一度目は勇者、二度目は魔王だった俺の、三度目の異世界転生

染井トリノ

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魔界編(本編)

180.スズネの事情

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 ガストニアへ帰還した俺達は、シオンの待つ屋敷へと向かった。
 その道中である。突然スズネが倒れてしまった。額を触れると高熱が出ているのがわかる。俺は彼女を抱かかえ、一足早く屋敷へと戻った。
 すぐにシオンに伝えると、屋敷の医務室へスズネを運んだ。

 数分後、遅れて戻ったアリスとムウ、そしてクロガネも交えて事情を聞く。

「難病?」

「はい」

 シオンの口から語られたのは、スズネの抱える病の存在だった。
 結論から言うと、スズネは屋敷の外では生きられない身体だった。この屋敷は、彼女が生きられる環境を作り出し、命を守る役割を担っていたのだ。

「その病気の名前は? 原因はわかってるのか?」

「いいえ」

 シオンは首を横に振った。

「医者に見せ、街中の文献を読み漁りましたが、このような病は見つかりませんでした」

「そうか……」

 スズネが患っているのは未知の病、原因はおろかどんな病気なのかも定かではない。故に治療法は無く、この屋敷で匿う以外になかったという。
 
「ごく短い間であればいいのですが、外気に触れる時間が長くなるほど、発作のような症状が強く出てしまいます。これほど長く外へ出たのは初めてなので、きっと数日はあの状態が続くでしょう」

「そんな……」

「申し訳ありません。私がもっと早く見つけれいれば……」

「クロガネ、あなたの所為ではないわ」

 場は深刻な空気に包まれる。
 隣に座っているアリスが、俺の服をひっぱり呼びかけてきた。

「レイ様、どうにかできませんか?」

「う~ん……」

 怪我とか呪いなら、時間を戻せば解決できる。
 ただ病に関してはそう簡単にはいかない。特に生まれた時から患っていた病は、どれだけ時間を戻しても回復することはない。仮に治ったとしても、時間が経てばまた同じことだ。

「病は難しいな……。ケルア草があれば話は別だけど」

「ケルア草?」

 ケルア草、自然に生えている薬草の一種で、万能薬と呼ばれている。その効力は非常に高く、どんな病でも完治することが出来る。
 ただし、特殊な環境でしか育たず、採取や加工には特別な手順がいる。

「そのような薬草があったのですね」

「知らないのも無理ないよ。ケルア草のほとんどは、神代が終わるところで枯れてしまっている。限定的な環境でしか育たないからね。現代でも残ってるはずだけど、闇雲に探しても見つからないよ」

「そうなのですか」

「ケルア草をご存知なのですか!?」

 俺とアリスの会話に、シオンが勢い良く入ってきた。

「え、ええ、まぁ……」

「加工の方法は!?」

「知ってますよ」

 魔王時代の知恵である。
  
「でも場所がわからないことには」

「場所なら知っています! ここから西に下った先にある洞窟です!」

 シオンの話によると、彼女もケルア草のことは知っていたらしい。だが採取や加工の方法はわからず、加えて洞窟には多数の魔物が生息していた。
 親衛隊で一度探索し、なんとか発見まで至ったのだが、洞窟から出た途端に枯れてしまったのだという。
 その後はケルア草を諦め、別の治療法を探していた。
 しかし今日、諦めていた道にもう一度光が差し込んだのだ。

「レイブ様、お願いがございます。スズネを、妹を救うため、今一度お力を貸していただけないでしょうか」

 シオンは深く頭を下げた。
 その姿から、スズネに対する愛情が伝わってくる。

「任せてください」

 俺の答えはもちろんオーケーだ。
 いつか外の世界を案内する……そう彼女と約束したのだから。

「ですが少々時間がかかります。ケルア草の加工は、栽培されている環境下で行う必要があります。それを終えるには最低でも三時間はかかるので」

「わかりました。よろしくお願いいたします」

「ではさっそく出発しましょう」

「いや、アリスはムウと一緒にここへ残ってくれ。洞窟へは俺一人で行く」

 そう言うと、アリスとムウは同じような表情をした。
 悲しそうで切なそうな、しょんぼりした表情だ。

「そんな顔するなよ。ちゃんと理由もある」

「理由?」

「タルタロスからの脱獄者が、この国周辺にいる」

「なぜそう言いきれるのですか?」

「エリサだよ。あいつはゼロの命令で、この国に向かっていた。状況から考えても、あいつ一人で向かっていたとは考え難い。もしかしたら今にも襲撃してくるかもしれない」

 ガストニア周辺には、他にも街や国がある。
 もしかしたら、そっちへ先に向かったのかもしれない。どちらにしろ、いずれはこの国へもやってくるはずだ。

「だからさ。俺がいない間、ちゃんとこの国を守ってくれ。今のお前達なら出来ると信じてる」

 信じる、その言葉にアリスとムウは心を動かされた。
 それは俺から彼女達に向ける期待に他ならない。二人にはその期待が嬉しかった。

「かしこまりました」

「了解であります!」

 二人の頼もしい返事を聞いて、俺はガストニアを出た。目指すは西の洞窟、ケルア草の採取、そして万能薬を作りスズネを救うことである。
 同時にガストニアへ忍び寄る脱獄者の影……。こうして、それぞれ戦いが始まろうとしていた。
 
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