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魔界編(本編)
169.アリス・フォートランド④
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階段はずっと下まで続いている。俺達は無言で一段一段降っていった。どのくらいの段数があったのだろう。二十段を超えた辺りから、もう数えていない。徐々に外の光が届かなくなったので、魔法で照らしながら進んだ。
「やっとか」
俺達はようやく階段を降りきった。振り返って上を見ると、入り口の光すら見えない。それほど深くまで続いていたということだ。
俺は正面に視線を戻した。
一本道が真っ直ぐに続いている。明かりはなく、先まではよく見えない。俺は以前に生徒会メンバーで探索したダンジョンを思い出した。
「進むぞ」
俺達は先に進んだ。壁も天井も石レンガで造られている。今のところ安全である。
「何もないでありますなぁ」
「気を抜くなよ。罠の一つくらい仕掛けてあるかもしれないんだから」
「了解であります!」
さらに奥へと進んでいく。
「見てくださいレイ様」
「別れ道か」
一本道が二手に別れていた。俺達は一旦立ち止まり、どちらに進むべきか考察した。
「どちらが正解なのでしょうか」
「さぁな。どっちも正解かもしれないし、そうじゃないかもしれない。まぁどちらにしろ視た方がはやいだろ」
俺は千里眼のスキルを使用した。
右の道を進むと、大きな空間が広がっていた。そこには大量のアンデット達が待ち構えている。
「右は……駄目だな」
次に左の道を見通した。左はさらに入り組んだ道が続いていた。進んだ先に三手に別れ、その先でさらに二手に別れている。まるで迷路のようだった。俺は奥へ続くルートを見つけ出した。
「左へ行くぞ」
「何か見つけたのですか?」
「ああ。この先に小さな部屋がある」
俺が先頭を歩き、アリスとムウが後ろについてくる。千里眼で確認した通りのルートを進み、木製の扉で閉ざされた部屋に到着した。
扉をゆっくりと押して空ける。多少錆びているようで、ぎぃという音をたてながら扉が開いた。木の机と椅子が一セットだけ設置されている。室内は埃っぽく、蜘蛛の巣がはっていた。
「これは……」
机の上には、一冊の本が置かれていた。俺はその本を拾って埃を払い、ページをめくって中を確認した。
「誰かの日記だな」
ムウが俺の肩に乗り、アリスが横から顔をのぞかせている。
日記にはこう記されていた。
本日より新たな魔法の研究が始まった。
研究には、私以外にも多くの同胞が参加してくれた。実に喜ばしい。皆の協力があれば、きっと成し遂げられるはずだ。
人の魂に干渉する魔法が完成すれば、魔法技術は革新的な進化を遂げるだろう。
「魂に干渉する魔法だって!?」
俺は目を見開いて驚いた。
魔法で人の魂に干渉する……それはまさに、黒魔法の原理だった。
俺は顔をしかめて次のページをめくった。日記にはさらにこう記されている。
研究開始から二日、私達はさっそく問題に直面していた。
私達の一族は、生まれつき魂を見る眼をもっている。ただ残念なことに、魂に触れられる身体は持っていない。見ることはできても、触れることができない。魂に関する理解を深めなくてはならない私達にとって、これは大きな問題である。
アリスが言う。
「魂を見る眼……。以前遭遇した魔女と同じ眼を、この一族はもっていたようですね」
「そうみたいだな」
ページをさらにめくっていく。
研究開始から十日。外部から協力者を得て、やっと魂というものを理解することができた。
ずいぶん長く時間がかかったが、これで魔法開発に進むことができる。
研究開始から三一日。遂に魂に干渉する魔法が組みあがった。まだ完成とは呼べないが、理論上は発動可能なはずだ。明日試験的に使ってみることにしよう。
研究開始から三二日。組みあがった魔法を試したが失敗だった。魔法は発動することなく、使用者が死んでしまった。どうやらこの魔法は、人の身で扱うには負担が大き過ぎるらしい。
「人が死んでしまっているであります」
「ああ……」
研究で人が死んでいる。にも関わらず淡々とつづられた文章に、俺は疑問を抱いた。
ページを更にめくる。
研究開始から四〇日。改良をかさねているが、未だに完成へは至っていない。今日もまた一人死者が出た。これで十一人目だ。これ以上死者を増やすのは良くない。
研究開始から四一日。なぜ魔法が発動されないのか、その理由がようやくわかった。この魔法の発動には、大量の魂を生贄にする必要があったのだ。私の計算では、最低でも百人単位で生贄が必要だ。私の一族、全員の協力があれば可能……いや、しかし……
研究開始から四二日――私は魔法を完成させた。
「完成させた……? まさかこの人は……」
アリスが途中まで口にした言葉を詰まらせた。声が震えているように聞えたのは、きっと気のせいではないだろう。
俺は唇を噛んで呟いた。
「なんてことを……」
日記にはその後についても記されていた。
魔法を完成させた研究者は、自らに魔法の効果を使用した。その結果、人としての枠を外れ、不死の存在になった。その後も研究を続け、日記には歓喜に溢れた心情がつづられていた。犠牲となった者達のことなど、忘れてしまったように……
日記の最後には、「トーラス・グレイ・フォートランド」という名前が記されていた。
「やっとか」
俺達はようやく階段を降りきった。振り返って上を見ると、入り口の光すら見えない。それほど深くまで続いていたということだ。
俺は正面に視線を戻した。
一本道が真っ直ぐに続いている。明かりはなく、先まではよく見えない。俺は以前に生徒会メンバーで探索したダンジョンを思い出した。
「進むぞ」
俺達は先に進んだ。壁も天井も石レンガで造られている。今のところ安全である。
「何もないでありますなぁ」
「気を抜くなよ。罠の一つくらい仕掛けてあるかもしれないんだから」
「了解であります!」
さらに奥へと進んでいく。
「見てくださいレイ様」
「別れ道か」
一本道が二手に別れていた。俺達は一旦立ち止まり、どちらに進むべきか考察した。
「どちらが正解なのでしょうか」
「さぁな。どっちも正解かもしれないし、そうじゃないかもしれない。まぁどちらにしろ視た方がはやいだろ」
俺は千里眼のスキルを使用した。
右の道を進むと、大きな空間が広がっていた。そこには大量のアンデット達が待ち構えている。
「右は……駄目だな」
次に左の道を見通した。左はさらに入り組んだ道が続いていた。進んだ先に三手に別れ、その先でさらに二手に別れている。まるで迷路のようだった。俺は奥へ続くルートを見つけ出した。
「左へ行くぞ」
「何か見つけたのですか?」
「ああ。この先に小さな部屋がある」
俺が先頭を歩き、アリスとムウが後ろについてくる。千里眼で確認した通りのルートを進み、木製の扉で閉ざされた部屋に到着した。
扉をゆっくりと押して空ける。多少錆びているようで、ぎぃという音をたてながら扉が開いた。木の机と椅子が一セットだけ設置されている。室内は埃っぽく、蜘蛛の巣がはっていた。
「これは……」
机の上には、一冊の本が置かれていた。俺はその本を拾って埃を払い、ページをめくって中を確認した。
「誰かの日記だな」
ムウが俺の肩に乗り、アリスが横から顔をのぞかせている。
日記にはこう記されていた。
本日より新たな魔法の研究が始まった。
研究には、私以外にも多くの同胞が参加してくれた。実に喜ばしい。皆の協力があれば、きっと成し遂げられるはずだ。
人の魂に干渉する魔法が完成すれば、魔法技術は革新的な進化を遂げるだろう。
「魂に干渉する魔法だって!?」
俺は目を見開いて驚いた。
魔法で人の魂に干渉する……それはまさに、黒魔法の原理だった。
俺は顔をしかめて次のページをめくった。日記にはさらにこう記されている。
研究開始から二日、私達はさっそく問題に直面していた。
私達の一族は、生まれつき魂を見る眼をもっている。ただ残念なことに、魂に触れられる身体は持っていない。見ることはできても、触れることができない。魂に関する理解を深めなくてはならない私達にとって、これは大きな問題である。
アリスが言う。
「魂を見る眼……。以前遭遇した魔女と同じ眼を、この一族はもっていたようですね」
「そうみたいだな」
ページをさらにめくっていく。
研究開始から十日。外部から協力者を得て、やっと魂というものを理解することができた。
ずいぶん長く時間がかかったが、これで魔法開発に進むことができる。
研究開始から三一日。遂に魂に干渉する魔法が組みあがった。まだ完成とは呼べないが、理論上は発動可能なはずだ。明日試験的に使ってみることにしよう。
研究開始から三二日。組みあがった魔法を試したが失敗だった。魔法は発動することなく、使用者が死んでしまった。どうやらこの魔法は、人の身で扱うには負担が大き過ぎるらしい。
「人が死んでしまっているであります」
「ああ……」
研究で人が死んでいる。にも関わらず淡々とつづられた文章に、俺は疑問を抱いた。
ページを更にめくる。
研究開始から四〇日。改良をかさねているが、未だに完成へは至っていない。今日もまた一人死者が出た。これで十一人目だ。これ以上死者を増やすのは良くない。
研究開始から四一日。なぜ魔法が発動されないのか、その理由がようやくわかった。この魔法の発動には、大量の魂を生贄にする必要があったのだ。私の計算では、最低でも百人単位で生贄が必要だ。私の一族、全員の協力があれば可能……いや、しかし……
研究開始から四二日――私は魔法を完成させた。
「完成させた……? まさかこの人は……」
アリスが途中まで口にした言葉を詰まらせた。声が震えているように聞えたのは、きっと気のせいではないだろう。
俺は唇を噛んで呟いた。
「なんてことを……」
日記にはその後についても記されていた。
魔法を完成させた研究者は、自らに魔法の効果を使用した。その結果、人としての枠を外れ、不死の存在になった。その後も研究を続け、日記には歓喜に溢れた心情がつづられていた。犠牲となった者達のことなど、忘れてしまったように……
日記の最後には、「トーラス・グレイ・フォートランド」という名前が記されていた。
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