一度目は勇者、二度目は魔王だった俺の、三度目の異世界転生

染井トリノ

文字の大きさ
117 / 132
魔界編(本編)

169.アリス・フォートランド④

しおりを挟む
 階段はずっと下まで続いている。俺達は無言で一段一段降っていった。どのくらいの段数があったのだろう。二十段を超えた辺りから、もう数えていない。徐々に外の光が届かなくなったので、魔法で照らしながら進んだ。

「やっとか」

 俺達はようやく階段を降りきった。振り返って上を見ると、入り口の光すら見えない。それほど深くまで続いていたということだ。
 俺は正面に視線を戻した。
 一本道が真っ直ぐに続いている。明かりはなく、先まではよく見えない。俺は以前に生徒会メンバーで探索したダンジョンを思い出した。

「進むぞ」

 俺達は先に進んだ。壁も天井も石レンガで造られている。今のところ安全である。

「何もないでありますなぁ」

「気を抜くなよ。罠の一つくらい仕掛けてあるかもしれないんだから」

「了解であります!」

 さらに奥へと進んでいく。

「見てくださいレイ様」

「別れ道か」

 一本道が二手に別れていた。俺達は一旦立ち止まり、どちらに進むべきか考察した。

「どちらが正解なのでしょうか」

「さぁな。どっちも正解かもしれないし、そうじゃないかもしれない。まぁどちらにしろ視た方がはやいだろ」

 俺は千里眼のスキルを使用した。
 右の道を進むと、大きな空間が広がっていた。そこには大量のアンデット達が待ち構えている。

「右は……駄目だな」

 次に左の道を見通した。左はさらに入り組んだ道が続いていた。進んだ先に三手に別れ、その先でさらに二手に別れている。まるで迷路のようだった。俺は奥へ続くルートを見つけ出した。

「左へ行くぞ」

「何か見つけたのですか?」

「ああ。この先に小さな部屋がある」

 俺が先頭を歩き、アリスとムウが後ろについてくる。千里眼で確認した通りのルートを進み、木製の扉で閉ざされた部屋に到着した。
 扉をゆっくりと押して空ける。多少錆びているようで、ぎぃという音をたてながら扉が開いた。木の机と椅子が一セットだけ設置されている。室内は埃っぽく、蜘蛛の巣がはっていた。

「これは……」

 机の上には、一冊の本が置かれていた。俺はその本を拾って埃を払い、ページをめくって中を確認した。

「誰かの日記だな」

 ムウが俺の肩に乗り、アリスが横から顔をのぞかせている。
 日記にはこう記されていた。

 本日より新たな魔法の研究が始まった。
 研究には、私以外にも多くの同胞が参加してくれた。実に喜ばしい。皆の協力があれば、きっと成し遂げられるはずだ。
 人の魂に干渉する魔法が完成すれば、魔法技術は革新的な進化を遂げるだろう。

「魂に干渉する魔法だって!?」

 俺は目を見開いて驚いた。
 魔法で人の魂に干渉する……それはまさに、黒魔法の原理だった。
 俺は顔をしかめて次のページをめくった。日記にはさらにこう記されている。

 研究開始から二日、私達はさっそく問題に直面していた。
 私達の一族は、生まれつき魂を見る眼をもっている。ただ残念なことに、魂に触れられる身体は持っていない。見ることはできても、触れることができない。魂に関する理解を深めなくてはならない私達にとって、これは大きな問題である。

 アリスが言う。

「魂を見る眼……。以前遭遇した魔女と同じ眼を、この一族はもっていたようですね」

「そうみたいだな」

 ページをさらにめくっていく。
 
 研究開始から十日。外部から協力者を得て、やっと魂というものを理解することができた。
 ずいぶん長く時間がかかったが、これで魔法開発に進むことができる。
 研究開始から三一日。遂に魂に干渉する魔法が組みあがった。まだ完成とは呼べないが、理論上は発動可能なはずだ。明日試験的に使ってみることにしよう。
 研究開始から三二日。組みあがった魔法を試したが失敗だった。魔法は発動することなく、使用者が死んでしまった。どうやらこの魔法は、人の身で扱うには負担が大き過ぎるらしい。

「人が死んでしまっているであります」

「ああ……」 
 
 研究で人が死んでいる。にも関わらず淡々とつづられた文章に、俺は疑問を抱いた。
 ページを更にめくる。

 研究開始から四〇日。改良をかさねているが、未だに完成へは至っていない。今日もまた一人死者が出た。これで十一人目だ。これ以上死者を増やすのは良くない。
 研究開始から四一日。なぜ魔法が発動されないのか、その理由がようやくわかった。この魔法の発動には、大量の魂を生贄にする必要があったのだ。私の計算では、最低でも百人単位で生贄が必要だ。私の一族、全員の協力があれば可能……いや、しかし……
 
 研究開始から四二日――私は魔法を完成させた。

「完成させた……? まさかこの人は……」

 アリスが途中まで口にした言葉を詰まらせた。声が震えているように聞えたのは、きっと気のせいではないだろう。
 俺は唇を噛んで呟いた。

「なんてことを……」

 日記にはその後についても記されていた。
 魔法を完成させた研究者は、自らに魔法の効果を使用した。その結果、人としての枠を外れ、不死の存在になった。その後も研究を続け、日記には歓喜に溢れた心情がつづられていた。犠牲となった者達のことなど、忘れてしまったように……
 日記の最後には、「トーラス・グレイ・フォートランド」という名前が記されていた。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。