔王軍に所属していたらしい。勇者だった俺を知っているようだったが、生憎俺の方は見覚えが無かった。
俺はガジェルに資料で見たことを聞いた。
「事実じゃ」
ガジェルは即答した。そして続けて話し始める。
「魔王様が亡くなられて、魔界は大混乱に陥ったんじゃ。人間界に突っ込む者もおれば、逃げ隠れてしまった者もおる。止める者も指揮する者おらんかったし、本当に酷い有り様じゃった」
「そこに人間達が攻めてきたんですか」
「そうじゃ。奴らは大群を率いて魔界へ攻め込んできおった。勇者とかいう若造のおかげで、その頃から大分戦力も減っとったし、わし等にはどうすることもできんかった」
「……」
ガジェルの話を聞きながら、俺の中で後悔の気持ちが溢れてきた。あの時の俺は、確かに正しかったはずだ。間違いなんかじゃないんだと、自分に言い聞かせることで平静を保っていた。
そんな俺に、ガジェルは言う。
「気になるなら、自分の目で確かめてくると良いじゃろ」
「確かめる?」
「うむ。わしについてくるのじゃ」
ガジェルに案内されて、俺は地下の薄暗い部屋へ向かった。そこは埃だらけでまったく手入れがされていなかった。ガジェルが埃を払いのけると、魔法陣が記された石版が出てきた。
「これは?」
「遠隔観測ができる魔道具じゃよ。ここは元々、魔王軍の防衛施設の一つじゃったから、こういう物も残っておる。これを使えば、離れた場所を見ることができる」
この石版の魔道具には、千里眼スキルと同じ効果があるらしい。俺は石版に両手を置いて魔力を流し込んだ。すると石版の魔法陣が光り始め、効力が腕を通して俺へ伝わってくる。
そして、視界には見知らぬ景色が映っていた。
「見えたじゃろ、あとは念じて動かすんじゃ」
ガジェルの言う通りに、俺は視界よ動けと念じた。そのまま景色が移動していく。俺は魔族が住んでいる場所を探した。そしてすぐに見つかった。ただし見つかったのは、住んでいた場所だった。
「そんな……」
視界に映ったのは、魔族の子供の首を刈りとり、高らかに笑いながら頭上へ掲げる人間の姿だった。
本当にどうしようもなく、酷く醜い光景だった。
現在の魔界は、人類によって侵略を受けている。それは今もなお続いていて、徐々に領土が減少している。紙の資料だけで信じられなかった俺は、建物内にいる一番偉い悪魔をに尋ねた。
「君じゃな、わしに用があるというのは」
「はい」
年老い髭を生やした悪魔が、ひび割れたカップでのどを潤している。この悪魔の名はガジェルと言う。五〇〇年以上生きていて、三〇〇年前は魔王軍に所属していたらしい。勇者だった俺を知っているようだったが、生憎俺の方は見覚えが無かった。
俺はガジェルに資料で見たことを聞いた。
「事実じゃ」
ガジェルは即答した。そして続けて話し始める。
「魔王様が亡くなられて、魔界は大混乱に陥ったんじゃ。人間界に突っ込む者もおれば、逃げ隠れてしまった者もおる。止める者も指揮する者おらんかったし、本当に酷い有り様じゃった」
「そこに人間達が攻めてきたんですか」
「そうじゃ。奴らは大群を率いて魔界へ攻め込んできおった。勇者とかいう若造のおかげで、その頃から大分戦力も減っとったし、わし等にはどうすることもできんかった」
「……」
ガジェルの話を聞きながら、俺の中で後悔の気持ちが溢れてきた。あの時の俺は、確かに正しかったはずだ。間違いなんかじゃないんだと、自分に言い聞かせることで平静を保っていた。
そんな俺に、ガジェルは言う。
「気になるなら、自分の目で確かめてくると良いじゃろ」
「確かめる?」
「うむ。わしについてくるのじゃ」
ガジェルに案内されて、俺は地下の薄暗い部屋へ向かった。そこは埃だらけでまったく手入れがされていなかった。ガジェルが埃を払いのけると、魔法陣が記された石版が出てきた。
「これは?」
「遠隔観測ができる魔道具じゃよ。ここは元々、魔王軍の防衛施設の一つじゃったから、こういう物も残っておる。これを使えば、離れた場所を見ることができる」
この石版の魔道具には、千里眼スキルと同じ効果があるらしい。俺は石版に両手を置いて魔力を流し込んだ。すると石版の魔法陣が光り始め、効力が腕を通して俺へ伝わってくる。
そして、視界には見知らぬ景色が映っていた。
「見えたじゃろ、あとは念じて動かすんじゃ」
ガジェルの言う通りに、俺は視界よ動けと念じた。そのまま景色が移動していく。俺は魔族が住んでいる場所を探した。そしてすぐに見つかった。ただし見つかったのは、住んでいた場所だった。
「そんな……」
視界に映ったのは、魔族の子供の首を刈りとり、高らかに笑いながら頭上へ掲げる人間の姿だった。
本当にどうしようもなく、酷く醜い光景だった。
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