一度目は勇者、二度目は魔王だった俺の、三度目の異世界転生

染井トリノ

文字の大きさ
92 / 132
魔王時代編

4.魔王になろう

しおりを挟む
 魔道具で見た景色は、これまでに見たどの景色よりも淀んでいた。かつて自分の後ろで怯え助けを求めていた人間など、一人も映っていなかった。悪魔の子供を弄び殺す様は、悪魔よりも悪魔らしかったほどだ。
 俺は魔道具から手を離して、後ずさるようにその場から離れた。

「その様子なら、もうわかったじゃろ」

「はい」

 ガジェルはその後こうも言っていた。

「いずれ人間どもはここまで来るじゃろう。じゃが誰にも止められん。わしらは滅ぶ運命かもしれんのう……」

「……」

 俺は何も言えなかった。それほどに強烈な光景だったのだ。信じたくなくても、もう信じるしかない。俺はとぼとぼと村へ戻ることにした。帰り道、溢れる感情を整理しながら考えた。

「俺は一体、なんのために戦ったんだ」

 気付けばぼそりと独り言がこぼれていた。
 勇者として、人類を救うために戦った。俺は正しい行いをしたはずなんだ。それがなんだ、この有り様は……。魔王が倒され人類は調子づき、争う意志の無い者たちを殺して誇らしげに笑っている。そこにどんな意味が、正義があるというんだ。
 俺はあんなやつらを守るために戦ったのか。俺が守りたかったものはどこにある? か弱い人類なんてどこにもいないじゃないか。

「間違っていた。俺が、間違っていたのか……」

 俺はそう思い始めていた。
 しかし嘆いても仕方が無いことだ。もう過去は変えられない。後悔したところで、この惨状が変わるわけじゃない。

「これから……か」

 俺は徐に空を見上げた。そうしながらガジェルの言った言葉を思い返す。

「このままじゃあの街も、いつかは俺の村もあんな風に――」

 光景を想像しただけで背筋が凍ってしまう。見知った顔が殺され、さらされ見世物にされている。そんな未来がいずれ訪れるかもしれない。そんなの――

「耐えられるわけ無いだろ」

 ではどうすればいいのか、俺は目を瞑って考えた。すると案外、簡単に答えは出た。
 丁度同じタイミングで村に到着する。俺は村の敷地を跨ぎながら、自分に言い聞かせるように口にした。

「俺は魔王になる」

 それが答えだった。
 人間達の侵攻の原因、それは魔王の不在が大きく関わっている。そして魔王を倒したのは俺だった。この事態を招いたのも、人類に勢いをもたせたのも俺なのだ。
 勇者としては失敗してしまった。だからこそ、魔王となって罪を告ぐなわなければならない。願わくば、二度とこんな争いが起きない世界に変革する。
 俺は魔族達の居場所を守るべく、魔王になることを決意したのだった。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。