一度目は勇者、二度目は魔王だった俺の、三度目の異世界転生

染井トリノ

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魔界編(本編)

182.もう一つの戦い

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 レイブがケルア草確保へ向かった後、ガストニアへ不審な影が忍び寄っていた。
 角を生やした悪魔が二人、塀の外に立っている。

「はぁ~ かったるいなぁ。なんで俺達が、こんなめんどいことしなきゃなんねぇんだよ」

「文句を言うな弟よ。我々がこうして脱獄できたのも、彼のお陰だ。お前も、多少の義理は感じているんだろう」

「はいはい、わかってますよぉ~」

 悪魔は二人とも男、一人は軽薄そうな態度で木にもたれかかっている、もう一人はそんな彼を冷静な態度で諭している。
 二人は兄弟だった。兄の名はグリム、弟の名はグラエル。タルタロスから脱獄した上位悪魔である。

「んで行くのかよ。あいつはどっか行ったんだろ」

「そうだな……」

 二人はレイブのことを知っていた。
 到着してすぐ、レイブがこの国へ入ったことを知る。二人とも、ゼロの強さを知っており、そのゼロと同等の力を持つ存在が、レイブであることもわかっていた。
 二人がかりで挑んでも勝算は低い。そう判断した彼らは、レイブが居なくなるタイミングを見計らっていた。そして今日、彼はケルア草を採取しに向かっている。

「条件は揃っている……。だが夜にしよう」

「はいよ」

 兄は冷静にそう判断した。
 二人は夜を待ちながら、一番守りの薄い場所を探した。そして見つけたのが、屋敷から一番遠い塀である。巡回も少なく、明らかに手薄な警備だった。

「ここにしよう」

 二人は日が沈むまで待機した。
 そうして予定時刻となる。街の明かりは消え、人の気配が少なくなる。予想通り、二人が待つ塀の向こう側は警備が手薄だった。

「結界はどう超えるんだよ」

「安心しろ、準備はしてある」

「こちらも準備万端でありますよ!」

「誰だ!?」

 声が聞えた方向へ瞬時に振り向く二人。その視界に映っていたのは、黒髪のメイドと肩に乗る黒猫の姿だった。

「こんな夜遅くに訪問とは、マナーがなっていませんね」

「全くでありますなぁ~」

 グリムとグラエルは恐い目つきで睨みつけた。そしてグリムがアリスに問いかける。

「なぜわかった」

「襲撃のことですか? それともこの場所ですか?」

「両方だ」

「襲撃のことなら、いずれ来るとレイ様がおっしゃっていました」

 レイ? あの男……やはり気付いていたのか。
 グリムはぐっと舌を噛み締めた。

「ではなぜここがわかった。警備を強化していたようには見えなかったぞ」

「そうですよ? 警備が手薄で、夜になれば人も通らない……だからここを選んだんですよね?」

 まさか――
 グリムはようやく理解した。
 すべては彼女の、アリスの仕掛けた罠だったのだ。
 ガストニアは広い。すべての場所を警戒することは物理的に不可能である。だからこそ、あえて警備が手薄な場所を作り、行動を誘導したのだ。

「のせられた……」

「私も驚きました。まさか、こうも簡単に引っかかるとは思えませんでしたので」

「アリス殿のお手柄でありますな!」

「くっ……だが……」

 グリムは周囲を警戒して見渡した。そして視線をアリスに戻し、ニヤリと笑みを浮かべる。

「どうやら、待ち伏せていたのはお前達だけのようだな」

「はい。他の方々には、普段通りの警備をしていただいてますので」

「ならば早い話、お前達を倒してしまえば問題ない」

「その通りですが……。そう簡単にいくとお思いで?」

「そりゃあこっちのセリフだぜぇ~」

 グラエルが、いつの間にか取り出していたアックスを構えている。鋭い目つきで、アリスを睨みつけてこう言った。

「たった一人と一匹で――俺達に勝てると思ってんのか?」

 この二人は強い。
 それはアリスとムウも理解していた。特にアリスは、どちらかというと現実主義。勝てない戦いには挑まないタイプである。
 そんな彼女が悪魔の前に立ち塞がっている。その理由は当然――

「もちろんです」

 勝算があるからである。
 アリスは自信ありという表情を見せた。それの顔が気に入らなかったのか、グラエルはムスッとした。

「言うじゃねぇかクソ女が……。いいぜぇ~ お前の相手は俺がしてやるよぉ」

「はぁ、勝手に話を進めるな」

「いいじゃねぇかよぉ~ あんな女、俺一人で十分だぜぇ~」

 グラエルは斧の刃を舌で舐めた。そして下種な笑みを浮かべる。

「全身ひん剥いて腱を斬りおとして、動けなくなったところをゴブリンにでも襲わせてやろうかなぁ~ あぁー泣き叫ぶ顔が早く見たいぜぇ」

「……」

 アリスは寒気を感じ鳥肌を立てた。

「大丈夫でありますか?」

「……もちろんです」

 無論強がりである。恐怖を感じないわけが無く、ムウもそのことはわかっていた。肩に乗っているムウには、アリスの震えも伝わっていたからだ。
 それでも心が折れていない。
 アリスは震えを自分で抑え込み、両手に武器を構えた。

「……わかったでありますよ」

 ムウはぴょんとアリスの肩から飛び降りた。

「では、我輩の相手はそちらでありますな」

「……そのようだな」

 ムウとグリムが目を合わせる。
 対戦カードが決まった。あとはゴングを待つだけ。ここでのゴングは――

「いくぜおらあぁぁぁぁ!!」

 グラエルの雄叫びを合図に、戦いの火蓋がおとされる。 
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