一度目は勇者、二度目は魔王だった俺の、三度目の異世界転生

染井トリノ

文字の大きさ
118 / 132
魔界編(本編)

170.アリス・フォートランド⑤

しおりを挟む
 日記を最後まで目を通した俺は、そっと閉じて机に置いた。両目を閉じて見た情報を整理する。そして両目を開けて整理した情報を言葉にする。

「つまり、この男が黒魔法の原点を生み出したのか。一族全員を犠牲にして、自分だけが生き残って……」

「そんな……」

 隣に立つアリスが声と身体を震わせている。日記の最後には記された何は、フォートランドという文字が混ざっていた。アリスはエリサが言っていた同胞という言葉を思い出し、罪悪感のような感情を抱いていた。

「アリス」

「大丈夫です」

 そう言いながらも、アリスは落ち込んでいるようだった。俺はアリスの肩にぽんと手を置いて、彼女を励ました。

「これは過去の話だ。今のお前には関係ない」

「はい」

「そもそもこの話が事実なら、末裔なんて存在しないはずだ。一族は全員トーラス以外死んだんだろ? トーラス自身も人ではなくなった。人では無いものから、人は生まれない」

「確かにそうですね……」

「おそらく、まだ謎があるんだ」

 アリスが部屋を見渡した。出入り口は入ってきた一箇所しかなく、これ以上先へは進めない。

「レイ様」

「道ならあるよ」

 俺は壁に近づいて、石レンガの一つを押し込んだ。そこがスイッチになっていて、押し込んだ石レンガ周囲のレンガも押し込まれていく。最終的には長方形の穴が出来上がった。

「隠し通路ってやつだ」

「いつ気が付いたのですか?」

「千里眼でここを見つけたとき、壁の先が透けて見えたんだ。昔ダンジョン探索へ行ったとき、同じような仕掛けがあってさ。それでわかったんだよ」

「さすが主殿でありますな!」

 俺が先導して、見つけた通路を進んでいく。トラップの類は仕掛けられていない。一本道をひたすら真っ直ぐ進んでいく中、アリスが話を始める。

「そういえば、入り口にあった壁画ですが」

「あーあれね」

「儀式ではなく、トーラスが魔法を発動させている絵だったのですね」

 天使のように描かれていたのが、魔法によって変質したトーラス。下に描かれたたくさんの人々は、魔法発動のための生贄だった。
 あの壁画は、一体誰が描いたものなのだろう。
 トーラスが魔法を発動した瞬間を知る者は、トーラス本人だけしか残っていないはずだ。まさか生き残りがいたのか?
 そもそもこの遺跡は、トーラスが造ったものじゃないのか? 

「わからないことの方が多いな」

 俺はぼそりと愚痴をこぼしながら先に進んだ。やがて開けた場所に到着する。天井は低く横広の空間に、石で出来た棺のようなものが並べられていた。

「これはなんでありますか?」

「全部誰かの墓だな」

「この数……もしかして生贄になった方々の」

「さぁな」

 歩きながら周囲を観察していると、棺の一つが半分だけ空いていることに気付いた。警戒しつつ中を覗き込むと――

「空っぽ」

 アリスとムウが近寄ってくる。アリスも恐る恐る中を確認した。ムウも棺のふちにぴょんと飛び乗って中を覗き込む。

「本当でありますな」

「……他も確かめてみるか」

 俺の予想が正しければ、棺は全部空っぽだ。俺は棺の蓋を、中が見える程度ずつずらしていく。次々に除いていくが、予想通り中は空っぽだった。そして、最後の一つを開ける。

「ん、何かあるぞ」

 最後の棺にも遺体は入っていなかった。しかしよく目を凝らすと、奥にメモ帳のような本を見つけた。拾い上げて表紙をめくると、一ページ目に名前が記されていた。

「エバン・フォートランド……トーラスじゃない。この名前は女性か」

 この本はエバンという女性の日記だった。次のページをめくると――

「トーラスは大罪を犯してしまった。私は彼を止めることができなかった。その所為で、多くの同胞が死んでしまった……」

 記されていたのは、トーラスと同じ一族の誰かの後悔の念だった。どうやら一族の中に、彼の研究に最後まで関わっていなかった者がいたようだ。
 日記にはさらにこうつづられている。

 彼の生み出した魔法、あれはとても危険な力だ。彼はその力で、人であることを止めてしまった。このまま彼を放っておくことはできない。同じ一族の者として、今度こそ彼を止めなくては……。

 日記を途中まで目を通して、俺はアリスにこう伝えた。

「アリス、お前の先祖はトーラスじゃなくて、この日記を書いた人だよ」

「そう……みたいですね」

 アリスは少しだけほっとしたように表情を和らげた。
 さらに日記をめくると、重要なことが記されていた。

「彼に対抗するために、新しい魔道書を作った。自分の魂を……具現化する魔法!?」

 俺は思わず声を大きくした。魂を変質する黒魔法とは別の、全く新しい魔法の存在を知った瞬間だった。
 すぐに日記を見つけた棺の中を探した。しかし残念ながら魔道書らしきものは無い。理由は次のページに記されていた。

 魔道書のことが彼に知られてしまった。彼はいずれここにやってくる。子供は安全な場所へ避難させた。早く迎え撃つ準備をしなくては。
 日記はそのページを最後に、後は白紙が続いていた。

「勝てなかったのでしょうか」

「だろうな。じゃあこの棺は全部、トーラスに殺された人達なんだろう」

 一族の罪を裁くため、トーラスに挑んだ彼女達は、無残にも殺されてしまったのだ。しかし子供達は逃げ延び、こうしてアリスの代まで繋がっていた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

4月から仕事が忙しくなるので、更新が若干不定期になります。
また落ち着き次第、通常の更新ペースに戻します。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。